
ドライブチェーンのメンテナンスといえば、昔から“清掃”と“注油”がマスト。…だったハズだが、最近は一部で“シールチェーンは注油不用説”がひとり歩きしている様子。でも、本当に注油しなくても大丈夫なんですか? そんな疑問を、チェーンの販売メーカーであるサンスターに聞いてみた!
●文:伊藤康司 ●写真:長谷川徹 サンスター ●外部リンク:サンスター
「チェーンに注油不用説…」はどこから生まれた?
エンジンが生み出したパワーをリヤタイヤに伝えるドライブチェーン。1000ccスーパースポーツともなれば200馬力を超えるパワーを発揮するが、その大きなパワーをたった1本のチェーンが伝達している。冷静に考えるとその負荷はとてつもない。
それだけにチェーンのメンテナンスは必須。近年のチェーンは非常に丈夫なので、メンテ不足で切れてしまうようなことは滅多にないが、メンテの有無がチェーンやスプロケットの寿命を左右するのは間違いない。
そしてチェーンのメンテナンスといえば、清掃/注油/張りの調整の3点。ところが近年、ミドルクラス以上の多くのバイクが装備するシールチェーンは“注油が不要”というか“注油する意味がない”という話が広まっている。はたして本当だろうか?
小排気量車用や昔のバイクが使っていたシールリングを持たないチェーンは、リンクを繋ぐピンとブッシュを潤滑するために、定期的(相応に頻繁)な注油が必要だった。しかしバイクの大パワー化への対応やメンテナンスの簡易化のために、シールリングでグリスを封入したシールチェーンが登場した。
そこで一時期、従来からの注油メンテナンスが、必要か否かが問題になった…。
走行中のチェーンはもの凄いスピードで回転しており、強い遠心力がかかっている。そんな状況でも封入したグリスが飛び散らない強力なシールリングが装備されているので、潤滑スプレーを吹き付けたところでピンやブッシュの中には入っていかない。それに、そもそもグリスを封入しているのだから、さらに潤滑する必要はない…という理屈だ。
とはいえ、注油は必須だ!
注油の一番の目的は“シールリング”の保護。走行中のチェーンは前後スプロケットの外周に沿って屈曲運動しながら高速で駆動している。これによりチェーンは発熱し、厳しい走行環境下では80℃を超えることもあり、封入されているグリスやシールリングの炭化に繋がることがある。
これをシールリングにチェーンルブを注油することで防ぐことができる。またシールリングは常に外気にさらされているため、紫外線や乾燥などで劣化する。これもチェーンルブ注油によって防ぐことができる。シールリングの劣化はシールリング破断の原因になり、シールリングが破断した箇所は封入されているグリスが流れ出し、最悪の場合ブッシュとピンが焼き付いて固着しチェーン破断につながる。シールチェーンにとって大事なことはシールリングを劣化させないことなのである。
また、スプロケットの歯部分はチェーンのローラーによって絶えず大きなトルクで引っ張られ、叩かれ続けている。ローラー部分がチェーンルブによって潤滑されていれば、スプロケットの摩耗を最小限に抑えることができる。同時にシールリング保護のために吹き付けたチェーンルブは、プレート/ローラーのサビ抑止にも効果がある。
もちろん吹き付けたチェーンルブはチェーンが高速で駆動するため、遠心力によって吹き飛んでしまう分がある。しかし飛び散らずに金属表面に残る油膜も存在。これがとても大事なのだ。吹き飛んでしまうことも考慮し、チェーンメンテナンス時に余分なルブを吹き上げることで、飛び散りを最小限に抑えられる。チェーンルブを吹きかけてからすぐに走らず、時間をおいて各部に浸透させるとより効果が持続する。
メンテナンスはチェーンやスプロケットの寿命に直結!
