209kgのドゥカティ スクランブラーでお山を走る!

ドゥカティはオフロードレースを走り切れるのか?【朽木8時間耐久オフロードバイクランにスクランブラー デザートスレッドで参戦!】

5月末に開催された「朽木8時間耐久オフロードバイクラン Moto-Off KUTSUKI 8h」。モトクロッサーやエンデュランサーがエントリーの大半を占めるなか、ドゥカティを愛する男たちはスクランブラー デザートスレッドで挑戦。意気揚々と現地に赴いたわけだが、実際のコースを前に誰もが車重209kgのバイクでのオフロード8時間耐久レースに不安を覚えた……。なぜ、スクランブラーで挑むのか? 心の片隅にそんな疑問は抱きつつ、愚問を口にしては負けだと言わんばかりに果敢に砂埃が舞うコースへと消えていった。果たして、その進んだ先に何を見たのか……。


●文:ミリオーレ編集部(村田奈緒子) ●外部リンク:ドゥカティ京都ドゥカティ札幌ドゥカティ仙台ドゥカティ浜松

「DUCATI Family with MIGLIORE」のチーム名のもと集まった6名の男たち。写真右から順に、ドゥカティ京都の青木伸正さん(本レース参加の旗振り役で、ドゥカティ スクランブラー デザートスレッドを提供。ただし今回は諸事情で本人は走行できず。無念? のはず)、ドゥカティ浜松代表の鈴木啓之郎さん、ドゥカティ札幌ドゥカティ仙台代表の砂田剣一さん、MIGLIOREディレクターの小川 勤、MotoGP解説などでもお馴染みの宮城 光さん、ドゥカティ京都のお客様でYouTube「モトマニアックスチャンネル」のちんさん。ドゥカティ スクランブラー デザートスレッド × オフロード × 8時間耐久という未知の世界に挑戦だ!

本レース前日の練習走行、男たちは朽木の急勾配に慄いた

「朽木8時間耐久オフロードバイクラン Moto-Off KUTSUKI 8h」の会場となったのは、滋賀県朽木スキー場の特設コース。レース前日は自由参加の練習走行日になっており今回参戦するライダーは各々が会場に集合したのだが、到着早々にまず全員が同じことをつぶやいた。

「あの急勾配をスクランブラーで登る? マジで?」

コース図の①がスクランブラーの背後に映る急勾配コースにあたる。①の急勾配コースの迂回路としてロングコース②が設けられている。ピットエリアからは直接見ることはできないが、その先もひたすら登って、そして山を下る。③で再び急勾配コースがあり、その迂回路として④が設けられている。大きな急勾配はその2つとされているが、実際の難所はコース図では計り知れないほど多々ある。

今回、このレースに参加しようと旗振りをしたのはドゥカティ京都の青木伸正さん。青木さんからは「丸太やロック越えなどの人工的なセクションはないし、スクランブラーでも(きっと)大丈夫ですよ〜」と聞いて現地に集まったのだが、目の前にそびえるのは視覚的にもインパクトのある急勾配コース。

ちなみにコース①について運営スタッフに尋ねたところ、「正式な斜度は計測していないけれど、歩いて登るには相当しんどいです」とお答えいただいた。スキー場の公式webサイトをチェックすると、コース①はダウンヒルコース(中級・上級)で「斜度15~35度のもっともハードなコース」と紹介されている。

おいおい話が違うよ、青木さん! と誰もが思ったはずだが、諸事情でその旗振り役は現地入りできておらず、小言を言う相手がいない。とりあえず天気もよいし、風も気持ちよいし、みんな久しぶりに集まったし〜と(ノンアルで)乾杯! 目の前の不安要素を揉み消すように、陽気な雰囲気でスタートした。

京都チームの到着を待ちながら、ドゥカティ浜松の鈴木啓之郎さん、ドゥカティ札幌ドゥカティ仙台の砂田剣一さん、MIGLIOREディレクターの小川 勤で乾杯! ちなみに鈴木さんはスクランブラーでの参戦にあたって万全を期すべく、代車に(むしろ本命バイクとして?)ヤマハ セローとパーツ取り用にドゥカティ スクランブラー デザートスレッド ファストハウス(世界800台限定)を用意。ピットテーブル上には可憐なお花まで添えられていて、鈴木さんの用意周到さ&おもてなし力に感謝!

