“勝ちたい” 気持ちが王座を遠ざけることも

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.13 「コンマ数秒の“欲”に負けるな」

  • 2019/7/15

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第13回目は、マルケスの凄さで思い返す1998年、そしてMotoEやフランスでの岡田忠之さんとのツーリングを語る。

TEXT:Go TAKAHASHI

MICHELIN

あの時、わずかにパーシャル時間が長くなった

MotoGPは第9戦ドイツGPを終え、次のチェコGPまで約1ヶ月のサマーブレイクに入りました。ポイント争いでは首位のマルク・マルケスが2番手アンドレア・ドヴィツィオーゾに58点差をつけ、盤石の体制です。

マルケスがすごいのは、勝てないレースでもきっちりと2位につけてポイントを稼ぐこと。例えばマーベリック・ビニャーレスが勝ったオランダGPも、決して無理をして追いかけることはしませんでした。しっかりと自分を抑えたわけです。現役時代の僕も、この抑制ができていれば……!

レーシングライダーはもちろん勝利をめざして走ります。でも、すべてのレースを勝つことはできません。チャンピオンになるために大切なのは、「勝てないレースでいかにポイントを獲るか」です。

MotoGP 第8戦オランダGPで2位となったマルケス。

今でも「なんであそこであんなことしちゃったかなぁ」と後悔しているレースが、僕にはいくつもあります。特に後悔しているのは、1998年の第11戦イモラGPと第13戦オーストラリアGPです。

イモラは金曜日の予選で転倒し、足を骨折していました。シフト操作が満足にできない状態で決勝に臨んでいたのですが、2位走行中に、前を行くバレンティーノ・ロッシをつい深追いしてしまった。で、転倒。10位に終わりました。

そしてオーストラリアでは、決勝4位走行中の15周目に、ちょっと欲を出してパーシャル時間を長く取ってしまった。前走車に離されてしまうのが嫌で、つい早めに開けてしまったんです。パラパラッ……というパーシャル時間が長くなり、次にスロットルを閉じた瞬間に焼き付いて転倒、リタイヤしてしまいました。

まぁ、あまりにもシビアなエンジンがいけないんですけどね(笑)。ただ、自分でも分かっていたのに、スロットルを閉じておけずについ早めに開けてしまったのは確か。コンマ数秒の出来事ですが、今でも鮮明に覚えています。

この1998年は、皆さんご存じの通り、最終戦アルゼンチンGPでロリス・カピロッシにぶつけられてチャンピオンを逃すわけですが、僕としてはそれ以前に、イモラとオーストラリアの失敗がいけなかった。このふたつのレースで無理をせずできるだけ多くのポイントを獲っていれば、このシーズンは楽勝で2度目のチャンピオンを獲得できていたんです。

なんて「たられば」話も、今だからこそできること。当時は勝ちたくてレースをしていましたから、ある意味では仕方がないんですけどね。ただ、マルケスを見ていると、やっぱりチャンピオンを獲るためには自分を抑えることがいかに大事か、改めて思い知らされます。振り返ると、「あ~あ」とため息が出てきますね……。

「2輪レースも環境に配慮している」と示すために

話を現在に戻して、ドイツGPでは電動バイクで争われるMotoEが始まりました。車重が重かったり、クラッシュしてバッテリーが壊れるとそれだけで3万ユーロかかるというコスト面の問題だったり、課題はまだまだあります。でも僕は、MotoEは積極的にやるべきだと思う。

僕個人の意見としては、エンジンを使うレースがなくなることはないと思っていますし、なくならないでほしいとも思います。でも、時代の流れが電動に向かっていることは間違いありません。

レースは、どうしても環境に対する負荷が高いスポーツです。自動車を始めとして電動がどんどん普及している中、「2輪レースも環境に対して配慮している」とう姿勢を見せることは、このスポーツが社会に認められるためにも、とても重要だと思います。