こうした理由から、シールチェーンでも注油は必要なのだ。もちろん清掃や張りの調整といったメンテナンスも必須。反対にメンテを怠れば、シールリング切れによる潤滑不足やサビによってフリクションロスが増大し、チェーンはもちろんスプロケットの寿命も短くなる。
チェーンの清掃と注油の方法
最後にチェーンのメンテナンスの中で、簡単な“清掃”と“注油”の作業方法を紹介。頻度としては走行500kmごと、または雨天走行後に行うのが理想的だ。ちなみにチェーンの“張り調整”は、近年のバイク(とくに大型車)や外国車は特殊な工具が必要な場合もあり、ユーザー自身が行うのはハードルが高い車種も多いので、バイクショップに依頼するのがオススメだ。
【必ず専用ケミカルを使おう】清掃用のクリーナーや注油の潤滑材は、必ずチェーンメーカーが販売している専用品を使用すること。汎用のクリーナーや潤滑スプレーは溶剤を含んでいる場合があり、オイルシールやプレートのメッキを傷めることも少なくない。
清掃
【1:クリーナーを吹きかける】チェーン全体にまんべんなくクリーナーを吹きかける。滴り落ちたり他の部分にかからないように、ウエスや古新聞などを敷いたりカバーに使うのがオススメ。
【2:頑固な汚れはブラシで】汚れが落ちにくい場所はブラシで清掃。シールリングを傷めないように、毛足の柔らかいブラシを使用。ワイヤーブラシは絶対にNG!
【3:スプロケットも清掃】ドリブンスプロケットの歯の汚れも清掃。可能ならドライブスプロケットのカバーを外して、堆積した汚れを除去しよう。
【4:押し引きしてチェーンを回す】車体を少し動かしてチェーンの場所を変えて清掃。メンテナンススタンドで立てて車輪を回せば作業がラクだが、絶対にエンジンをかけないこと!
【5:汚れを拭き取る】クリーナーと汚れをウエスでキレイに拭き取る。チェーンとスプロケットに手を挟まないように注意!
注油
【1:チェーンルブを塗布】チェーン専用の潤滑スプレーを吹き付ける。他の場所(とくにタイヤ)に付着いないように、ウエスや古新聞などでカバーして作業しよう。
【2:プレートの隙間やローラーに塗布】外/内プレートの隙間のシールリングや、ローラー部に潤滑剤が行き渡るように丁寧に吹き付ける。清掃時と同様に車体を少し動かして、チェーン全域に塗布しよう。
【3:余分な油分を拭き取る】全体に潤滑剤を塗布したら、ウエスで余分な油分を拭き取る(拭き取りを行わないと、走行すると周囲に飛び散って車体が汚れる)。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
あなたにおすすめの関連記事
スプロケットメーカーが手掛けるチェーンだから安心! ワングレードで選びやすく! お財布にやさしい価格も実現 サンスターのチェーンは520/525/530の3サイズを用意。現行スポーツバイクなら250c[…]
海外のプロチームも採用する新時代のフローティングディスク フィーリングと耐久性を高める独自の締結方式 エプタ ステージ0の最大の特徴は、アウターディスクとインナーディスクを面で嵌合し、専用のカシメプレ[…]
自走でサーキットへ! その道中さえもがスポーティで楽しい タイヤをブリヂストンのバトラックス レーシングストリート RS11(以下RS11)に交換したBMWのS1000RRは、とてもしなやかに一般道の[…]
インドで開催されたスーパーメテオ650の試乗会に参加! EICMA2022でロイヤルエンフィールドが発表したスーパーメテオ650の試乗会に参加するため、人生2回目のインドにやってきた。デリーからジャイ[…]
田中愛生(たなか・あい)/群馬県出身。バイク好きの父の影響から二輪免許を取得。パリダカへの憧れ、そしてオフロード部隊による東日本大震災支援活動を知り、オフロードに興味を持つ。大学卒業後ニュージーランド[…]
最新の関連記事(メンテナンス&レストア)
旧車の開発に使われた”鉱物油”にこだわる 1992年に創業した絶版車ディーラーのパイオニア・ウエマツ。販売だけでなく、整備にも徹底して力を注いできた同社がそのノウハウをフィードバックし、旧車に特化した[…]
シュアラスターの「バイク洗車図鑑」 バイクが違えば洗い方も変わる! 車種別の洗車情報をお届けするシュアラスターの「バイク洗車図鑑」、今回は大ヒット街道まっしぐら、女性人気も高いホンダ「レブル250(S[…]
