2019年モデルでフルモデルチェンジを受けたディアベルは、その名もディアベル1260 およびディアベル1260Sとなった。見た目のイメージは前作を引き継ぐが、エンジンも車体も全く新しくなっている。その乗り味はいかに? 今回試乗したのはオーリンズ製サスペンションなどを装備した上級版のSである。
大らかなのに自在、パワフルなのに優しい
イタリアから、こんなバイクが出てくるとは! 今も身体に残るビッグツインの鼓動と、大柄なようでいて、どんな乗り方も受け入れ、自在に操れる感覚。誤解を恐れずに言えば、コイツはパフォーマンスクルーザーやスポーツネイキッドというよりも、ジャパニーズビッグネイキッドにむしろ近い。その走りの懐の深さ、車体の軽さ、そしてフルパワーをかけたときのインパクト、すべてが極上だった。
イタリアの方言で“悪魔”を意味するディアベルは、もともとの開発コンセプトがメガモンスターという、ドゥカティのモンスターに飽き足らない人々へ向けたラージサイズのネイキッドだった。が、そのスタイリングからクルーザー的イメージでとらえられることが多かったのも事実。
初代の走りは、直線でスロットルを開けたとたんに蹴飛ばされるような、笑ってしまうほどの加速のインパクトがあり、一方でコーナーは思った以上に普通に走れたが、「クルーザーとしては」という語られ方が多かったように思う。マイナーチェンジ後、さらにそのイメージはクルーザー寄りになった。
新型ディアベル1260Sは、テスタストレッタDVT(可変バルブタイミング採用のLツインエンジン)を搭載する派生モデルのXディアベルがベースだが、クルーザーらしいXとは、性格の異なるバイクに仕立てられている。開発にあたってのキーワードも、再びメガモンスターへと回帰した。
Xとの大きな違いはライディングポジションで、ステップ位置は後退し、シート高も上がっている。全体にはニュートラルなネイキッド的ライポジとなり、同行した身長161㎝のライダーでも困らないくらい足着き性も良好だ。そして実は、先代ディアベルとライポジの三角形(シート、ステップ、ハンドルを結んだもの)は、ほぼ同じである
やさしい乗り味のなかにスポーツ性が潜んでいる
試乗の舞台となったのは、スペインのマラガ地方。海辺の街から山岳地帯を目指し、ぐるりと回って帰ってくる150kmほどのコースは、道幅が狭くRの小さなコーナーが続いたと思えば、日本の高速道路並みの平均速度で走れる広々としたワインディングロードもあり、かなり変化に富んだ設定だ。
そんな中で走ってくうちに、ディアベルの豊かな走りと、秘めたスポーツ性が明らかになってきた。
まず感じたのは軽さだ。装備重量で244kgあるが、交差点で曲がる際やレーンチェンジなどでも、3kg軽かったはずの先代よりもバイクを軽く動かすことができる。これは40mm後退したエンジン搭載位置の影響だろう。先代は重量物がライダーからやや離れた前方にあることを意識させられたが、新型のディアベル1260Sはそれが懐の下に収まっていて、人車一体感を得やすい。
240mm幅のリヤタイヤの癖も先代以上に少ない。通常走行では極太リヤタイヤを意識することもなく、低速で轍に差し掛かった際に気づくレベルだ。
長く重くなったはずが、ハンドリングはむしろ軽い
先導車についていく中で、何度も交差点を曲がったのだが、少し強めに加速しようとすると、いとも簡単にトラクションコントロールが介入する。やはり1300cc近いビッグツインのトルクはハンパないな、と思いつつも、不安を感じることはない。むしろニュートラルな車体と、スロットルを開けやすいエンジン特性だからこそこうなるのだ。トラコンの介入も自然で、車体に妙な挙動も感じられない。
直線路でのツーリング巡行は、まさしく“豊か”としか言いようがない。低回転からの太いトルク感、柔らかく大らかな鼓動感に包まれながらゆったりと加速、またはクイックシフトを頼りにズボラにシフトダウンしての強い加速など、気持ちいいことこの上ない。
エンジン回転の据わりがいいのも特筆すべきだろう。スロットルレスポンスが鋭すぎず、回転を一定に保つも上下させるも思いのままだ。ブレーキを浅く使うシーンでも、微妙な速度の調整は抜群にやりやすい。
