
[Q] スポーツバイクのレバーと言えば、右にフロントブレーキ、左にクラッチの2本のレバーが一般的。ところが、2021年にファイナルモデルとなったヤマハのSR400や、イギリスやイタリアの旧車のハンドルには、それ以外に「デコンプレバー」と呼ばれる短いレバーが付いている。車両オーナーならご存じだろうが、このレバー、いったい何をするモノなのか?
●文:ライドハイ編集部(伊藤康司)
[A] 人力(キックスタート)でエンジンを始動するのに必要な装備
デコンプレバーは、“エンジンを始動するのに必要な装備”…なのだが、そう言われてもよくわからないので、順を追って解説しよう。
まずは少しさかのぼって、現在主流の4ストロークエンジンが動く仕組みから少々おさらいをする。
まず、インジェクションのスロットル(以前はキャブレター)で、ガソリンと空気を混ぜた混合気が作られる。
- エンジンのピストンが下がり、かつ吸気バルブが開くことで、混合気をシリンダー内に吸い込む(吸気行程)
- 吸気/排気バルブともに閉じた状態でピストンが上昇し、混合気を圧縮(圧縮行程)
- 点火プラグから火花が飛び、圧縮された混合気が燃焼/爆発(爆発行程)
- 爆発力でピストンが押し下げられ、クランクシャフトを回して動力を発生。同時に排気バルブが開いて燃焼後の混合気(排気ガス)を排出(排気行程)
この4つの行程を繰り返すことでエンジンは回り続ける。
そしてエンジンを始動するには、電気モーター(セルフスターター)もしくは人力(キックスタ-ター)によってクランクシャフトを回すことで、前述した行程をスタートすれば良いわけだ。
とはいえ②の圧縮行程は、吸い込んだ混合気を10分の1ぐらいまで押し縮める必要があるので、大きな力が必要となる。小排気量ならともかく、中排気量以上や高圧縮のスポーツエンジンだと、人力(キックスターター)で勢いよく踏み下ろすのは至難の業。
すでに混合気を吸い込んでいたり、ピストンの位置によっては、キックアームに全体重を載せてもびくともしないことも珍しくない。
また、電気モーター(セルフスターター)なら、エンジンがかかるまでギュルギュルとクランクシャフトを回し続けられるが、キックスターターを1回踏み下ろしても、クランクシャフトは1回転+αしか回らない。
4ストロークエンジンは、クランクシャフト2回転で1回爆発する仕組みだから、エンジンがかかりやすいタイミングの良い場所から踏み下ろす必要がある。
そのタイミングの良い場所とは、勢い良くクランクシャフトを回す必要も合わせて考えると、ピストンが②の圧縮行程を過ぎた位置が最適だ。とはいえ、前述の通り高圧縮で簡単には動かないキックアームを、ジワジワ踏みながら圧縮行程を過ぎるまで作動させるのは困難だ。
デコンプレッション=圧縮を抜けばラクにキックを踏み込める!
そんな状況をクリアするのが、デコンプレバーだ。デコンプとは「デ・コンプレッション」の略で、“圧縮を抜く/なくす”といった意味。キックスタート時に、圧縮行程でシリンダー内の圧力が高まった際に、デコンプレバーを引くと排気バルブを少し開いて圧縮圧力を逃す機構だ。
そのためキックアームを軽く踏み込んで、エンジン始動に適した“圧縮行程を過ぎた位置”を出すことが可能になる……
【YAMAHA SR400】大排気量の4ストローク本格オフローダー・XT500をベースに、トラッドなデザインを纏ったロードスポーツが、SR400/500として1978年に登場。超ロングセラーモデルとして君臨したが、厳しさを増す騒音規制や排出ガス規制の波には抗えず、惜しまれながらも2021年にファイナルモデルをリリースし、43年の歴史の幕を閉じた。
SR400のエンジン始動はキックスタートのみ。一連の所作は趣味的で、マニアには好評だ。「玄人はデコンプを使わずに始動できる」という説もあるが、脚力や労力だけでなく、キックアームや関連メカニズムにも大きな負荷がかかるので、キチンとデコンプ機構を使ってエンジン始動するのがオススメ。“タイミングの良いピストン位置”が正確に解るキックインジケーターを装備しているので、手順に沿って操作すれば、(慣れは必要だが)簡単に始動することができる。とくに2009年からのFI(電子制御フューエルインジェクション)のモデルは、すこぶる始動性が良い。
※本記事は2022年4月4日公開記事を再編集したものです。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
ライドハイの最新記事
硬派なライダー向けに180°クランクの高回転ツインを搭載! カワサキがZ750FX系列の末弟としてZ250FTをリリースしたのは1979年2月。 1970年代のはじめから、250ccのスポーツバイクは[…]
ジェネシス末弟の新世代を狙う2モデルに鋏まれた濃淡2パターンのレプリカ! 1985年4月、ヤマハは宿敵ホンダが1982年に放ったVT250Fの人気に待ったをかけるべく、4気筒のFZ250 PHAZER[…]
後方排気はYZR500の後ろバンク、ただ一般公道で前方吸気は容易くなかった! ヤマハは1980年、レーサーレプリカ時代の幕開けRZ250をリリース。排気ガス規制で2ストロークは終焉を迎える寸前だったの[…]
ホンダのスポーツバイク原点、CB72とマン島T.T.イメージを詰め込んだクラブマンだった! ご存じGB250クラブマンは1983年の12月にリリース。同じ年の4月にデビューしたベースモデルのCBX25[…]
