●まとめ:ゴーライド編集部(小川浩康) ●写真:長谷川徹
海外では人気モデルとなっているヤマハの「テネレ700」。国内販売もスタートし、ここ日本で見かけることも増えてきた。では実際その実力はどうだろうか? と疑問と期待を胸に抱いたオフロードマシン総合誌『ゴー・ライド』編集長オガPが新型をテストしてきたゾ!
テネレの原点=高いオフロード走破性を発揮するべく開発された新型テネレ700
単気筒エンジンのXT500でパリ・ダカールラリーを制したヤマハは、その後、排気量を660まで拡大したXT600テネレ(車名は600)を投入。しかし’80年代に入ると、BMWやホンダの大排気量ツインエンジンが連覇し、パリダカはハイスピード化が進んでいた。そこでヤマハは、’90年から並列2気筒エンジンを搭載したYZE750Tスーパーテネレを投入し、2位を獲得した。
このパリダカワークスマシンのベースモデルとして、’89年に市販されたのがXTZ750スーパーテネレだ。’91年からワークスが撤退する’98年まで、ステファン・ペテランセル選手が6度の優勝を獲得したこともあり、パリダカレプリカのイメージを持つスーパーテネレは人気モデルとなっていた。
その後”テネレ”の車名は、’91XTZ660テネレ/’08XT660Zテネレなどの単気筒モデルや、’10年に並列2気筒1200ccを搭載したXT1200Zスーパーテネレなど、オフロードも走行できるアドベンチャーマシンが受け継いできた。
そうしたアドベンチャーマシンが持つ快適な高速巡行性能を損なうことなく、”テネレ”の原点とも言える高いオフロード走破性を発揮するべく開発されたのが、新型の「テネレ700」だ。エンジンは軽快な走りに定評があるクロスプレーンコンセプトのMT-07がベースだが、「このエンジン特性は絶対にオフロードマシンに合う」とエンジン開発者が断言したもの。
それを裏付けるように、テネレ700はトラクションコントロールやエンジンマップ変更といった電子制御デバイスは搭載していない。ABS/LEDヘッドライト/フューエルインジェクションといった法規や環境性能に関わる部分は最新版を装備しているが、加飾を廃したシンプルさへのこだわりが強く感じられる。
新型テネレ700のスペックと走りを検証
新型テネレ700は、最低地上高240mmを確保し、かつ窮屈さのないシッティングポジションを実現していることもあり、シート高は875mmに達する。車体幅はスリムだが、エンジン搭載位置が比較的高く、燃料タンク容量も16Lあるためか重心位置が高く感じられる。
身長172cmの筆者(ゴー・ライド編集長オガP)は、写真でもわかるように片足のつま先が届く程度で、右折時や林道でのUターンでの足着き性に不安があったのも正直なところだ。市街地の渋滞路といった極低速走行では、すぐに足を着けるよう、バランス修正とボディアクションをつねに意識しておく必要がある。
だが、アイドリングから少しでもアクセルを開けて走れるシチュエーションでは、マシン挙動は驚くほどビシッと安定しつつ、乗り味には軽快さが増してくる。高速道路ではタイヤのグリップ感を常に感じることができ、前後サスペンションもフラットな乗り心地を提供してくれるのだ。抜群の直進安定性を感じながら、快適な高速巡行が楽しめる。
この少しアクセルを開けていった時の安定性は、もちろんダートでも発揮される。林道によくある水たまりやギャップから受ける衝撃も前後サスペンションがしっかりと吸収し、車体が余分に振られる”おつり”が来ない。アドベンチャーマシンでは躊躇するようなダートでも、テネレなら軽快にマシンコントロールできるのだ。
それにはエンジンのレスポンスの良さも貢献している。アクセル開度に対してリニアにトルクが立ち上がるため、ジワ―ッとアクセルを開けていけば、リヤタイヤを無駄に空転させることなく加速させられるのだ。
とはいえ、アクセルをガバっと開けてしまえば700ccの大パワーが出るので、もちろんテールスライドもできる。トラクションコントロールがないため、リカバリーするにはライダーのマシンコントロールが必要なのだが、この時にテネレの軽い乗り味がライダーを助けてくれるのだ。
無駄なアクセル操作をしなければ、ダートでのテネレは軽快そのもの。前後サスはよく動き、シッティングで遠くに感じたハンドルは、スタンディングするとベストポジションが決まる。高いと感じた重心位置は、スタンディングでのボディアクションにシャープに反応するためで、アクセルを少し開けただけでトルクが立ち上がるエンジン特性は、開発者が言ったようにまさにオフロード向きだったのだ。
新型テネレ700=高い高速巡行性能とオフロード走破性を持つ、現代の”ビックオフ”
“テネレ”の歴史を振り返りつつ、舗装路や高速走行、ダート走行までその性能をしっかり味わうことができた新型テネレ700のテストライド。
少し厳しい足着き性にレスポンスのいいエンジンとよく動く前後サスで、軽快なオフロード走破性を発揮するのがこの新型の特徴だと気づいた時、ふと同じような特徴を持つオフロードマシン・WR250Rのことを筆者は思い出していた。
新型テネレ700は重厚なアドベンチャーマシンではなく、高速巡行が快適で軽快なダート走行を楽しめる、かつて”ビッグオフ”と呼ばれていた”俊足オフロードマシン”そのものであったのだ。
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