YM倉庫発掘団

栄光のヨシムラ、スズキGS1000Rに乗る【復刻インプレ from 1980】

鈴鹿8時間におけるヨシムラ・スズキGS1000Rの鮮かな勝利は、まだ記憶に新しい。その勝利を記念してスズキは素晴しい試乗会を開いてくれた。そう、GS1000Rの、それも3台。さらにポップ、クーリー、クロスビーの3人のヒーローを加えて…。 ※ヤングマシン1980年11月号より

クロスビー/クーリー組が世界選手権鈴鹿8時間レース優勝

マン島2位、アルスター優勝でTTフォーミュラ世界チャンピオンとなり、イギリス国内では連戦連勝を続けているクロスビー。TZ750を2度も破って優勝し通算でもAMAフォーミュラ1のランキング3位となり、スーパーバイクでもチャンピオンの可能性を残しているクーリー。今や、2人のライダーとヨシムラ・スズキGS1000Rは、TTフオーミュラ規則に従って作られた “世界最速の4サイクルレーシング・コンビ”と呼んでもよい。

TTフォーミュラ規則とは、 ●通常の販売ルートを通じて毎年3月1日までに1000台以上を市販したロードバイクをベースにし ●通常のガソリンで動き ●完全な電気装置を備えていること、追加の電装も認められる ●スタート装置と発電機を備え ●エンジンの型、シリンダー数、ストローク、シリンダー、シリンダーヘッド、クランクケースの材質と鋳型と変えないこと。 ●吸排気装置、気化器、ディフューザーの数、型およびサイズを変えないこと ●ギヤボックスは最大6速まで ●燃料タンクはフォーミュラ1で は最大容量24L ●エンジン排気量はフォーミュラ1から4まで、2サイクルと4サイクル各々に規定され、フォーミュラ1 では2サイクル350~550cc、 4サイクル600~1000cc。●ボアアップはクラス区分の限界までできる──などというのが主な内容となっている。世界選手権耐久レースは、このように市販ロードスポーツを改造したTTフォーミュラ1マシンで争われているのである。

【YOSHIMURA GS1000R 1980年鈴鹿8耐優勝車】小柄な車体は180㎏しかない。それを130psで引っ張るのだ!

●GS1000Rのプロフィール

GS1000Rは意外に小柄だ。全長2045mm、ホイールベース1400mmの車体は、ナナハン以下である。しかし、クロモリ製のフレームはステアリングヘッド廻りを充分に広げ、やや前下がりにエンジンを配置したガッチリした造りだ。やや立ち気味のフォークは、削り出しのボトムケースにスズキ自慢のアンチ・ノーズダイブ機構を備えた太い特製品。スイングアームは箱形断面の総アルミ製で下方に補強ループを持つRGBスタイルのもの。リヤショックはガス/オイル式 で倒立に深く傾斜して装着。

ポップ吉村氏がチューンしたエンジンは、放熱効果を高めるために特殊な表面処理によってフィン 面積を2倍近く増加した上に、機関銃用に開発されたアメリカ製放熱塗料を塗られ黒い姿をさらす。ボア/ストローク70×64.8mmの997.5ccから圧縮比11で、耐久レース用には130ps/10000rpm、スプリント用なら140ps/10500rpmという最大出力を発揮する。キャブレターはミクニ製31mm径のCRキャブ、耐久レース用には28mmのリングを入れ規定に合わす。長いベルマウス、クランクケース下で4into1された太い直線テールパイプを持つ吸排気系が、強力なパワーと図太い中速トルクの存在を物語っている。この中速トルクは、7000rpmで100ps前後の出力に達するほど強力なものである。

「12」は鈴鹿ウイナー。手前が本邦初公開TTフォーミュラ1仕様。

耐久レース用のマシンは、ドラチェーン取り出しのカウンター・スプロケット上にかぶせた特製のジェネレーターを装備する。同時にセルモーターを内蔵し、大型12Vバッテリー、スポイラー効果を狙った効果的なセミカウル内にヘッドライトを内蔵する。こうして、乾燥重量180kgの耐久マシンと、イギリス国内のフォーミュラ1レース用に不要な電装品を外した乾燥重量170kg足らずのスプリント用GS1000Rが双生児として生まれたのである。本来なら、3本スポークのダイマグ製ホイールにイギリス・ダンロップ製KRI08とKR IIIスリ ックタイヤを装備するのだが、今回は雨のためグルービングが施されている。全体の印象はオーソドックスだが、レースに勝つためだけに生まれてきたマシンの持つ機能的な美しさと凄みを感じさせるのだ。

マシンのディテール。

●強烈TT・F1パワー!

