スーパースポーツはもちろん、ネイキッドやアドベンチャーなど、世の中のほとんどのバイクは「後輪が太くて前輪が細い」。みんなそうだし、見た目のバランスもよい(?)から疑問に思わなかったけれど……、グリップで考えたら前輪だって太い方が良いんじゃないの??
●文:伊藤康司 ●写真:山内潤也、関野温、長谷川徹、ホンダ
太さの違いは役目の違い
ジャンルや排気量に関わらずほとんどのバイクは後輪が太くて前輪が細い(前後輪で同じ太さのバイクは原付一種/二種のスクーターや実用車くらい)。その理由は、バイクのタイヤは前後輪で役目が異なるからだ。
後輪はエンジンのパワーなど、大きな荷重を受け止める。直進時はもちろん、コーナリングの立ち上がりではバンクした状態でパワーを路面に伝えてトラクションを稼ぎ、旋回力や方向安定性を発揮するためには高いグリップ力が求められ、それに見合った太さが必要になる。
それに対して前輪は、後輪の傾きに追従して旋回時には「つっかえ棒」的な役目をしているが、つねにステアリング軸で首を振っているのでベッタリとグリップはしていない。追従するには軽量な方が有利だし、後輪のように大きな荷重を受け止めるわけではないので、後輪ほどの太さを必要としない。コーナリング中は舵角がついた状態で後輪より外側の軌跡になるため、幅は細くてもきちんとグリップできるように、後輪より強く丸みが付いた形状になっている。
またブレーキング時は前輪に大きな荷重がかかるが、強くブレーキをかけるのはほぼ直立している時なので、やはりそれほど太さが必要にならないのだ。
ロードスポーツのタイヤサイズは、みんな近い!?
たとえばオフロードモデルは走破性や安定性などを優先するため前輪の直径が大きいし、レトロなネオクラシック系だと前輪は少し大きい18インチの車種もあるが、スーパースポーツやスポーツネイキッド、スポーツツアラー等のいわゆる「ロードスポーツ」の現行モデルは前後17インチが主流だ。
そしてタイヤ幅は、後輪に関しては大排気量やハイパワーなバイクほど太くなる傾向があるが、前輪はほとんど変わらない。国産も外国車もおおむね600ccを超えるロードスポーツだと、前輪は判で押したように120/70ZR17M/C(58W)を装着している。
250ccクラスやそれ以下のロードスポーツの前輪の幅は110や100で少し細くなるが、それでも大排気量車との後輪の幅ほど大きな差があるワケではない。ここからも前輪は後輪を追従するのが役目で、グリップ力を最優先にしていないことが伺える。
MotoGPマシンのタイヤサイズは?
ロードスポーツの最高峰であるMotoGPマシンのタイヤは、2016年からミシュランのワンメイク。2022年のMotoGP公式タイヤの名称は、ドライ用のスリックタイヤが「MICHELIN Power Slick」で、ウエット用のレインタイヤが「MICHELIN Power Rain」。サイズはドライ/ウエットともに、フロントが12/60-17、リヤが20/69-17。これはミシュランのレーシングタイヤ用の表記で、タイヤ幅 [cm]/タイヤ外径 [cm] −リム径 [インチ]なので、市販タイヤのサイズ表記とは異なる。
そこでホンダのCBR1000RR-Rの標準装着タイヤのブリヂストンBATTLAX RACING STREET RS11を調べると、前輪のトレッド幅が119mmで外径が601mm、後輪はトレッド幅が198mmで外径が656mm。ということはMotoGPマシンのタイヤは、前輪はほとんど同じサイズで、後輪は外径が少し大きいが幅はほぼ同じ。
公称250ps以上(かなり控えめ)で最高速が350km/hを超えるMotoGPマシンと、市販スーパースポーツ車のタイヤサイズにあまり差が無いのはちょっと驚きだ(もちろんコンパウンドの材質や内部構造はかなり異なるだろうが……)。
必ずしもタイヤを端まで使えるワケじゃない!
前後のタイヤで役目が異なることを解説してきたが、それは接地状況にも関わってくる。いわゆる「タイヤを端まで使えるか」だ。
後輪は荷重が加わって適正に「潰れる」ことで、グリップ力やトラクションを発揮する。そのためコーナーの立ち上がりなどでスロットルを大きく開けると荷重で潰れて変形するので、フルバンクしなくてもトレッドの端まで路面に接地する。
しかし前輪は後輪に追従するのが役目なので、後輪のように大きく潰れたりしない。また舵角がついた状態でグリップできるように丸くラウンドした形状なので、フルバンクした状態でもトレッドの端まで接地しない車種も多い(キャスターやトレールなど車体のディメンションも影響する)。
なので、タイヤの接地状態を見て「傾け方が足りないな……」と判断するのはカン違い。(ハンドルをコジって深く傾けるとスリップダウンの危険大!)。後輪はともかく、前輪が端まで接地していなくても気にしないように!
※本記事は“ミリオーレ”が提供したものであり、文責は提供元に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
あなたにおすすめの関連記事
新しいタイヤはナニがいい? 新車時に装着されているタイヤは、バイクメーカーとタイヤメーカーが共同で開発したり、バイクのキャラクターや性能に合ったタイヤを選定している。だからタイヤ交換の際に「間違いのな[…]
ハイグリップタイヤ並みのグリップなのに乗り心地も良い! 2021年に登場したピレリのディアブロ・ロッソ IV(クワトロ)をさらにスポーティにしたのが、ディアブロ ロッソ IV コルサ(以下、クワトロ・[…]
暖機をするのは何のため? 金属は熱膨張するため、ピストンとシリンダーの隙間(クリアランス)は、エンジンが十分に温まった状態で最適になるように設計されている。逆に言えば、エンジンが冷えている時はクリアラ[…]
横向きの方が空気が入れやすい! タイヤの「空気圧の管理」はかなり重要。ハンドリングや乗り心地はもちろん、空気圧が下がり過ぎるとタイヤの摩耗やパンクしやすさ、燃費にも影響するので、できるだけ頻繁に測って[…]
タイヤは路面とバイクを繋ぐ唯一の接点。こだわって選ぼう! ブリヂストンのロードスポーツ用ラジアルタイヤ『BATTLAX HYPERSPORT S22(以下S22)』は、近年様々なスポーツバイクにOEM[…]
最新の記事
- ヤマハ「MT-09」「MT-03」「MT-125」「MT-10」の2025年モデルが一挙登場! MT-03/MT125はコネクティビティ強化
- “半ヘル”をかぶっていいのは、どの排気量のバイクまで?【お手軽だけど安全性は…】
- ミッドナイトスペシャル再来! ヤマハ「XSR900」ブラック×ゴールドの2025年モデルが登場
- ヤマハが新型「NMAX125」「NMAX125テックマックス」を発表! 日本でも新型にモデルチェンジ確実
- 藤波貴久×RTLエレクトリックが全日本スポット参戦全勝! 3連勝で電動トライアルバイクのポテンシャルを示す
- 1
- 2