エンジン音、振動、ギヤシフトのキックバック、パワーバンドまで……

【映像】2スト250ccにも4スト600ccにも化ける?! 電動バイク「EMULA」はエンジンを操る感覚を完全再現

イタリアの2electionが発表した「EMULAコンセプト」という電動バイクは、モーターとバッテリーを搭載していながら、内燃機関が発する音や振動といった体感要素を発する。しかも、2ストロークエンジンや4ストロークエンジン、排気量の違いや気筒数の違いまで感じさせるというのだから驚きだ。

テストベンチ上では3種類のエンジンをエミュレートして見せている。まずは1999年の4ストローク4気筒600ccだ。1万3000rpmという最高出力発生回転数から見るに、初代YZF-R6だろうか。100馬力(下記パワーグラフ参照)となっているのはモーターの最大出力によるものだ。クラッチを操作しながらギヤチェンジし、各操作によってエンジンサウンドが響き渡る。

そして次に、2004年モデルの2気筒800ccだ。こちらは90度Lツインの可能性が大。270度並列2気筒はこの頃、ヤマハの850ccしかなかったはずで、800ccといえば空冷のモンスター800が登場したばかり。

最後に登場したのは1989年の2ストローク2気筒250cc。90度Vツインの音と思われるので、年式的にはNSR250RもしくはRGV-Γだろうか。乾式クラッチの音はしない。燃料タンクの位置にはサブウーファーがあり、シート後部やハンドルバーの付け根、ステップには振動エミュレーターが設置されているようだ。

これらを変更するには8インチのTFTダッシュボードを使う。イメージしてみてほしい、簡単なスワイプ操作で2ストローク125ccから4気筒750ccまで、思いのままのエンジンに切り替えていくさまを。

EMULAがダイノ上でエミュレートした3種類のエンジンスペックがこちら。『エモーション・チャージャー』というサブタイトルからもわかるように、心に訴えてくるエモさがある。

こちらは、昨年のEICMA2019で発表された際にイタリア人ジャーナリストが取材した模様を伝える映像だ。残念ながらイタリア語は全くわからないが、燃料タンクの上を触ると振動が伝わってくる様子などが収録されている。

【映像】ベンチ上で再現しているのは4気筒スーパースポーツ600cc、 Lツイン800cc、そして1989年のNSR250Rか

エンジンが回転する感触、シフトアップしたときにリヤタイヤが路面を蹴る感じ、排気音の咆哮……。これらが、今までの電動バイクに欠けていたものだ。ここに目を付けた2electionが開発したのは、EMULAコンセプトに搭載したMcFlyテクノロジーだった。EV体験をガラリと変え、燃焼エンジンを搭載したバイクと同じ感覚を味わえる、初めての電動バイクになる可能性があるわけだ。

McFlyシステムは加速や回生ブレーキのコントロールにとどまらず、ライディングで使うアクセル、クラッチレバー、シフトペダルにセンサーとアクチュエーターを使用してバイクからのリアクションを再現。さらには、動力制御でトルクとパワーカーブ、エンジンブレーキを、スピーカーとバスウーファーによってメカニカルノイズ、排気音、さらには振動といった、内燃機関の持つ特徴が忠実に再現されている。

そして、これらを総合的にコントロールするMcFlyシステムはさまざまなエンジンをエミュレート可能。将来的には、1980年の2ストローク125ccから最新の4気筒750ccレーサーまで、簡単な操作で“エンジンを”オンラインストアからダウンロードできるようになるという。

多彩なオプションを表示。本来は存在していないギヤポジションを表示しているのもイカス。

右はMcFlyシステムを使うモード。左は「退屈」と題された、ノークラッチ、ギヤチェンジ不要の『普通』の電動バイクモードだ。

2electionの「McFly テクノロジー」と「EMULA コンセプト」の概要

・Emulaダッシュボードには、8インチのタッチスクリーンディスプレイが組み込まれる。タッチ操作だけでなく、ハンドルバーの右側にあるジョイパッドも使用可能。

・ギヤ比と最高速度は、選択したエンジンによって変化。800ツインは6速1万rpmで200km/hに達し、4気筒600は1万4000rpmで250km/h以上に。エンジンが特定の速度に達すると回転リミッターに「ぶち当たる」感触も!

