MotoE選手権にも期待しています

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.85「鈴鹿8耐に、チーム監督として参戦します」

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第85回は、近況報告に加えて一週間後に迫った鈴鹿8耐への参戦について。


TEXT:Go TAKAHASHI PHOTO:DUCATI,

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日本の夏は本当に厳しい……!

モナコでは風邪が大流行しています。今はもうほとんどの場面でマスクを着用しなくていいんですが、その弊害と言われています。マスクってやっぱり感染症の予防効果があるんですね。僕も、娘からもらってしまったようで、風邪で3日ほど寝込んでしまいました。検査を受けた結果、コロナではなかったのでひと安心でしたが、結構しんどかったです。

今は日本に来ていますが、新型コロナウイルスがまた感染拡大していますね。今回のメインの仕事は鈴鹿8耐のチーム監督業なので、感染してチームに迷惑をかけないよう注意しながら過ごしています。しかし日本は暑い! そして湿度が高い!! 7月15日に日本に到着しましたが、その瞬間にモナコに戻ろうかと思いました。ヨーロッパも気温は高いんですが、湿度が低い分まだマシです。日本の夏は本当に厳しくなりましたよね……。

7月13日に、スズキが今シーズンをもってMotoGPとEWC(世界耐久選手権)から撤退することを正式発表しました。残念ですし、寂しい気持ちもありますが、企業が総合的に判断して決めたことだから仕方ありません。ただ、MotoGPが企業にとって本当に魅力的な存在なら、撤退もなかったはず。世界的に温暖化対策が進められ、ガソリンエンジンからEVへとシフトしようとしている今、MotoGPも次の手を考えないといけないのかもしれません。

MotoEはそのひとつの戦略でしょう。来年からはドゥカティのワンメイクになり、話題を集めていますが、僕は二輪メーカー以外の参入をもっと促してもいいんじゃないか、と個人的には思っています。車体に関しては繊細な技術が求められるので、二輪メーカーが作った方がいいでしょうが、モーターは例えばソニー、パナソニック、サムソン、シーメンス、LG、インテルなどなど、各国の電機メーカーが作ったら面白そうです。「アップルファクトリーチーム」なんて、カッコよさそうですよね(笑)。

6月末に公開されたドゥカティのMotoEマシン。すでにかなりのポテンシャルを備えているようだ。

これは夢物語ですが、でも、二輪メーカー以外のサプライヤーにとっても旨味のあるレースになれば、グランプリも姿を変えながら存続できるような気がします。観ている身としても、身近な電機メーカーがレースに関わってくれたら、ワクワクしますよね? ガソリンエンジンの先細りしていくことを考慮しながら、新しいグランプリの姿を見せてほしいな、と思います。

日本でいくつかの仕事をしながら……

7月に開催されたWDW2022。2018年以来の開催だった。

ドゥカティと言えば、7月22~24日にイタリア・ミザノサーキットでワールド・ドゥカティ・ウィーク2022が開催されましたね。MotoGPライダーやSBK(スーパーバイク世界選手権)のライダーたちが終結して、大いに盛り上がったようです。実は僕も声をかけてもらったんですが、日本に行く予定が入ってしまっていたので断念……。10万人ものドゥカティスタが集まるそうなので、行きたかったんですよ。

5月には、ムジェロサーキットを舞台にアプリリアが「アプリリア・オールスターズ」を開催。MotoGPライダーを始めトップライダーたちが参加し、盛況だったとか。こちらも声をかけてもらっていたんですが、やはり日本に来ていて参加できず……。なかなかタイミングが合わないのが残念です。

「日本でもこういう大規模なバイクイベントが行われるといいなあ」と思いますが、さすがに10万人を集められるかと言うと、なかなか厳しいですよね。バイク人口の少なさもありますが、ヨーロッパ各国は陸続きなので、いろんな国のライダーが自分のバイクで参加できる、というメリットが大きいと思います。

ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキという国内4メーカーは世界でももちろんメジャーで、熱狂的なファンも多いです。もし各メーカーが日本でWDWのようなことをやれば……と思うのですが、残念ながらヨーロッパ各国のライダーたちは気軽には参加できないでしょう。日本が島国であるという地理的な問題はかなり大きく存在していると思います。

日本に来てから、いくつかの仕事をやらせてもらっています。ひとつがミシュラン関連の企画で、スーパーGT300に参戦している荒 聖治さんとの対談です。荒さんとは初対面ですが、共通点が多くてビックリ。ふたりとも千葉県民で、かつて四街道にあった新東京サーキットで子供時代を過ごし、SRSスガヤにお世話になっていたんです。

