
iB井上ボーリングが積極的に展開してきたICBM®技術。内燃機ファンの間ではもはや当たり前であり、高性能な技術としても認識されている。ここではそのICBM®技術にあらためて注目し、未体験のユーザーにお知らせできればと考えている。前回の記事に引き続き、第2回の記事をお届けする。
●文/写真:たぐちかつみ(モトメカニック編集部) ●外部リンク:iB井上ボーリング
現代のめっきシリンダー技術を、往年の名車や旧車エンジンに
オイル交換をしっかりかつ定期的に行っていても、長年乗り続けることでどうしてもすり減ってしまうのが鋳鉄シリンダースリーブ。そんな鋳鉄スリーブに対して、圧倒的な表面硬度を誇り、摩耗しにくい技術として知られているのが現代の“めっきシリンダー技術”である。
21世紀に入り、自動車やオートバイメーカーの多くが新車エンジンに施しているその技術。もはや当たり前とも言えるこの技術を、往年の名車や旧車エンジンに施しているのが、iB井上ボーリングによる「ICBM®」技術である。
これは単に物理的かつ性能的に優れたものというだけではなく、iB井上ボーリングは、この技術の展開で世の中にある内燃機関を“モダナイズ”していこうと提唱しているのだ。
今、時代は旧いバイクやクルマを大切にしよう、といったムーブメントの渦中にある。内燃機関を搭載した乗り物に限らず、昭和の時代に誕生した工業製品に注目している若者世代(30代前半より若い世代)は数多い。
旧いものをすべて捨てて、新しいものに交換することで“公害が少なく省電力なものに切り換えよう”といった動きが目立つ昨今だが、歴史的文化価値があり、特別不具合があるわけでもないのに、旧いもの=悪いもの、と考えられているフシもある。
SDG’sといった活動も盛んだが、すべての自動車を電気自動車に切り換えるなんてことを考えたら、それはもう大変。新しいクルマや商品を作るために、どれだけの資源や、具体的にどれだけの電気が必要になるのか…。現代の考え方は理解しているつもりだが、いま世の中にあるものを改善して生かし続けていくという考えがあっても決して不思議ではないし、やり方次第では相当な効果も得られるはずだ。
そんな中で注目に値するのが“モダナイズ”だろう。壊れたところを単純に直すだけではなく、明らかな欠点は現代の技術を応用してカバーしていく。しかも造形的かつ見た目に変わりはなく、高性能化/高品質化されれば申し分ないはずだ。
そのようなモダナイズによって、永遠に近い命を与えて未来に残していくこと、ICBM®推進の根底には、そのような考え方もあるようだ。現代の技術や設計思想から見れば、旧い製品には明らかに劣っている点や間違っている点が必ずある。商品開発された当時、それを解決することができないまま製品化されて、世の中へ出てしまってたものも多いだろう。
一方で、旧いオートバイには現代のモデルにはないテイストや文化的背景があり、未来に残さなければいけないとの考えもある。ICBM®思想とは相通じるものがありそうだ。
旧き良き時代のオートバイには、良い点もあるが欠点もある。それを理解していながら、すべてが「当時のままがいい」と考え、欠点までをも再現再生するのはいかがなものだろう。その欠点が製品寿命を短くしているケースも少なくないし、安全性に影響しているケースも時にはある。
飾っておくだけの骨董品とは違って、旧いオートバイは、いくら価値が高くても走らないといけないし、走らなくては意味がない乗り物。だからこそ工業製品でもあるオートバイを現代の目で見直し、技術的な欠陥は積極的にモダナイズすることで、来世へ継承するべきものとなるだろう。
そんな旧技術の中でも、劣っている部品の代表と言えるのがシリンダースリーブなのかもしれない。事実、多くのシリンダースリーブが鋳鉄製であり、重くて摩耗し、サビやすくかつ焼き付きやすい特徴もあった。