2018年の日本GPにおいて、イタリアのEnergica(エネルジカ)が開発・生産する電動バイク EGOベースのレーサーでデモランした原田さん。

今のところ未完成な部分はありますが、MotoEにはクリーンなイメージがあります。開催場所や開催スタイルも含めて、電動ならではの新しい展開ができそうだ、という期待感もあります。今のうちからMotoEに取り組んでおけば、これからの時代にマッチした新しいスポンサーが興味を持ってくれるかもしれません。

実は運営に携わっているロリス・カピロッシから「テツヤも出てみないか?」なんて誘われてるんですよね(笑)。さすがにその気はありませんが、MotoEのさらなる発展は大いに楽しみにしています。

岡田忠之さんとフランスをツーリング!

さて、6月26~30日、ミシュランの本社があるフランスのクレルモン・フェランに行ってきました。僕はモナコから、日本からは岡田忠之さんも来て、猛暑のフランスを満喫しました!

そう、Yahoo!ニュースにも掲載されていたぐらい、フランスは暑かったんです。最初は岡田さんとクレルモン・フェランの周辺をツーリングしたんですが、気温は41度!

気温41度の中をツーリング!

ここまで暑いと、ヘルメットのシールドを閉めていた方が涼しいんです。シールドを開けると、ドライヤーの熱風を浴びているようなものでした……。

でも、ツーリングそのものは楽しかったですよ。クレルモン・フェランは有名なミネラルウォーター、ボルヴィックの水源地です。僕たちも飲みましたが、さすがにおいしい! 暑い思いをしただけに余計に喉に沁みました。

ツーリングの距離は200kmほどでしたが、現役時代は超強敵だった岡田さんと一緒にバイクで走るなんて、なんだか不思議な感覚でしたね。

岡田忠之さんと原田哲也さんと言えば全日本ロードレースにおけるライバル物語も有名。

続いては、ミシュランのテストコース体験です。これが本当にすごい! もっとも長い外周路は1周8kmほどあって、そのほかにさまざまな条件でのテストが行えるコースが20近くもあるんです。

外周路は超高速コースです。僕はZX-10Rで走ったんですが、ゆるやかな最終コーナーを立ち上がるとストレートの半分も行かないうちに299km/h表示……。吹け切ってました。しかも1コーナーも高速コーナーなので、もうホントに速い! 300km/hなんて現役時代以来ですが、公道用タイヤのパワーRSを履いていたのに不安がまったくないのには驚きました。

ミシュランは特にビッグバイクに強いと言われていますが、これだけハイスピードで過酷なテストコースで開発されているのなら、確かに納得です。ちなみに僕はテストライダーに引き離されちゃいました(笑)。3周しかできなかったから仕方ないかな……。

世界最大のタイヤ! 岡田さんのお茶目な姿も見所です。

そして今回の目玉は、ミシュラン博物館でした。これがめちゃくちゃ面白い! ガイドさんが付いてくれて、歴史から未来の技術までいろいろ学ぶことができます。ミシュランは飛行機や自動車も作っていたって、知ってました? 飛行機のタイヤ、自動車のタイヤじゃなくて、飛行機や自動車そのものです。僕は知らなかったのでビックリしました。

また、コンセプトタイヤ「VISION」も圧巻です。2017年に発表されているのでご存じの方も多いかと思いますが、エアレス仕様のこのタイヤ、3Dプリント技術を使って天候に合ったトレッドに変えられる構想だそうです……。すごい……。

このミシュラン本社訪問については、ヤングマシン誌でも詳しくお伝えする予定なので、ぜひお楽しみに!

ミシュラン博物館にて

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原田哲也

原田哲也

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1993年ロードレース世界選手権(WGP)250の世界チャンピオン。1992年に全日本で同クラスのチャンピオンを獲得し、翌年に初挑戦のWGP250で戴冠した。現役当時のニックネームは「クールデビル」。'02年に現役を引退し、現在はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。