とある日、取材でツインリンクもてぎに居合わせたヤングマシン編集部スタッフ。現在は使われていないオーバルコースに何気なく目をやった瞬間、そこにはエンジン音を出すこともなく疾走する真っ白なフォーミュラカーの姿が! 目を凝らして見れば、何やらボディから飛び出すアームに、ガードレールに取り付けられた謎のレーン。何じゃこりゃ!? と調査してみると、意外なホンダの電気自動車戦略が見えてきた。
謎のフォーミュラカーは単なるEVではなかった
現在では使われていない「ツインリンクもてぎ」のオーバルコースを疾走していた謎のフォーミュラカー。ノーズには赤のHマークが取り付けられ、エンジン音は聞こえずモーター音のみ。コレはっ! ホンダも遂にフォーミュラE(電気自動車によるフォーミュラカーレース)に参戦か!? と思ったが、我々のスクープ情報網を使ってリサーチしたところ、それとは異なる意外な答が得られた。
このフォーミュラカー、たしかに電気自動車(以下EV)ではあるのだが、「Dynamic Charging System(大電力充電システム)」の実験車両であることが判明したのだ。
EV充電走行距離の短さを解決するホンダの実験
日産のEVリーフが世界販売累計台数40万台を達成するなど普及が進んでいるが、いまだに解決できないのが充電一回あたりの走行距離の短さだ。最新の日産リーフでカタログスペックの充電距離は、バッテリー容量にもよるがWLTCモードで322〜458km。これはエアコンなどの電装系の使用状況や走行状況でかなり変わる数字であり、実際はカタログスペックの6〜7割の走行可能距離だろう。
となると、長距離走行において充電回数やその煩わしさが課題となってくる。そこでホンダがこの解決のために研究しているのがDynamic Charging System(大電力充電システム)というワケだ。しかも高速走行中でも大電力充電が可能なものを目指しているという。
走行中でも充電というと、今のところ一般的にはワイヤレスと呼んでいる非接触式が研究されている。スマートフォンでは数年前から実用化され現在は対応機種が増えているが、クルマの世界ではまだまだ実験・研究段階。ワイヤレス充電インフラ構築の複雑さやワイヤレスで給電する際の人体などへの影響などさまざまな問題点が浮かび上がっている。技術的には可能でも、実用化となると一世紀先とささやかれていたりもするのだ。
え、それって電車のパンタグラフ!?
そこでホンダが目を付けたのが、鉄道などではすでに当たり前の接触式給電方式。電車のパンタグラフ、まさにアレである。クルマに搭載するにあたり、ボディサイドからニョキッと生えるアーム式を採用。今回我々が目撃したテスト走行では、オーバルコース・ストレートのガードレールに充電レーンを設置。充電レーンの架線とアーム(集電ユニット)を接触させることで走行中の充電を可能にしている模様だ。関係者によると、この充電レーンは道路にワイヤレス走行中給電システムを埋め込むのに対し1/20程度の費用で設置できるとのこと。すべての道路に充電レーンを設置するのではなく、必要な場所に設置すればいいらしい。簡単に言えば、充電が必要なときに充電レーンを走り給電。また電池が減れば給電と一定の条件では航続距離無制限というインフラを目指している。
レース参戦も視野に!? EV普及のカギとなるか
このシステムは充電方法の簡素化だけでなく、クルマの運動性能の向上にも繋がるという。まずはバッテリー。現在のEVでは大きくて重たいこのバッテリーが充電レーンによる充電タイミングが増えるため、半分のサイズでOKになるという。さらに重量減により運動性能が向上=運転の楽しさの向上も狙っているのだ。それが今回目撃したフォーミュラカーボディに繋がる。もちろん乗用車などでも実験・研究が行われているようだが、レーシングカーで実験とはいかにもホンダらしい。研究スタート時には180kWで120km/h前後での走行中充電実験から、現在では450kW、200km/hの充電走行実験を検証している模様だ。200km/hといえばもうレーシングスピード。これだけの規模の研究・実験ながら、ホンダ社内の有志による勉強会レベルだという。しかしながらその志は高く、ル・マン24時間レースなどで、デモランや特別枠で参戦!? なども狙っているらしい。次の一世紀までを繋ぐ現実的なEV普及の解決策。今後どんな展開をするのか楽しみだ。