小林直樹師範が徹底テスト

オフロードマシン テイスティング:’20アフリカツイン AS ES DCT〈前編〉

市街地、高速道路、ワインディング、林道のさまざまな路面を走破し、日常に近い乗り方から、そのマシンの限界性能までをテストライダー・小林直樹師範が徹底テスト。今回はフルモデルチェンジしたアフリカツイン・アドベンチャースポーツを2回に分けて紹介する。このモデルは、電子制御サスペンション、DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)を標準装備し、最新機能を満載したフラッグシップだ。


●写真:長谷川徹 ●文:小川浩康(ゴー・ライド編集長) ●テストライド:小林直樹 ※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。

2016年、直列2気筒1000ccエンジンを搭載して15年ぶりに復活したアフリカツイン。オフロード走破性を損なうことなく高速巡航性能を高め、電子制御の自動変速機DCTを採用するなど、オンもオフも楽しめる「True Adventure」というコンセプトを実現しているのが特徴だった。2018年にはマイナーチェンジを行なってパワーアップを果たすとともに、ビッグタンクを装備したアドベンチャースポーツも追加ラインナップ。ロングツーリングでの快適性を高めた。しかし、その2年後の2020年に早くもフルモデルチェンジ。排気量を1100ccにアップし、高速巡航性能をさらに向上。6軸IMU、クルーズコントロールなどを装備し、ロングツーリング向けのアドベンチャースポーツも同時に開発。DCT制御はさらに洗練され、電子制御サス搭載モデルも設定し、さらにオフロード走行を重視するライダーには、前後サスストロークを40mm延長したタイプ〈S〉も設定。全部で10タイプと、バリエーションが豊富なのも特徴だ。

【Honda CRF1100L Africa Twin Adventure Sports ES Dual Clutch Transmission】主要諸元■全長2310 全幅960 全高1520 軸距1560 シート高810/830(各mm) 車重250kg(装備) ■水冷4ストローク2気筒 OHC4バルブ 1082cc 102ps/7500rpm 10.7kg-m/6250rpm 変速機6段 燃料タンク容量24L ■タイヤサイズF=90/90-21M/C 54H R=150/70R18M/C 70H ●価格:205万7000円 ※シート高は調節可能

走行性能と装備をさらに充実するために、前モデルから2年でフルモデルチェンジ

メーカー主催の新車試乗会では、スケジュールの都合で決められたコースや短時間の試乗しかできないことが多い。そこで、ゴー・ライド編集部のある都内からスタートし、市街地を抜けて高速道路で移動し、ワインディングを走行して林道を走破。つまり、読者の皆さんが行なう日帰りツーリングの行程をとることで、実際のシチュエーションに即した役立つ試乗インプレッションをお届けできる。ということで、ガルル時代にスタートしたロードインプレッション企画が、ゴー・ライドで復活! テストライダーは、原付からリッターオーバーまで数々のマシンをテストしてきた、トライアルデモンストレーター小林直樹師範が引き続き担当。ナンバー付きモデルとしての扱いやすさから、そのマシンの限界性能までを徹底テストする。

今回のツーリングでは房総半島の林道をめざした。冬でも積雪の心配が少なく、通行できる林道があるからだ。

【ゴー・ライド(以下G)】ということで、復活第1弾は、フルモデルチェンジしたアフリカツインのロングツーリング向けモデルとなるアドベンチャースポーツ(以下AS)です。ビッグタンクに大型スクリーン、リヤキャリヤを標準装備し、さらに電子制御サスペンション(以下ES)と電子制御変速機デュアル・クラッチ・トランスミッション(以下DCT)を搭載した最上位モデルです。

【小林直樹(以下小林)】旧モデルのアドベンチャースポーツは、ベースモデル・アフリカツインの追加モデルということもあってか、ビッグタンクの存在感が大きかった。前後サスのストロークも延ばされていて足着き性も厳しく、ベースモデルよりもかなり大きく感じたんだ。

それと比べると、新型ASの車体はかなりスリムになったよね。ニーグリップしてもガニ股にならないし、シート高も低くなって足着き性も良好。今回のフルモデルチェンジはASも最初から考慮していたんだろうね。見た目は重そうだし、確かにエンジンをかけていない時のマシンの押し引きは重たいけれど、走り出してしまえば見た目以上に軽快なんだ。これはDCTの恩恵もあるね。

【G】それはどういうことですか?

