伝統の内燃機を経て生まれた革新のバイク

2023年からMotoEに参戦するドゥカティが「V21L」のスペックを公開! 最高出力150hp、最高速は275km/h

本国では続報が次々とリリースされているドゥカティのMotoEプロジェクト。4月にはプロトタイプによるサーキット走行テストの様子が公開されたが、今回はR&D ディレクターのVincenzo De Silvio氏やE-Mobility ディレクターのRoberto Cane氏が登場するYouTube動画で技術データに関する内容が紹介された。


●まとめ:ミリオーレ編集部(村田奈緒子) ●写真:ドゥカティ ●外部リンク:ドゥカティ

2023年からドゥカティはMotoEサプライヤーに!

ドゥカティは、2023〜2026年までFIM Enel MotoE World Cupのマシンサプライヤーになることを発表している。あのドゥカティが電動バイクに尽力するだけでなく、高度な技術力が求められるレースの世界から電動バイクを展開していくというニュースは大きな話題となった。

そもそもドゥカティはレースシーンで培った技術をどのメーカーよりも早く市販車に投入するメーカー。電動バイクをドゥカティがどのように料理するのか、そしてどのように我々ドゥカティファンに提供してくれるのかは興味津々である。

ドゥカティが所属するフォルクス・ワーゲングループでは電動化とデジタル化を核とした研究開発戦略「NEW AUTO」を掲げており、遅くとも2050年までに完全なカーボンニュートラルな企業になることを目指すと宣言している。こうした企業が目指すべき未来図のなかに、ドゥカティのMotoEも描かれているはずだ。

ドゥカティの歴史において初となる電動バイク「V21L」。

ドゥカティMotoEプロジェクトの鍵を握るバッテリー

ドゥカティブランドの最初の電動バイクである「V21L」は、ドゥカティのモーターサイクルに関する知識の集大成であるだけでなく、イタリアのブランドが二輪レースの未来を理解するためのテストプラットフォームである。

ドゥカティMotoEプロジェクトの大きなハイライトは、150hpのピークパワーと14.28kgf・mのピークトルク。このスペックが、ムジェロサーキットで「V21L」を275km/hまで加速させる。

ドゥカティは18kWhのバッテリーパックを使用しており、完全に充電すると800ボルトで動作。バッテリーパックの重量は110kgで、「V21L」の総質量224.5kgのほぼ半分を占めている。

常にその開発は最終段階に来ているという。MotoEで培われた電動バイクの市販化もドゥカティならそう遠くない気がしてならない。

バッテリー本体をメインシャシーの一部として考える車体構成は、エンジンを車体の一部として考える現在のドゥカティの市販車とまったく同じ。

MotoGPマシンとのスタート比較映像なども公開し、少しずつそのスペックが明らかになってきている「V21L」。

ドゥカティMotoEプロジェクトチーム。これまでのドゥカティコルセのメンバーとは異なる顔ぶれが揃う。

首脳陣からのコメントにもやる気が溢れる!

クラウディオ・ドメニカーリ、ドゥカティCEO
「数週間前、私はドゥカティMotoEに乗るという素晴らしい機会を得て、歴史的に重要な瞬間を体験していることを実感しました。世界は複雑な時代を迎えており、地球の環境バランスを維持したいのであれば、すべての個人とすべての企業は、持続可能性を優先事項として考慮しなければなりません。

ドゥカティは、この必要性を理解し、CO2排出量を削減するという共通の目標に貢献すると同時に、ドゥカティが長年にわたって培ってきたレースのDNAを維持するという課題にも取り組みました。私たちは、現在利用可能な最高のテクノロジーを使用して、もっとも高性能な電動レーシングバイクを開発し、このプロジェクトを私たちの未来を築くための実験室として使用するという決意を固めました。

その結果、私たちは驚くべき成果を達成しました。このバイクに乗った瞬間から、チームの素晴しい仕事を感じることができました。ガレージに戻ったとき、私たちが達成したことに対して大きな誇りを感じました。

MotoEプロトタイプを製作するため、ドゥカティおよびドゥカティ・コルセの技術者から構成される共同開発チームが編成され、お互いが持つ最高のスキルが活用されました。

プロトタイプの製作は、一般的に量産バイクで採用されているのと同じ手順に従い、技術的に困難な課題に直面した場合でも、チームメンバー間の緊密なコラボレーションにより、お互いに刺激し合うことで、新しい考え方や新しい設計手法が生み出されました。

このプロジェクトの基本的なプロセスは、タスクを分割し、チームを構成する人々の間で継続的な対話を行うことでした。ドゥカティの研究開発部門は、電動パワートレインの設計およびシミュレーションに加え、すべてのプロジェクト管理活動を担当しました。

