11月中旬にイタリアで行われたミラノショー(EICMA)にてお披露目された、カワサキの電動&ハイブリッドバイク。この2台が11月19日と20日に東京都の主催で行われたゼロエミッションビークルのイベントにも登場した。さっそく関係者に話を聞いてみると…。カワサキの電動化は、なんだか非常に面白いことになっているようだぞ!
●文:ヤングマシン編集部(マツ)
歩くように前進&後進できる。だからWALK!
東京都庁で開催された「ZEV-Tokyo Festival」は、電動車や水素エンジン車など、いわゆるゼロエミッションビークル(ZEV)のイベント。2/4輪のEVや水素エンジン車が都庁前をデモランするというもので、11/19の土曜日には小池百合子都知事も姿を見せた。
ここでカワサキは研究中の水素エンジン搭載バギーに加え、EICMAで発表された電動バイク「Z EV」のデモランを披露。さらに展示スペースにはやはりEICMAで発表したハイブリッド車「ニンジャHEV」を持ち込み、カーボンニュートラルの分野で他の2輪メーカーより先行していることを大きくアピールしていた(2台の詳細はこちらの記事を参照)。
というわけで、今回はこの2台をじっくり観察することができたのだが、両車に共通していたのが左側ハンドルスイッチに「WALK」という見慣れないボタンを持つこと。その存在は発表時の記事でもお伝えしたが、今回、関係者に聞いた話を元に、情報を整理することで概要が掴めてきたのでお伝えしたい。
このボタンは文字通り「歩くような速度で進む」ためのもの。エンジンと違い、正転/逆転の入れ替えが簡単なモーターだから、バイクをバックさせられるボタンなのは間違いないが、それなら「REVERSE」とか「BACK」と表記するはず。それを敢えてWALKと表記しているのは、後退だけではなく前にも進めるということだ。
カワサキの電動化は「バイクをより楽しむため」
ゆっくりと、歩くようなスピードで前進と後進が可能になる。これが何を意味するかというと、取り回しの劇的な容易化だ。スピードを出せばおのずと安定するのが2輪という乗り物だが、車庫から引き出したり、バイクを押して後退させたりといった、走り出す前の取り回しを苦手とするライダーは多い。
この「押し」「引き」をモーターに委ねられれば、ライダーはバランスを取ることに集中でき、取り回し時に車両を転倒させる危険性は大きく減る。下り坂の駐車場に頭から突っ込んでも、電動リバースがあればラクラク再出発できるし、早朝、住宅街の路地をエンジンを掛けず大通りまで押して歩く…なんてシチュエーションでは、音の出ない電動ウォークモードの有り難みを痛感するだろう。
電動化、つまりモーターを搭載するメリットのひとつは、こうした微速領域の(=内燃機関が苦手としている)速度調整が格段にやりやすくなることだ。当然ながらエンジンのようなエンストも起きない。ボタン操作でWALKモードを選んだあとは、スロットルを手前に回せば前進、奥へ回せば後進というロジックとすれば、迷いが少なく直感的に操作できるようにもなるだろう。
取り回しの容易化で腕力の重要性が減るから、女性や小柄なライダーが重量級バイクに乗るハードルも大きく下がるし、バイクの取り回しがキツくなってきたベテランだって嬉しい。ニンジャHEVはクラッチを油圧作動化し、これを電子制御で断続することでエンジンとモーターの切り替えも行っているが、その副産物としてクラッチレバーが存在しない。これもクラッチ操作が苦手なライダーをエンストの恐怖から解放してくれるはずだ(もちろんモーターだけで発進するモードも存在すると思われる)。
少々話が逸れるが、近年、電動技術を使って2輪車の転倒を防ぐ開発が活発化している。しかしカワサキの電動技術は「バイクは転ぶもの」という原理原則は受け入れつつ、より楽しく快適に、かつ環境に合致したバイクを作るために活用していると筆者には映る。転ばないバイクはまさにライダーの夢だが、バイクは転ぶ乗り物だから面白い…という意見もまた真理だろう。
カワサキの電動化への取り組みについては、姉妹サイト・ミリオーレのこの記事をご覧いただきたいが、燃費やカーボンニュートラルを満足させるだけに留まらず、もっと楽しく快適になり、さらにバイクに乗る敷居や不安すら引き下げてくれるのがカワサキの電動化なのだ。それはひょっとすると、二輪の裾野をドドーンと広げてくれる救世主になるかもしれない!?
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