こう見えて、いろいろ気を遣っているんです(笑)

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.11 「シビアな世界に入り込まないために」

  • 2019/6/15

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第11回目は、楽しむことに徹する、そのためのモノ選びなどについて。

TEXT:Go TAKAHASHI

MICHELIN

バイクを心から楽しんでもらいたい

茂原ツインサーキットで行っている「原田哲也ライディングレッスン」で心がけているのは、人それぞれのスキルに合ったアドバイスをすること、そしてもうひとつ、楽しんでいただくことです。僕のレッスンはだいたい3月から始まり、8月は暑いからお休み、9~11月にまた開催し、12月以降は寒いからお休みです。そして申し訳ないのですが、雨天中止とさせてもらっています。

寒い時、暑い時、そして雨が降っている時にバイクに乗っても、つらいばかりで実になりません。みんなで日程を揃えたり、仕事を休んだり、宿を予約するようなツーリングならガマンせざるを得ないこともあると思いますが、サーキットをそれなりのペースで走るレッスンなので、つらい要素は少しでも排除したいんです。寒さ暑さや雨はライディングのリスクを高めるので、避けた方が無難だと僕は思っています。

ちなみに開催時間も考慮しています。午前8時から始まって、終わるのはだいたい午後2時頃とちょっと早め。自走でいらっしゃる方が多いので、帰りに渋滞に巻き込まれるのを避けるためです。それに、夕方までに帰り着ければ家のことも少しはできるかな、と。こう見えて、いろいろ気を遣ってるんですよ(笑)。

終始笑顔が絶えない「原田哲也ライディングレッスン」。「バイクを楽しんでもらいたい」という原田さんの思いがあってこそ。

それもこれも、バイクを楽しんでいただきたいから。というのも、僕自身、プロになってお金をいただくようになるまでは、ただひたすらバイクが楽しくて仕方なかったんです。子供の頃は、学校が終わるとすぐポケバイコースに行って、日が暮れるまで走り回ってました。まわりでは親に結構激しく怒られている子もいましたが、僕は父に怒られたことがないんです。あ、いえ、1度だけありました……。

小5の時のこと、ポケバイチームの方がエンジンをオーバーホールして組み上げてくれたんですが、たまたま思うように加速しなかったんです。「これじゃどうせ勝てないよ」。ふてくされて模擬レースをテレテレと走りピットに戻ると、父にヘルメットの上からゴツンとされました。「バイクがどんなに遅くても、一生懸命に走らなくちゃエンジンを組んでくれた人に失礼だぞ。真剣にやれ!」と叱られたのを、よく覚えています。

昼休みはランチを食べながらライディングフォームのチェック。と言いつつ、ほとんど楽しい談笑……。

あとはもう楽しい思い出ばかり。ミニバイク、ロードレースとステップアップしても、ノービス時代は仲間たちといたずらばかりして、とにかく楽しんでました。プロになってからは、激変しましたけどね。成績を出すことだけを追い求めて、楽しむなんてことは皆無でした。結果がすべてのプロスポーツでは当たり前のことです。でも、キャリアの初期に「バイク=楽しい」と刷り込まれたからこそ、世界GPの過酷な戦いでも頑張れたのだと思います。そして今は趣味として、再びバイクを楽しんでいます。皆さんも趣味でバイクに乗るのなら、できるだけ楽しくバイクと付き合ってほしいと心から願っています。それが上達の早道だし、末永くバイクに乗り続けるための大事なポイントだと思っています。

というのは、楽しいとリラックスできて、ライディングにもプラスに働くからなんです。心が緊張していては体は思うように動かず、それがバイクにも伝わってスムーズに走れません。レッスンでも最初は皆さん「うわ、原田哲也だ……」と緊張なさっているようなので、できるだけ僕の方から声をかけて少しでもリラックスしてもらえるようにしています(だからそんなに硬くならないでくださいね!)。

「公道メインのタイヤで十分!」と原田さん。ミシュラン・パワーRSやロード5がお気に入りで、サーキット走行会の先導などで多用している。

バイクを楽しむうえで僕自身が大事にしているのは、タイヤです。レッスンで僕が使っているのは、ミシュランのパワーRSやロード5。公道ユースがメインのタイヤなので、皆さん驚かれます。ミシュランにはパワーカップEVOというサーキット走行対応の上位モデルがありますしね。僕も、サーキットをガンガン攻めてレースまで視野に入れるなら、当然、パワーカップEVO以上のタイヤを選びます。でもサーキットでも走行会やレッスンといった使い方には、パワーRSやロード5の方が合うんです。

ミシュランのスタッフに突っ込んだ質問をする参加者の姿も。スタッフとの距離感が近いのも「原田哲也ライディングレッスン」の特長。

タイヤの特性は、主に走るスピードレンジに合わせて作り込まれています。僕は設定スピードレンジが低い公道メインのタイヤの方が、レッスンの用途には合っていると思っています。タイヤウォーマーを使うわけじゃないし、それなりのペースなので、温まりやすいタイヤの方がいいし、(僕はトランポに積んでしまいますが)自走で往復するなら間違いなく公道メインのタイヤがベストです。

「せっかくサーキットを走るなら……」とサーキット寄りのハイパフォーマンスタイヤを選びたくなる気持ちも分かります。でも、サーキットを主眼に設計されたタイヤは、ピンポイントで条件が合った時に高い性能を発揮します。でも、たいていの人は1セットのタイヤでツーリングからサーキットまで幅広く使うものですから、ウエットから低温までより幅広く対応する公道メインのタイヤを選んだ方がいいと思います。

シビアに攻め込むわけじゃなければ、公道メインのタイヤでもパフォーマンスは十分すぎるほど。ファンライドを狙ったロード5でも、サーキット走行会なら、プロダクションレース用タイヤで真剣に走るライダーを余裕を持ってパスできるほどですので、性能は折り紙付きです。

5月17日のレッスンで原田さんが走らせたのはカワサキ・Z400+ミシュラン・パワーRSの組み合わせ。

モノの性能に頼ろうとすると、当然コストもかかってきます。レース用ハイグリップタイヤを履くとなると、タイヤウォーマーが必要だし、トランポも欲しくなる……といった具合です。そうやってサーキットという場のハードルがどんどん高まってしまうのは、すごくもったいない。大人の趣味の遊び場としてサーキットをもっと活用するためにも、適度なモノ選びをすることも大事なのではないでしょうか。

繰り返しになりますが、何よりも楽しむことが一番! サーキットだからって速く走ろうとする必要はありません。リラックスできる遊びとして、バイクやタイヤという「遊び道具」をどうやって安全に使いこなすか、その過程を楽しんでほしいと僕は思います。趣味なんだから、楽しくなくちゃね! プロをめざすなら? それはもう、過酷でつらい道が待っていますよ……。

公道メインのタイヤでも、鋭いブレーキング・クイックな向き変え・いち早くバイクを起こしての立ち上がりは変わらない。

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原田哲也

原田哲也

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1993年ロードレース世界選手権(WGP)250の世界チャンピオン。1992年に全日本で同クラスのチャンピオンを獲得し、翌年に初挑戦のWGP250で戴冠した。現役当時のニックネームは「クールデビル」。'02年に現役を引退し、現在はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。