〈若年層の交通安全〉新しいモビリティの活用に向け、安全教育/コンテンツの充実を【タブレット配布はチャンス】

去る4月19日、電動キックボードに関する改正道路交通法が衆議院本会議で可決したことについて、各地の会議体などで委員を務めているモビリティジャーナリストの楠田悦子氏に、2輪業界の外から広い視点で話を聞いた(その2)。


●文:ヤングマシン編集部(田中淳麿)

【モビリティジャーナリスト・楠田悦子氏】自動車新聞社モビリティビジネス専門誌「LIGARE」初代編集長を経て、’13年に独立。省庁/自治体等の有識者会議や各種委員会の委員を歴任する。

交通ルールを学ばないと、何に乗っても危ない

───「事故を起こさない=乗り物を取り上げる」ほうが多い。三ない運動の頃から進化していないのでは?

楠田:新潟県の某市では、自転車通学で事故が多発したらスクールバスに変わっちゃった。自転車でもそんな状況なんですよ。中学校ですら古い校則が30年くらい変わってなくて。通学路はちゃんとしていないから危ない、夜は真っ暗で危ない、みたいな。

───全国各地からモビリティ活用等の会議に呼ばれていますが、学校関係者はその場に来ていますか?

楠田:会議体によって違いますが、あまり来ていないですね。交通関係の人ばかりで、ツーリズムや観光系が多い。「自転車通学を見直しているところはありますか」と聞くと、自転車活用を推進しようという首長さんの会なのに誰も手を挙げなかったんですよ。そんな状況だから、電動キックボードだのって話にもならないわけです。

───とはいえ、2年以内に16歳以上は免許不要で電動キックボードに乗れるようになる。モビリティ業界として話し合おうという動きはありますか?

楠田:ないですね。だって田舎の中学校ですら「自転車通学は安全ですか?」「ヘルメットをちゃんと見直したことありますか?」「校則が古くないですか?」って聞いても、何にもしてないところが多いわけですよ。高校は自由だから「自由にどうぞ」みたいな感じですけど。この子たちがちゃんと自転車教育といった乗り物の教育で交通ルールを学ばないと、何に乗っても危ないわけですよ。その延長線上にバイクも入ってくるわけで。免許を持つ手前の中学生で「安全教育をどうしよう」と言っている状況なので、何に乗っても同じなわけですよ。

───楠田さんは自動車/自転車/新しいモビリティ等に関する活動が長いと思いますが、若年層の安全運転教育って良くなっているのでしょうか。広がっていますか? 深まっていますか? 変わっていないですか?

楠田:あまり変わっていない。一部、京都市とか自転車乗り方教室みたいに頑張っているところもあるけれど、交通安全協会がやる内容にはさほど変化がないと思います。でも、事故が増えた影響で通学路の一斉点検は広く行われたので、少しはよくなってきてますね。教育に関してはあんまりで、上からトップダウン的に「守りなさい」と言うんじゃなくて、「なぜ守らないといけないのかな」「どこが危ないのかな」「だからルールを守らないといけないね」というのを自発的に考えるような、新たな交通安全教室などをやったほうがよいと思います。

───文科省も言ってるアクティブラーニング的なものですか?

楠田:そうそうそう。

───それを誰がどうやるべきなんでしょうか?

楠田:全国の市役所の中に交通安全担当の課があって、そこがそういうプログラムを毎年入れてやっています。その内容がちょっと今どきに変われば…。もしくは、これまでと同じような内容だけれど、ちょっと動画のコンテンツやその活用法をレベルアップするとか。

───交通安全教室などを実施する際は、だいたい地域の警察や交通安全協会に行く流れですよね。

楠田:そうそう。だから、そこで同じことをクルクルやってたら進化はないです。コロナ禍になって生徒にタブレットが配布されたので、動画を活用した教育というのを警察も考え始めたみたいで。

そういった教材が充実してくると、学校の先生とかも「これ見といてね」「ホームルームで進めといて」「事故が起きたらここよ」みたいな情報のシェアは、コンテンツさえあればやりやすくなっています。そういうコンテンツをちゃんと作ってあげて先生の負荷を下げるとか。テスト形式にするのもいいし、ゲーム形式でもいい。楽しく学んでテストまでできるコンテンツを作れば、先生もチェックしやすいと思います。(続く)

埼玉県教育委員会が主催する「高校生の自動二輪車等の交通安全講習」で行われている危険予測トレーニング(KYT)の様子。交通事故を疑似体験し、生徒自身が認知/判断力の現状を知ることができる。この経験が実際の公道走行での危険予知に活かされる。


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