惜しまれながら、ついにCB1100が生産終了を迎える。予約が早期終了するほどの人気を見せた「RS」および「EX」の貴重なファイナルエディションを丸山浩が連れ出し、ラストランを敢行。現行モデル唯一であり、もう二度と出ないかもしれない空冷直4を味わい尽くした。
昔そのままのテイストに酔う。ハンドリングの違いも楽しい
生産終了が決定してから、CB1100の人気を再確認することになった。有終の美を飾るEXとRSのファイナルエディションは、予約期間が’21年10月8日〜11月30日だったが、注文が殺到。早くも10月25日で受付が終了してしまった。CB1100を気になっていた人が多かった証拠だろう。
終了のニュースは僕(丸山)にとっても大ショック。ここ10年で一番の衝撃かもしれず…。速攻でRSのファイナルを予約してしまったほどだ。
そんなCB1100を久々に乗ってみると、ゆったり走るのが改めて楽しい。近頃のバイクに比べてズシッとした重量感があり、’80年代初頭までの大型バイクに近い雰囲気だ。まさに鉄の塊で、僕の所有するCB900Fにも似ている。さすがに現代のCB1100はもっと乗りやすいけど、青春時代そのままの気分に戻ってしまう。
飛ばさなくていいかな、と思えるのは、重量感に加え、現行唯一の空冷直4エンジンがその理由だ。DOHCは本来、高回転まで回すためのメカ。淀みなく回転は上昇するが、低中速域でも太いトルクで楽しませてくれるのは珍しい。4000rpm辺りのドロドロ感が心地よく、回転が上がるとシフトアップして回転を落としたくなる。
そして特筆すべきはサウンドだ。’11年の初代は排気音を消す方向だったが、’14年のEXで2本出しとなり、世界統一基準となった’17以降の現行型で劇的に音質が良くなった。懐かしくも野太い重低音を奏で、エンジンの味わいに貢献している。旧型にノーマルで乗りたい人は、このマフラーに交換することをぜひおすすめしたい。
初代以来、空冷直4として進化を続けたものの、昔のエンジンの味わいをずっと大事にし続けている。これは他のバイクでは得がたいテイストだ。
EXとRSを乗り比べてみて、記憶していた以上の”違い”に驚かされた。EXは前後18インチ+ワイヤースポークホイールのクラシカル仕様、RSは前後17インチ+キャストホイールを履くスポーティー仕様で、サスペンション/タイヤ幅/ディメンジョンまで現代的に変更している。エンジンは2台とも前述した特性だが、RSは5000rpm辺りからのレスポンスをやや高めた設定だ。
特に足まわりによる違いが大きい。EXは’69年登場のCB750フォアに端を発する’70年代マシンを思わせる、リヤに乗って後輪で曲げていくスタイル。手前に大きく引いたアップハンドルによって自然とリヤ寄りに座り、フロントに荷重がかけにくい。それでも前後18インチでリヤタイヤが細いため、腰を曲がりたい方向に押し付ければ、パタンと軽く寝る。ただし、そこから鋭く曲がるわけではなく、バンクさせた状態が続く。いかにも往年のCB750フォア風の走りだ。
一方のRSは’80年代、と言いたいところだけど、これを飛び越して’90年代マシンらしいフロント荷重を使うハンドリングに仕上がっている。
前後17インチを使い始めた時代で、上体は軽く前傾し、着座位置もややフロント寄りだ。肩を入れて膝を開き、ハングオフを使うとよく曲がる。EXからRSに乗り換えると曲がりにくく感じるかもしれないが、走らせ方が違うのだから当然と言えるだろう。
フロントフォークはEXより剛性が高く、奥で踏ん張る。さらにもう少し限界が高いラジアルキャリパーと、旧型EXでサーキットを走った際に僕が欲しいと思った装備が全部揃っている。
CB750フォア風のEX。流行のカフェレーサー風スタイルを持つRS。それぞれの外観に合わせて、走りまで年代に応じた造り分けに成功している。しかも同じ1台で20年ほどハンドリングを進化させているのだから、実に面白い味付けだと思う。
