ガマンするとリスクが減って、しかも速くなる……とは?

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.10 「コーナリングは頑張るほどに遅くなる」

  • 2019/6/1

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。記念すべき10回目は、こぢんまりと続けているライディングレッスンについて。

TEXT:Go TAKAHASHI

MICHELIN

特に告知はしていませんが、レッスンやってます

5月17日、千葉県の茂原ツインサーキットで「原田哲也ライディングレッスン」を行いました。このレッスン、実は一昨年に始めたもので、もう6回目ぐらいになります。せっかくバイクにたくさん乗ってきたので、「自分の経験をお伝えできたら」「バイク業界に少しでも恩返しできたら」という思いから始めました。

講師は、僕ひとり(笑)。本当にこぢんまりとしたレッスンなので、特に告知もしていません。イベントとしての規模が大きくなればなるほど目が行き届かなくなってしまうし、講師を増やしてしまえば僕がやる意味がなくなってしまう……。といった理由から、本当に小規模で、参加人数は毎回10人を上限にさせてもらっています。

スケールメリットがないので、コースを使わせていただいている主催の茂原ツインサーキットさんは赤字でしょうし、僕もこのレッスンで自分が乗るバイクを運ぶためにハイエースを買ったりして、ビジネスとしてはまったく成り立っていません(笑)。でも、せっかくお金を払って参加してくださる方のために、しっかりと自分のライディングをお伝えできるよう、そして有意義な何かを持って帰ってもらえるよう、人数は増やしたくないんです。

というのは、ライディングスキルって人によってまちまちなんですよね。それに、解決した方がいい問題点も、伝えたことの受け止め方も、人それぞれ。だから僕はひとりひとりの方たちの走りを見て、アドバイスをさせていただきたいと思っています。

対面でひとりひとりに合った言葉を探すことが、結局は一番の近道に。

そのアドバイスを受けてその人がどう変わったのかを見ながら、また伝えることをアジャストしていく。それが上達の1番の近道じゃないかと僕は思うんです。だから参加人数を増やすわけにいかず、ビジネス的には……(笑)。

僕のレッスンは、サーキットを速く走るためのものではありません。対象にしているのはサーキット初心者の方ですし、主なテーマも「安全にバイクを走らせる」ということ。サーキットで使っているのは、他の交通がなくて、安全に反復練習できるクローズドコースだからです。サーキットでの練習は、公道でも活かせますしね。

具体的にどういった内容かは……ここでは言えません(笑)。というのは半分冗談、半分ホント。さっきも書いたように「人それぞれ」なので、何とも言えないんですよね。ただ、今までのレッスンや走行会などで一般の皆さんの走りを見ていて言えるのは、ブレーキングがとても重要だということです。

ライディングとなると、どうも皆さん「コーナリングを頑張る!」つまり「コーナリングスピードを上げる!」という方向になりがちなようです。でも、コーナーを頑張ろうとすればするほどリスクは高まります。コーナリングスピードはできるだけ落とす。そして、ちゃんと向きが変わり、バイクが起きてから、立ち上がり加速を気持ちよく楽しむ。これが1番安全な走らせ方だと僕は思っています。

連続写真[1] 十分に減速して進入のブレーキングでしっかりと車速を落とす。

連続写真[2] しっかり減速できているからグリッと向きが変わる。

連続写真[3] すると、いち早く車体を起こしながらキレイに真っ直ぐ立ち上がれるようになる。

オーバースピードでどうにか曲がれても、それは自分でコントロールしていることにならない

コーナリングスピードを落とすにはどうするか。これはもう、コーナー進入のブレーキングでしっかり車速を落とすことに尽きます。十分なブレーキングができないと、「とりあえずオーバースピードでコーナーに入っちゃってからどうにかする」というその場しのぎの走りになってしまいます。最近のバイクは車体もタイヤもよくできているから、オーバースピードでもどうにか曲がれてしまいますが、自分でコントロールできているわけではないので、決して安全とは言えませんよね……。

コーナーでスピードを落とすことの大切さを知ったのは、僕が世界GPを引退した後、4輪のマセラティのレースに出ていた時のことです。バイクではコーナーの手前でしっかりブレーキングする走り方が身に付いていたのに、クルマではつい「頑張ろう!」と気合いが入りすぎて、コーナリングスピードを上げることを意識してしまったんです。

頑張れば頑張るほど、タイムは出ません。リヤが流れてカウンターステアを当てるので、自分としてはかなり攻められているはずなのに、おかしい……。そんな時、佐藤琢磨くんに「頑張っちゃダメだよ」と言われたんです。「コーナーはガマンしなくちゃ」と。

ハッと思い出しました。バイクではそういう走り方をしていたことを。「そうか、同じことをすればよかったのか」と、さっそくガマンの走りに切り換えました。ブレーキングで十分減速して、コーナーでは向きが変わるまでガマンの待ち。ちゃんと向きが変わってから大きくアクセルを踏む……。するとあっという間に速くなって、ポールポジションに近いタイムが出せたんです。

実はこれ、マセラティのレースを1シーズン戦って、いよいよ最終戦という段階での話なんです。バイクではさんざんそういう走りをしていたのに、クルマでは相当時間がかかってしまいました……。だから、ついコーナーで頑張ってしまう皆さんの気持ち、よ~く分かります(笑)。

でも、ぜひ走りのイメージを変えてみてほしいんです。「しっかりとブレーキ・思っている以上に減速・そしてコーナーでは頑張らない」というイメージに。ハッキリ言って、この走り方はストレスが溜まります(笑)。そりゃそうです。爽快なコーナリングを諦めてゆっくりコーナーを曲がるという、ひたすらガマンの走りですから。

懐かしいTZR250Rと一緒にランデブー走行。2ストロークでも4ストロークでも走りの基本は変わりません。

バイクもクルマも、速く走ろうとすればするほどストレスが溜まるものなんです。だから僕も現役時代はライディングが面白いと思ったことはありません(笑)。プロとして「勝たなくては」という思いもありましたが、それ以上にガマンの走りをすることがストレスだった。でも、結局はそれが1番リスクを減らすことができ、しかも速く走れる方法だと僕は思います。ガマンの走りができたからチャンピオンも獲れたのかな、と。

公道で速く走る必要はまったくありません。でも、より安全に走ろうと思うなら、やはりコーナリングを諦めて、ちゃんと減速することを心がけた方がいい。ガマンしてガマンして、ちょっとストレスを感じるぐらいの走りが、正解なんです。公道はサーキット以上に何があるか分かりません。気持ちよ~くコーナーを走り抜けている時は、どんどんリスクに近付いていると思ってください。

……気持ちよ~く書いていたら、ずいぶんなボリュームになってしまいました(笑)。でもレッスンについてはまだ書き足りていませんので、続きます。今回は「ガマン」とか「ストレス」というしんどい話ばかりだったので(笑)、次回は楽しむことの大切さをお伝えします。

現役時代はライディングを楽しめていなかったと語る原田さん。でも、だからこそわかる「楽しむことの大切さ」を伝えたい。

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原田哲也

原田哲也

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1993年ロードレース世界選手権(WGP)250の世界チャンピオン。1992年に全日本で同クラスのチャンピオンを獲得し、翌年に初挑戦のWGP250で戴冠した。現役当時のニックネームは「クールデビル」。'02年に現役を引退し、現在はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。