●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明 YM ARCHIVES ●取材協力:ユニコーンジャパン
今も絶大な人気を誇る‘80年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末永く楽しむには、何に注意し、どんな整備を行えばよいのだろう? その1台を知り尽くす専門家に尋ねる。今回取り上げるのは、永遠に色褪せぬ2輪デザインの金字塔・スズキGSX1100Sカタナ。まずはこの神名車の歴史と特徴から。
生産期間が約20年に及んだ異例のロングセラー車
’80年のケルンショーで公開され、’81年から販売が始まった「GSX1100Sカタナ」は、スズキの、いや日本車の歴史を語るうえで欠かせない名車である。111psの最高出力は当時のクラストップだったし、海外のテストでは当時の世界最速となる237km/hをマークした。
その生い立ちを振り返ると、このモデルはGSX1100Eの派生機種だったのだが、ドイツのターゲットデザインが手がけた、抜き身の日本刀を思わせる斬新なスタイルと、’80年代初頭としては画期的なセパレートハンドル/バックステップで実現した抜群の高速直進安定性が評価され、世界中で爆発的な人気を獲得。その人気は以降も大きく衰えることなく、結果的に1100カタナは’00年まで販売が続く超ロングセラーになった。
なお’80年代初頭のスズキは、1100カタナのスケールダウンモデルとして、当時のレース規定に対応する1000cc仕様と、日本を筆頭とする各国の規制を視野に入れた750cc仕様を販売。ただし’80年代の日本では”逆輸入”という手法が徐々に普及していたため、当初から1100カタナの購入は可能だった。ちなみに’80年代初頭の日本における1100カタナの価格は、750カタナのほぼ3倍となる170~180万円だったものの、逆輸入業者が増えた’80年代後半には100万円前後にまで下がっていた。
そして’94年になると、89万9000円で日本仕様の販売が始まったため、以降の1100カタナの中古車価格は2ケタ万円台が普通になったのだが…。 ’00年の生産終了から数年が経つと価格が徐々に上昇。近年では200万円以上が珍しくなくなっている。
【SUZUKI GSX1100S KATANA:車体構成はオーソドックス】車体構成/寸法はオーソドックスだったものの、セパレートハンドル&バックステップの採用で十分な前輪荷重を獲得した1100カタナは、同時代のライバル勢を凌駕する高速安定性を備えていた。主要諸元(’82年式SZ) ■全長2260 全幅715 全高1205 軸距1520 シート高775(各mm) 乾燥車重232kg キャスター/トレール28度10分/118mm ■空冷4スト並列4気筒DOHC4バルブ 1075㏄ 内径×行程72×66mm 圧縮比9.5 111ps/8500rpm 9.8kg-m/6500rpm 変速機形式5段リターン 燃料タンク容量22L ■ブレーキF=Wディスク R=ディスク ■タイヤF=3.50-V19 R=4.50-V17 ●海外仕様車 ※写真は’90SM
【エンジンは耐久性重視の堅実な設計】スズキ独自のTSCCヘッドを採用する空冷並列4気筒は、既存のGSX1100Eがベース。ただしカムや吸排気系などの刷新で、最高出力は105→111psに向上していた。
キャブレターは負圧式のミクニBS34が標準だが、初期生産車には強制開閉式のVM32を装備する車両も存在。
【足まわりは3世代に分類】第1期の特徴だったフォークのアンチノーズダイブ機構は、昨今のメンテナンスでは第2/3期に倣って撤去するのが一般的。リヤショックは徐々にグレードアップしているものの、近年は社外品に交換するユーザーが多い。第3期はシリーズ初の装備として、対向式4ピストンキャリパーやφ310mmディスク、チューブレスタイヤなどを導入。
【セパレートハンドルの固定はトップブリッジ下】トップブリッジ下にクランプされたセパレートハンドルは、当時の日本車では異例のレーシーな装備。専用設計のメーターは、’80年頃のバイクでは珍しいコンビネーションタイプ。
独創的なデザインのサイドカバーは、カタナを象徴するパーツのひとつ。左側にはチョークダイヤルとオプション用電源スイッチ×2が備わる。
【造形はターゲットデザインが担当】既存のバイクとは一線を画するカタナのスタイリングを手がけたのは、ドイツのターゲットデザイン。スズキとの交渉を担当したのは、’70年代にBMWで手腕を振るったハンス・ムート。
カタナ進化の歴史:緻密な熟成は行われたものの、基本構成は不変
’81年から’82型として発売された1100カタナ(SXZはスポークホイール仕様)は、翌年には早くも仕様を変更。年度記号がSZ→SDになった’83年型の特徴は6本スポークホイールや黒塗装エンジン/前後ショックなどで、’84年型SEも同仕様を継続。ただし’87年以降のSAEでは、ホイールがSZと同デザインの星型5本スポークに戻された(赤フレームのSBEは6本スポークを継続)。
’80年代末には生産終了が噂された1100カタナだが、’90年にはスズキの創業70周年を記念する、アニバーサリーモデルのSMが1000台限定で登場。パッと見の印象は既存のSAEと同様だったものの、SMは足まわりパーツの一部を刷新。以後のSLやSSLもSMの構成を継承していた。
‘94年から発売が始まったSRは、180km/hメーターと速度リミッターに加えて、デジタル点火やパワーアシストクラッチを採用した日本専用車。’00年に登場したファイナルエディション・SYも日本専用車で、販売台数は限定1100台。このモデルの最大の特徴は、シリーズ初となる足まわりの全面刷新を敢行したことだが、外装のシルバーもスペシャルカラーで、トップブリッジにはシリアルナンバー入りプレートを設置。なお輸出仕様の最高出力が111psなのに対し、日本仕様のSRとSYは95ps。
2020中古車相場:一番人気はファイナルエディション〈90~400万円〉
カワサキZ1系やホンダCB750フォアK0ほどではないものの、近年の1100カタナの中古車価格は着実に上昇している。ネットオークションには2ケタ万円台が存在するが、中古車販売店では120~250万円前後が主力。300万円以上のプライスタグを掲げる車両は、ほとんどが走行距離が少ないファイナルエディションだ。
交換用パーツについては、現役時代のライバルだったカワサキZやホンダCB-Fなどと比較すると、生産期間が長かった上にスズキが純正部品の供給に前向きな姿勢を示していたため、これまでは維持するのが容易と言われていた。しかしながら、生産終了から20年が経過した現在、状況は大きく変わりつつある。具体的には、純正部品の価格がかなりの勢いで高騰しているだけではなく、欠品が増えているのだ。
もっとも現時点なら、中古パーツやリプロ品を視野に入れれば、ほとんどの消耗部品を入手することが可能だが、ともあれ今後は本来の調子を取り戻すための整備費用が着実に上昇していくに違いない。
そのあたりを考えると、いつかは1100カタナ…という夢を抱いているライダーは、なるべく早めに決断したほうがいいのかもしれない。
プロに学ぶ’80s神名車メンテナンス・GSX1100Sカタナ編、続いてはこのマシンのウィークポイント=メンテナンスの勘どころについて解説する。
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