
●文:モーサイ編集部(平塚直樹)
バイクブームを彩ったCMとアイドルたち
昭和から平成にかけて巻き起こった一大バイクブーム。ブームには1970年代の第一次、1980年代から1990年代前半の第二次ブームがありますが、これらの時期に顕著だったのが、女性ライダーの増加です。
特に原付スクーターは、免許が比較的簡単に取得できる(学科試験だけ、また普通自動車免許でも運転可能)こともあり、通勤/通学や買い物などで気軽に利用できる日常の足として、女性にも大きな人気を得ました。
そのため、当時の原付スクーターには、女性をターゲットにしたボディカラーや使い勝手を考慮した装備、モデル名にも女性が好みそうなネーミングを施したモデルなどが数多く販売されました。
加えて、それらのモデルには、テレビCMやカタログなどで当時人気だった女性のタレントや歌手などを起用したものも多く、女性ユーザーに憧れや親近感を抱かせる広告宣伝が多かったのも特徴です。
また、女性向けモデルではなくても、男性ユーザーへのアピールとして、人気女性アイドルなどを起用するCMなども登場。現在50歳代半ばの筆者も含め、多くの男性ライダーの目を釘付けにしたものです。
ここでは、そんな昭和や平成の原付スクーターの中でも、特に当時の女性アイドルをCMキャラクターに起用したモデルをピックアップして紹介します。
スズキ蘭×伊藤蘭(1983)
1983年登場のスズキ蘭。デラックス/スーパーデラックス/カスタムなどグレード展開も行われた。
1983年にスズキが発売した「蘭(ラン)」のCMキャラクターには、アイドルグループ・キャンディーズの元メンバーで、現在は女優や歌手として活躍する伊藤蘭さんが起用されました。
蘭は、スズキが女性向けに発売したモデルで、全長1505mm×全幅640mm×全高920mmというコンパクトなボディや軽量な車体などで、女性にも取り回ししやすく、乗りやすい仕様となっていたのが特徴。
また、イメージカラーに赤を採用したり、花の“蘭”を車名に使うなど、男性的な車体色やネーミングが多かったそれまでのバイクと違い、徹底的に女性にアピールしたモデルです。
ちなみに、同じ年に発売された「薔薇(バラ)」も同コンセプトで、こちらは乾燥重量41kgという蘭よりさらに軽い車重が売り。やはり女性ライダーをメインターゲットにしていました。
その蘭のテレビCMには、名前が車名と同じ伊藤蘭さんを起用。
伊藤さんは、田中好子さん/藤村美樹さんと結成した3人組女性アイドルグループ、1970年代に一斉を風靡したキャンディーズの元メンバー。『年下の男の子』など数多くのヒット曲があり、筆者をはじめとする1960年代〜1970年代前半生まれの人なら、知らない人はいないほどの超人気アイドルでした。
テレビCMに出た伊藤さんは、当時20歳代後半。1977年に人気絶頂のままキャンディーズが解散して以降、俳優として活躍を始めた時期です。
CMにはいくつかバージョンがありますが、そのひとつとして、伊藤さんは艶やかな桜色の和服姿に、蘭の花を持って登場。従来のアイドル的イメージではなく、大人の女性を演出したスタイルです。
蘭の傍らに座った伊藤さんは、「蘭、咲きました」と、このスクーターが発売されたばかりの新型車であることをアピール。その後、「スクーター美人、スズキ蘭」とナレーションが入ります。
また別のバージョンでは、ボディカラーに赤/白/青」があり、「カラフルに咲いたでしょう?」という伊藤さんのセリフが入るものや、伊藤さんが「重さは私と同じくらいです」と、女性でも扱いやすい軽さをアピールするものなどがありました。
これら各バージョンから分かる通り、蘭のCMはかなり女性ユーザーを意識していたことが分かります。その戦略が功を奏したことと、当時から伊藤さんには女性ファンも多かったこともあり、蘭は女性ユーザーを中心に高い人気を誇りました。
ホンダ タクト×小泉今日子(1989)
電動式センタースタンドを装備し、1989年に登場した「スタンドアップタクト」。
ホンダのロングセラーモデル・タクト5代目モデルの広告宣伝には、キャラクターとして現在は主に俳優として活躍する小泉今日子さんが起用されました。
