2002年序盤、またしても事件が勃発!?

山田宏の[タイヤで語るバイクとレース]Vol.15「ある日、ケニーさんに軟禁されまして……」

ブリヂストンがMotoGPでタイヤサプライヤーだった時代に総責任者を務め、2019年7月にブリヂストンを定年退職された山田宏さんが、かつてのタイヤ開発やレース業界について回想します。2002年、ブリヂストンはロードレース世界選手権最高峰クラスに参戦開始。しかしそのシーズン序盤、待ち構えていたのは数々の試練と“事件”だったのです。 ※タイトル写真は2002年MotoGP第7戦オランダGPの青木宣篤選手


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たしかに、あのとき決勝を走り終えたリヤタイヤはかなり表面が荒れていて、我々としても青木選手のコメントは納得できましたし、残り5周くらいでは5位とは差がなかったので、タイヤがもう少し持っていれば5位は可能だったかもしれないと思いました。そしてケニーさんとしては、「タイヤが良ければ……」という気持ちがより強かったのだと思います。「こんなタイヤじゃダメだ!」と、バスの中で私はひたすら怒られていました。

こちらからしたら、タイヤの問題を指摘するなら、そもそもケニーさんが取り組んでいる3気筒500ccマシンのほうもなんとかしろ……という思いもありましたが、当然ながらそんなことをケニーさんに言えるわけありません。「これからどうするんだ?」とか「どう改善するんだ?」なんて追及されても、その場では「がんばります」とか「最大限に努力します」くらいしか言えませんしねえ……。このときは、私ひとりがケニーさんのバスに呼びつけられたのですが、そこでの時間は本当に長く感じました。通常でも、レース後にはチームとミーティングをして評価や要望などを聞くのですが、このときだけは“軟禁”という言葉が当てはまるくらい恐い雰囲気でした。

一方、私がケニーさんに怒られているころ、我々のオフィスでは開発担当者たちがレースウィークの総括をして、今後の改善策などについてミーティングをしていました。このMotoGPクラス参戦初年度は、評価と改善を毎戦繰り返して、シーズン中でも新しい仕様のタイヤをかなり多く投入し続けていたのです。

ただし、レースウィークにやれることは限られているので、前年に開発テストで走らせた経験があるコースはともかくとしても、それ以外のコースでいきなり完全に新しいスペックのタイヤを試すというのは非現実的。ライダーのほうだって、コースに慣れる時間が必要ですから。

そこで、大会ごとに6~7タイプくらいの仕様を持ち込んでいたとしても、最初は前戦で評価が良かった仕様やこれまで平均して性能が発揮できたようなタイヤを使ってもらい、そこからライダーの評価に合わせて次の仕様を提案するというようなパターンが多かったと思います。6~7種類を持ち込んでも、使うのは2~3種類なんてことはたくさんあります。とはいえ、あの当時に考えられることは次々とカタチして、新しいスペックのタイヤを持ち込んでいました。

矢継ぎ早の「これからどうするんだ?」「どう改善するんだ?」

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