その一方で、デザインは、バイクのカラーリングも含めてチェントロスティーレ・ドゥカティ(ドゥカティ・スタイルセンター)が担当しました。

ドゥカティ・コルセは、エレクトロニクス・コンポーネントの設計、ソフトウェアの制御と戦略、モーターサイクルのダイナミクスとエアロダイナミクスのシミュレーションを担当し、最後にバイクの組み立て、テスト、データ取得のプロセスに取り組みました。

これまでの結果は、すでに満足のいくものとなっています。ドゥカティMotoEの総重量は(ドルナとFIMがレースディスタンスを完走可能なバイクに課している最小要件より12kg少ない)225kgで、最高出力は110kW(150ps)、最大トルクは140Nm、ムジェロ・サーキット(イタリア)における最高速度は275km/hに達しました」

ヴィンセンツォ・デ・シルヴィオ、ドゥカティR&Dディレクター

「ドゥカティにとって、FIM MotoE World Cupのサプライヤーになるということは、技術的にエキサイティングな旅に乗り出すということだけでなく、新しい千年紀の課題に対応するための最良の方法を実践することも意味しています。

レースへの参戦は、革新的なテクノロジーを開発し、それを量産モーターサイクルに移植するための理想的なベースを提供します。現時点で、この分野でもっとも重要な課題は、バッテリーのサイズ、重量、持続性、充電ネットワークの利用に関連する課題です。

FIM MotoE World Cupにおけるドゥカティの経験は、テクノロジーおよびバッテリーの化学的特性に進化をもたらすとともに、製品の研究開発における基本的なサポートを提供します。社内の専門知識を強化することは、ドゥカティ初の市販電動モーターサイクルの生産を視野に入れる当社にとって、不可欠な要素となっています。

ドゥカティMotoEチームの専門知識と情熱的な作業の組み合わせにより、独自のテクニカル・ソリューションを備えた電動バイクが誕生しました。バッテリーパックは、質量と寸法の点でもっとも高い制約が課された、電動バイクを象徴するエレメントです。

ドゥカティMotoEでは、バイクの中央部分に自然に収まるように特別に設計された形状を特徴としています。バッテリーパックの重量は110kgで、容量は18kWhです。リヤ部分には、20kWの充電用ソケットが設置されています。その内部には、「21700」タイプの円筒形セル1,152個が格納されています。

5kgの軽量インバーターは、電気自動車のレースで使用される高性能モデルから派生したユニットで、モーター(重量21kg、最大回転数18000rpm)は、ドゥカティが提供した技術仕様に従ってパートナーが開発しました。システム電圧は800Vで(完全に充電したバッテリーパックを使用した場合)、電動パワートレインの出力を最大限に発揮して、パフォーマンスと航続距離を最大化しています。

ドゥカティMotoEにおけるもっとも先進的なテクニカル・ソリューションの1つは、冷却システムに関するものです。

プロトタイプのコンポーネントは、バッテリーパックとモーター/インバーターユニットのさまざまな熱要件を満たすように設計された2系統の回路を備え、非常に洗練され、効率的な水冷システムによって冷却されます。

これにより、過酷な走行条件でも温度が一定に保たれ、一貫したパフォーマンスを発揮できるだけでなく、充電時間の点でも大きなメリットがもたらされます。実際、充電プロセスを開始するためにバッテリーパックが冷えるのを待つ必要はありません。ドゥカティMotoEはピットに入るとすぐに充電可能で、約45分でバッテリーを80%まで充電することが可能です。

バッテリーパックのカーボンファイバー製ケースは、パニガーレV4エンジンの場合と同様に、シャーシの構造部材としても機能し、フロント部分には重量3.7kgのアルミニウム製モノコック・フロントフレームを備えています。

リヤは、MotoGPに参戦しているデスモセディチGPに似た形状の、4.8kgのアルミニウム製スイングアームから構成されています。テール部分とライダーシートを統合したリヤのシートレールはカーボン製です。

フロントサスペンションは、スーパーレッジェーラから派生した43mm径オーリンズ製NPX 25/30加圧式倒立フォークを装着し、リヤにはフルアジャスタブルタイプのオーリンズ製TTX36ショックアブソーバーを採用しています。ステアリングダンパーは、オーリンズ製のアジャスタブルタイプです。

ブレーキシステムはブレンボによって供給され、ドゥカティMotoEの独自の要件に合わせたサイズになっています。フロントには、厚みを増した338.5mm径のスチール製ダブルディスクを装着。放熱面積を拡大し、サーキットの限界走行時におけるディスクの冷却性能を改善するために、内径部分にフィンが設置されています。

