エリザベス女王はモーターサイクルを乗りこなし、トラックのエンジン整備もマスターする傑物だった
●文:[クリエイターチャンネル] 風間ナオト
第二次世界大戦時に女性部隊へ入隊、バイクに乗る初めての王女に!
2022年9月8日、イギリスのエリザベス2世(エリザベス女王)が、96歳で亡くなられました。世界中から集まったVIPが参列した国葬の様子をニュース映像でご覧になられた方も多いでしょう。
1897年、当時の国王、エドワード7世の支援を受けて設立された『ロイヤル・オートモビル・クラブ(RAC)』がモータースポーツの発展に大きく寄与するなど、英国王室と乗り物には浅からぬ関係がありますが、実はエリザベス女王、若かりし頃にBSAやロイヤルエンフィールドのバイクに乗った経験をお持ちだったそう。
2012年のロンドンオリンピック開会式での映画『007』シリーズ、ジェームス・ボンドとの共演、今年6月に催された即位70周年の祝賀イベント、プラチナジュビリーの際に公開された、人気キャラクター『くまのパディントン』との映像の印象などから、近年はお茶目で親しみやすいイメージが強かったですが、第二次世界大戦を経ての大英帝国の終焉、北アイルランド紛争、ダイアナ元妃絡みの王室スキャンダル、EU離脱等々、激動の時代を常に毅然とした態度で治めてきた女王の内側には、固くしっかりとした芯が通っていたことはいうまでもありません。
そんな芯の強さが表れたのが、1945年の『ATS(Auxiliary Territorial Service:補助地方義勇軍)』への志願です。そこでバイクの運転を覚え、モーターサイクルを操る初めての王女、女王になりました。
BSA、ロイヤルエンフィールドの軍用バイクで見事なスラローム走行
11歳の時、叔父のエドワード8世が“王冠をかけた恋”で退位し、突然、父が国王となったエリザベス王女は、最初こそ戸惑いを見せていたものの、成長する中で少しずつ女王となる覚悟を決めていったといいます。そして13歳の誕生日から数カ月後に始まった第二次世界大戦は、国へ奉仕する自分の気持ちをさらに強く固めました。
「私の全生涯を、たとえそれが長くても短くても、国民の皆さんと英連邦へと捧げることを誓います」とBBCを通じて世界に向けてスピーチしたのが21歳の時ですが、その3年前、すでに女王(当時は王女。ここから女王に統一)は、自らの身を国に奉じていたのです。
『ATS』とは第二次世界大戦時にイギリス陸軍が組織した女性部隊で、18歳を迎えた女王は「自分の役割を果たそう」と決意し、陸軍への入隊を希望。トラック運転手および整備士としての訓練を受け、陸軍に勤務したロイヤルファミリー唯一の女性となります。
そこで「BSA C10」「ロイヤルエンフィールド WD/D」といった250cのバイクでスラロームなどの練習に励み、腕を磨きました。
「BSA C10」は、第二次大戦前からの設計をベースにしたサイドバルブ単気筒エンジンが頑丈で、製造費、維持費とも安く、かつ運転しやすかったことからイギリス軍で多く使用されました。
また、「ロイヤルエンフィールド WD/D」も広く軍で用いられ、女王が乗ったと思われる250ccの他に350cc、570ccも存在していました。ちなみに車名に付く“WD”は“War Department”の略で、イギリス軍用を示します。
他のメーカーと足並みを揃えて民間用の生産を完全に停止し、軍用バイクを数多く製造したロイヤルエンフィールドは、通称 “フライング・フリー(空飛ぶノミ)”こと超軽量59kgの「WD/RE」も有名です。
当時、スラローム練習の様子を取材した現地ジャーナリストは、その「落ち着いた」ライディングに驚かされたとのレポートを残していますが、3歳で初めて馬に乗り、亡くなられる数カ月前まで乗馬を楽しまれていた女王にとっては、鉄馬の扱いはそこまで難しいものではなかったのかも?