クォーンというエキサイティングなサウンドが、ゆるい起伏を2カ所に持つ直線コースの外れから聞こえ、どんどん大きくなる。叩きつける雨の中、小さく見えたマシンは急に姿をふくらまし、猛烈な水煙を従えて目の前をビュンと通り過ぎ、再び小さくなる。クォーン、クォーンというシフトダウンの音が響き、右200Rの1コーナーに飛び込んで、つかの間は姿を消す。目の前数メートルを通り過ぎるGS1000Rの速さは、この雨の中では幻のように見える。GS1000Rに乗れるという期待と喜びは、自分の番が近付くにつれ重苦しい緊張感に変わる。

ゼッケン20のシートにまたがると、大柄な外人ライダー向きのポジションは、意外に前後に長い。カチカチの身体ではコントロールは夢また夢。転倒しないことだけに専念する。しかも、ミッションは1アップ4ダウンのレーシング・パターンになっている。「エンジンは4000でも廻るよ、かぶらしたらギヤダウンして空吹かしすれば、直ぐに回復する」、こちらの気持を察したらしい吉村氏がアドバイスしてくれる。

シフトペダルを手で引き上げてローを確認。スロットルを心持ち開き、2人のメカニックに押してもらい、シートに腰を下すと同時にクラッチミート、あっ気ないほど簡単にエンジンが始動した。しかしだ、濡れたコースをノロノロと走ってゆくと、鈴鹿でシュラクター/コール組が使用したこのマシンはフロントが滑り出しそうな感じで、余計に緊張する。これは、僕のペースが遅すぎるためで、まともに走れば操安がどうなるかは別問題になる。

「20」は鈴鹿8時間でシュラクター/コールの乗ったマシン。同仕様とはいっても「12」とは微妙に乗り味が異なる。

直線だけでもとスロットルを開けてみる。6000rpmからトルクが急激に増加し、7000rpmからは蹴飛ばされたように加速がつく。それは、普通の750ccのローかセカンドの全開加速が、GS1000Rは5速に入れても続く感じだ。直線の突起部でハンドルが一瞬振られる。だが直ぐにおさまり、水溜まりのやや深そうな所にマシンをわざと向けてみたが、時速250km近くでも直進性は崩さない。ストレートの中ばを過ぎ、ピット手前で回転計は10000rpmを指している。灰色のコースが急速に縮む。秒速80メートルというのは何て速さなのだ。

充分過ぎる距離をとって1コー ナーへのブレーキング。やや強めにセットされたアンチ・ノーズダイブの効果が、沈み込もうとするフロントをしっかりと上げる。次に乗ったクロスビーがイギリス国内のフォーミュラ1レースで 連戦連勝を続けているスプリンターは、全体が堅めにできている。クロスビーの体重と速さに見合うだけサスペンションも堅められて、より軽く遅いライダーでは沈み込みも少なく、重心も高く感じられ、目線も高いようだ。

耐久仕様より軽量な車体にプラス10馬力のパワーを与えられたTTフォーミュラ仕様のGS1000R。

エンジンは強烈だ。最終コーナを廻り、車が完全に真直ぐになったのを見計らって全開にすると、ミシュランのスーパーレインがス リップするにもかかわらず、フロントが一瞬浮き上ってくる。7000~10000rpm までの加速力は蹴飛ばされた上に強風にあおられたようにグンと伸びてゆく。3台のマシンの中では8時間レースに優勝した「12」は、ややアンダ一傾向を強く感じた他の2台に比較して倒し込みは軽く、向きも変わり易く、乗りやすく感じた。しかし、本当の姿はクーリーのようなペースで走らねば判りようがない。余裕のある走行と限界走行では特性が逆転することも、レーシングマシンではありうる。しかし、直線で280km/hに達するマシンを雨の中で並みのライダーが走らせる事ができたのは事実だ。

9月13、14日、つい先日行なわれた伝統のボルドール24時間耐久レースでヨシムラスズキGS1000Rは見事、1-2フィニッシュという偉業を成し遂げてしまった。遠い日本の地でニュースを聞いた僕の脳裏に、鈴鹿の、そして竜洋での熱い興奮が鮮かに蘇ってきた。

この日用意された3台中、最もマイケルにフィットした「12」。

POP吉村インタビュー

スピードショップにとって、ベースにするエンジンをどうするかで運命が変わってしまう。これはいけるというエンジンは分解して徹底的に可能性を研究して決定する。スズキとの出会いは、アメリカに住んでいた頃、「サイクル」という雑誌でGS750のエンジン分解写真を見て、これはいけるんじゃないかと思いコンタクトして、鈴木自動車の横内次長とお会いした。それからは、男と男の約束。4サイクルエンジンはスズキが最も進んでいるし、こちらからの注文にも対策は早いし、理想的な協力関係で仕事が進められた。

アメリカにいた時の話だが、日本なら場所もないし1000ccや 750ccで走れる所もない。レースも人気がないが、アメリカでは市販車が出るとワーッとサンデーレースに出場してくる。スズキの場合は1000ドル、22~3万円もかければぐっと速くなってトップクラスになる。勝てるかとなると倍くらいかかるが、それぐらいで充分に楽しめる。金かけないで勝てるマシンでなければならないが、それにはGS1000がトップです。チューニングの決め手はクランクなんだが、この点でもスズキGS1000はいける、これしかないという感覚があった。

1978年に続き1980年の鈴鹿8耐でも優勝したヨシムラを率いていたのが、吉村秀雄氏。愛称は”POP吉村”だ。

●レポート:マイケル黒田 ●撮影:櫻井健雄 ●カラー写真:鈴鹿サーキット


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