各ディスクには、PR19/18ラジアルマスタシリンダーを備えた2つのGP4RR M4 32/36キャリパーが装着されています。リヤブレーキは、厚さ5mmの220mm径シングルディスク、P34キャリパー、PS13マスターシリンダーの組み合わせとなります。左側のハンドルバーには、ライダーがペダルの代わりに使用することができる、リヤブレーキレバーをオプションで装着することもできます。

ブレーキシステムはブレンボによって供給され、ドゥカティMotoEの独自の要件に合わせたサイズになっています。フロントには338.5mm径のスチール製ダブルディスクを装着。現在、6.8〜7.4mm厚のディスクが選択され、放熱面積を拡大し、サーキットの限界走行時におけるディスクの冷却性能を改善するために、内径部分にフィンが設置されています。

ダブルディスクには、PR19/18ラジアルマスタシリンダーを備えた2つのGP4RR M4 32/36キャリパーが装着されています。リヤキャリパーはP34です。左側のハンドルバーには、ライダーがペダルの代わりに使用することができる、リアブレーキ・コントロールレバーをオプションで装着することもできます。

ロベルト・カーネ、ドゥカティeモビリティ・ディレクター

「MotoEプロジェクトが誕生して以来、作業チームとともに行ったすべての開発段階を良く覚えています。ドゥカティ・コルセの同僚も参加し、このプロジェクトの開発方法について貴重な提案をもたらしてくれるフォルクスワーゲングループの担当者と連絡を取り合いました。

このバイクを製作するために、私たちは、通常の量産モーターサイクルと同じ開発手順に従いました。バイクのデザインを定義することから始め、並行してテクニカル部門がさまざまな車両コンポーネントの設計を開始しました。

最初の打合せで説明された内容は、ドルナが要求する最小限のパフォーマンス特性を実現するレーシングバイクを製作するということでした。しかし実際には、このプロジェクトは関係するチームスタッフ全員を夢中にさせ、レースの主催者であるドルナから最初に提示された仕様よりも高性能なバイクを製作したいという欲求が高まりました。

ドゥカティMotoEの開発プロセスにおいて、マルコ・パルメリーニ率いるテストチームは、ライダーのミケーレ・ピッロ、アレックス・デ・アンジェリス、チャズ・デイビスのサポートを受けながら、MotoGPと同じ方法論を適用して、サーキット・テストを実施しました。

電子制御システムの研究を通じて、内燃エンジンと同じようなスロットル・レスポンスと、ドゥカティ・ライダーが慣れ親しんでいるレーシングマシンと変わらないエレクトロニクス・コントロール(トラクションコントロール、スライドコントロール、ウィリーコントロール、スロットル/エンジンブレーキマップなど)の反応を得ることを目標としました。

サーキットパフォーマンスを最大化するため、MotoGPで行われている開発手法およびテスト方法を適用し、正確なシーケンスに従って毎日さまざまなコンポーネントを使用したテストを行いましたが、冷却システムの高い効率と短い充電時間により、継続的にテストを実施することが可能になりました。

開発作業には、ライダーと技術者の安全を確保するために、フォルクスワーゲングループ内に蓄積された電動モデルに関する知識を活用して、関係するすべての担当者向けの学習およびトレーニングコースが含まれていました。

ドゥカティが、電動化を企業戦略の柱に据えるフォルクスワーゲングループに属しているという事実は、グループが定める「New Auto」2030戦略によって得られた、電動パワートレイン分野における専門知識を有効活用できることを意味しています。

ドゥカティは、グループの専門知識を集約しているドイツのザルツギッターにあるセンター・オブ・エクセレンス(CoE)だけでなく、ポルシェやランボルギーニといったグループの他のブランドとも緊密に連絡を取り合っています。

ドゥカティMotoEプロジェクトは、すでに開発の最終段階に達しており、18台のマシンが優勝を争う2023年シーズンのFIM MotoE World Cupにおける唯一のサプライヤーとして、急ピッチで準備を進めています。ボローニャを拠点とするドゥカティの次の目標は、電動モーターサイクルにおける世界有数のレースシリーズへの参加を通して、革新的な技術を実験し、新しいスキルを開発し、スポーティ、軽量、エキサイティングで、すべてのモーターサイクルファンを満足させることができる、ドゥカティ製電動モーターサイクルを、そのテクノロジーが許す限り、なるべく早いタイミングで製作することです」

【動画】Ducati MotoE | Tech Talk

4月に公開されたテスト走行のYouTubeと合わせて、興味深いテクノロジーの片鱗を見ることができる最新YouTubeをぜひチェックしてみて!


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