ついに鈴鹿8耐も席捲か?! “令和最強”パニガーレV4Rへ繋がるドゥカティSBKホモロゲーションマシンの歴史

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市販スーパースポーツをベースに戦う「スーパーバイク世界選手権」で現在最強の存在がドゥカティのパニガーレV4Rだ。今年はそのワークスマシンが鈴鹿8耐に挑むとあって話題を集めているが、このV4Rまでの道のりはどう紡がれてきたのか。ドゥカティ・スーパーバイクの歴史を紐解いてみよう。

●文:伊藤康司 ●写真:DUCATI/箱崎太輔 ●BRAND POST提供:ドゥカティジャパン

SBKに君臨するドゥカティのスーパーバイクとは?

大排気量スーパースポーツといえば、日本製4気筒モデルをイメージするライダーが多いハズ。しかし、それらのバイクがしのぎを削るスーパーバイク世界選手権(SBK)で現在、圧倒的な強さを誇るのがイタリアのドゥカティなのはまぎれもない事実。では、SBKを席捲するパニガーレV4Rの強さはどのように紡がれてきたのだろうか。今回はSBKがスタートした1988年からこのレースに参戦し続けてきた、ドゥカティのスーパーバイクを時代を追ってもれなく紹介!

【ドゥカティ851/888】同社初の水冷4バルブエンジン

851 スーパーバイク ストラーダ(1988)

851 スーパーバイク レーシング(1988)

1988年からスタートするSBKに照準を合わせ、ドゥカティは同社初の水冷DOHC4バルブエンジン(排気量851cc)を搭載するスーパースポーツモデルである「851スーパーバイク」を開発。エンジンはドゥカティならではのバルブの強制開閉機構「デスモドロミック」を考案した主任技師のファビオ・タリオーニの右腕であるマッシモ・ボルディが考案し、当時、二輪ではまだ珍しかった電子式燃料噴射装置をいち早く装備。このエンジンを鋼管トレリスフレームに搭載した。

レース専用モデルで121psを発揮する「レーシング」と、ホモロゲーション獲得用の公道モデルで102psの「ストラーダ」が製作され、1988年のSBK開幕戦・ドニントンに元GP500チャンピオンのマルコ・ルッキネリが参戦し、見事に優勝! ここからSBKにおけるドゥカティの快進撃が始まった。

ドゥカティ初の水冷機構を採用した90度V型2気筒DOHC4バルブ。このエンジンを搭載する851は、SBKが初開催された1988年の第1戦・ドニントンで見事にデビューウィンを飾った。ライダーは元GP500チャンピオンのマルコ・ルッキネリ。

そして2年後の1990年SBKで、排気量を888ccに拡大した「851 SP1」が初のシリーズチャンピオンを獲得(ライダーはレイモン・ロッシュ)。さらに1990年は「851 SP2」、1991年は「851 SP3」でダグ・ポーレンが連続してチャンピオンに輝く。レースマシンと歩調を合わせるように、851は排気量の拡大や足まわりの改良など毎年のようにアップデートされ、1992年には車名を888に変更した。

888(1992) 車名が排気量と同じ888に。通常版のストラーダは最高出力95ps(計測が後輪に変更)。ホモロゲーションモデルの888 SP4/Spsは120ps(後輪出力)。888は1994年まで生産された。※写真は1993年の888 SP5

【ドゥカティ916/996/998】稀代の名車が誕生

916ストラーダ(1994)

888の後継モデルとして1993年のミラノショーに登場した「916」は、世界中のライダーやバイクメーカーに衝撃を与えた1台。エンジンの基本設計は888を踏襲しつつ排気量を916ccに拡大し、完全新設計のスチールトレリスフレームに搭載。斬新なデザインも注目の的だった。

ちなみにホモロゲーションモデルの916 SPは最高出力131ps。SBK用レーサーの916コルサは排気量を955ccとし、最高出力を153psまで引き上げている。今も語り継がれるこの名車を設計したのは、ビモータの創始者のひとりである天才エンジニア・マッシモ・タンブリーニ技師だ。

吸排気バルブの挟み角を狭角化した、新型シリンダーヘッドを備えるテスタストレッタエンジン。996Rで初採用され、2011年の1198まで長く使用された。

エンジンは基本的に888のレイアウトを踏襲するが、トレリスフレームはクロモリ鋼管を使用して851/888系から大幅に改変され、片持ち式スイングアームを装備。マフラーの管長を稼ぐセンターアップのサイレンサーも斬新で、916以降、スーパースポーツデザインのトレンドとなる。

916シリーズもアップデートを重ね、1999年に996、2002年には998と排気量の拡大に合わせて車名を変更。SBKでは2001年までチャンピオンを獲得(2002年はトロイ・べイリスがシーズン2位)。ホモロゲーションモデルの車名は末尾がSP(スポーツ・プロダクション)やSps(スポーツ・プロダクション・スペシャル)から、2001年の996で“R”へと変わり、これが現在のパニガーレV4Rまで続いている。

