
HIDE MOTORCYCLE(ヒデ・モーターサイクル)は、ハーレーダビッドソン本社が展開した「NIGHTSTERカスタムプロジェクト」に参画。ナイトスターをベースに『JST(Japan Street Tracker)』を製作した。
●文:河野正士 ●まとめ:ミリオーレ編集部(小川勤) ●写真:安井宏充 ●外部リンク:ヒデ・モーターサイクル
Newナイトスターへの期待感
2021年に刷新したスポーツスターSは、ショートストロークの水冷DOHCハイパワーエンジンを搭載。これまでの空冷OHVとはまるで別物に生まれ変わった。同エンジンを搭載するアドベンチャーバイクであるパンアメリカも同系列エンジンを搭載し、今まさにハーレーダビッドソンは過渡期を迎えている。
そしてハーレーダビッドソンの新しいアプローチはまだまだ続く。2022年、スポーツスターSの派生モデルとしてナイトスターが登場。極太のフロントタイヤだったスポーツスターSだったが、ナイトスターは比較的オーセンティックなスタイルで登場した。
DOHC4バルブ60度Vツインエンジンは、スポーツスターSのレボリューションマックス1250T(105×72.3mm)からボア×ストロークを97×66mmに変更し、排気量は1252ccから975ccとなった。最高出力は121hpから89hpになっているがこれまでのOHVからは比較にならないほどパワーアップしている。
そんなナイトスターをベースに、日本のヒデ・モーターサイクルがカスタム。スポーティなエンジンにふさわしいトラッカースタイルを築き上げた。
これまでのスポーツスターカスタムが通用しなかったというが、ストリートで映える新たなスタイルが誕生した。
ヒデ・モーターサイクルが、ハーレーダビッドソン本社が展開するカスタムプロジェクトに日本で唯一参画
「ナイトスター カスタムプロジェクト」は、米国ハーレーダビッドソン本社が、世界各国から選りすぐった6名のカスタムバイクビルダーに、新型ナイトスターをキャンバスとした自由な表現=カスタムを依頼したもの。
すでにハーレーダビッドソンの各SNSで、その概略が発表され、順次ビルダーたちが製作したカスタムマシンやそのコンセプトが紹介されている。
また、その6台のカスタムナイトスターは、6月末に米国カリフォルニア州オレンジカウンティで開催されるカスタムバイクショー「BORN FREE MOTORCYCLE SHOW(ボーン・フリー・モーターサイクルショー)」で一堂に会し、正式に披露される予定だ。
NEWナイトスターへの手応えとは?
ヒデ・モーターサイクルは、富樫秀哉さんがハーレーダビッドソンを中心としたカスタムバイクの製作および、オリジナルパーツの開発販売するファクトリーとして2002年にオープン。
2006年および2007年には 横浜ホットロッドカスタムショーで二輪部門の最優秀賞を獲得。その後も同ショーで、数々の優秀賞を獲得し、これまで100台を超えるスポーツスターカスタムを製作してきた。スポーツスターのスペシャリストとして、世界中のカスタムバイクファンに知られている。
そんな長くスポーツスターを見てきた富樫秀哉さんにナイトスターの手応えを聞いてみた。
──ナイトスター カスタムプロジェクト参画の経緯を教えてください。
「ハーレーダビッドソン(以下HD)本社から、ナイトスター カスタムプロジェクト参加の依頼を受けたのは 2021年の11月中旬ごろ。話をもらったときは発表前だったナイトスターの名前は伏せられ、次期市場投入モデルのプロジェクトとだけ説明されました。 HD本社から直接依頼を受けることは非常に光栄であり、車両が分からないのは不安でしたが、承諾するまでに時間は必要としませんでした。
正式に契約書を交わした後に、ベースモデルがナイトスターであることが伝えられ、そして製作期間が60日であること、エンジンが原形をとどめていること、という製作の条件が提示されました」
──「ナイトスター」の第一印象は?
「写真を見て、いままでのスポーツスターのスタイルを再現してきたなぁ、と思いました。その後、2021年12月に横浜ホットロッドカスタムショーでスポーツスターSの実車を見ることができました。そこで、新世代スポーツスターは、スタイルもコンセプトもいままでとは大きく違っていることを理解しました。
水冷のレボリューションマックスエンジンを採用することで、デザイン的にもパフォーマンス的にも、スタイルもコンセプトも、いままでのスポーツスターとは異なり、1970〜80年代のSF映画に登場するロボットのような外観の、個性的なエンジンだと思いました」
──カスタムはどのようにスタートしたんですか?