1989年にモデルチェンジを受けたタクトは、通称「スタンドアップタクト」と呼ばれたモデルです。その理由は、市販車初の電動式オートスタンドを採用したこと。この機構は、メインスイッチのキー操作だけで、センタースタンドが自動で起き上がるシステム。これが、このモデル一番の売りだったため、「スタンドアップ(立ち上がる)」という通称が付いたのです。
ちなみに、4ストローク単気筒を搭載する現行モデルと異なり、最高出力6.0psの空冷2サイクル単気筒を搭載。オートマチック(Vマチック)変速機構との組合せで、低速域から常用回転域までパワフルで滑らかな走りを実現していました。
そんな5代目タクトのテレビCMに登場した小泉さんは、ご存じの通り1980年代には「キョンキョン」の愛称で親しまれた人気アイドルでした。1985年にリリースしたシングル曲『なんてったってアイドル』は約30万枚のヒットとなり、楽曲の中で堂々と「私はアイドル」と歌った歌詞は大きな話題となりました。
タクトのCMに出た頃の小泉さんは、当時20代前半。歌だけでなく、テレビドラマなどにも出演し、演技でも評価を受け始めた頃です。CMにはいくつかバリエーションがありますが、いずれも5代目タクトの一番の特徴・電動式オートスタンドを小泉さんがコミカルに紹介するというもの。
その中のひとつで、小泉さんはかなりシュールな衣装で出演。まるでクモのロボットのようなルックスで、金属製のアシが10数本付いた近未来的なドレス(?)を身にまとっていたのです。
そして、笑顔で「回すとはなんじゃらほい」というCMソングに合わせて踊りながら、舞台のセリのようなところから上方に浮上。それに合わせて衣装に付いたクモ風のアシも伸びるという奇抜な演出でした。
ところが、次に、タクトの電動オートスタンドが自動で立ち上がるシーンに切り替わり、演出の意味が分かります。CMソングの歌詞にあった「回す」とはキーを回すことで、その操作により自動で起きるスタンドを、衣装の伸びるアシで表現していたのでした。
デビュー当時から独自のファッションや言動などが注目された小泉さんだけに、タクトのテレビCMも、かわいいだけのアイドルではない、際立つ個性を放った作品でした……
※本記事は2021年8月5日公開記事を再編集したものです。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
モーサイの最新記事
白バイ警察官になるためのファーストステップ、必要なのは執拗なアピールや根回し!? 警察官になっても、すぐに白バイ警察官になれる訳ではありません。白バイ警察官になるには、まず「白バイ隊員になりたい」と希[…]
ホンダ・スズキと同じく、浜松で創業した丸正自動車製造 中京地区と同様に、戦後間もなくからオートバイメーカーが乱立した浜松とその周辺。世界的メーカーに飛躍して今に続くホンダ、スズキ、ヤマハの3社が生まれ[…]
国内のカウル認可後に生まれた、1980年代半ばのネイキッドたち オンロードモデルの中で、定着して久しいネイキッド(英語のNAKED=裸という意味)というカテゴリー名。今では「カウルの付かないスタンダー[…]
シート後部、リヤ両サイドにある白バイの計3つのボックス 白バイのボックスは3つあります。荷物を入れるためのサイドボックス、無線機を入れる無線機ボックスがあり、サイドボックスは車両後部の左右に1つずつ、[…]
非Vツインから始まった、日本メーカー製のアメリカンモデル 1969年に公開されたアメリカ映画「イージーライダー」に登場するハーレーダビッドソンのカスタムチョッパーに影響を受け、長めのフロントフォークと[…]
最新の関連記事(バイク雑学)
白バイ警察官になるためのファーストステップ、必要なのは執拗なアピールや根回し!? 警察官になっても、すぐに白バイ警察官になれる訳ではありません。白バイ警察官になるには、まず「白バイ隊員になりたい」と希[…]
シート後部、リヤ両サイドにある白バイの計3つのボックス 白バイのボックスは3つあります。荷物を入れるためのサイドボックス、無線機を入れる無線機ボックスがあり、サイドボックスは車両後部の左右に1つずつ、[…]
規制の根拠は「道路法・第46条第3項」 高速道路などを走っていると、時折インターチェンジの手前などで「危険物積載車両ここで出よ」という表示を目にすることがある。この表示を見かけた場合、その先に危険物積[…]