前後オーリンズ製サスペンションの作動性のよさは乗り心地に反映され、また先代よりもフラットで自由度の増したシートも快適だ。
低速域からスポーツ領域まで、一貫したキャラクター
ワインディングに突入すると、また別の顔が見え……たりはしない。ふたつの顔が切り替わるというよりは、一貫性のあるキャラクターのままスポーティな領域に入っていく。
このステージがまた、最高に気持ちいい。最大バンク角は41度と十分にあり、節度を持って走っていれば滅多にステップが接地することもない。旋回力自体はそれほど高くはないものの、重心がライダーの近くにあることからフィーリングは常にニュートラル。エンジンブレーキを主体とした流すような走りでも、フロントブレーキを積極的に使ってカーブに進入していく場面でも、いわゆるスポーツネイキッドのような急かされる感じはなく、安心感を主体としながら、思うがままにスポーツ性を引き出せるのである。
街乗り同様に、リヤタイヤの太さによる違和感は特になく、接地面積の大きさによる絶大な安心感が支配的だ。
エンジンの素晴らしさは、ここでも健在だった。車体を寝かし込んでいき、バンク角を落ち着かせたいところでスロットルを当て、リヤタイヤをグッと路面に押し付ける。この際のフィーリングは絶品だ。太いリヤタイヤがたわんで路面を噛み、シート荷重はスイングアームを押し下げようとし、車体は踏ん張ろうとして反発する。
その手応えは言わば、同じ1300ccクラスのVツインを搭載するスーパーバイクの1299パニガーレで、コーナリングがうまく決まった時の感覚が、大げさではなく毎コーナーで得られるような感じなのだ。しかも、けっしてハイペースである必要はない。自然なライポジのおかげで、身体のどこかに負担がかかるということもない。外乱の影響を受けにくいのも長所だろう。
もちろん、スロットルを大きく開けて159psを開放すれば、とてつもなく太く息の長い、一貫した加速を得ることも可能だ。路面が悪くてもトラコンがさりげなくフォローしてくれる。
なぜか心に浮かんだ国産名車の名前とは……
思いがけず軽く扱える車体、低回転のトルクで心地好く走れて、スポーティさも引き出せる。そしてクルージングも快適……。こうした要素と威風堂々の車格を組み合わせたものに、何か似たものはないかと考えてみると、そこにホンダCB1300SFが思い浮かぶ。これは本当に意外だった。使い勝手の面まで含め、ジャパニーズビッグネイキッドの正当後継車(CBもまだ買えるけれど)が、海外から出現してしまったような印象だ。
さらにクルージングの雄大な鼓動感も加味すると、ヤマハVMAX(1200cc時代のもの)との近似すら感じてしまう。これらの名車に最新技術と法外(?)なコストを投入して後継車を作ったら、こんな形になるのではないか。そう思わずにはいられなかった。
数少ない不満点を挙げるとしたら、ツルシの状態では収納がなく、また積載性も微妙なところだろう。出先での防犯を考えればU字ロックぐらいは収まると助かるし、ツーリングではトップケースなどの装着が必須に思える。
昨今のニューモデルに出来の悪いバイクなどなく、平均点は非常に高いと思う。それでも、コイツは久々の大当たりだ。少なくとも、前述の国産名車に興味を持ったことがあるなら、1度は試乗してみるべきだろう。
初代ディアベルの世界観を現代的に解釈
メガモンスターというコンセプトで生まれた初代ディアベルは、マッシブかつパワフル、そして意外にツーリングもしやすいなど万能性が光る1台だった。新型となったディアベル1260は、さらにその長所を伸ばしつつ、ニュートラルなスポーツ性と扱いやすいエルゴノミクスを盛り込んだもの。Sはその上級バージョンだ。パワーは先代比7馬力アップ、エンジン重量は7kg増えたが車重は+4kgに収まっている。ホイールベースは15mm増え、スイングアーム長は-56mm。リヤホイールトラベルは+12mmの130mmとなり、乗り心地に貢献している。
デザインは3種類のバイクの特徴をブレンド
新型の出来に自信をうかがわせる開発者
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