・McFlyシステムは、選択されたエンジンの動作をエンジンブレーキやトルクの供給など、細部にわたって再現。 4気筒600ccのスポーツバイクエンジンは、低回転域ではトルクが細くなるが、高回転域でパワーバンドに突入すると伸びのある加速感となる。800ccツインは低回転からミッドレンジで力強いトルクを発生。1万rpmでレッドラインに達する。また、McFlyシステムは低回転でのトルク変動などエンジンごとに異なる癖まで再現し、ギヤを激しく落としてエンジンブレーキが作動すると、後輪をロックする挙動まで出る(安全上の理由からそれほど厳しくはない)。2ストローク250の場合、エンジンブレーキは弱く、パワーバルブが排気ポートを開くと、パワーバンドに突入する。

・エミュレートした音量と人工的な振動の強さは調整可能。

・ギヤボックスのエミュレーションは、EMULAパワートレインの制限内で全てのギヤ比をカスタマイズ可能。これについては、ダッシュボードまたはアプリを使用してギヤボックスの変更を即座に行うことができ、実際にボックス内のギヤを変更する必要がないため、トラック上では顕著な利点となる。

・チューニングも瞬時に反映。スポーツエキゾースト、ハイフローエアフィルター、またはその他のオプションを選択するだけだ。そうすると、例えば高回転型になるとパワーが増加し、同時に低回転域のトルクが小さくなる。エンジンと同じようにサウンドとパフォーマンスが変化するのだ。

・車重と空気抵抗の係数は、エミュレーションを可能な限り現実的にするために考慮。選択されたエンジンに応じて、McFlyは関連する重量と空力抗力を計算される。EMULAプロトタイプの重量は200kg未満だが、250ccの2ストロークは通常150kg未満。しかし、このエンジンをエミュレートすると、McFlyは余分な重量を補うだけのパワーを提供するので、バイクは実際のバイクのエンジンと同じレスポンスを持っているように感じられる。仮想バイクがエミュレートするバイクより実際に軽い場合、システムは逆の調整を行う。これにより、EMULAはライダーに実在するバイクと同じパフォーマンスとフィーリングを提供できる。カウル付きのバイクを想定するなら、そのぶん空気抵抗も小さく計算されるのだ。

・このテクノロジーでは高性能バイクをエミュレートすることができるため、McFlyにはペアレンタルコントロール機能が付属している。これを使用すれば、それほど強力でないエンジンのみ選択できるように制限できる。

・他のエンジンをダウンロードできるEMULAオンラインストアがあり、将来的にはより多くのエンジンを利用できるようになる。プロトタイプは4気筒600cc、800ccツイン、2ストローク250ccだ。

・McFlyシステムには汎用性と可能性があり、あらゆるEV(4輪車も含む)、または燃料電池で動く車に使用できる。

・とはいえ、EMULAの車体はフルサイズのスポーツバイク。エミュレート可能なエンジンは多岐にわたるが、たとえば原付の出力でスーパースポーツバイクに乗ることに、あまり意味はないだろう。

サーキットでもアプリやダッシュボードを使用して次々にセッティング……というよりもエミュレートするエンジンそのものを変更していける。さらに細かいチューニングも可能というから、遊びの可能性は無限大だ。

今までの電動バイクに欠けていたのは……

【リアルエミュレーション】低回転でクラッチを素早く離しすぎるとエンジンが失速し、低回転で走行しているとエンジンストールを起こす。クラッチを適切に使用せずにギヤチェンジしようとすると「クラッシュ音」が聞こえ、シフトミスしてしまう可能性さえある。

【イージーエミュレーション】リアルエミュレーションを踏襲しつつ、ソフトウェアによってライダーの操作ミスを修正。低回転でクラッチをつないでもエンストしない。ギヤチェンジもミスが修正される。低回転ではレスポンスが穏やかになる。言ってみればハードモードとイージーモードだ。

【アーケードエミュレーション】イージーエミュレーションの派生。このモードではクラッチを使用せず、クイックシフターを実装したのと同じように操作できる。また、発進/停止時にクラッチを使用する必要がないのも利点。

【ビギナーエミュレーション】アーケードエミュレーションに基づきつつ、McFlyシステムがギヤをシフトする。ライダーはアクセルとブレーキを使用するだけ。McFlyシステムは、ライダーからの入力に応じて、多かれ少なかれスポーティな方法でクラッチとギヤボックスを管理する。退屈モードとは異なり、音と振動がある。パワーバンド、ギア数、ギア比は、エミュレートされたエンジンのものだ。

【重要:サイレントファンモード】McFlyシステムのすべてのエミュレーションがONになるが、バイクのスピーカーからは音が出なくなる。その代わり、Bluetoothを介してヘルメットのインカム等に接続され、エンジンを搭載したバイクに乗っているような感覚を再現できる。振動はエミュレートされるが、近所迷惑を発生させるリスクはない。たとえば、夜の住宅街でも2ストロークのオフロードバイクにも乗れるし、同じように森の中でも排気ガスや騒音を発せずに走ることがでる。

シビアな『リアルエミュレーション』でも、オートマ感覚に近い『アーケードエミュレーション』でも、それぞれに楽しむことができる。

「2electronは革新的な新興企業で、Jonathan Duòのアイデアに触発されたZener Srl(イタリア・トリノ)のスピンオフであり、自動車メーカー向けエンジニアリングおよび品質サービスを専門とする会社と自動車業界向けのコンポーネントを提供する会社であるZenerの支援を受けているという。この新会社は、自動車業界におけるZenerの経験と成功のおかげで、EV設計の発展途上にニッチ市場を作り出した」

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