ビモータの復活がEICMA2019で発表され、その際にお披露目された「TESI H2(テージ エイチツー)」はフレームを持たない最新世代ハブステア機構でファンを驚かせた。しかし今回入手したカワサキの特許図の出願日は2018年夏。ビモータ設計が固まる前に、カワサキによる設計もあり得たのか。または違った狙いがある……?
【読み飛ばしOK】テージH2のハブステア機構と特許図は、似ているようでかなり違う
2015年に倒産したビモータの復活が画策されはじめたのは2016年11月。カワサキとビモータによるプロジェクトはトントン拍子に進み、ニンジャH2のエンジンとハブステアリング機構を組み合わせたテージH2のアイデアも早い段階から存在していたという。
それが具現化するとしたら、設計は誰の手によるものになるのか。カワサキはアイデア出しのみならず車体の開発も推進できる立場にあったのだろうか……。さまざまな想像も膨らむが、実際にはビモータの往年の名車・テージ1Dの開発者であるピエルルイジ・マルコーニさんが2019年6月に呼び戻され、秋のEICMA2019で発表されたテージH2の設計を担当している。
……と、ここまでは以前の記事でもお伝えしていた内容だが、2020年2月に公開された特許図には、マルコーニさんが設計したものとは明らかに異なるハブステア機構が搭載してあり、また特許出願日も2018年7月30日となっている。となると、仮にマルコーニさんが呼び戻されることなくビモータが復活していた場合は、カワサキ設計バージョンのテージH2が実現していたのだろうか?
残念ながら真相が近いうちに明らかになることはないだろう。だが、この特許図が興味深いことに変わりはない。
特許の狙いはズバリ「生産コストの低減を図り易い鞍乗車両を提供する。」とあるが、ざっくり言うとテージH2のフロントサスペンションが両持ちスイングアームなのに対し、こちらはリンクを介してほぼ平行に上下する片持ちアーム。また、リヤのスイングアームも片持ちに見える。詳細は図版を見てほしいが、小難しいので読み飛ばし可である。
【ここから本題】2019年末公開の特許図には前2輪/後1輪の3輪バイクの姿が!
ハブステアの特許には注目したい記述があったのでピックアップしてみよう。
まずひとつめは、「本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その構成を変更、追加、又は削除できる。操舵輪は、前輪に限定されない。また鞍乗車両は、三輪自動車又は四輪自動車でもよい。駆動源は、エンジンのほか、走行用の電動モータでもよいし、走行用のエンジンと走行用の電動モータとの両方を備えるものでもよい。」という部分。
つまり、これが3輪または4輪の可能性もあるということだ。フロントのアームは左右両側に配置もOKとの記述もあり、また操舵輪は前輪に限定されないとのことで、4WSのような機構も想定しているのだろう。また、動力源はエンジンだけでなく電動モーターおよびハイブリッドの可能性もある。
もうひとつは「また、ハンドルは回動せず、例えば、ハンドルのグリップに設けられたスイッチにより操舵輪を操舵させてもよい。また操舵機構の操舵経路は、適宜設定可能である。また、第1実施形態では、操舵機構22はステアリング部材40、リンクユニット41、及びステアリングステム42により前輪3を操舵する例を示したが、操舵機構はアクチュエータにより前輪を操舵する構成を有していてもよい。また一対の支持用リンク部材14,15は必須ではなく、省略してもよい。」というもの。
ハンドル操作と操舵が直結している必要はなく、電子制御や別のリンク機構なども想定している。これらが意味するところとは……。
ようするにコレだろうか。
……と、思ったところで、2019年12月19日公開の特許図の存在が浮かび上がってきた。こちらのテーマは「リーン及び旋回を簡素な構造で実現できる鞍乗り型車両を提供する。」となっており、ざっくり言えばヤマハにおけるLMWのような前2輪のバイクの車両について特許が出願されているのだ(構造は独自のもの)。
そしてこれをよく見てみると、記事前半で紹介したフロントのアームと、リンクの構造などがそっくりなのである。ヤマハ以外のメーカーも「傾いて走る3輪または4輪」を研究していることは過去のスクープ記事などで明らかになっているが、カワサキもついにその研究車両の姿が見えてきたといっていいかもしれない。
これはあくまでもフロントまわりの特許なので、4輪の「J」のような車両が世に出る可能性ももちろんある。そう遠くない未来に期待してますよ、カワサキさん!
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