三重県の三ない運動撤廃は先送り。埼玉県とは立ち位置が違う
去る’20年3月5日、三重県教育委員会主催による「第7回高校生の交通安全教育検討委員会」が開催された。埼玉県に続き、県教委による検討委員会の開催ということで、いよいよ三重県でも三ない運動がなくなるのかと注目されていたのだが、結果的には「先送り」となった。
以降は、県教委が「協議のまとめ」を踏まえて高等学校交通安全指導要項の改定を行う予定となっている。三ない運動の堅持、公共交通が不便な生徒には原付通学を認めるという点は変えずに、原付通学をする生徒がいる高校に講師を派遣するという従来のやり方から、三重県指定自動車教習所協会が中心となって作成したプログラムを使い、原付通学を行う高校生向けの講習会を各地の指定教習所で開催する。そして、モニタリングを続けてPDCAの精度を高めていくという体制に移行するという。
検討委員会の方向性は分かれてしまったが、三重県と埼玉県には類似点もあった。たとえば、高校入学時に”バイクは危ないから乗るな”という主旨のリーフレットを新入生に配っていたこと。公共交通が不便な地域では原付による通学が許可されていたこと。検討委員会が設立されたきっかけが県議会議員による教育長への質問ということ。また、PTAを始め多くの委員が三ない運動の撤廃に反対していたことも同じだ。
一方で相違点としては、埼玉県が「高校生の自動二輪車等の交通安全に関する検討委員会」という名称で、免許の取得やバイクの利用に焦点を当てていたことに対し、三重県では自転車の交通安全についても多くの時間が割かれていた。現状の高校生の交通事故死傷者数の割合を見れば、自転車対策が喫緊の課題ではあるのだが、両県の検討委員会はそもそもの立ち位置が大きく異なっていた。

(左)検討委員会の委員長を務めた大阪国際大学人間科学部人間健康科学科教授の山口直範氏。8耐参戦経験もある。(中)三重県指定自動車教習所協会の櫛田浩哉委員。安全運転講習のプログラム案について説明した。(右)埼玉県の検討委員会でも委員を務めた日本自動車工業会の飯田剛委員。隠れ乗車している生徒も含めた交通安全教育の協議を要望した。 [写真タップで拡大]
まるで’80年代!? 教習所から学校に報告…
さらに、三重県の取り組みで独特なのが「高校生が免許を取得する際は必ず学校の許可証を教習所に提出しなければいけない」ということ。そして驚いたことには、普通免許などの免許取得時に原付免許の保有が判明すれば、学校側に報告するという決まりもあるという。記憶に残っている方も多いと思うが、これは’80年代を思わせるようなやり方だ。教習所に学校の許可証を提示すること自体は地域によって行われていることであり、そんなに珍しいことではない。しかし、教育長の通達のもと、県下すべての高校と指定教習所の間で、こうしたやり取りが徹底されているのは珍しい。
三重県の三ない運動は強烈。今後の検討に期待したい
端的に言えば、三重県の三ない運動は強烈だ。そういう背景もあってか、現状を変えていくという点に関して、仮定の議論すらなされなかったのは残念だ。埼玉県では三ない運動がなくなったとしたらどうすべきかという議論が丁寧に行われた。マイノリティではあるが、交通事故の当事者となってしまっている「隠れ乗車している生徒たち」にどのように交通安全教育を届けるのかという点に関して真剣に議論された。だからこそ、”臭いものに蓋”として交通安全教育の障害となっている三ない運動を撤廃できたのだ。「検討する」と答えた三重県の県教委に期待したい。
●文:田中淳磨(輪)
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