2022年8月に開催された第43回鈴鹿8耐をもって、GPライダーとしての活躍でおなじみ青木宣篤選手が、現役生活にピリオドを打った。長きにわたるレース人生のラストランにおいて、ノブ氏は何を思ったのか。最後の1日を振り返る。
●監修:青木宣篤 ●文:高橋剛 ●写真:MotoGP.com 箱崎太輔 高橋剛 ヤングマシン編集部
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実感は、まるでない…
自分の走行が終わり、ピットに戻った。みんなと握手したりハグしながら「ありがとう」と言っていたと思う。そのうち、何がなんだか分からないけれど、ガクッとヒザから崩れ落ちてしまった。
その後しばらくのことは、よく覚えていない。大声を挙げて泣いていた、という説もあるが、それは事実なんでしょうか?(笑)
どういう感情だったのか、自分でも整理ができていないんですよね。何だろうな…。「無事にレースを終えられた」という安心感だったのかもしれない。
ワタシはこう見えて臆病者だ。好き好んでレースをしていながら、レースがとても怖かった。「レースでは命を落としたくない」という思いがあった。
こんなことを言うのはどうかと思うが、大ちゃん(註・加藤大治郎氏)やノリック(註・阿部典史氏)のお墓参りには行ったことがない。お墓に行ったら、彼らに呼ばれてしまうような気がしていたからだ。弱い人間なのだ。
自分自身の体の不安もあった。ガンや骨折もあったが、2014年の鈴鹿8耐で転倒して以降、三半規管に異常があるようで、ゼロスタートの発進では平衡感覚を失ってしまう。だからスプリントレースの参戦はもう不可能だった。
鈴鹿8耐には参戦できるコンディションまで戻せたが、思うようにタイムが出せない。自分の中のスピード感覚が、どんどん落ちているのが分かった。
そして年齢を重ねるつれて、満足にトレーニングもできなくなっていた。無理をするといろんな所を故障してしまうから、追い込むことが怖い。“トレーニングで体を傷める”という本末転倒が起きてしまうからだ。
スピードを失い、トレーニングもできない。そんな自分は、受け入れがたかった。でも、これが現実だ。残念だけど、受け入れなくちゃいけない。
2020年の鈴鹿8耐をもって現役を引退しようと決めていたが、新型コロナ禍で延び延びになり、2022年が最後のレースとなった。ありがたいことに、決勝レース前に引退セレモニーを開いてくれたり、たくさんの人から声をかけられたりと、もちろんいつもの鈴鹿8耐とは違っていた。
だが、いざレースがスタートしてしまえば、今までと何も変わらなかった。最後のスティントで、「残り2周」というサインボードを見るまでは、何も。
残り2周。今見えているもの、今感じているものを心に焼き付けておこうと思った。走り以外のことを思ったのは、初めてだった。
そしてピットに戻った時は、やはり安心したのだと思う。これで終わりなんだ、と。もうレースで死ぬことはない、と。
自分には、レースしかなかった。これから始まるレースのない人生がどうなるのか、まったく想像ができないし、実感もない。
ただ、たくさんの人たちに温かい声をかけてもらったのは本当にありがたかったし、自分のやってきたことは間違えていなかったのかな、と思えた。
これで引退だなんて、本当に実感がない。今は、「来年、また鈴鹿8耐参戦のオファーがあったらどうしよう」と考えている(笑)。
決勝レース前の引退セレモニー
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