●文:ヤングマシン編集部(田宮徹) ●写真:真弓悟史 ●取材協力:トライアンフモーターサイクルズジャパン
フルモデルチェンジにより’21年に新登場した、英国トライアンフの「スピードトリプル1200RS」が日本上陸。その驚異的なパフォーマンスに、百戦錬磨の丸山浩も思わず「こりゃ、スゴすぎ」と本音を漏らす。最強の3気筒が、腕に覚えのあるライダーを待っている!
二次曲線的に立ち上がるとてつもないパワー!
これはもう、完全に暴れん坊将軍。私はこれまで、ミドルクラスのトライアンフ・ストリートトリプルシリーズに対して、「非常にバランスがよく、3気筒を楽しむには最高」と高評価を与えてきたが、ニューフラッグシップとなるスピードトリプル1200RSは、カタチこそ似るがそれとは方向性が完全に別物。バランス重視ではなく、すべての点で最上級パフォーマンスを目指した結果として作り上げられた、とんでもないマシンなのだ!
排気量が従来型スピードトリプルRSの1050ccから1160ccに拡大されたエンジンは、最高出力が150→180馬力に大幅アップ。3気筒でここまでパワフルというだけでスゴいし、ブレンボ製のブレーキシステムは恐ろしいほどよく止まる。前後サスもハイグレードなオーリンズ製で、これらの性能や装備だけを考えたらほぼスーパースポーツの雰囲気である。ところが、ハンドルはアップタイプ……ということで、「どうやってこのマシンを手懐けるか?」と解決しながら乗る楽しみが生まれるわけだ。
スポーティーに走らせるときに、アップハンドルのライディングポジションなりに上半身を起こして乗っていると、荷重がかからず不安感もあるのだが、旋回時にしっかりフロント荷重をかけて、加速時はトラクションを与えて……とスーパースポーツのように操ってあげると、グッと高い旋回力が発揮される。そのとき、適正なフォームづくりが難しいところはアップハンドルならではだが、これをある程度でも解決すると、ねじ伏せて操るような楽しさがどんどん湧き上がる。
エンジンは、ツインのような低回転のバラバラとした乗り味から、回転を上げると徐々に同調され、二次曲線的にパワーが立ち上がったと思ったら、最後は並列4気筒のような伸び。これそのものは並列3気筒エンジンの特徴で、これまで「現代において2ストの乗り味を知るなら、並列3気筒がもっとも近い」と何度も言ってきたわけだが、ここまでパワーがあると、まるで昔の2スト500ccレーサーみたい。パワーが立ち上がる領域では、もう手が付けられないという感じ!
二次曲線がスタートするのは5000回転あたりからで、8000回転からはとめどもない加速力。ちなみに、メーターはレッドゾーンが9500回転からとなっているが、180馬力という最高出力は1万750回転で発揮される(最大トルクは9000回転で発生)。レブリミットは1万1150回転に設定され、タコメーターは1万200回転まで刻まれている。
市街地走行などでは、3000~4000回転でも十分に力を感じられ、その領域だけ使っていても普通に走れる。5000回転から先で車体姿勢がドタバタし始めるので、その片鱗を垣間見たところでシフトアップ……というのが、公道では一番気持ちいい。サウンドやバイブレーションも魅力的。排気量が1200ccに迫る3気筒なので特定回転域では振動が多めに発生するのだが、その質が回転とともに移り変わり、むずがゆくなるようなものでもないため、振動すらも乗り味のひとつとして楽しめてしまう。クイックシフターはソフトなタッチだが、アップ側にややタイムラグがあり、市街地で乗っているとそこに穏やかなフィーリングすら感じてしまう。
シフトアップのたびに離陸!恐ろしい勢いでよく止まる!!
でも、そんなイメージのままワインディングに突入したらさあ大変。ライディングモードをレインあるいはロードにすれば、当然ながらスポーツよりスロットルの開け始めは穏やかになるが、結局のところ大きく開ければとんでもないマシンであることに変わりなし。ドライ路面でも、峠道ならレインモードでいいんじゃないか……と思えるマシンも珍しい。
ちなみに、スポーツモードでフル加速させると、低いギヤではシフトアップのたびに、まるで離陸するかのように前輪が浮くほどスゴい。IMU(6軸慣性計測装置)を活用する電子制御にだいぶ助けられているが、もしもトラクションコントロールをカットしたら、一体どれほどの速さでさお立ちになることか……。アップハンドルなのでフロントリフトに対する押さえ込みも難しい。ムリに押さえようとすると、前輪が浮いたときにハンドルを切ってしまいやすく、これが着地時に挙動を乱す要因につながりやすい。こりゃ、おもしろいけどなかなか手強い!
実際にかなりパワーがあるし、しかもそれをスーパースポーツではなくネイキッドスタイルの車体に組み合わせていることで、実際以上のパワー感もある。これをアンバランスと表現できるのかもしれないが、それすらも長所や個性にしてしまっているのが、新型スピードトリプル1200RSなのだ。バランスや扱いやすさを求めるなら、ミドルクラスのストリートトリプルがあるわけで、最高峰であることを考えたら、これはこれでいい!
ちなみに、加速に刺激的なだけでなく、ブレーキもめっちゃ効く。レバーレシオまで変更できるが、調整してもだいぶ唐突かつ強力にストッピングパワーが立ち上がる。サーキットクオリティと言っても差し支えない。
装着されているパーツのグレードも高いし、電子制御もかなりハイレベルだが、それだけでなくナンバープレートステーなどの細かい部分までデザインや素材選択にこだわっている。レースに使うことを前提としたスーパースポーツ系とはまた違った美しさがあり、これも魅力として挙げられる。
このマシンがターゲットとするライダーは、比較的狭い範囲かも。本領を発揮させるにはある程度のテクニックが必要だが、そういうことを理解した上で、スーパースポーツとは違うバイクを求める人には、この激しさにものスゴく“ハマる”と思う。まあ、かつてスーパースポーツをわざわざアップハンドルにして乗っていた私自身も、意外とこういうのが好きなのだけど。
スピードトリプルシリーズの初代誕生は’94年。いわゆる“ストリートファイター”というジャンルを確立したパイオニア的存在だ。’18年には、シリーズで初めて「RS」の称号を冠した7代目がデビュー。’16年にリニューアルされたスピードトリプルRをベースに設計され、オーリンズ製のNIX30倒立フロントフォークやTTX36モノショック、ブレンボ製のブレーキシステムなどを受け継ぎながら、各部のアップデートで戦闘力が向上された。
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