実車が来るまでは、いままでの自分たちの手法をどうやってナイトスターで実現しようかと考えていました。市販されている既製パーツを上手く使って、 HIDEMO的なスタイルを実現して、まとめ上げようと思っていたんです。でもナイトスターが来て、車体をバラしてその骨格を見ると、最初にイメージしていたプランが機能しないと分かりました。いままでスポーツスターをベースに、100台を超えるカスタムバイクをつくってきた経験が活かせない。それくらい、ナイトスターはまったく新しいHDだったんです。
目指したのはストリートトラッカー。車体をバラして各部のサイズを測り、車体各部の理解度を深めながらコンセプト を肉付けしていった。
今までのスポーツスターカスタムは通用しない
ナイトスターは、2021年12月23日にヒデ・モーターサイクルに入庫、1月2日からカスタムに着手した。長くヒデ・モーターサイクルで一緒に仕事をしてきた渡直也さんととにかく考え続けた。
バラして新しいフロントフレームや配線などを確認。その構造を目の当たりにすると、いままでのスポーツスターとすべてが違っていた。OHVエンジンの旧スポーツスターはミッション一体型エンジンを採用していることや、それを抱えるフレーム構成がシンプル。そのためカスタム領域が広く、さまざまなスタイルを実現できた。2004年からフレームが変更されているが、基本構成は同じ。
スポーツスターは65年の歴史を持っているが、そのなかでさほど大きな変化をしていなかった。しかし、ナイトスターは、まったく違っていたという。
難しかったのはフレームで、フロントフレームはステアリングヘッドを中心にV字を描くように前後シリンダーに向かって伸びていて、その中央にタンクカバーを配置。フレーム幅が決まっているので、タンクの幅を変えてスリムさをアピールしたり、タンク位置を前後に動かして車体のコンパクトさを強めたりするような、タンク周りの定番的カスタムの手法は使えなかった。
レボリューションマックスエンジンが際立つデザイン。エアクリーナーボックスは、ヒデ・モーターサイクル製のファンネル&フィルターの組み合わせ。タンク&シート一体のボディが新しいスタイルを確立。
富樫さんと渡さんは、約10日間カスタムの方向性を考え続けた。そのコンセプトを練る時間は、ここ最近のHIDEMOのカスタムバイク製作としては考えられないほど長かった。そして決まったのが、フラットトラッカースタイルだった。
それは単純にフラットトラッカースタイルのナイトスターに乗ってみたかったから。目指したのはリアルなフラットトラッカーでなく、ストリートトラッカー。1990年代後半から2000年代前半の、日本のカスタムシーンから生まれたストリートトラッカーは、世界中に広がるカスタムバイクブームに強く影響を与えた。
そして完成したのがこのスタイルだ。
「モダンな造形と、それに合わせたペイントの効果は、いままでのスポーツス ターやビッグツインでは表現出来なかったことです。だから、この車両の製作はHIDEMOにとっても新しいチャレンジだったと思います。とにかく難しいプロジェクトだったけれど、いまはその仕上がりに満足しています」と富樫さん。
新しいナイトスターが早朝の渋谷の街並みに映える。まさにコンセプト通りの仕上がりだ。JST(Japan Street Tracker)が世界でどんな評価を受けるのか? 楽しみに待ちたい。
このマシンにとって、フロントカウルが果たす役割は非常に大きい。ラジエターの幅を考えると、フロントカウルにある程度のボリュームを持たせないと、車体全体のバランスが悪くなるからだ。そこで広い面積を持つフロントカウルは、ヘッドライトを中心に放射状にキャラクターラインを造り、シャープなエッジと複雑な曲面を与えた。そうすることで、幅広いラジエーターの存在を中和させ、シャープな印象を追求している。
ストリートトラッカーと呼ばれたカスタムバイクたちが採用していた、ロングスイングアームのイメージを表現するため、リヤサスペンションは約15cm前方に移動。スイングアームそのものは延長加工をしておらずスタンダードのままだ。
タンクカバーからシートカウルを、一体成形し、HDカスタムの濃度を高めている。イメージは1960〜70年代にかけてTracy Nelson(トレイシー・ネルソン)が構築して人気となった Tracy’s Fiberglas Works(トレイシーズ・ファイバーグラス・ワークス)の一体成形ボディ。これは当時のカスタムバイクシーンを象徴するアイテム。そのスタイルと手法を取り込んでいる。シート下の燃料タンクはワンオフ。
車体に描いたラインも吟味。塗装案だけでも、たっぷり時間を掛けて、あらゆる可能性を探ってつくり上げていった。
スロットルを開けるのが楽しそうなスタイルとポジション。ストリートを元気よく駆け抜けたい!
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