●文:ライドハイ編集部(伊藤康司)
無類の安定性による信頼感と巨大ボアのワイルドな瞬発力。スポーティーな魅力でファンを惹きつけてきた
前から見ると、両側に巨大なシリンダーが突き出た水平対向“ボクサー”エンジン。ボクサーが胸のところでグローブを水平に突き合わせるポーズが、ふたつのピストンが往復する動きを象徴しているので、そう呼ばれることとなった。
このエンジン形式の最大の特徴は、シリンダーが水平なので、クランクシャフトから上に重いエンジン機構がなく、そのため低重心で走行安定性の高さが抜群。
ボクサーが誕生した100年近く前から第二次世界大戦あたりまで、非舗装路が多かったり、舗装されていても路面がバンピーだったりしていた環境で、ライバルより高速で走れる圧倒的優位さで、マン島をはじめ世界のレースも制していた最強エンジンだったのだ。
天才エンジニアが作った高耐久のエンジン
その当時に人気だったもうひとつの理由に、耐久性の高さがあった。航空機エンジンのメーカーだったBMW(丸いマークの中に白と青が十字で配色されているのは、回転しているプロペラと空の青をモチーフしたもの)が、第一次大戦の敗戦で航空機産業が稼働できなかった事情から、航空機用としてはメジャーな水平対向2気筒エンジンを、オートバイメーカーに供給しようと設計したのがそもそものきっかけだった。
このエンジンを手がけたマックス・フリッツという天才エンジニアは、どうせなら車体も自社で生産して完成車メーカーを目指そうと、実は車体構造と一体化を構想していたのだ。
クランク軸を車体の進行方向と同じ縦にマウントし、当時は別体で繋いでいたトランスミッションやクラッチをひとつのエンジンケースに収め、しかもシャフト駆動として、チェーンやベルトによる駆動で切れて立ち往生するトラブルの多かった時代に、故障知らずの耐久力の圧倒的差異をアピール。重心の低い高速走行も可能な安定性とともに、瞬く間にベストセラーとなった。
その後、一時は2輪からの撤退も考えられたが…
しかし第二次大戦後、舗装路の整備も進み、バーチカルツインなど英国製スポーツが台頭し、その後1970年代には日本製4気筒がマーケットを独占。BMWは、ツーリングモデルとして初のフルフェアリングを纏ったR100RSに活路を見出そうとしたが、厳しくなる一方の排気ガス規制に空冷ボクサーの将来を悲観して、2輪から撤退も検討するほど窮地に追い込まれた……
※本記事は2020年12月24日公開記事を再編集したものです。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
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