吸収合併したメグロの500ccバーチカルツインを海外向けスポーツの650へ! ダブワンの愛称でいまも濃いファンに愛用されているカワサキのW1。 このWシリーズをリリースする前、カワサキは2スト小排気量[…]
最新の関連記事(Q&A)
A:どちらも不具合。後ろはアフター、バックは戻ると覚えるべし 未燃焼ガスがシリンダー外で燃えるという意味では、どちらも同じ”不調”を表している。アフターファイアーはマフラー側に流れた未燃焼ガスが引火す[…]
A.クラッチを切らずにギヤチェンジできるクイックシフターは便利なはずですが、確かに操作するときの状況によっては仰るようにギクシャクしたりショックがあって怖い思いをするかも知れません。加速(増速)側の場[…]
振動の低減って言われるけど、何の振動? ハンドルバーの端っこに付いていいて、黒く塗られていたりメッキ処理がされていたりする部品がある。主に鉄でできている錘(おもり)で、その名もハンドルバーウエイト。4[…]
A.慣れたコーナーには先が見えている安心感で、そこそこアベレージ高くコーナリングできる満足感を楽しめます。でも慣れているからこそ潜んでいるリスクも考えましょう。知らない道のほうが楽しいといえる走り方こ[…]
Q.ツーリングへ出かけるとバイクのすぐ前の路面ばかり見てしまいます。そのため先のほうの様子に気づくのが遅れ、カーブの手前で慌てます。「遠くを見ろ」とよく言われますが、先を見ていると手前の路面が心配にな[…]
最新の関連記事(メカニズム/テクノロジー)
ケーヒン/ショーワ/ニッシン/日立を統合した“日立Astemo(アステモ)”が4月より“Astemo”へ 自動車業界で「100年に一度」と言われる変革期を迎えるなか、キャブレターや電子制御スロットル、[…]
【冒頭解説】ECUをサスペンションに一体化、フロントフォークに自動車高調整を初採用 2021年1月に日立オートモティブシステムズ、ケーヒン、ショーワ、日信工業が経営統合して誕生した日立Astemo(ア[…]
ヤマハ発動機と三菱重工業は、200kgの貨物を搭載可能な中型マルチコプター型無人機(以下、中型無人機)の開発に向けた共同研究を行っていることを発表した。 パワーユニットには、ヤマハが2023年にコンセ[…]
スズキは、5月から7月にかけて横浜・名古屋・オンラインで開催される「人とくるまのテクノロジー展 2025」(主催:公益社団法人自動車技術会)に出展する概要を発表した。 今回のスズキブースでは、2025[…]
ヤマハ発動機は、5月21日(水)~23日(金)にパシフィコ横浜で開催される国内最大級の自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展2025 YOKOHAMA」(主催:公益社団法人自動車技術会)に出展し、同[…]
人気記事ランキング(全体)
愛車とコーディネートしやすい4色のニューグラフィック ベンチレーション機能も優れており、100km/h走行時のアッパーエアインテークの流入量は従来モデル比で約1.2倍、トップエアレットからの排出量は約[…]
あったよね~ガンスパーク! 「ガンスパーク」ってありましたね~。覚えてるだけじゃなくて、実際に使ってみたという方も多いのではないでしょうか。1980年代後半~1990年代前半は、どのバイク雑誌を開いて[…]
1位:直4ネオクラシックZ400RS最新情報/予測 最強400ccモデルであるニンジャZX-4Rをベースとした直列4気筒のヘリテイジネイキッド「Z400RS」(仮称)が開発されているという噂。77ps[…]
ギラギラの深い艶でボディが潤うと評判のチューブ入りのクリーム状ワックス「ゼロクリーム」に、新しい仲間が加わります。 白と緑が反転したパッケージが目を惹く「ゼロクリーム ノーコンパウンド」! その名の通[…]
参戦初年度でチャンピオンを獲得したRCB1000と次世代のフラッグシップCBが競演 ホンダは、「2025 FIM 世界耐久選手権“コカ・コーラ”鈴鹿8時間耐久ロードレース第46回大会」(三重県鈴鹿サー[…]
最新の投稿記事(全体)
2025年モデルではさらなる排熱&快適性を徹底追求! 空冷式ジーンズは2022年の登場以来、完成度を高め続けてきた。2024年には走行風取り込み効率を150%にまで高めたフィン付き空冷式ジーンズを投入[…]
姫川沿いダートからの北アルプス(飛騨山脈):大出(おいで)の吊橋で知られる大出公園へと姫川本流沿いのダートが続いている。田畑の遥か向こうには北アルプスの山並みが横たわっていた。 どこを見ても絶景の白馬[…]
身体の内側から危険を察知する「熱ごもりセンサー」内蔵 猛暑が続く夏がやってきた。ヘルメットを被り、革ツナギやジャケットをまとうバイク乗りにとって、もっとも警戒すべきは熱中症。いくら風を切って走っていよ[…]
講習内容を検討する“指導検討委員会” が開催 2025年1月29日、埼玉県知事公館において「令和6年度 高校生の自動二輪車等の交通安全講習に係る指導検討委員会」(以降、指導検討委員会)が開催された。本[…]
日本時間16時(欧州時間9時)に“スペシャルなニュース”が! スズキは、国内サイトとグローバルサイトのそれぞれに、同社を代表するスーパースポーツ「GSX-R」シリーズが初代「GSX-R750」の発売か[…]