916の生みの親はビモータ創設者のひとりであるマッシモ・タンブリーニ技師。ドゥカティではツアラーモデルのパゾや、916の弟分である748なども手かけている。

996 Sps(1999) レース用では97年の916 Spsで排気量を996ccに拡大していたが、ホモロゲーション獲得のため車名を996に変更。最高出力123ps。

996R(2001) 排気量998ccのテスタストレッタエンジンを初搭載し、ホモロゲーションモデルの車名を996Rに変更。最高出力は135ps。

そしてレースシーンでは、1994〜1995年にカール・フォガティ、1996年にトロイ・コーサーがSBKシリーズチャンピオンを獲得。この916の活躍により、ドゥカティは一部のファンの評価だけでなく世界的な人気を得ることになる。

1993年に888でシーズン2位、916で1994年/1995年と連続チャンピオン。さらに1998年/1999年も連覇と、あまりの強さに“皇帝”と呼ばれたカール・フォガティ。

ゼッケン21で通名なトロイ・べイリス。フォガティの後を受け継ぎ、SBKにおいて2001年、2006年、2008年と3度のシリーズチャンピオンに輝くいている。

【ドゥカティ999】アバンギャルドなデザインに一転

999(2003)

999R(2003) SBK用ホモロゲーションモデル。エンジンは998Rから進化した専用品で、最高出力139ps。

2003年にスーパーバイクが大変身し「999」が登場。エンジンやフレームは916シリーズ最終版の998をリファインしたものだが、スイングアームは一般的な両持ち式に変更されてスタイルも一新。デザイナーはスポーツクラシックシリーズを手かけたピエール・テルブランチが手かける。エンジンは998ccのテスタストレッタで最高出力124psを発生した。

縦2眼のヘッドライトに代表される、その前衛的なデザインは賛否が分かれたが、走りの実力は一級品。SBKにおいてはデビューした2003年にニール・ホジソンが勝率100%でチャンピオンに輝き、2004年はジェームズ・トーズランド、2006年はトロイ・べイリスがチャンピオンを獲得している。

トレリスフレームやテスタストレッタエンジンは996〜998系の基本を踏襲するが、5ポジション調整式のステップや、シングルシート仕様ではタンク/シートを前後に20mmアジャストできる機構などを採用。部品のモジュラー化で部品点数を削減し、整備性も向上。

【ドゥカティ1098/1198】L型エンジン&トレリスフレームの極み

1098R(2008)

1198(2009) STD仕様の1198と、前後のオーリンズサスや鍛造ホイールを備える上級版・1198Sを設定。最高出力は1098Rには敵わないものの、STDの1098からは+10psとなる170psを発揮。

2007年にフルチェンジを受け、排気量を999→1099ccへと大幅に拡大して最高出力を160psに押し上げた「1098」が登場。スタイルは999よりコンサバで、いわば916シリーズの正常進化版。スイングアームも再び片持ち式を採用する。

登場時のグレード展開はSTDな1098と上級仕様の1098Sの2種だが、2008年にはSBKの新レギュレーション(=2気筒は1200ccまで)に合わせた1199ccのホモロゲーションモデル・1098Rが登場。最高出力はなんと180psに到達した。

さらに翌2009年にはSTDモデルにもこの排気量を与えたニューモデル「1198」へとモデルチェンジする。このモデルが現時点では、ドゥカティのSBKホモロゲーションモデル最後のトレリスフレーム採用モデルとなっている。

ちなみにSBKでは2008年にトロイ・べイリスが駆り自身3度目のタイトルを獲得。2009年にはドゥカティのファクトリーチームで唯一の日本人選手である芳賀紀行がシーズン2位となった。さらに2011年にカルロス・チェカがチャンピオンに輝いている。

1098Rのストリップ。1098/1198は初代スーパーバイクの851で始まったL型(90度V型2気筒)の水冷DOHC4バルブエンジンと、鋼管トレリスフレームの集大成といえるモデルだ。

【ドゥカティ 1199/1299パニガーレ】車体もエンジンもすべて刷新

1199パニガーレR(2013)

ドゥカティは2012年にスーパーバイクを完全刷新。851から進化・熟成を重ねた90度V型2気筒(そのルックスから“L型”と呼ばれ親しまれた)は、カムシャフト駆動をコグドベルトからチェーンに変え、バンク角90度は変わらないがグッと起こしたV型に近い搭載位置に改変。

そしてフレームも鋼管トレリスから、シリンダーヘッドに締結したアルミ製のエアボックスがステアリングステムを兼ねる、とてもコンパクトな形状のモノコックへと変更。マフラーもセンターアップからエンジン下のミッドシップに変わった。

2012年にスタンダードモデルの1199パニガーレ/Sを発売し、翌2013年にホモロゲーションモデルの1199パニガーレRが登場(本国仕様で195ps)。2015年にスタンダードモデルは1299ccに排気量を拡大して1299パニガーレとなるが、SBK参戦用のホモロゲーションモデルはレギュレーションに合わせて排気量は据え置きの1199ccで、車名はシンプルにパニガーレRとなった(本国仕様205ps)。