日本語表記では「前部霧灯」。本来、濃霧の際に視界を確保するための装備 四輪車ではクロスオーバーSUVのブーム、二輪車においてもアドベンチャー系モデルが増えていることで、「フォグランプ」の装着率が高まっ[…]
白バイがガス欠することはあるの!? 今回は、「白バイが警ら中にもしもガス欠になったら!?」について、お話したいと思います。結論を先に言うと、ガス欠にならないように計画を立てて給油しています。 私も10[…]
最新の関連記事(タレント)
モデル/タレントのダレノガレ明美さんが、ホンダを代表するビッグネイキッドとして長らく愛され続けたCB1300のラストモデル「CB1300スーパーフォアSPファイナルエディション」のオーナーになったこと[…]
富山県で靴を磨いていたときのこと。「君、面白いことしてるねー」と声をかけてくれたのはロードバイクに乗ったとあるおじいさんでした。 「こんにちは! 今このバイクで日本一周しながら靴磨きしているんです。良[…]
故郷・北海道から1週間をかける“大人の同窓会” テレビ/映画/舞台への出演のほか、音楽シーンなどマルチに活躍する俳優/ミュージシャン・武田真治さん。芸能界きってのバイク好きとして知られ、これまで『ウィ[…]
大ブームだった50ccスクーターのCMを振り返る 今から30〜40年も昔、1980年代中盤から1990年代前半のいわゆるバブル経済期には、バイクの売り上げも絶好調でした。 中でも50ccスクーターは、[…]
『不良番長』は、シリーズを通して当時のバイクが大暴れするアクション映画! 記念すべき第1作目は、東映が1968年に10月に公開した『不良番長』。以降は翌1969年に公開された第2作目『不良番長 猪の鹿[…]
人気記事ランキング(全体)
“次”が存在するのは確実! それが何かが問題だ 2018年に発売されたモンキー125以来、スーパーカブC125、CT125ハンターカブ、そしてダックス125と、立て続けにスマッシュヒットを飛ばしている[…]
カバーじゃない! 鉄製12Lタンクを搭載 おぉっ! モンキー125をベースにした「ゴリラ125」って多くのユーザーが欲しがってたヤツじゃん! タイの特派員より送られてきた画像には、まごうことなきゴリラ[…]
疲れない、頭痛知らずのフィッティング技術! SHOEIの「Personal Fitting System(以下P.F.S.)」は、十人十色で異なるライダーの頭部形状に合わせたフィッティングを行う同社の[…]
セニアカー技術をベースとしながら、誰もが楽しめる乗り物へ スズキがジャパンモビリティショー2023(JMS2023)で出品したのが、16歳の高校生からセニアカーに抵抗のある高齢者まで、誰でも簡単に楽に[…]
40年の歴史を誇るナナハン・スーパースポーツと、兄弟車のR600 1985年当時、ナナハンと呼ばれていた750ccクラスに油冷エンジン搭載のGSX-R750でレーサーレプリカの概念を持ち込んだのがスズ[…]
最新の投稿記事(全体)
ページのボタンを押すとマフラー音が聞こえる! 現在、無料掲載中の『ヤングマシン電子版8月号』では、『最新マフラー特集』を展開している。 日本を代表するマフラーメーカーの最新マフラーを紹介しているが、そ[…]
ヤマハNMAX155試乗レビュー この記事では、ヤマハの原付二種スクーターから、NMAX ABS(125)の2018年モデルについて紹介するぞ。 ※以下、2018年7月公開時の内容に基づく 【NMAX[…]
6/30:スズキの謎ティーザー、正体判明! スズキが公開した謎のティーザー、その正体が遂に判明したことを報じたのは6月30日のこと。ビリヤードの8番玉を写した予告画像は、やはりヤングマシンが以前からス[…]
「バイクを文化に」を共有する 日本自動車工業会(自工会)と日本二輪車普及安全協会(日本二普協)は、共催で「8月19日はバイクの日 HAVE A BIKE DAY 2025」イベントを開催する。このイベ[…]
初の対米輸出車にして初の4ストビッグバイク 1966年から発売が始まったW1シリーズは、近年ではカワサキの歴史を語るうえで欠かせない名車と言われている。それはたしかにそうなのだが、W1シリーズの開発経[…]
- 1
- 2