高性能&高効率へのアンチテーゼ。マジメな1台だ
僕だったら、選ぶのはやはりRS。バイクで青春を送ったのは’80年代だし、当時はアップハンドルをすべてセパハンにしたいと思っていたぐらいだから、RSがいい。それに足まわりが最初から充実しているRSの方がカスタムの素材としても適している。とはいえ、この車格と重さを考えると、まったり乗れるEXの方が本来のキャラに似合っていると今回の試乗で感じた。
そんなCB1100にハマるのはどんなシチュエーションか? 意外にも高速道路のクルージングだと思う。
街乗りでは、足着きが悪くなくエンジン特性も素直なのだが、小回りがしにくく、押し歩きも手ごわい。ワインディングでは、250kgオーバーの車重が顔を出し、RSでさえスポーツモデルのように攻めるのは向いていない。ただし、重いバイクを手なずけて振り回す、そんな昔ながらの楽しみ方をしたい人には最適だろう。とはいえ、これらは飛ばした時の話。ある程度の腕があり、ゆったり走ればステージを問わず普通に楽しいのだ。
その点、高速クルーズは大得意。直進安定性が優秀で、特に重量のあるスポークホイールを持つEXは、ドッシリ揺るぎない。また6速ミッションにより抑えた回転数で巡航できるのがいい。リヤキャリアを装着した中古車が多いのも、CB1100がツーリング向きであることを裏付けている。
そして何より、オーセンティックなバイクに乗りたい人、バイクと共にある生活を送りたい人にフィットするバイクだ。空冷シングルを積む弟分のGB350とも似たキャラで、GB好きな若者にも刺さる1台だと思う。ただし、GBはビギナーでもOKだが、CBは車重がヘビーなため、多少の腕前がないと乗り続けるのはキビしい。かといって、仮にCBが軽量だったとしたらチープになってしまう。そこがCBの立ち位置の難しいところだ。
たとえばカワサキのZ900RSは、中身は水冷直4+モノサスペンションなどの最新で実に軽快ながら、外観はクラシカル。一方のCB1100は、空冷直4+リヤ2本ショック、フレームも昔ながらのダブルクレードルで、中身まで昔のバイクを再現している。ホンダは本当にマジメだなと思う。それだけに今回の生産終了は残念極まりない。
CB1100が11年前に登場した際、感心したことを覚えている。当時のホンダは時代に逆行したバイクを造らないイメージだったのに、昔ながらの空冷エンジンを引っぱり出し、最新技術で仕上げてきたからだ。
バイクって、高性能&高効率だけが存在理由じゃない。乗り味や雰囲気を楽しむ良さがある。僕がCB900Fを愛するのも、そんなところが理由だ。
さらに、空冷の持ち味をいかに進化できるか、登場から11年やり続けてくれた。本当にいいマシンを出してくれたなと今さらながらに思う。次期排ガス規制に対応して、ずっと発売してもらいたかったのが正直なところだ。
しかし悲しんでいても仕方ない。今のところネオクラ的なCBとしては水冷直4のCB1300が存在するけど、CB1100とはキャラが異なる。今回のファイナルエディションで、懐古的なCBの需要がまだまだあることをホンダも理解してくれたはず。いちファンとして、レトロ路線を受け継ぐ次期CBの登場を心待ちにしている。
思い出深い… 丸山浩の特に印象に残ったCB1100
最後にひと言!「CB1100には感謝しかない。ホンダの次期ネオクラに期待だ」
僕のように昔を知る人には青春時代の懐かしさを、現代のライダーには空冷直4の魅力を伝えてくれたCB1100には、もう感謝しかない。生産終了は惜しいのひと言に尽きる。空冷直4の消滅によって、ホンダのネオクラシックバイクがどんな方向に進むのか見守りつつ、さらに魅せてくれる”次期CB”の登場に期待したい!
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