2022年8月に開催された第43回鈴鹿8耐をもって、GPライダーとしての活躍でおなじみ青木宣篤選手が、現役生活にピリオドを打った。長きにわたるレース人生のラストランにおいて、ノブ氏は何を思ったのか。最後の1日を振り返る。
●監修:青木宣篤 ●文:高橋剛 ●写真:MotoGP.com 箱崎太輔 高橋剛 ヤングマシン編集部
- 1 実感は、まるでない…
- 2 [連載] 青木宣篤の上毛GP新聞に関連する記事
- 3 「前時代的? な気合とド根性が現代のMotoGPをさらなる高次元へ」【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.19】
- 4 「好コンディションの時にマルケスが勝てない理由とは?」【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.18】
- 5 「小椋藍と中上貴晶 それぞれの“最後の”日本GP、マニアックすぎない見どころ紹介」【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.17】
- 6 「“知らぬが仏”で速い若者と、痛い思いをしてもビビらない男・マルケス」【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.16】
- 7 「地味すぎて凄さが伝わらないチャンピオンライダー、ペッコについて解説したい」【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.15】
- 8 「特殊なライディングに戻り始めたマルク・マルケス」【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.14】
- 9 「マルケスのファクトリー入りはズルい……」【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.13】
- 10 「“マルケスが寄った”と言い放つアコスタがモヤモヤを晴らした」【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.12】
- 11 人気記事ランキング(全体)
- 12 最新の記事
実感は、まるでない…
自分の走行が終わり、ピットに戻った。みんなと握手したりハグしながら「ありがとう」と言っていたと思う。そのうち、何がなんだか分からないけれど、ガクッとヒザから崩れ落ちてしまった。
その後しばらくのことは、よく覚えていない。大声を挙げて泣いていた、という説もあるが、それは事実なんでしょうか?(笑)
どういう感情だったのか、自分でも整理ができていないんですよね。何だろうな…。「無事にレースを終えられた」という安心感だったのかもしれない。
ワタシはこう見えて臆病者だ。好き好んでレースをしていながら、レースがとても怖かった。「レースでは命を落としたくない」という思いがあった。
こんなことを言うのはどうかと思うが、大ちゃん(註・加藤大治郎氏)やノリック(註・阿部典史氏)のお墓参りには行ったことがない。お墓に行ったら、彼らに呼ばれてしまうような気がしていたからだ。弱い人間なのだ。
自分自身の体の不安もあった。ガンや骨折もあったが、2014年の鈴鹿8耐で転倒して以降、三半規管に異常があるようで、ゼロスタートの発進では平衡感覚を失ってしまう。だからスプリントレースの参戦はもう不可能だった。
鈴鹿8耐には参戦できるコンディションまで戻せたが、思うようにタイムが出せない。自分の中のスピード感覚が、どんどん落ちているのが分かった。
そして年齢を重ねるつれて、満足にトレーニングもできなくなっていた。無理をするといろんな所を故障してしまうから、追い込むことが怖い。“トレーニングで体を傷める”という本末転倒が起きてしまうからだ。
スピードを失い、トレーニングもできない。そんな自分は、受け入れがたかった。でも、これが現実だ。残念だけど、受け入れなくちゃいけない。
2020年の鈴鹿8耐をもって現役を引退しようと決めていたが、新型コロナ禍で延び延びになり、2022年が最後のレースとなった。ありがたいことに、決勝レース前に引退セレモニーを開いてくれたり、たくさんの人から声をかけられたりと、もちろんいつもの鈴鹿8耐とは違っていた。
だが、いざレースがスタートしてしまえば、今までと何も変わらなかった。最後のスティントで、「残り2周」というサインボードを見るまでは、何も。
残り2周。今見えているもの、今感じているものを心に焼き付けておこうと思った。走り以外のことを思ったのは、初めてだった。
そしてピットに戻った時は、やはり安心したのだと思う。これで終わりなんだ、と。もうレースで死ぬことはない、と。
自分には、レースしかなかった。これから始まるレースのない人生がどうなるのか、まったく想像ができないし、実感もない。
ただ、たくさんの人たちに温かい声をかけてもらったのは本当にありがたかったし、自分のやってきたことは間違えていなかったのかな、と思えた。
これで引退だなんて、本当に実感がない。今は、「来年、また鈴鹿8耐参戦のオファーがあったらどうしよう」と考えている(笑)。
決勝レース前の引退セレモニー
[連載] 青木宣篤の上毛GP新聞に関連する記事
人気記事ランキング(全体)
「もしも出先でヘルメットを盗難されたら、自宅までどうやって帰るのだろう」バイクに乗っていると、こうした疑問も浮かぶのではないでしょうか。そもそもヘルメット窃盗犯は、なぜ人が使った中古のヘルメットを狙う[…]
2&4ストロークハイブリッドV3は実質4ストロークV4と同効率! 数々の伝説を残してきたNSR500が2001年シーズンで最後の年を迎えた。これで2ストローク全盛に完全な終止符が打たれたわけだ。対する[…]
一度掴んだ税金は離さない! というお役所論理は、もういいでしょう 12月20日に与党(自民党と公明党)が取りまとめた「令和7年度税制改正大綱」の「令和7年度税制改正大綱の基本的な考え」の3ページ目に「[…]
4気筒CBRシリーズの末弟として登場か EICMA 2024が盛況のうちに終了し、各メーカーの2025年モデルが出そろったのち、ホンダが「CBR500R FOUR」なる商標を出願していたことが判明した[…]
2025年こそ直4のヘリテイジネイキッドに期待! カワサキの躍進が著しい。2023年にはEVやハイブリッド、そして2024年には待望のW230&メグロS1が市販化。ひと通り大きな峠を超えた。となれば、[…]
最新の記事
- 「ブラックマークがリアル」SHOEIの新グラフィックモデル『Z-8 KNEE DOWN』が登場
- [2024冬版] いま売れ筋のバイクシューズTOP5【大型販売店で聞いてみた】1位はアヴィレックスのスニーカータイプ
- 世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.132「タイム差が縮まるほどに、0.1秒の違いがとてつもない重みになる」
- 【2024年12月版】20万円台! コスパで選ぶ 国内メーカー原付二種スクーター5選!
- 価格差11万円の「CT125ハンターカブ」と「クロスカブ110」は何が違う? 最新型スペック比較&ざっくりインプレ【2024年版】
- 1
- 2