荒さんはレーシングカート、僕はミニバイクですが、「結構近いところでレースしてたんだね!」と盛り上がりました。この対談はミリオーレに掲載されるのでお楽しみにしていただきたいんですが、ちょっとだけさわりをご紹介すると、4輪と2輪のミシュランタイヤにも共通点がありました。

それは「丸い」ということ。「タイヤなんだから丸くて当たり前だろう!」と思われるかもしれませんが、ミシュランタイヤは真円度が高く、モノによるバラつきがほとんどないんです。これはレースではかなり大事な要素。タイヤメーカーによっては、フリー走行のうちに丸いタイヤを見つけておいて、決勝に取っておく、なんて事もするほどです。ミシュランタイヤはちゃんと丸いので、そんな手間はいりません。

荒さんいわく、4輪ではさらに丸さが大事とのこと。2輪は車体を傾けて曲がるので、タイヤの設地面もセンターからサイドへと移り変わって行きますが、4輪は基本的にトレッド面のみ。真円でなければ小刻みに跳ねるような現象が起きたり、グリップが抜けてしまうことまであるそうなんです。丸いミシュランタイヤならそんな問題も起きないそう。2輪と4輪の意外な共通点でした。

茂原ツインサーキットでは、ライディングレッスンを行いました。ありがたいことにいつもすぐ満員になってしまうのですが、最近は女性ライダーが増えています。これはうれしいですよね。僕のレッスンはサーキットビギナーを対象にしていて、お伝えするのも本当に基礎の基礎。ここから始めて、サーキット走行が面白いと感じたら、より本格的なスクールに挑戦してもらえればいいな、と思っています。

特に女性ライダーにとってサーキット走行はハードルが高いもの。うれしいことに僕のレッスンでお友達や仲間が作れているようで、いいコミュニティになっています。ひとりでサーキットに行くのはいろいろ難しい面がありますので、仲間たちと助け合いができると最高ですよね。僕のレッスンを仲間作りの場に活用する、なんていう方も大歓迎です。

ライダーが気持ちよく走れる環境を整えたい

さて、冒頭にもチラリと書きましたが、今年の鈴鹿8耐はNCXX RACING with RIDERS CLUBの監督として参加します。’20年に監督になりましたが、コロナ禍で8耐が開催されなかったため、ようやくの実戦です。

NCXX RACINGは2014年から8耐に参戦していて、’18年にはSSTクラスで優勝を果たしています。’19年にも2位表彰台を獲得し、実力は十分。今年のライダーはASB1000(アジアスーパーバイク選手権)の伊藤勇樹、全日本ロードST1000クラスの南本宗一郎、同じくST600クラスの井手翔太と速い3人が揃いました。順当に行けば、SSTクラス優勝は十分狙えるだけの力があるチームになっています。

ただ、何が起こるかが分からないのが鈴鹿8耐です。僕が監督ということで注目を集め、ライダーやスタッフにプレッシャーがかかる面もあるでしょう。僕自身は平常心を保ち、落ち着いてレースを俯瞰したいと思っていますし、チームのみんなにもいつも通りのレースで実力を発揮してもらいたいと思っています。

耐久レースもスプリントレースも、結局はメンタルが勝負を決めます。速く走りたいという気持ちをコントロールして、コンスタントなペースを作ることが何よりも大事。速さはすでに備えているので、あとはそれを結果に結びつけるために、うまく抑えることです。

チーム監督としての僕のポリシーは、「ライダーファースト」。ライダーを尊重して、彼らが気持ちよく走れるような環境を整えることが僕の仕事です。その分、結果を求めるのは当然のこと。クラス優勝は最大の目標です。でもそれ以上に、僕はライダーたちに経験をしてもらいたい。鈴鹿8耐という大舞台で、注目とプレッシャーの中、自分を保つという経験を。

それは、まだ若い彼らの今後のレース人生に、必ず大きなプラスになるはずです。結果を追い求めながら、それ以上の「経験」という宝物を得てほしいと願っていますし、そのために監督としてできるだけのサポートをしようと思っています。

コロナ禍で、まだいろいろと制約があると思いますが、皆さんもぜひ鈴鹿8耐を観にサーキットまで足を運んでいただけると幸いです。そして、NCXX RACING with RIDERS CLUBの応援をよろしくお願いします。

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