当時は、それでも代替部品が他になかったのでやむを得なかったのだが、現代には優れた特殊めっき技術があるのだから、これを採用しない手はないだろう。
アルミめっきスリーブの採用によって、オリジナルスペックを壊してしまうことはなく、オリジナルの良さを保ったままで耐久性を圧倒的に高めることができ、工業製品としての価値も高めてくれる。
また同時に、エンジンとしての価値も高まるはずだ。モダナイズは時代の要請に応える技術思想でもあって、その技術を具体的に商品化しているのがICBM®でもある。
スタンダードスペックでシリンダーをICBM®化するだけでも、エンジンとしての良さはなんら損ねることはない。圧倒的な耐久性の向上と軽量化、何よりエンジンに優しい耐防錆性の向上や熱膨張率の均一化などを手に入れることができるのだ。しかも代償となる欠点などどこにもないのが、再認識すべきICBM®技術と言えるだろう。
特殊めっき処理済のICBM®スリーブをヤマハSRエンジンのシリンダーへ焼き嵌め中。冷える間にスリーブがズレ抜けないように油圧プレスで押し付け固定している。
今どき鋳鉄シリンダーを採用している現行モデルのスーパーカブシリーズ。エンジン分解時にICBM®スリーブへの入れ換えを希望するユーザーも増えている。特殊めっきのアルミスリーブ仕様は、放熱性がとくに高まる。
左から純正の鋳鉄スリーブ、中は特殊めっき処理を終えたアルミスリーブ。右がスリーブ単体ですでにホーニング処理を終えているエバースリーブ。カワサキ900Z1用だ。
指定ピストンに対し、ホーニング完成済みスリーブとして販売されているカワサキZ1用エバースリーブ。国内はもとより海外からもオーダーが入る。このキットパーツなら、iBだけではなく他の内燃機業者でICBM®化が可能に。
オーダー時にはダミースリーブが製作され、吸排気/掃気ポートの高さや位置を確認してから本製作に入る2ストエンジン用ICBMスリーブ。数多くのダミースリーブがある。
ミドルクラスで人気のホンダCB400TホークII用やクランクケース一体のレーサーレプリカ、水冷エンジンのVFR750R/RC30のICBM®化も実績がある。その他にも、空冷エンジンではさまざまなモデルで採用されるモダナイズ技術だ。
鋳鉄ブロックのエンジン、これはスズキの2ストジムニー550(SJ30)のシリンダーだが「鋳鉄シリンダー× ICBM®」も、じつは注目の技術と言えるだろう。このあたりの詳細に関しては、別途リポートしたい。お楽しみに!!
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
バイクいじりの専門誌『モトメカニック』のお買い求めはこちら↓
モトメカニックの最新記事
“思い出の1台”に乗りたい バイクメーカーがニューモデルを開発する際は、ユーザーがそれを受容できるか、あるいは新たなマーケットを作り出せるかが重要。レーサーレプリカもネイキッドも、それがウケると分かっ[…]
単気筒1ボディと4連キャブでは洗浄段取りに違いあり。 超音波洗浄が可能なら、完璧に近い仕上がりに!! いつかそのうち乗るつもり…という「いつか」が数ヶ月から数年になり、もうダメか…となるのが長期放置車[…]
ギボシ端子取り付けのポイントをおさらい バイクいじりのレベルやセンスは、その人が手がけた作業の跡を見れば一目瞭然。電気工作なら配線同士をつなぎ合わせる際、芯線をねじってビニールテープでグルグル巻きにし[…]
バイクとの親和性はスマホを圧倒的に上回る AKEEYOが販売する「AIO-6LTE」は、太陽光の下でもはっきり見える視認性の高い大型6インチのIpsモニター、Wi-FiとBluetoothによるスマホ[…]
販売終了が続く絶版車用純正部品を信頼のMADE IN JAPANで復刻 長期間不動状態だったバイクを再始動する際、キャブレターやガソリンタンクの状態もさることながら、クラッチの張り付きも懸念事項のひと[…]
