優先すべきは強力なグリップ力か、繊細なステア特性か

【Q&A】バイクのタイヤ、前輪と後輪で幅が違うのはなぜ?【どうして前輪は太くならなかったのか?】

スーパースポーツはもちろん、ネイキッドやアドベンチャーなど、世の中のほとんどのバイクは「後輪が太くて前輪が細い」。みんなそうだし、見た目のバランスもよい(?)から疑問に思わなかったけれど……、グリップで考えたら前輪だって太い方が良いんじゃないの??


●文:伊藤康司 ●写真:山内潤也、関野温、長谷川徹、ホンダ

太さの違いは役目の違い

ブリヂストンのBATTLAX HYPERSPORT S22。幅だけでなく、前後輪で断面形状やコンパウンドの種類や配置、内部のベルト類の構造も異なる。

ジャンルや排気量に関わらずほとんどのバイクは後輪が太くて前輪が細い(前後輪で同じ太さのバイクは原付一種/二種のスクーターや実用車くらい)。その理由は、バイクのタイヤは前後輪で役目が異なるからだ。

後輪はエンジンのパワーなど、大きな荷重を受け止める。直進時はもちろん、コーナリングの立ち上がりではバンクした状態でパワーを路面に伝えてトラクションを稼ぎ、旋回力や方向安定性を発揮するためには高いグリップ力が求められ、それに見合った太さが必要になる。

それに対して前輪は、後輪の傾きに追従して旋回時には「つっかえ棒」的な役目をしているが、つねにステアリング軸で首を振っているのでベッタリとグリップはしていない。追従するには軽量な方が有利だし、後輪のように大きな荷重を受け止めるわけではないので、後輪ほどの太さを必要としない。コーナリング中は舵角がついた状態で後輪より外側の軌跡になるため、幅は細くてもきちんとグリップできるように、後輪より強く丸みが付いた形状になっている。

またブレーキング時は前輪に大きな荷重がかかるが、強くブレーキをかけるのはほぼ直立している時なので、やはりそれほど太さが必要にならないのだ。

ロードスポーツのタイヤサイズは、みんな近い!?

たとえばオフロードモデルは走破性や安定性などを優先するため前輪の直径が大きいし、レトロなネオクラシック系だと前輪は少し大きい18インチの車種もあるが、スーパースポーツやスポーツネイキッド、スポーツツアラー等のいわゆる「ロードスポーツ」の現行モデルは前後17インチが主流だ。

そしてタイヤ幅は、後輪に関しては大排気量やハイパワーなバイクほど太くなる傾向があるが、前輪はほとんど変わらない。国産も外国車もおおむね600ccを超えるロードスポーツだと、前輪は判で押したように120/70ZR17M/C(58W)を装着している。

250ccクラスやそれ以下のロードスポーツの前輪の幅は110や100で少し細くなるが、それでも大排気量車との後輪の幅ほど大きな差があるワケではない。ここからも前輪は後輪を追従するのが役目で、グリップ力を最優先にしていないことが伺える。

2022年 ホンダ CBR1000RR-R SP
前輪:120/70ZR17M/C(58W) 後輪:200/55ZR17M/C(78W)

2022年 ホンダ CB250R
前輪:110/70R17M 54H 後輪:150/60R17M 66H

MotoGPマシンのタイヤサイズは?

2022年 ホンダRC213V
タイヤサイズは前:12/60-17、後:20/69-17。ミシュランのレーシングタイヤの表記はタイヤ幅 [cm]/タイヤ外径 [cm] −リム径 [インチ]となっている。

ロードスポーツの最高峰であるMotoGPマシンのタイヤは、2016年からミシュランのワンメイク。2022年のMotoGP公式タイヤの名称は、ドライ用のスリックタイヤが「MICHELIN Power Slick」で、ウエット用のレインタイヤが「MICHELIN Power Rain」。サイズはドライ/ウエットともに、フロントが12/60-17、リヤが20/69-17。これはミシュランのレーシングタイヤ用の表記で、タイヤ幅 [cm]/タイヤ外径 [cm] −リム径 [インチ]なので、市販タイヤのサイズ表記とは異なる。

そこでホンダのCBR1000RR-Rの標準装着タイヤのブリヂストンBATTLAX RACING STREET RS11を調べると、前輪のトレッド幅が119mmで外径が601mm、後輪はトレッド幅が198mmで外径が656mm。ということはMotoGPマシンのタイヤは、前輪はほとんど同じサイズで、後輪は外径が少し大きいが幅はほぼ同じ。

公称250ps以上(かなり控えめ)で最高速が350km/hを超えるMotoGPマシンと、市販スーパースポーツ車のタイヤサイズにあまり差が無いのはちょっと驚きだ(もちろんコンパウンドの材質や内部構造はかなり異なるだろうが……)。

必ずしもタイヤを端まで使えるワケじゃない!

サーキット走行したM1000Rのタイヤの状態(装着タイヤは欧州ダンロップのハイグリップ最高峰のスポーツスマートTT)。後輪はトレッドの端までしっかり接地しているが、前輪はよく見ると数ミリ接地していない部分が残っている。

2021年 BMW M1000RR
BMWのハイスペックな四輪でお馴染みの「M」を冠した、初の二輪モデル。電子デバイスやカーボンの空力デバイスもフル装備。

前後のタイヤで役目が異なることを解説してきたが、それは接地状況にも関わってくる。いわゆる「タイヤを端まで使えるか」だ。

後輪は荷重が加わって適正に「潰れる」ことで、グリップ力やトラクションを発揮する。そのためコーナーの立ち上がりなどでスロットルを大きく開けると荷重で潰れて変形するので、フルバンクしなくてもトレッドの端まで路面に接地する。

しかし前輪は後輪に追従するのが役目なので、後輪のように大きく潰れたりしない。また舵角がついた状態でグリップできるように丸くラウンドした形状なので、フルバンクした状態でもトレッドの端まで接地しない車種も多い(キャスターやトレールなど車体のディメンションも影響する)。

なので、タイヤの接地状態を見て「傾け方が足りないな……」と判断するのはカン違い。(ハンドルをコジって深く傾けるとスリップダウンの危険大!)。後輪はともかく、前輪が端まで接地していなくても気にしないように!


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