
2022年8月に開催された第43回鈴鹿8耐をもって、GPライダーとしての活躍でおなじみ青木宣篤選手が、現役生活にピリオドを打った。長きにわたるレース人生のラストランにおいて、ノブ氏は何を思ったのか。最後の1日を振り返る。
●監修:青木宣篤 ●文:高橋剛 ●写真:MotoGP.com 箱崎太輔 高橋剛 ヤングマシン編集部
- 1 実感は、まるでない…
- 2 [連載] 青木宣篤の上毛GP新聞に関連する記事
- 3 「絶好調のM.マルケスがドゥカティを蟻地獄へと誘う⁉」【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.26】
- 4 「ホンダとヤマハの光明と、小椋藍の想像を超えた活躍」【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.25】
- 5 「マルク・マルケスが見せつけた人間力の差」【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.24】
- 6 「間もなくMotoGP開幕! 電子制御に頼らない走りとは?」【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.23】
- 7 「1周目から速かったヤマハの秘密はフレームにアリ?!」【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.22】
- 8 「MotoGPマシンのブレーキング性能に戦慄」【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.21】
- 9 「たった250rpmの差がレースの最後に違いを生む」【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.20】
- 10 「前時代的? な気合とド根性が現代のMotoGPをさらなる高次元へ」【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.19】
- 11 人気記事ランキング(全体)
- 12 最新の記事
実感は、まるでない…
自分の走行が終わり、ピットに戻った。みんなと握手したりハグしながら「ありがとう」と言っていたと思う。そのうち、何がなんだか分からないけれど、ガクッとヒザから崩れ落ちてしまった。
その後しばらくのことは、よく覚えていない。大声を挙げて泣いていた、という説もあるが、それは事実なんでしょうか?(笑)
どういう感情だったのか、自分でも整理ができていないんですよね。何だろうな…。「無事にレースを終えられた」という安心感だったのかもしれない。
走行を終え、チームメイトのテラン(寺本幸司)にマシンを渡すと、ガックリと膝から崩れてしまった。無事に終えられて安心したのだと思う…。
ワタシはこう見えて臆病者だ。好き好んでレースをしていながら、レースがとても怖かった。「レースでは命を落としたくない」という思いがあった。
こんなことを言うのはどうかと思うが、大ちゃん(註・加藤大治郎氏)やノリック(註・阿部典史氏)のお墓参りには行ったことがない。お墓に行ったら、彼らに呼ばれてしまうような気がしていたからだ。弱い人間なのだ。
自分自身の体の不安もあった。ガンや骨折もあったが、2014年の鈴鹿8耐で転倒して以降、三半規管に異常があるようで、ゼロスタートの発進では平衡感覚を失ってしまう。だからスプリントレースの参戦はもう不可能だった。
鈴鹿8耐には参戦できるコンディションまで戻せたが、思うようにタイムが出せない。自分の中のスピード感覚が、どんどん落ちているのが分かった。
そして年齢を重ねるつれて、満足にトレーニングもできなくなっていた。無理をするといろんな所を故障してしまうから、追い込むことが怖い。“トレーニングで体を傷める”という本末転倒が起きてしまうからだ。
スピードを失い、トレーニングもできない。そんな自分は、受け入れがたかった。でも、これが現実だ。残念だけど、受け入れなくちゃいけない。
2020年の鈴鹿8耐をもって現役を引退しようと決めていたが、新型コロナ禍で延び延びになり、2022年が最後のレースとなった。ありがたいことに、決勝レース前に引退セレモニーを開いてくれたり、たくさんの人から声をかけられたりと、もちろんいつもの鈴鹿8耐とは違っていた。
だが、いざレースがスタートしてしまえば、今までと何も変わらなかった。最後のスティントで、「残り2周」というサインボードを見るまでは、何も。
残り2周。今見えているもの、今感じているものを心に焼き付けておこうと思った。走り以外のことを思ったのは、初めてだった。
「この景色を心に焼き付けよう」 最後の2周は、初めて走り以外のことを考えた。
そしてピットに戻った時は、やはり安心したのだと思う。これで終わりなんだ、と。もうレースで死ぬことはない、と。
自分には、レースしかなかった。これから始まるレースのない人生がどうなるのか、まったく想像ができないし、実感もない。
ただ、たくさんの人たちに温かい声をかけてもらったのは本当にありがたかったし、自分のやってきたことは間違えていなかったのかな、と思えた。
これで引退だなんて、本当に実感がない。今は、「来年、また鈴鹿8耐参戦のオファーがあったらどうしよう」と考えている(笑)。
【万感の思いを胸に深々と頭を下げた】自分のレース活動に共感し、支えてくれたすべての方たちに挨拶させてもらった。たくさんもらっていたのは実は自分だったんだ、ということに気付いた。
SSTクラス4位。お手製表彰台がうれしい。
[連載] 青木宣篤の上毛GP新聞に関連する記事
人気記事ランキング(全体)
従来の理念をさらに深化させた「Emotional Black Solid」 今回注目したのは、新たなステップワゴン スパーダ専用に用意された、これまた新たなアクセサリー群です。その開発コンセプトは、従[…]
ヤマハXJ400:45馬力を快適サスペンションが支える カワサキのFXで火ぶたが切られた400cc4気筒ウォーズに、2番目に参入したのはヤマハだった。 FXに遅れること約1年、1980年6月に発売され[…]
126~250ccスクーターは16歳から取得可能な“AT限定普通二輪免許”で運転できる 250ccクラス(軽二輪)のスクーターを運転できるのは「AT限定普通二輪免許」もしくは「普通二輪免許」以上だ。 […]
最短2日間で修了可能な“AT小型限定普通二輪免許”で運転できる バイクの免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制限)があり、原付を除い[…]
レストア/整備/カスタム/販売など絶版車に関するすべての分野でサービスを提供 古いバイクを海外から輸入して販売する場合、車両によって程度の違いはあれ必ず整備が付随する。 元々のコンディション次第ではレ[…]
最新の記事
- [今年もバイクでキャンプツーリング] コレがなければ始まらない、大型シートバッグの選び方
- トップガン「GPZ900Rマーヴェリック号」の36年間はいかにして再現されたか。そのディテールに迫る
- 「5大メーカーのガチンコ対決」4月20日決勝の全日本選手権 Rd.1『もてぎ2&4レース』:TOP3をアプリ「なんドラ」で予想してプレゼントをGET?!
- チームスズキCNチャレンジ、2年目の鈴鹿8耐はサステナブルアイテムを拡大! 全日本ロードにもスポット参戦
- 整備やメンテ時は素手派? 軍手派? 手袋派? 実はそれぞれにメリットと落とし穴があるぞ!【DIY整備ビギナーズ】
- 1
- 2