エアインパクトレンチ:手のひらに収まるサイズで500Nmを発揮。狭い場所で活躍する力自慢 ガレージにエアコンプレッサーを導入したら、まず揃えておきたいのがエアブローガンとエアゲージ、そしてインパクトレ[…]
ソケットセット:ツールキャビネットの引き出しにそのまま収まるトレイ付きZ-EALセット ラチェットハンドルもソケットも、専門メーカーのノウハウを注入して開発されたZ-EAL。その代表的アイテムをセット[…]
創業60年以上の老舗メーカーの強力アルカリクリーナーに注目 モータリゼーションの先進国・アメリカでは早くから洗車やディテーリング産業が確立しており、より短時間で効率よく愛車を輝かせるためのケミカル製品[…]
最新の関連記事(サンスター)
しどき、しどきってみんなが言う、あの「しどき」とは… 国美コマース主催「しどきレンタルモトクロス」は、年に数回定期的に開催しており、常連さんも多いイベント。会場となるのは、福島県いわき市にある「モトス[…]
ノーマルディスクと比較試乗 ブレーキディスクを比較するYZF-R7を2台用意 乗り比べたら驚きの結果!? 比較試乗は2023年5月に開催された「カスタムパーツライド2023」で行われ、袖ヶ浦フォレスト[…]
サンスターはなぜチェーンを作ったのか? スプロケットとの相性 フリクションロスの低減 軽量化 自転車や工業用チェーンのトップブランドが製造 このモーターサイクルチェーンはサンスターが細部にわたり監修し[…]
チェーンのプレート部分は伸びない! ではどこが伸びる? チェーンの構造 摩耗した分だけチェーンが長くなる! チェーンが伸びるとどうなる? 多くの中~大型バイクのチェーンは100リンク以上ある。そこでブ[…]
海外のプロチームも採用する新時代のフローティングディスク フィーリングと耐久性を高める独自の締結方式 エプタ ステージ0の最大の特徴は、アウターディスクとインナーディスクを面で嵌合し、専用のカシメプレ[…]
人気記事ランキング(全体)
カワサキ500SSマッハⅢに並ぶほどの動力性能 「ナナハンキラー」なる言葉を耳にしたことがありますか? 若い世代では「なんだそれ?」となるかもしれません。 1980年登場のヤマハRZ250/RZ350[…]
マーヴェリック号の燃料タンク右側ステッカー エンタープライズに配属された部隊 赤いツチブタは、「アードバークス」の異名を誇る米海軍「第114戦闘飛行隊(VF-114)」のパッチ。1980年代には第1作[…]
※この記事は別冊モーターサイクリスト2010年11月号の特集「YAMAHA RZ250伝説」の一部を再構成したものです。 ヤマハ RZ250のエンジン「2ストロークスポーツの純粋なピーキー特性」 ヤマ[…]
カラーバリエーションがすべて変更 2021年モデルの発売は、2020年10月1日。同年9月にはニンジャZX-25Rが登場しており、250クラスは2気筒のニンジャ250から4気筒へと移り変わりつつあった[…]
公道モデルにも持ち込まれた「ホンダとヤマハの争い」 1980年代中頃、ホンダNS250Rはヒットしたが、ヤマハTZRの人気は爆発的で、SPレースがTZRのワンメイク状態になるほどだった。 しかしホンダ[…]
最新の投稿記事(全体)
カワサキW800(2017) 試乗レビュー この鼓動感は唯一無二。バイクの原点がここに 1999年2月に発売されたW650は2009年モデルを最後に生産を終了。その2年後の2011年、ほぼ姿を変えずに[…]
旧車の開発に使われた”鉱物油”にこだわる 1992年に創業した絶版車ディーラーのパイオニア・ウエマツ。販売だけでなく、整備にも徹底して力を注いできた同社がそのノウハウをフィードバックし、旧車に特化した[…]
インパクト大なシリーズ初カラー 現代的ストリートファイターのMT-09をベースに、アルミタンクカバーなど金属の質感を活かした専用外装などでネオレトロに仕上げられた1台であるXSR900。3種のパワーモ[…]
イベントレース『鉄馬』に併せて開催 ゴールデンウィークの5月4日、火の国熊本のHSR九州サーキットコースに於いて、5度目の開催となる鉄フレームのイベントレース『2025 鉄馬with βTITANIU[…]
ロングツーリングでも聴き疲れしないサウンド 数あるアドベンチャーモデルの中で、草分け的存在といえるのがBMWモトラッドのGSシリーズ。中でもフラッグシップモデルのR1300GSは2024年に国内導入さ[…]
- 1
- 2