咳が本当にひどくて……

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.50「新型コロナウイルスに感染しました」


TEXT:Go TAKAHASHI

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第50回は、モナコで自宅療養した話から、MotoGP開幕への展望を語ります。

ミシュラン パワーGP2

10日経てば感染力はないとみなされますが……

新型コロナウイルス感染症にかかってしまいました……。皆さんの参考にもなるかと思い、経緯をお知らせします。

1月25日に咳が出て、インフルエンザのような筋肉痛がありました。夜になって熱も出ましたが、この時点では「普通の風邪かな」と思っていました。僕はかなり用心して、ほとんど家の外に出ることもなかったんです。

翌26日、念のため家族全員でPCR検査を受けたところ、僕だけ陽性……。そこから3、4日は高い時で39度ぐらいの熱が出て、自宅内で完全に隔離。頭痛と咳に苦しみました。

2月1日に再びPCR検査を受け、奥さんと娘ふたりも陽性反応。幸い彼女たちは症状はありませんでした。僕は咳が本当にひどくてつらかった……。一昨年の今頃も咳に苦しんだので、たぶん肺が炎症を起こしやすかったんだと思います。

解熱剤を飲めばいったんは37度ぐらいまで熱は下がりますが、あまり解熱剤ばかり飲むのもよくないそうです。モナコにはCOVIDセンターがあり、毎日電話がかかってきて、「何かあったらすぐに救急車を呼ぶように」と言われていました。

特にCOVIDセンターが注意していたのは血中酸素飽和度です。家でパルスオキシメーターを使って測るんですが、「93%以下になったら即入院」と言われていました。僕は最低で88%まで下がってしまい、COVIDセンターには「今すぐ救急車を呼ぶから病院に行きなさい」と言われましたが、数値がすぐに上昇したので、自宅療養を続けました。

モナコでは、発症してから10日経てば伝染力はないとみなされて、PCR検査を受けなくても外出することができます。僕はもう10日以上経っているので自由に出歩けるのですが、まだ少し咳は出ているので、外出は控えています。

今回のことで、モナコの医療体制が整っていることを実感しましたが、ここ数日は爆発的に感染症にかかる人が増えています。先にも書いたように僕自身ほとんど外に出ていなかったので、感染ルートはまったく分かりません。僕が発症するまで子供たちは学校に行っていましたが、最初の検査では陰性だったので、家庭内では僕が最初にかかったことになるんです。ネット通販で届いた荷物にウイルスが付着していた、とか、考えられるのはその程度。本当に怖いと思いました。

そして、症状はかなり激しかった。ここは皆さんにも強く訴えておきたいのですが、新型コロナウイルス感染症には絶対にかからない方がいい。僕はかなり用心していた方ですが、それでもかかってしまいました。皆さんもくれぐれも油断せず、気を付けてお過ごしくださいね。

昨日あたりからかなり楽になってきたので、日本の方たちとも連絡ができるようになりました。皆さん驚きながらも心配してくれていて、ありがたかったですね……。ロリス(カピロッシ)も心配して、毎晩のように僕の奥さんに電話をくれて、病状を確認してくれていたそうです。これで抗体ができたのだと思いますが、ヨーロッパは依然、緊迫した状況です。好きなバイクにも乗れず、外出もできませんが、今まで以上の注意を続けようと思っています。

スズキのチームマネージャー離脱が気になっています

そんな状況ですが、MotoGPは今年も開催の方向で準備が進んでいますね。先日もロリスがカタールに飛び、テストに向けて試走したそうです。オーバーシー(ヨーロッパ以外)の開催はどうなるか分かりませんが、ヨーロッパ内では去年実際に開催しましたから、その例を参照しながら準備しているようです。

マルク・マルケスの動向も気になりますし、チームを移籍するライダーも多いので、注目したいですね。ポル・エスパルガロのレプソルホンダでの走りも気になりますし、ドゥカティ勢もMoto2から新人たちが加わるなどライダーのラインナップが大きく変わります。

マシンはエンジンの開発が凍結されるので、スズキのまとまりの良さが今年も強みになりそうですが、個人的に気になっているのは、スズキのチームマネージャーを務めていたダビデ・ブリビオさんが離脱したことです。レースは何かひとつのちょっとした変化でガタガタッと調子を崩してしまうことがあります。

去年で言えば、序盤はものすごい勢いで「このままチャンピオンを獲るんじゃないか」と思えたファビオ・クアルタラロが中盤以降ガクンと調子を落としましたが、ああいうことは誰にも起こり得ます。観ている側としてはダイナミックな好不調の波を楽しむこともできますが、やっている側としては大変ですよね……。スズキがうまくチームをまとめられるか、注目していきたいと思います。

2020年シーズンのチームスズキエクスター。中央がダビデ・ブリビオさんだ。

頑張ってほしいと願っているのは、バレンティーノ・ロッシ。彼は今年ヤマハのサテライトチームに移籍しますが、いよいよ正念場です。ファクトリーからサテライトに移籍した今年、結果が残せなければ、もう後はありません。マシンは実質的にファクトリーと同じと言われていますが、体制にまったく差がないわけではないでしょう。その中で結果を求められますから、返り咲きはなかなか難しい状況です。

彼は2014年から「VR46ライダーズアカデミー」を主宰していて、若手の育成に積極的です。フランコ・モルビデリ、フランセスコ・バニャイヤなど、自分を超えるライダーをGPに送り出しています。これは彼自身にとってもいい刺激になっているはず。若手を育てつつ、自分も彼らに負けないように頑張れるわけですからね。

アプリリア時代、僕のチームメイトになったロッシは、18歳でした。その彼がもうすぐ42歳になろうとしているのに、「勝てるトップライダー」として活躍を続けるのは、本当に驚異的で尊敬できます。ストイックにレースに取り組み続けていることもそうですが、あれだけレースを好きでい続けるられるのが本当にすごい。

とは言ってもプロレーシングの世界は、結果がすべて。世界中に多くのファンがいて、MotoGP人気の立役者であるロッシと言えども、今年それなりの成果を残せなければ、いよいよ周りのサポート体制も変わってくるでしょうし、何よりも本人が納得できないはず。最後のシーズンになるのか、ならないのか……。ぜひとも「おじさんの悪あがき」を見せてほしいですね。

自分が新型コロナウイルス感染症にかかってしまって改めて思っているのは、ぜひともMotoGPを開催してもらいたい、ということです。幸いおおごとにならずに済んだから言えるのかもしれませんが、新型コロナウイルス感染症は重症化しなければインフルエンザに近い印象です。感染力は強いので最大限の防護体制は必要ですが、安全対策に万全を尽くせばレースができないほどのことではないと感じています。いちモータースポーツファンとしては、どうにかMotoGPを開催して、また素晴らしいバトルを楽しませてほしいと心から願っています。


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