スズキGSX-RRのバランスが際立っている

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.42「モナコにいるとMotoGP開催が奇跡のようだと実感」

  • 2020/10/1
世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.42

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第42回は、後半戦に差し掛かったモトGPの行方を占います。

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41歳のロッシを心から応援しています!

モナコに帰って2週間ほど経ちましたが、その間にもMotoGPはどんどんレースを消化していきます。9月27日に決勝が行われた第9戦カタルニアGPは、バレンティーノ・ロッシが今季2度目の表彰台に立ちそうで、もしかしたら優勝してしまうんじゃないかと期待させるレースでしたが、残念ながら転倒、リタイヤ……。改めてレースはチェッカーフラッグを受けるまで分からないな、と思わされました。

路面状況も良くなかったのか、転倒が目立つレースではありましたが、まさかロッシが転ぶとは……。年齢もあるのでしょうか。ロッシは、かつて同じチームで同じカテゴリーを戦うライバルでした。当時は正直憎たらしかったけど(笑)、41歳の今となっても現役で頑張っている姿を見せつけられると、純粋に「ガンバレ!」と応援したくなります。ペトロナスヤマハとの来季の契約も正式に発表され……たどころか、再来年に向けても意気込んでいるようで、本当にスゴイ男だと思います。

ロッシはめちゃくちゃバイクが好きで、しかもレースオタク(笑)。GPライダーはもちろんのこと、スーパーバイク世界選手権の下位を走るライダーの名前までしっかり覚えているほどです。バイク好きはハンパなくて、とにかく乗る、乗る、乗る! 今シーズンは2週連続のレースがたびたび行われていますが、その合間にチームメイトのマーベリック・ビニャーレスとオフロードバイクでトレーニングするほどですからね。僕ならレースが終わってひと息入れてから次のレースに臨みたくなります。万一のケガも避けたいですしね。でもロッシはお構いなし(笑)。ひたすらバイクに乗るんです。練習というより、楽しんでるという面もかなり強いんじゃないかな。

第9戦カタルニアGPでは、2位を単独走行中に第2コーナーでスリップダウンしたバレンティーノ・ロッシ選手。久々の勝利を期待させる走りだった。 [写真タップで拡大]

そしてもちろん、ストイックでもあります。今のMotoGPマシンは速くて重いので、それを操るライダーは大変です。昔以上に筋肉ムキムキのライダーが増えているのは、それだけ体に負担がかかるようになったから。そんな中、41歳のロッシが、自分より20歳も若いライダーたちに混じって表彰台を争えるなんて、考えられません。はっきり言って、ロッシぐらいの実績があればもうレースしなくたって何も困らない。それなのにストイックに自分を高め続けられるのは本当にスゴイ。特に、やはり以前にように簡単には勝てなくなっているのに、モチベーションを維持し続けているなんて……。

僕は、勝てない体制しか組めない自分に気付いた時、モチベーションが続かなくなって引退してしまいました。だってプロである以上、人生のすべてをレースに捧げるような生活をしなくちゃいけないんですよ? 年を取ればあちこち痛くなるし、移動もキツくなる。そのうえになかなか勝てないとくれば、気持ちが保てません。僕が引退したのは32歳で、ロッシは41歳でまだレースを続けている。頭が上がりません……。

バイクが好きで、レースが好きで、まわりの人を味方につける魅力があって、ファンサービスも精一杯やって、ピットで夜遅くまでスタッフと過ごして、ちょっとした合間にもバイクに乗ってトレーニングするロッシ。ライダーとしての才能はもちろんズバ抜けていましたが、「9回の世界タイトルは、獲るべくして獲ってるんだなあ」と思います。今年はどこかのレースで勝ってくれないかなぁ。

スズキはまとまりがよく、後半に追い上げるセットアップもできている

予想できなかったのは、アレックス・リンスの活躍です。これだけタイム差が接近しているMotoGPで、まさか13番手グリッドから3位表彰台まで上り詰めてしまうとは……。しかもMotoGP2年目のジョアン・ミルももう今季4回目の表彰台で、回数でいえば最多ですからね。スズキはふたりとも後半になってどんどんポジションを上げるというレース展開ができているので、GSX-RRのトータルバランスが高く、セッティングも決まってきているのでしょう。

ミルのレースウィークの過ごし方に注目すると、彼は本当に予選の1発タイムにこだわらず、決勝を見据えてセッションを進めていることが分かります。なぜ分かるかって、自分の現役時代と似ているから(笑)。コンスタントにいいタイムで走ることができて、後半に追い上げられるマシンセットアップは、レースで勝つために何よりも必要なものです。GSX-RRはブレーキングが安定しているし、立ち上がりでスライドしそうになってもクッと止まってキレイに立ち上がるところを見ると、電子制御もまとまっています。

特に路面温度が低いとき、デグラデーション(走ることによる性能低下)が出やすいようですから、決勝の路面温度を見越しながらコンスタントに走れるタイヤをみつけ、マシンセットアップを施すことが重要です。優勝したファビオ・クアルタラロは言うまでもなく素晴らしい速さですが、「もう1周あったら危なかった」とミルの追い上げを警戒していました。ミルの落ち着きと安定感、そしてマシンの仕上がりの良さは、まだあと6戦あるシーズンを戦い抜くうえで強力な武器になりそうです。

未勝利ながら僅差のランキング2位につけるスズキのジョアン・ミル選手。後半になってもペースが落ちない走りで、優勝も間近か。 [写真タップで拡大]

ランキング首位のクアルタラロと2番手ミルのポイント差はわずか8点。マルク・マルケスを欠いている今季、ロッシ以外は誰がチャンピオンになっても「最高峰クラス自身初」なので、楽しみですね! 不運な「もらいクラッシュ」でリタイヤを喫し、ポイントリーダーの座をクアルタラロに譲ってしまったアンドレア・ドヴィツィオーゾも、予選こそ苦しんでいますが、決してひどく悪いわけではないように見えます。いぶし銀のタイヤマネージメントで、シーズン終盤の返り咲きに期待しています。

ヨーロッパ全体を見渡すと、コロナ禍はかなり厳しい状況が続いています。モナコの隣国であるフランスでは1日に1万5000〜1万6000人もの新規感染者が出ていて、政府も警戒していろいろな規制を強めています。同じく隣国のイタリアへの移動も制限されました。モナコ自体の新規感染者数は1日数人程度と少ないですが、もともと人口自体が約3万8000人程度なので決して油断はできません。街は平静を保っていますが、僕はいつも通りマスクをして、消毒液を持ち歩き、握手を避けるなどして感染防止を心がけています。

そんな中でもMotoGPを観られるのは奇跡のようなもの。GPパドックでもじわりと新型コロナウイルス陽性者が出ていますが、幸い大事には至っていません。GP関係者の皆さんもくれぐれも気を付けて、無事にシーズンを終えてほしいと思っています。モナコは一気に気温が下がりました。つい数日前までエアコンを使っていたのに、今は暖房がほしいくらいです。僕自身も体調管理に十分気を付けて過ごします。

スズキは2位と3位で表彰台に。マシンのまとまりと安定した成績はピカイチだ。 [写真タップで拡大]

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TEXT:Go TAKAHASHI
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原田哲也

原田哲也

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1993年ロードレース世界選手権(WGP)250の世界チャンピオン。1992年に全日本で同クラスのチャンピオンを獲得し、翌年に初挑戦のWGP250で戴冠した。現役当時のニックネームは「クールデビル」。'02年に現役を引退し、現在はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。