本レース用に青木さんがせっせとカスタムしてくれたドゥカティ スクランブラー デザートスレッド。フロントホイールは19インチからオフロード寄りの21インチに変更。リヤホイールはビートストッパーをダブルにし18インチ化。タイヤはクロスカントリーやエンデューロを楽しむライダー向けの「ミシュラン トラッカー」を採用。チェーンスライダーも装着し、フロントには救助用のベルト(ドナドナベルトと命名)も。これで気持ちよく助けてもらえるね♪

レース本番までスクランブラーは封印。リエフのバイクで練習開始

束の間のピクニック気分を味わった後に、今日の目的である練習走行を開始。まずは難易度含めてしっかりと把握すべく、ヤマハ セローとリエフ マラソン 125 プロでコースイン!

MIGLIOREディレクターの小川は、このレースが本格オフロード初体験。いろいろな思いがあってそれまで踏み込んでいなかったオフロードの世界だが、青木さんの粋な計らい(強制エントリーともいう)でジョイン。「とにかく転びたくない、バイクを傷つけたくない」を連呼しつつも、装具一式を新調して参戦した。リエフ マラソン 125 プロで練習走行に挑み、えっちらおっちらとした走りながらも急勾配コースをクリア。

軽やかに駆け上がる鈴木さん with ヤマハ セロー。砂埃にまみれながらも、軽快な走りで見ている方も安心。練習走行には、同じくレースに参戦した「RIEJU関西TKC+カスノ爽やか林道部」のバイクをお借りした。

練習走行を終えて戻ってきたライダーは、誰もがこう口にした。「スクランブラーでは、やっぱり無理じゃないか?」

とはいえ、青木さんがせっかく私財を投入して準備してくれたバイクである。「ドゥカティでも本格オフロードを楽しめることを見せたい!」という彼の心意気が込められているゆえに、チャレンジしないわけにはいかない。急勾配は無理でも、迂回路を走ればいいのである……と思考では納得しつつも、ライダーたちは本能的にケガの恐れをひしひしと感じつつ、翌日に向けて準備は進められた。

練習走行後の車検では、キャリアに指摘あり。救助用にと装着したものだが「転倒時にぶつかるとライダーが一番危険だから、装着するなら角にタオル巻くなどしてね」とアドバイスをいただく。いざというときの備えを優先すべきか、危険回避を考えるべきか?

車検終了のタイミングで、宮城 光さんが現地到着。「DUCATI Family with MIGLIORE」のチームで一番のスクランブラー使いに、改めてバイクチェックをお願いする。車検時に議題に上がったキャリアは、宮城さんの「オフロードは軽さが正義。だから取りましょう」とのアドバイスから即取り外しを決断。

前夜祭にて、改めて現地入りしているメンバーで乾杯! なんとここでドゥカティ札幌ドゥカティ仙台代表の砂田さんとドゥカティ浜松の鈴木さんからメンバーに、オリジナルのモトクロスウエアがプレゼントされた。各々の名前などもプリントされている特別な1着に、一同笑顔。チームの団結力が一層高まった!

5クラス合計128のエントリー! BMW G310GSも参戦

「朽木8時間耐久オフロードバイクラン Moto-Off KUTSUKI 8h」は、ソロ、ペア、トリオ、チーム、マイモト(最大6名が各々のバイクでリレー交代する方式)の5クラスが設けられている。「DUCATI Family with MIGLIORE」は、メンバー6名が1台のバイクを交代して走行するチームのカテゴリーで参戦。このカテゴリーでエントリーしたのは15チーム。

朝5時にホテルを出発した一行は、6時30分からのライダーズミーティングに参加。YouTuber「モトマニアックスチャンネル」のちんさんも合流! カメラを向けると一同笑顔を見せるが実際は緊張感に包まれており、テッペン目指すぞ! という勢いもなく、朝イチはとても静かだった。青木さんの影武者が、記念撮影にはパシャリ! 実際のレースは5名のライダーに託された。カテゴリー別のエントリー数はソロ28、ペア10、トリオ23、チーム15、マイモト54。

同じくチームカテゴリーでエントリーした「BMW Motorrad Casuno オフロード部」(BMW G310GS)と、マイモトでエントリーした「RIEJU関西TKC+カスノ爽やか林道部」のライダーも勢ぞろい。何度も言うが、カメラを向けると一同笑顔ではある。

ル・マン式スタートで8時間耐久の口火は切られた

レースは128台が一斉にル・マン式でスタートするわけだが、その準備だけでも大変。スターティンググリッドはエントリー順で、朝7時から準備開始。スクランブラーは車重があるので、傾斜地を押し引きするだけでも一苦労であった。

エントリーしているのはモトクロッサーやエンデュランサーが大部分のため、ドゥカティ スクランブラーは異色の存在。さまざまな人に「カッコいいね」と声をかけてもらい、この景色を作れただけでも参戦した価値があったのではないだろうかと満足……してはいけない。スクランブラーで本当にこの過酷な道を走り続け、8時間無事完走できるのか⁉︎ 真剣勝負が始まった。