最新の関連記事(メンテナンス&レストア)
単気筒1ボディと4連キャブでは洗浄段取りに違いあり。 超音波洗浄が可能なら、完璧に近い仕上がりに!! いつかそのうち乗るつもり…という「いつか」が数ヶ月から数年になり、もうダメか…となるのが長期放置車[…]
どうする? スクーターのエンジンがかからない ※これはまさに、筆者が直面した実話です。我が家のスクーター(TODAY)に乗ろうと思って、車庫から引っ張り出しました。ちょっと久しぶりですね。エンジンをか[…]
ギボシ端子取り付けのポイントをおさらい バイクいじりのレベルやセンスは、その人が手がけた作業の跡を見れば一目瞭然。電気工作なら配線同士をつなぎ合わせる際、芯線をねじってビニールテープでグルグル巻きにし[…]
販売終了が続く絶版車用純正部品を信頼のMADE IN JAPANで復刻 長期間不動状態だったバイクを再始動する際、キャブレターやガソリンタンクの状態もさることながら、クラッチの張り付きも懸念事項のひと[…]
フレキシブルプラグソケット:スリムな外径で汎用性をアップした、ユニバーサルジョイント一体ソケット 最初は指でねじ込んで、ネジ山が噛み合ってからプラグソケットを使うのが理想だが、雌ネジがプラグ穴のはるか[…]
人気記事ランキング(全体)
どうする? スクーターのエンジンがかからない ※これはまさに、筆者が直面した実話です。我が家のスクーター(TODAY)に乗ろうと思って、車庫から引っ張り出しました。ちょっと久しぶりですね。エンジンをか[…]
カスタムスピリットから生まれた英国ブランド まずMUTT Motorcyclesというブランドについておさらいしておこう。2016年、英国バーミンガムでカスタムビルダーのWill RiggとBenny[…]
“思い出の1台”に乗りたい バイクメーカーがニューモデルを開発する際は、ユーザーがそれを受容できるか、あるいは新たなマーケットを作り出せるかが重要。レーサーレプリカもネイキッドも、それがウケると分かっ[…]
日本の免許制度を考慮してナナハン4気筒と同時開発 GS750の弟分。世間にはそういう見方をする人がいるけれど、’76年から発売が始まったGS400を弟分と呼ぶのは、少々語弊があるのかもしれない。なんと[…]
随所に専用部品を投入したZシリーズ初のR仕様 Z1000の派生/上級機種として’78年に登場したZ1‐Rは、評価がなかなか難しいモデルである。まず当時の流行だったカフェレーサーの手法を取り入れながら、[…]
最新の投稿記事(全体)
エンデュランス バイクETCケース 汎用 EK395HANA1の概要 エンデュランスのETCケース EK395HANA1は、材質にSUS304を採用した黒塗装仕上げで耐久性と防錆性に配慮された製品です[…]
FLHXSE CVOストリートグライド:CVOでは唯一となるバットウイングフェアリング フラッグシップモデルを象徴するバットウイングフェアリング。そのアイコンを持つ最上級仕様が「CVOストリートグライ[…]
コンパクトで使いやすいワイヤーロック ヘンリービギンズの「デイトナ ワイヤーロック DLK120」は、質量約90gの軽量設計で、ツーリング時の携行に適したポータブルロックです。ダイヤルロック式のため鍵[…]
随所に専用部品を投入したZシリーズ初のR仕様 Z1000の派生/上級機種として’78年に登場したZ1‐Rは、評価がなかなか難しいモデルである。まず当時の流行だったカフェレーサーの手法を取り入れながら、[…]
125ccクラス 軽さランキングTOP10 原付二種は免許取得のハードルも低く、手軽に楽しめる最高の相棒だ。とくに重要なのは「軽さ」だろう。軽ければ軽いほど、街中での取り回しは楽になるし、タイトなワイ[…]
- 1
- 2