ヤマハは2戦連続で注目を集める

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.58「ホンダが苦戦している理由とは」

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第58回は、MotoGP第6戦、第7戦を振り返ります。


TEXT:Go TAKAHASHI

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レースをしていると、悲しい事態に直面することがある

MotoGP第6戦イタリアGPは、Moto3のQ2セッションで起きたクラッシュにより、ジェイソン・デュパスキエが亡くなりました。スイス人の彼は、まだ19歳。残念でなりません。心からご冥福をお祈りします。

不運が重なって起きたアクシデントでした。彼が転倒した場所は、右に曲がりながら上がっていくコーナーで、空しか見えないんです。そして、後続車が間近にいた。上りきった先に転倒者がいても、気付いた時にはもう避けようがなかったでしょう。コンマ5秒でもタイミングがずれていればただの転倒で済んだと思います。本当に不運としか言いようがありません……。

Moto2、MotoGPの決勝は、デュパスキエの死を知らされてから行われました。決勝を走るライダーの気持ちを考えれば、正直、そのタイミングはちょっとどうかな、と思いました。ただ、自分の経験上からも分かりますが、ライダーたちは走っている間は何もかも忘れているはずです。それぐらい集中していないと危ないですからね。「同じことは自分には絶対に起こらない」と思いながら、すべてを忘れて走る。レーシングライダーは、そういう生き物なんです。

レースをしていると、こういう悲しい事態に直面することがあります。僕も親友をふたりレースで亡くしています。それでも、レースが行われるなら走るしかないんです。自分にはそれしかできないから。そして少しでもいい結果を出して、逝ってしまった仲間に報告したい。今回のライダーたちも、みんなそう思いながらレースに臨んだことでしょう。

つらいレースを勝ったのは、ファビオ・クアルタラロでした。2周目までトップを走っていたフランセスコ・バニャイヤが転倒して以降はじりじりと後続を引き離し、一時は4秒近くのリードを築くと、そのまま独走優勝を果たしました。バニャイヤにはちょっと焦りが見られましたが、クアルタラロを先行させてしまうと得意の逃げ切りパターンに持ち込まれてしまいます。どうにか序盤に押さえ込もうとしたのでしょう。

MotoGP第6戦イタリアGP。勝利したファビオ・クアルタラロ選手はジェイソン・デュパスキエ選手を追悼しスイス国旗を手にする。

逆にクアルタラロとしては、ストレートスピードが伸びないヤマハのマシンで勝つには、何としても序盤から前に出るしかありません。他車とのバトルに巻き込まれると走りのリズムが崩れ、タイヤも痛めてしまいます。そうなると今のヤマハに勝機はないでしょう。どうにか前に出たいクアルタラロ。何としても押さえ込みたいバニャイヤ。お互いの勝ちパターンが分かっている者同士がスタート直後に見せた、高度な駆け引きでした。

イタリアGPでは、予選でマルク・マルケスがマーベリック・ビニャーレスをピッタリと追走し、物議を醸しました。最終的にはマルケスがビニャーレスに謝罪したようですが、僕としてはあれは完全にNG。前走車の直後に張り付いてスリップストリームを使いながらタイムを出す方法はありますが、決して美しくないし、危険でもあります。Moto3、Moto2ライダーのお手本になるべき最高峰クラスのライダーがやっていいことではないと僕は思います。

計6秒のペナルティで3位チェッカーから6位へ

第7戦カタルニアGPでは、クアルタラロがまた注目を集めましたね。決勝レース中にレーシングスーツのファスナーが下がり、胸元がはだけてしまいました。これで3秒のペナルティ。ショートカットと見なされた1、2コーナーの走りにも3秒のペナルティが課せられ、3番手でチェッカーを受けながらも結果は6位となりました。今回のクアルタラロはスタートで前に出られず、かなりの焦りが見られました。強引に前に出ようとしては刺し返されるシーンも見られ、得意の勝ちパターンに持ち込めないとバタバタしてしまう彼の悪癖が顔を出してしまいました。

フロントにミディアム、リヤにハードというタイヤチョイスも、スタートから逃げる気満々。でもカタルニアサーキットはタイヤに厳しいコース。最終的には前後ともにハードタイヤを選んだKTMのミゲール・オリベイラが優勝しました。オリベイラは前戦でも調子がよく2位と、KTMはいつ勝ってもおかしくないパフォーマンスを見せていました。バトルを見ているとエンジンがとにかく速い! ドゥカティとも肩を並べるパワーを出しているのでしょう。どうしてもストレートが伸びないヤマハのライダーたちは、この後も苦戦を強いられそうです。

苦戦と言えば、ホンダです。マルケスは復帰後の全戦で転倒リタイヤを喫してしまいました。今回の転倒も、今までなら腕と肘と足でどうにか耐えていたはずです。もっとも、持ちこたえられないのが当たり前ですから、「マルケスも普通のライダーになってしまった」という印象です。ただ、マルケス以外のライダーも苦しい戦いを続けており、このまま行ったら今季は誰も表彰台に立てず、来季はコンセッション(優遇措置)が適用されかねません。

ホンダは、今シーズンを通して表彰台に立てないかもしれないほどの苦戦を続けている。

映像で見ている限りでは、ホンダRC213Vは車体が低くて長いせいか、ピッチングモーション(マシンの前後の動き)が少ないように感じます。ヤマハ、ドゥカティ、スズキなどはブレーキをかけるとフロントが沈み、アクセルを開けるとフロントが伸びる、という動きが割と明確です。ブレーキング時や加速時などの場面で、ライダーは接地感を得やすいでしょう。でもホンダは、ブレーキングではフロントが沈むことなく、いきなりリヤが浮いてしまっています。これでは接地感が得られず、ライダーも挙動が分かりにくいでしょう。

速度域の高いロードレースでは、ピッチングモーションを嫌う面があります。「サスペンションを固めて動かなくした方が速く走れる」という考え方ですね。でも僕はむしろ逆。ある程度ピッチングモーションが起きるマシンセッティングを好んでいました。その方が挙動が分かりやすいし、タイヤグリップが低くなるレース後半にも走りやすいものなんです。好みが分かれるところですが、僕は安心しながら走りたいタイプ。前後タイヤにどう荷重がかかっているかちゃんと把握できるマシンが好きでした。RC213Vとは逆ですね。

もっとも、これは映像で見ての話。実際に乗ってみたらどんな印象かは分かりません。乗らないまでも、本当はひとつのコーナーでじっくりと眺められればもう少し詳しく挙動が理解できるんですよね。テレビカメラはマシンを追ってしまうので、実は挙動がよく分かりません。早く今まで通りにサーキット観戦できるようになるといいんですが……。

さて、3月末から日本に滞在していましたが、モナコに帰ります。今回はかなりバイクに乗りましたね〜。コロナでいくつも仕事がキャンセルになってしまったので、空いた時間はほとんどバイク(笑)。多い時は週に5日バイクに乗ってました。トライアル、モトクロス、林道、サーキット、そしてツーリングをしながら、「バイクってまだまだいろんな楽しみ方があるんだなぁ〜」と発見の連続でした。

ひとつ分かったのは、バイクに乗っていると太らない!(笑)体幹を使うからなのか、お酒を飲まなくなるからなのか分かりませんが(笑)、ダイエットには間違いなく効果があります。皆さんもぜひ安全にバイクを楽しんで、ヘルシーバイクライフを送ってくださいね。モナコはだいぶコロナも落ち着いてきていますが、僕も気を付けて過ごそうと思っています。

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