前後サスペンションにも新機軸を採用

本当にこのまま発売!? P.テルブランチ×BSTによる芸術的EV、ハイパーテック(HyperTEK)

  • 2019/11/23

EICMA2019では、ドゥカティ999の設計で知られるピエール・テルブランチ氏が、カーボンホイールで名を馳せる南アのBSTから2021年に発売予定という電動バイクを発表。自身の最高傑作というハイパーTEKは、アメリカ製のモーターと制御ユニット、日本製セルのバッテリーをカーボンモノコックフレームに搭載している。

「だって、バイクでしょ?」ウイリーやバーンナウトも可能!

ミラノショーの会場の片隅、BSTのブースでひっそりと展示されていた変わり種バイク……という程度にしか思わなかった電動バイクは、見れば見るほど、聞けば聞くほど新しさに満ちた野心的なニューマシンだとわかってきた。それもそのはず、このハイパーテックを設計したのは、2002年に発売されたドゥカティ999や、初代ムルティストラーダMH900eなどをデザインしたことで知られるピエール・テルブランチ氏だったのだ。ブースを訪ねた際に、そのバイクについて熱く語ってくれて、メカニズムにもやけに詳しそうだった背の高いおじさんこそがテルブランチ氏本人だったと気付いたのは、取材を終えてすっかり落ち着いた後であった……。

「まったく新しい電動バイクを設計しました。スイングアームピボットの上に配置したパワーユニット(モーター)と制御ユニットはアメリカ製、バッテリーは日本のパナソニック製のセルを使用しています。そのほかに車体にもたくさんの新しいデザインと設計を盛り込んでいますが、何より重視したのは“バイクらしい楽しさ”です」と語るテルブランチ氏。その“バイクらしさ”とは……?

BST HyperTEK

【BST HyperTEK[expect in 2021]】主要諸元■軸距1480mm シート高790/800/820mm調整式 車重205kg■水冷式DHX Hawk PMSモーター 108.8ps 12.24kg-m パナソニック製バッテリー4.75kWh 航続距離300km■タイヤサイズF=120/70ZR17 R=180/60ZR17

「ダイナミックに、ライダーが思う通りに走れるエキサイトメントが必要です。モーターはその特性からトランスミッションもクラッチも不要。ですが、このバイクはあえてクラッチを装備しています。アクセルによるトルクのコントロールだけでなく、クラッチでもコントロールできること、それができなくては面白くありません。メインスイッチをONにするとバイクはアイドリングし(鼓動が伝わってくるような表現だったが、モーターがアイドル回転するのかは不明)、ビルトインのサウンドジェネレーターによって音も伝わってきます。クラッチを切って回転を上げ、急速につなげばウイリーやバーンナウトだってできますよ。だって、乗って面白いのがバイクでしょう?」

詳しくは資料を見てくれと言いつつ、生の言葉でしか伝わらない“走らせる面白さ”について語ってくれたテルブランチ氏。このバイクが将来的に日本でも買えるようになるのかは不明だし、まだ実際に走れる状態にまで仕上がっているようには見えない(ブレーキホースや各種配線も未装備)。だが、テルブランチ氏が言う通り2021年に発売されるとしたら、注目の1台になりそうだ。

メーターは非装備で、情報はヘルメットのHUDに表示!

30分でチャージできる急速充電で300kmの航続距離を実現するなど、スペック上でも注目すべき点は多いが、まずはハイパーテックが採用する新機軸について解説していきたい。特徴的なのは、メーターパネルを装備しないこと。これはコンセプトモデルだからというわけではなく、日本のCrossHelmet社製のヘルメットに内蔵されるヘッドアップディスプレイ(HUD)に全ての情報を表示するからだ。電子制御は、ウイリーとバーンナウトを許容するウイリーコントロールおよびトラクションコントロール、クルーズコントロール、ヒルストップを備えている。

CrossHelmet社のスマートヘルメットに情報を表示する。日本では車検制度などで壁がありそうだが……。

車体まわりも面白い。フレームはBSTお得意のカーボン製でモノコック構造。フロントフォークはアウターチューブとトリプルツリーをカーボン製の一体構造とし、これに左右のインナーチューブを差し込んでいる。資料に解説はなかったが、展示してあった現物には“TROLL ENGINEERING”と書いてあり、調べてみたところ、かつてハイパープロと共同でハブステアリングのフロントサスペンションなどを開発していたコンストラクターのようだ。また“ROLLER-FORK”とも書いてあることから、ダンパーシステムにも何かしら新しい機構が設けられている模様。リヤサスペンションはスイングアームの中にショックユニット(見かけ上はエアショックだ)をマウントし、これをリンク機構によってストロークさせる。考え方としてはホンダのユニットプロリンクの亜種といってよさそうだ。ブレーキディスクはアルミとセラミックの混合素材を用いたベンチレーテッド式。リヤディスクはベルトドライブのスプロケットを兼ねている。

φ330mmのアルミ&セラミック混合素材を用いたブレーキディスク。フロントフォークはインナーチューブとアクスルまわりが一体構造となっているが、これがコンセプトモデルゆえなのかは不明。アクスル前にマウントされるダクトはヒートシンクを冷却するためのもののようだ。

片持ちスイングアームの中にショックユニットを内蔵。ドライブ方式にはベルトを採用している。ピボットの上にあるドライヤー(?)のような形をしているものがモーターだ。

モーターとバッテリーをしっかり見せるデザイン

モーターはDHX社によるHawkというシリーズで、毎分50Lの圧送能力を持つ電動ウォーターポンプによる水冷としている。最高出力は約108.8psで、最大トルクは約12.2kg-m。DC/DCによる急速充電は30分でチャージ可能、航続距離は300kmとしている。驚きなのは、これだけの航続距離を実現するだけのバッテリーを搭載しながら、車重は205kgとしているところ。車体構造の多くをカーボンで造ることができるBSTならではと言えるだろう。

電動バイクといえば、バッテリーやモーターが車両デザインをスポイルしている例も少なくない(ゆえにカウルで覆って隠してしまうことも)が、これらをしっかりデザイン要素として盛り込み、今までにないスタイリングを実現しているあたりにピエール・テルブランチ氏の底力を感じずにはいられない。気になる価格は8万ドルともいわれるが、果たして……?

シートカウルの形状は、テルブランチ氏がデザインしたドゥカティ999やMH900eなどを連想させる独特な形状となっている。テールランプは透明なアクリル板を発光させる。通常の燃料タンク位置にあるのはコントロールユニット(アメリカ製)で、通常のエンジン位置にあるのがバッテリーユニットだ。

銅製と思われるヒートシンクを水冷式のラジエターのように使っている。放熱板は車体の各所にあり、バッテリーやモーター、制御ユニットなどの熱をそれぞれに逃がしているようだ。

機能に関係ないものは極限まで省略し、電動バイクならではの構成パーツをデザインとして魅せることで、新鮮さを感じさせるたたずまいを実現した。これは乗ってみたい!

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ヨ

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帰ってきたネイティブ足立区民。ヤングマシン、姉妹誌ビッグマシンで17年を過ごしたのち旅に出ていた編集部員だ。見かけほど悪い子じゃあないんだぜ。
■1974年生まれ
■愛車:MOTOGUZZI V7 SPECIAL(2012)