
2022年8月に開催された第43回鈴鹿8耐をもって、GPライダーとしての活躍でおなじみ青木宣篤選手が、現役生活にピリオドを打った。長きにわたるレース人生のラストランにおいて、ノブ氏は何を思ったのか。最後の1日を振り返る。
●監修:青木宣篤 ●文:高橋剛 ●写真:MotoGP.com 箱崎太輔 高橋剛 ヤングマシン編集部
- 1 実感は、まるでない…
- 2 [連載] 青木宣篤の上毛GP新聞に関連する記事
- 3 世界最高レベルのフロントタイヤを限界まで使い切ろうとするトンデモMotoGPライダーたち【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.31】
- 4 「“本当の世界最高峰技術”が見られるのは鈴鹿8耐だけ」【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.30】
- 5 「MotoGPマシンの“音”に抱いたモヤモヤ……ドゥカティ、何かやってる?」【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.29】
- 6 「バニャイアのバカデカ・ブレーキディスク、生で見てきたイタリアGP」【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.28】
- 7 「ファビオ・クアルタラロに痺れた! ヤマハのフレームにも大注目」【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.27】
- 8 「絶好調のM.マルケスがドゥカティを蟻地獄へと誘う⁉」【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.26】
- 9 「ホンダとヤマハの光明と、小椋藍の想像を超えた活躍」【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.25】
- 10 「マルク・マルケスが見せつけた人間力の差」【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.24】
- 11 人気記事ランキング(全体)
- 12 最新の記事
実感は、まるでない…
自分の走行が終わり、ピットに戻った。みんなと握手したりハグしながら「ありがとう」と言っていたと思う。そのうち、何がなんだか分からないけれど、ガクッとヒザから崩れ落ちてしまった。
その後しばらくのことは、よく覚えていない。大声を挙げて泣いていた、という説もあるが、それは事実なんでしょうか?(笑)
どういう感情だったのか、自分でも整理ができていないんですよね。何だろうな…。「無事にレースを終えられた」という安心感だったのかもしれない。
走行を終え、チームメイトのテラン(寺本幸司)にマシンを渡すと、ガックリと膝から崩れてしまった。無事に終えられて安心したのだと思う…。
ワタシはこう見えて臆病者だ。好き好んでレースをしていながら、レースがとても怖かった。「レースでは命を落としたくない」という思いがあった。
こんなことを言うのはどうかと思うが、大ちゃん(註・加藤大治郎氏)やノリック(註・阿部典史氏)のお墓参りには行ったことがない。お墓に行ったら、彼らに呼ばれてしまうような気がしていたからだ。弱い人間なのだ。
自分自身の体の不安もあった。ガンや骨折もあったが、2014年の鈴鹿8耐で転倒して以降、三半規管に異常があるようで、ゼロスタートの発進では平衡感覚を失ってしまう。だからスプリントレースの参戦はもう不可能だった。
鈴鹿8耐には参戦できるコンディションまで戻せたが、思うようにタイムが出せない。自分の中のスピード感覚が、どんどん落ちているのが分かった。
そして年齢を重ねるつれて、満足にトレーニングもできなくなっていた。無理をするといろんな所を故障してしまうから、追い込むことが怖い。“トレーニングで体を傷める”という本末転倒が起きてしまうからだ。
スピードを失い、トレーニングもできない。そんな自分は、受け入れがたかった。でも、これが現実だ。残念だけど、受け入れなくちゃいけない。
2020年の鈴鹿8耐をもって現役を引退しようと決めていたが、新型コロナ禍で延び延びになり、2022年が最後のレースとなった。ありがたいことに、決勝レース前に引退セレモニーを開いてくれたり、たくさんの人から声をかけられたりと、もちろんいつもの鈴鹿8耐とは違っていた。
だが、いざレースがスタートしてしまえば、今までと何も変わらなかった。最後のスティントで、「残り2周」というサインボードを見るまでは、何も。
残り2周。今見えているもの、今感じているものを心に焼き付けておこうと思った。走り以外のことを思ったのは、初めてだった。
「この景色を心に焼き付けよう」 最後の2周は、初めて走り以外のことを考えた。
そしてピットに戻った時は、やはり安心したのだと思う。これで終わりなんだ、と。もうレースで死ぬことはない、と。
自分には、レースしかなかった。これから始まるレースのない人生がどうなるのか、まったく想像ができないし、実感もない。
ただ、たくさんの人たちに温かい声をかけてもらったのは本当にありがたかったし、自分のやってきたことは間違えていなかったのかな、と思えた。
これで引退だなんて、本当に実感がない。今は、「来年、また鈴鹿8耐参戦のオファーがあったらどうしよう」と考えている(笑)。
【万感の思いを胸に深々と頭を下げた】自分のレース活動に共感し、支えてくれたすべての方たちに挨拶させてもらった。たくさんもらっていたのは実は自分だったんだ、ということに気付いた。
SSTクラス4位。お手製表彰台がうれしい。
[連載] 青木宣篤の上毛GP新聞に関連する記事
人気記事ランキング(全体)
フレディ・スペンサー、CB1000Fを語る ──CB1000Fのインプレッションを聞かせてください。 とにかくすごく良くて、気持ちよかったよ。僕は何年もの間、新しいバイクのテストをしてきた。HRCのテ[…]
お手頃価格のヘルメットが目白押し! 【山城】YH-002 フルフェイスヘルメットが38%OFF コストパフォーマンスと信頼性を両立させた山城の「YH-002」フルフェイスヘルメット。大型ベンチレーショ[…]
後発のライバルとは異なる独創的なメカニズム 近年では、日本製並列4気筒車の基盤を作ったと言われているCB750フォア。もっとも細部を観察すると、この車両のエンジンには、以後の日本製並列4気筒とは一線を[…]
まさかのコラボ! クロミちゃんがホンダバイクと出会う ホンダがサンリオの人気キャラクター「クロミ」と、まさかのコラボレーションを発表した。クロミがバイクに乗りたくなるというストーリーのオリジナルアニメ[…]
世界初公開のプロトタイプ&コンセプトモデルも登場予定! ホンダが公式素材として配布した写真はモーターサイクルショー展示車および鈴鹿8耐時点のもの、つまりミラー未装着の車両だが、JMS展示車はミラー付き[…]
最新の記事
- 電サス&6軸IMU採用のホンダ「NT1100」が2026年モデルに! 新色“グレーメタリック”採用【海外】
- 「フレディに憧れ、そして抜いた」フレディ・スペンサー×丸山浩、CB1000Fや鈴鹿8耐について語る【Hondaホームカミング熊本2025】
- 【日本初上陸】独創デザインの水冷250cc・V型2気筒カスタムクルーザー「BENDA ナポレオンボブ250」試乗インプレッション
- 原付でキックしてもエンジンがかからない原因は?|セルは回ってキュルキュル音がする時の対処法を解説
- ホンダ/スズキ/カワサキ/ドゥカティから! 2025年10月新型バイク発売カレンダー【GB350/DR-Z4/ZX-25Retc】
- 1
- 2