トップのスターティンググリッドからはるか後方に「DUCATI Family with MIGLIORE」はイン。スタイルだけで見るととてもカッコいいのだが、いかんせん重い。あ、さっそくドナドナベルトでひっぱってもらってる。

競技車両は特別な制限はなく、参加者の自由。モトクロッサーがずらりと並ぶなかには、ホンダ クロスカブ110やホンダ アフリカツインで参戦する強者も。

トップバッターは宮城さん。ル・マン式スタートでも、もちろん速い! 幸先の良いスタートをきった。

スタート直後の様子。多くのバイクが①の急勾配コースを疾走。レース当日はあまり風がなく、凪状態が続いたため終日砂埃に悩まされた。

宮城さんも①の急勾配コースを選択。周囲のモトクロッサーと比べると軽快さがあるとは言えないが、力強く山道を登っていった。砂埃のなかでも赤いモトクロスウエアが目立つ!

残り1時間ほどのタイミングでまさかのパンク! 完走危うし!

今回5名のライダーによるチーム参戦した「DUCATI Family with MIGLIORE」。じつはオフロード本格デビューの者も多く、メインの急勾配コースを走破したのは宮城さんとドゥカティ札幌の砂田剣一さんだけ。ほかの3名はエスケープコースを選択。

とはいえ、その先々でも難解な箇所はあり、至るところで多くのバイクが転倒。なかにはコース脇で休憩したりと、無理のない走りで楽しむライダーもいたほどだ。「DUCATI Family with MIGLIORE」のライダーたちも転倒を乗り越えつつも、なんとかスクランブラーというバトンをつないでいった。

しかし、残り1時間ほどとなった時、ドラマが起きた。スクランブラー、パンクである。

プロフェッショナルライダーで結成されたチームゆえ、パンク修理も早い! パンク修理中に、宮城さんは緩んだネジをチェック。転倒を繰り返し、ハンドルガードをはじめ各所がボロボロ&砂埃まみれになりながらも、スクランブラーは完走に向けて再スタートをきった。

総合89位、チームカテゴリー10位、Lap57、タイム8:08:39.22で「DUCATI Family with MIGLIORE」の挑戦は幕を閉じた

転倒などはありながらも「BMW Motorrad Casuno オフロード部」(BMW G310GS)と「RIEJU関西TKC+カスノ爽やか林道部」も無事完走〜。「DUCATI Family with MIGLIORE」と「RIEJU関西TKC+カスノ爽やか林道部」は、条件を満たして完走したチームということでフィニッシャーメダルも授与された。

パンクというトラブルを経て、無事コースに戻っていったスクランブラー。気力体力ともに相当の疲れがあり、チーム全員が転倒を経験。多少の負傷もしながらLap57という記録をもって無事ゴール!! 総合89位、チームカテゴリー内では10位で、スクランブラーの挑戦は幕を閉じた。

ちなみに総合優勝したペアチームはLap106、ベストラップ3:36.36を記録。2位はソロチームでLap102、ベストラップ4:02.98。とにかく皆さん速いし、体力がある!

せっかくなので「DUCATI Family with MIGLIORE」各ライダーのコメントとともに、ベストラップもご紹介しよう。

宮城 光(みやぎ・ひかる)さん/1962年生まれ。’80年代のレースブームを牽引し、ホンダワークスライダーとして活躍。現在はモータージャーナリスト、MotoGP解説者として幅広く活動。オフロード歴は40年で、スクランブラー デザートスレッドオーナー。今回のレースでのベストラップは5:39.30(一番多く周回しているはず)。

「スクランブラーシリーズの中でも、デザートスレッドはとてもスタイリッシュ! 僕がプライベートで乗っているバイクの1台でもあります。今回このバイクでオフロード8耐と聞いたときは完走できるのだろうか?とも思ったのですが、いやータフなバイクということが証明されましたね。スクランブラーの新しい魅力をしっかりと体験できたと思います。チームの皆さんのおかげです!」

砂田剣一(すなだ・けんいち)さん/1974年生まれ。ドゥカティ札幌ドゥカティ仙台の代表取締役社長。3歳ではじめてオフロードに乗った後、高校生になってからは北海道全道大会に参戦。高校3年生で国際B級ライセンスを取得。今回のレースでのベストラップは4:59.48(チーム最速を記録!)。