【小林】クラッチ操作が不要でエンストの心配も皆無だから、バランス修正に専念できる。それにDCTの半クラッチが完璧で、アクセル操作だけでスムーズな発進もキビキビした発進も行なえる。マシンの動き出しがモタモタしないから、それが軽さとして体感できるんだ。

エンジン特性もパワフルな「ツアー」、パワーを抑えた「グラベル」、その中間の「アーバン」、オフロードで扱いやすい「オフロード」と選ぶことができるし、電子制御サスはそうしたエンジン特性に合ったダンピング特性に瞬時に切り替わる。

今回のテストでは「ツアー」をメインに使ったけれど、アクセルレスポンスもよく、前後サスはダンピングが強く、路面からの衝撃を一発で吸収する感じ。だから、マシン挙動がピシッとしていて、乗り心地もフラットなんだ。全体的にシャープな乗り味になるので、街中では車重を感じさせないキビキビした走りが楽しめた。

総走行距離は約300kmだが、ダートは15km弱と1割に満たなかった。

【小林】さらにシフトチェンジのタイミングも通常のDモードとスポーツ走行向きのSモード、自分で変速するMTモードから選べるのも扱いやすいね。

【G】小林さんのおすすめモードはありますか?

【小林】Sモードは各ギアを高回転まで引っ張ってからシフトアップし、アクセルを戻すとすぐにシフトダウンしてエンジンブレーキがよく効くようになる。その引っ張り具合も3段階で選べるし、エンブレの効き具合も別に3段階で調整できるので、かなりキビキビした走りができる。MTモードにすればクラッチ操作をしなくてもMT車のように扱えるし、市街地やワインディングではかなりスポーティな走りもできる。

でも、オレはDモードが一番よかったな。加速時は早めにシフトアップしていくので、ちょっとマッタリした加速なんだけれど、それでも1100ccのパワーは必要充分以上だから、かなり速い。アクセルレスポンスがシャープすぎず、エンブレでもギクシャクしないから乗り味がすごくスムーズなんだ。こうしたマシン挙動はESの大きな特徴で、大柄な車体とビッグパワーにも関わらず、乗り心地のよさと乗りやすさに繋がっているね。

それと市街地で思ったより便利だったのが、ウインカーのオートキャンセラー。電子デバイスを操作するスイッチがたくさんあるから、今回のテストではウインカースイッチを見ないと操作できなかった。だから右左折後やレーンチェンジ後に自動でウインカーが消えるのは、ライディングに集中できてかなりストレスを軽減してくれたよ。これはIMU(6軸慣性センサー)と車速センサーなどが車体の状況をしっかり把握していることの証明でもあるよね。

どこまでも走っていける快適な高速巡航性能

【G】高速道路での乗り味はどうでしたか?

【小林】本当に楽だよ。スクリーンは一番低い位置でも防風性能が高いし、クルーズコントロールも装備しているから、クルマのような快適さだよ。タイヤの接地感も分かりやすく、ハンドリングもしっとり落ち着いているから、直進安定性がすごくいいんだ。「ツアー」だと余分なマシン挙動もなく、スーッと滑らか。マシン任せに走っていけるから、いい意味でヒマだよ(笑)。車体の大きさを気にせず、余裕のある走りを楽しめるよ。

’19年の台風による被害が残っていて、通行止めの林道も多い状況。

【G】走行中にエンジン特性を変えていましたけど、違いは体感できましたか?

【小林】高速道路では、そんなにアクセル開度が変わらないから、パワーの差はハッキリとは分からなかったな。「グラベル」でも、なんの問題もなくクルマの流れに乗って巡航できたし。ただ、乗り心地は結構変わるね。「オフロード」では前後サスのストローク量が多く、マシンが絶えず上下動しているのが分かる。トレールマシンらしい乗り味で嫌いじゃないけど、ロードバイクから乗り換えた人にはフワフワしすぎと感じるかもしれない。でも、エンジン、サスペンション、エンジンブレーキ、トラクションコントロール、ABSなどを自分で設定できるから、いろいろ試して自分の好みのセッティングを見つけるといいんじゃないかな。多機能すぎて今回はすべて使いこなすことはできなかったけれど、こうした機能があると嬉しいって感じるよね。

あ、そうそう。テスト日は気温12℃とまあまあ寒かったけれど、グリップヒーターのおかげで助かったよ。5段階に設定できるけど、MAX状態は熱いくらい。ETC2.0車載器も標準装備だし、それも高速移動を快適にしてくれるよ。

完璧なシフトチェンジでコーナリングが気持ちいい

【G】ワインディングでの取りまわしや走りの印象はどうでした?

【小林】速いよ! コーナリング中にもタイヤの接地感がすごく感じられて、ハンドリングもしっとりと落ち着いている。車体の重さは感じず、変にフラフラもしないから安心感があるんだ。この辺りはIMUがバンク角と前後輪車速センサーなどからホイールロックしないように制動力をコントロールしているおかげだろうね。コーナー進入でのブレーキングでミスしにくくなっているし、さらにDCTのシフトダウンも絶妙。エンジンブレーキも効果的にかかって、コーナーのRと進入スピードに最適なギヤを選択してくれるんだ。だから狙ったラインで走っていきやすい。

総燃費はダートでのアクションライディングもあり19km/ℓだったが、高速移動が増えれば20km/ℓは行きそうだ。

「オフロードマシン テイスティング」アフリカツインアドベンチャースポーツES DCT編、その後半は、電子制御やトラクションコントロールについて紹介する。

最新の記事