フィクションではありますが、映画『ローマの休日』でアン王女が乗っていたのが、可愛らしいベスパなのに対し、軍用バイクを颯爽と乗りこなすなんて何ともイカしてます!
仲間の新兵たちと訓練を受けた女王は、トラックのタイヤ交換やプラグ調整、エンジンの分解整備など、車両メンテナンスの方法もマスター。一緒に働いた女性たちとも友情を築いたそうです。
父のジョージ6世が「娘が特別扱いされないように」と要望し、陸軍では他の若い女性と同じ役割を果たしましたが、さすがに全く同様の扱いともいかず、兵舎では眠らず、「爪の間が汚れた手、グリースが飛び散ったカバーオール」で夜は一旦ウィンザー城に戻り、翌朝、また出勤するスタイルでした。
戦時中、任務で運転している姿がたびたび目撃されていたとのことですが、周囲に「ハンドルを握るのが好きなの」と漏らしていたという話からも女王の乗り物好きぶりが感じられます。
孫のウィリアム皇太子とハリー王子は熱心なモーターサイクル愛好家
女王の乗り物好きを受け継いだのが、孫に当たるウィリアム皇太子とハリー王子です。
ふたりは熱心なモーターサイクル愛好家で、ウィリアム皇太子はドゥカティのスーパーバイク1198とハイパーモタード、ハリー王子はトライアンフのデイトナ675に乗っていたんだとか。
バイク好きが高じて、2008年には子どもたちの慈善団体に贈る50万ポンドを集めるため、ホンダ CRF230Lで南アフリカを1万6000km走破するチャリティー・ツアーにも参加しました。
どこに行っても注目を集めてしまう王子たちにとって、人目に付かないように移動できるバイクは格好の気晴らしになるらしく、ウィリアム皇太子は「ヘルメットがどこまでライダーの匿名性を維持してくれるのか楽しんでいるよ(笑)」とも話しています。
90歳を迎えてからもレンジローバーやジャガーを自ら運転したエリザベス女王。天国では若い時分を思い出して、バイクにもぜひ乗っていただきたいですね。
※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
あなたにおすすめの関連記事
ロイヤルエンフィールド「ヒマラヤ」、お前はなぜ411ccなのか? ところで、皆さんはロイヤルエンフィールドの「ヒマラヤ」というバイクをご存知だろうか? 詳細は、ぜひこちらの記事↓をチェックしてみて! […]
トライアンフの歴史の出発点となるプロトタイプが発見され、レストアされた! プロトタイプの話をする前に、トライアンフ創業の経緯について簡単に触れておこう。 トライアンフの前身は自転車メーカーだった。産業[…]
20世紀末までは、走るシーラカンスとも言われたクラシックバイクを継続的に生産してきたロイヤルエンフィールドだが、今世紀に入って以降は着々と進化を続け、新エンジンの開発や往年のビッグネーム(コンチネンタ[…]
チェコ発祥のJAWA(ヤワ) インド市場に古豪ブランドが復活する。その名も「イェズディ(YEZDI)」は、1960年代にチェコから渡来しライセンス生産されていたブランド「JAWA(ヤワ)」が1970年[…]
1965年モデル、56年前のカワサキ・500メグロK2に感動! エンジンを始動する、それだけで感動できるようなバイクに出会う機会はめったにない。思いのほか柔らかいパルスに威風堂々のサウンド、それでいて[…]
最新の記事
- 【動画インプレ】ヤマハ XSR125vsホンダ モンキー125 原付二種MT異種格闘技戦?! 同時に乗り比べると…アレもコレも全然違う!!
- 【SCOOP特別編】ホンダ新型CB400は…こうなる!! プロがその姿を大胆予想〈②エンジン&車体編〉
- 今が見頃!一生に一度は絶対に見たい500万本! 曼珠沙華群生地〜巾着田(埼玉県日高市)へ行ってみた
- カワサキ新型モデル「ニンジャ1100SX」登場! 排気量アップで新生、ブレンボ&オーリンズのSEも同時デビュー
- 黒玉虫とグリーンボール! カワサキ「Z650RS」の2025年もモデルが10月1日発売
- 1
- 2