「スクランブラーでのオフロードははじめてで、走るまで不安しかありませんでしたが楽しく遊べました。最近はオンロードばかりでオフロード自体が久しぶりでしたし、ガチのレーサーだとバイクに負けてこんなに楽しめなかった感じもします。ある意味、とてもバランスがよかったですね。初対面のメンバーもいるとは思えないくらいチームワークが素晴らしく、お互い高め合いながらいくつかの困難を乗り越えて完走できたと思います。何か一つでも欠けると完走できなかったでしょう。素晴らしい出会いとスクランブラーのポテンシャル、そして新しい体験に感謝してます」

鈴木啓之郎(すずき・けいしろう)さん/1978年生まれ。ドゥカティ浜松の代表取締役。バイク歴は16歳からで、オフロードは昔トライアルを少しだけかじった程度。現在は、年に数回林道ツーリングを楽しむ。今回のレースでのベストラップは5:37.54。

「前日の練習はセローで走行。実際にコースを走ってみて『スクランブラーで走れる? 1周も出来なかったらどうしよう? セローで出た方がいいんじゃない?』と本気で思っていました。スクランブラーでの8時間耐久は過酷なチャレンジでしたが、無事に完走できて良かったです。ドゥカティで走りきったからこその達成感だと思います。最高の思い出をありがとうございます。カスノファミリー、宮城 光さん、小川 勤さん、ドゥカティファミリーに感謝ですね!」

ちんさんこと木村重紀(きむら・しげき)さん/1980年生まれ。YouTube「モトマニアックスチャンネル」を主宰。バイク歴は25年ながらも、オフロードはほぼ経験なし。今回のレースでのベストラップは5:37.54。

「スクランブラーは見た目こそそれっぽいですが、実際にオフロードコースなんて走れるの?という印象でしたが、いざ走ってみると、慣れ親しんだツインエンジン。2ストコンペマシンのように回さずとも下からしっかりトルクもあるし、空冷なのでパワーの出方も穏やかで初心者にも扱いやすい。何度も転けたので、終盤はさすがにその重量だけは泣きそうでしたけど(涙)。プロフェッショナルな集まりゆえ、他チームなら廃車リタイヤでもおかしくない車両を急ピッチで修復してコースに戻せる技術と準備の完璧さには、ただただ脱帽でした。参加者全員がゴールでライダーを称え迎える光景は耐久レースならでは。今回のチームの末席に加えていただけて本当に素晴らしい体験をさせて頂きました。今回で他人のバイクをオフで転かすことに抵抗がなくなったので、来年もかならず挑戦したいと思います(笑)」

小川 勤(おがわ・つとむ)/1974年生まれ。MIGLIORE ディレクター。18歳でバイクライフをスタートするも、オフロードは今回が初体験。数々のバイクに試乗し、ロードはたくさんのイベントレースに参戦。鈴鹿4耐、菅生6耐、もて耐などの耐久レース好き。今回のレースでのベストラップは6:00.28。

「とにかく転びたくない & 他人のバイクを傷つけたくない信念から、チーム内で一番テンションは低めだった。転倒は2度したが、終わってみれば『思ってたより走れたな。ケガしなくて本当によかった』とロードにはない達成感に満足。個人的なレポートは、後日公開予定。オフロード初挑戦の視点から今回の耐久レースの魅力を語ろうと思う」

最後にレース中に一瞬様子見に訪れてくれたドゥカティ京都の青木伸正さんのコメント。「8耐参加を決めてから何度も林道トレーニングをして、壊れる個所、弱い個所、対応しておくべき点などを把握しました。最終的にデザートスレッドはトラブルを起こさずに走り切りましたね〜。『DUCATIでもオフロードはしれるやん』って嬉しく思っています。通常のオンロードモデルではボロボロにしたくないけど、オフロードを走るとキズが勲章に代わるのが不思議。冬になったら丁寧に色々とチェックしながらオーバーホールするのが楽しみです。バイクは色々な楽しみ方があって、それぞれ整備の価値観さえも変わります。おかげで、さらにドゥカティの理解も深まり、仲間との思い出もできましたよ」

来年はきっと青木さんの走りをみることもできるはず! 「DUCATI Family with MIGLIORE」の挑戦はまだまだ続く!

【動画】ドリームチームがDUCATIデザートスレッドで参戦!朽木8時間耐久オフロードバイクラン #1|ドキュメント

「DUCATI Family with MIGLIORE」のチームメンバーであり、YouTube「モトマニアックスチャンネル」ちんさんによるドキュメンタリー動画で、「朽木8時間耐久オフロードバイクラン Moto-Off KUTSUKI 8h」をお届け!

メンバー一同が砂埃にまみれながらも、スクランブラーが疾走? する様子をぜひご覧あれ。楽しそうなイベントと思ったら、ぜひ来年ご一緒にご参加を〜!


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