オフロード専門誌『ゴー・ライド』連載中の「令和の世に放つ 愛と青春のオフロードマシン」より、バイクが熱かった時代にラインナップされた、懐かしのオフロードマシンを、”迷車ソムリエ”ことムッシュ濱矢が振り返る。セロー誕生から35周年。ファイナルエディションが発表され、セローの終わりというか、近所にある馴染みの銭湯が廃業する時のような気持ちになる。そこでセローの魅力を、セローのライバル車からの視点で浮き彫りにしてみよう。
●文:濱矢文夫 ※カタログスペック、価格はすべて当時のものです ※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
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去っていったセローのライバルたちへの鎮魂歌。余談もあるよ
- ホンダ XL-Degree
- ホンダ SL230
- カワサキ Super SHERPA
- ヤマハ SEROW GPS
- スズキ DJEBEL GPS
最初のセローが発売されたのは、空前のバイクブームが到来し、ライダーがどかっと増えて、車両はハイスペック争いをしながら急激に進化していった’80年代中頃だった。女子ライダーが増えただけでなく、二輪誌の文通募集コーナーには女子から「誰か後ろに乗せてください。一緒に風になってくれる人大募集♡」と冗談のような投稿が多数掲載されていたんだからスマホ世代には信じられないだろう。モバイルデバイスで簡単に連絡できる現代とは違い、ロマンがあった。バイクを介した若い男女の出会いなんて、今や都市伝説レベルであろう。
それはさておき、ユーザーが速くて凄いのに憧れた時代に、空冷223㏄単気筒という非力なエンジンを積んで、それほど目新しい装備のないデュアルパーパスモデルとして登場したセロー。だから「トコトコとトレッキングしようぜ」と言われてもピンとこない人が多くて、発売当初は残念なぐらい売れなかった。
そこから変化をしながらオフで使う楽しさが理解されるようになり、ロングセラーとなり、250にバトンタッチしてもこのカテゴリーとしては好調な販売で、今年のファイナルエディションまで続いてきた。
当然ながら、35年の歴史の間には、セローが開拓した市場を狙って他メーカーから対抗馬が出てきた。けれども、セローの牙城を崩すことはできなかった。一時的に販売数をそれなりに稼いだものもあったが、ご存知のとおり現状生き残っているものがない。メーカーの都合などがあるとしても、現実はセローのひとり勝ちだ。
ホンダ XL-Degree:埋もれていたセーラームーン時代の北川景子とも言える!?
ディグリーは”しいたけ”である。 “何を言っているのか分からねえと思うが、おれも何をされたのか分からなかった”とポルナレフの気分になるかもしれない。その理由は、小さい頃はしいたけの美味しさが分からなかったが、年をとってからあの繊細な香りと味が分かるようになったのに似ている。コンパクトな車体。シート高は790mmと現行セロー250より低い。モヤモヤした気持ちになるAX-1と兄弟のセル始動の水冷DOHC単気筒エンジンは、NSシリンダー採用で耐久性もある。発売時はいろんな高性能オフ車があってあまり目立たなかったけれど、今だとスターになれる素質十分。
ホンダ SL230:似たモノに、SR400が欲しくて誕生した400SSがある!?
セローが欲しかったんだよぉ。そこで似た仕様の遜色のない、良いバイクを作った。だがセロー225のようなロングセラーになれなかった。最低地上高がセローより3cmほど低いところに理由の一端が垣間見られる。オフ走破性にしっかり軸足を置いたセローに比べ、SLはストリートも欲張った。街でも似合う土臭くないルックスにした。だって多くの人が毎日オフを走るわけじゃないから。月イチだってどうだか。だから理にかなったもの。だけど、ユーザー心理はそうじゃなかった。アウトドア道具感が希薄で、悪路を走る物語が感じられなかったのかも。後になってXR230にしたけどね……。
カワサキ Super SHERPA:酢豚に入ったパイナップルに対し賛否が分かれるような違い!?
じつにカワサキらしいところが好きだ。ここまでセロー225に肉薄したものを作りながら、「よ〜し、せっかくならセローより排気量のある249ccDOHC4バルブの、上でグンと伸びるパワフルなエンジンにしてやったぜ〜」という、つねにパワーと世界最速にこだわってきたカワサキのDNAが炸裂している。だからセローらしさがありながらセローと違う走りになった。10代の頃、知り合いのヤンキーが「”狼”と入れたゼ」と自慢気に見せてくれたメルメットの漢字が”おんなへん”だったのを思い出した。『娘』…、ちょっとカワイイじゃないか〜い。そんな少しの違いが2車を似て非なるものにしている。
ヤマハ SEROW GPS:次のセローで標準装備してもいいんじゃナイアガラトライアングル!?
1997年の第32回東京モーターショーに出品されたGPS付きセロー。ジェベル版は発売されたけれど、このセロー版は市販化にいたらず。今はGPSの精度が上がり、コストが下がったから、次のセローでナビ付きセローを発売してほしい。「スマホでいいじゃん」っていう人は◯◯くらえ。下品だから、△△△召し上がれ。ついでにAIとかも搭載して「今日はどこ行こうかな」というと「□□林道はどうでしょう」などと答えてくれるといい。「もっとお尻を引いてリヤ荷重にするんだってば」「ここクマが出るぞ」「新しいエンジンオイルを頼む」とか楽しそう。小姑みたいでうるさそうだけど。
スズキ DJEBEL GPS:現在地と目的地セットが可能なビックリドッキリメカ付き!?
以前書いたジェベルGPSについての原稿が気になったので検索したら、10年前の日付の短いキャプションが見つかった。そこには「ジェベルGPSとかけまして、◯◯◯の男の子ととく。そのココロは…、出すのが早すぎました」と書いてあった…。全世界のジェベルファンの皆様、大変申し訳ありません…。世界で初めて量産二輪車でGPSを搭載した偉大なパイオニアに対しなんてことを…。謹んでお詫びいたします。もう“ドジェベル”なんていいません。17Lも入る燃料タンクで、乗る頻度が少ないと、いつ満タンにしたか思い出せないほどの航続距離を持つ素晴らしいバイクなのに。
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