完全刷新されたV型2気筒エンジン。バンク角は90度だが後方に起こされたV型になり、カム駆動はチェーンに。ライド・バイ・ワイヤのスロットルなど電子制御化も一気に進んだ。

”エンジンにフロントフォークを支持させるだけ”といった体の、猛烈にコンパクトなアルミ製モノコックフレーム。カラー液晶メーターやオーリンズの電子制御サスペンションなども他車に先駆けた装備。

じつはパニガーレRは、851から続くドゥカティ・スーパーバイクの歴史で唯一チャンピオンを獲得できなかった悲運のマシン。これはドゥカティが2013年、2014年のSBKにワークス参戦しなかったことと、2015年から6年連続でチャンピオンに輝いた、カワサキのジョナサン・レイが圧倒的に強かった時代と重なっていることが大きい。じつはパニガーレRもチャズ・デイビスのライディングにより、2015年はシーズン2位、2016年:3位、2017年:2位、2018年:2位と大いに健闘しているのだ。

2015年のワークスマシンであるパニガーレRと、それを駆って大いに健闘したチャズ・デイビス。

モノコックフレームとエンジン下のミッドシップマフラーにより、圧倒的なマスの集中感を見せる1199パニガーレのストリップ。日本仕様では当時の騒音規制をクリアするため”サードマフラー”と呼ばれた後付けサイレンサーを装備したことでも話題を呼んだ。

【ドゥカティ パニガーレV4R】V4エンジンで再び最強の座に

パニガーレV4R(2019年)

初代スーパーバイクの851以来、30年余りも2気筒エンジンでSBKを戦ってきたドゥカティが、ついにV型4気筒エンジンを搭載するパニガーレV4を2018年にリリース。エンジンはMotoGPマシンと同レイアウトの90度V型4気筒で、70度のクランク位相や点火順序も同一、0-90-290-380-720の爆発間隔まで踏襲する。さらにフレームは1199/1299パニガーレのモノコックフレームから、剛性を最適化したアルミ合金製の「フロントフレーム」へと大幅に進化した。

まずはSTDモデルのパニガーレV4と、その上級版のパニガーレV4Sが発売され(ともに1103cc:214ps)、翌2019年にはSBKのレギュレーションに合わせて排気量を縮小したホモロゲーションモデル・パニガーレV4R(998cc:221ps。レースキット装着で234ps)が登場。空力性能に貢献するウイングレットも装備した。ちなみにパニガーレV4Rの最新型・2024年モデルは公道仕様で218ps、レーシングキットと専用エンジンオイル使用で240.5psを発揮する。

パニガーレV4Rのエンジン。スタンダード車とは排気量だけでなく、チタン製のコンロッドや軽量で形状も異なるピストン、乾式クラッチなど各部が大幅に異なる。

パニガーレV4Rのフロントフレーム。スタンダード車(初期モデル)とは肉抜きなどが異なり、剛性の最適化や軽量化が図られている。

SBKでは、デビュー年の2019年はアルバロ・バウティスタがシーズン2位、2020年、2021年はスコット・レディングがいずれもシーズン2位だったが、2022年にバウティスタがドゥカティとしては11年振りのチャンピオンを奪取。翌2023年シーズンもバウティスタが連覇を達成した。

鈴鹿8耐ではパニガーレV4Rの総合優勝に期待

この、バウティスタがチャンピオンを獲得した2023年のワークスV4Rを日本に持ち込み、”黒船来襲”と称して2024年の全日本JSB1000を戦っているのが加賀山就臣監督率いるDUCATI Team KAGAYAMAだ。水野涼をライダーに迎え、全日本では絶対的な王者であるヤマハファクトリーの中須賀克行に匹敵する速さを見せている。

来る7月21日に決勝を迎える鈴鹿8耐にもDUCATI Team KAGAYAMAは参戦を表明している。ドゥカティのワークスマシンが走るのは、45年におよぶ8耐の歴史でも初めてのこと。SBK最強のパニガーレV4Rを駆る水野涼、そしてジョシュ・ウォーターズ/ハフィス・シャーリンという3人のライダーが灼熱の鈴鹿でどんな大暴れを見せるのか。今年の8耐は絶対に見逃せない!!

ドゥカティは2022年チェコラウンドの第1戦で、マルコ・ルッキネリが851でSBK第1回大会を制してから通算1000回目となる表彰台を達成。その記念すべきライダーとなったアルバロ・バウティスタがチャンピオンに輝いた2023年型ワークスV4Rが、DUCATI Team KAGAYAMAの手で鈴鹿8耐に挑むことになる。

全日本では絶対王者・ヤマハの中須賀克行にあと一歩まで迫っているDUCATI Team KAGAYAMAの水野涼。8耐の事前テストでも好タイムをマークしており、鈴鹿8耐初の”海外ブランドによる総合優勝”に期待がかかる!!


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