ひと口に”絶版車”と言っても、ストライクゾーンは人それぞれ。’60年代に惚れ込む人もいれば’90年代にハマる人もいる。ノーマル絶対主義もあれば、カスタムやワンオフが大好きといったように、楽しみ方も十人十色。そんな絶版車好きの希望に柔軟に応えているのが三重県鈴鹿市の「モトジョイ」だ。車両販売や「とことん整備」「とことん車検」と並び、母体=オーヴァーグループの佐藤健正会長が取り組むマシン作りも、モトジョイだからこそできる絶版車の楽しみ方のひとつである。
●文/写真:モトメカニック編集部(栗田晃) ●外部リンク:モトジョイ
フレーム作りの起点はスイングアームピボット
「モリワキ時代はフレーム加工をしていましたが、オーヴァーでイチから自分でフレームを設計する段階で『あれ? どこから線を引けばいいの?』って。自分なりの基準を見つけるまで苦労しました」とモトジョイ佐藤健正会長。結果的にドライブスプロケットとの関係でスイングアームピボットを決めて、そこからエンジンを囲むようにパイプを配置して、ヘッドパイプの位置からフロントまわりを決める…という順番で設計するようになったそうだ。
重要なのはやはりエンジンで、前後長が短くなればスイングアームを長くできる。アウトプットシャフトの後ろにキックシャフトが付くZ1エンジンは、油冷エンジンよりドライブスプロケットとスイングアームピボットの距離が離れる。その上でホイールベースを一定範囲に収めたいとなると、スイングアームを短縮せざるを得なくなり、リアサスペンションが苦しくなる。現代のエンジンの前後長が短いのは、車体設計の自由度を上げる目的もあるのだ。
何十年も前に新車として発売された頃の状態を維持したノーマル仕様に価値を感じる人がいる一方、絶版車で夢を実現したいと考える人もいる。以前の記事で紹介したオーヴァーレーシングのOV-40は、モリワキモンスターに憧れるオーナーの依頼で佐藤会長が製作したマシンである。
’70年代にモリワキエンジニアリングでフレームを製作し、独立開業したオーヴァーレーシングプロジェクツでオリジナルフレーム作りを続けてきた佐藤氏にとって、カワサキZ1エンジンを搭載したレーサーは原点のようなもの。クロモリパイプによるダブルクレードルフレームとカンチレバー式モノショックを備えたOV-40は、’80年代前半のF1レーサーテイストに溢れた仕上がりとなった。
これでオリジナルレーサーの楽しさを覚えたオーナーが、2台目のレーサーとして製作を依頼したのがOV-41である。クロモリパイプによるフレームは同様だが、今回はスズキの油冷エンジンと前後17インチホイールの組み合わせで、OV-40よりサーキットパフォーマンスを追求したのが特長。TOT(テイストオブツクバ)をはじめ、海外のレースへの参戦も視野にあるというOV-41プロジェクト。油冷+オリジナルフレームのマシンの走りに期待したい。
車体各部のディメンションはCADで検討
クロモリパイプを曲げるのは手作業だが、フレーム図面は佐藤会長自らCADで描く。ドライブスプロケット/スイングアームピボット/ヘッドパイプの位置とキャスター角から前輪の接地面が決まり、そこからホイールベース分だけ後退した位置に後輪のアクスルシャフトを置く。するとおのずと確保できるスイングアーム長が決まる。確かにOV-40より長いスイングアームが付いていることが分かる。
懐かしさと新しさを感じさせるヘッドパイプ周辺の造形
フレーム設計や寸法関係はクロモリ鋼でもアルミでも同じだが、絶版車好きにとってはスチールパイプによる造形は魅力的。ヘッドパイプ周辺のパーツ構成やスイングアームピボットの剛性により、ガチガチの補強が入っているように見えなくても十分な剛性を確保している。
TOTを初戦として海外レース参戦も目論む
筑波サーキットでのシェイクダウンにて1 分00秒台を連発。TOT(テイストオブツクバ)で改造制限がもっとも少ないハーキュリーズクラス上位の58秒台に向けてセットアップを煮詰めていく。現状はTOT向けのフロント倒立+前後17インチ仕様だが、オーナーは海外のクラシックフォーミュラレース参戦も視野にあるそうだ。
エンジンサイズとしては油冷だけでなくXJRも搭載可能!!
スズキの油冷と並び長く製造されたのがヤマハXJR1200/1300。TOTではノーマルフレームを改造使用するモンスターエボリューションクラスに大挙エントリーしているのがXJRで、外寸が油冷とほぼ同じなため、OV-41のフレームに搭載できるという。佐藤会長は早くも2号機の製作も計画中で、そちらにはこのXJR用エンジンが搭載される可能性もあるそうだ。
Z1用エンジンを搭載したOV-40は’80年代前半のたたずまい
モリワキモンスターや’80年代のフォーミュラマシンに憧れたオーナーの意向に沿って、KR1000をモチーフに製作されたOV-40。フロント17/リヤ18インチのホイールやタイヤサイズを見ても、クラシカルなイメージを残そうという意図が読み取れる。
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