井上ボーリングの仕事〈#2〉 ICBMの普及を促進する、エバースリーブの誕生

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●文:中村友彦 ●写真:富樫秀明/井上ボーリング ●BRAND POST提供:井上ボーリング

アルミメッキスリーブをパーツとして販売

ICBMを施行したヤマハSRのシリンダー/スリーブ。内壁の最終仕上げは、摺動面を平らな高原状にしつつ、潤滑に必要なオイル溜まりとなる深い谷部を作り出す、井上ボーリング独自のプラトーホーニングで、アルミメッキスリーブではこの作業が不可欠。

エンジンの分解組み立てを日常的に行う2/4輪ショップは、特定の内燃機加工店と懇意の仲を築いているのが通例で、何らかのトラブルが起こらない限り、他の内燃機加工店に仕事を発注することはめったにない。だからメカニック、あるいは2/4輪ショップにオーバーホールを依頼するお客さんが、アルミメッキシリンダーのICBMに興味があっても、井上ボーリングとの付き合いがない場合は、なかなか接点を持ちづらいのだが……。

1970~1980年代に販売されたカワサキZシリーズは、ICBMの受注が非常に多いモデル。エバースリーブは3つのサイズを常時在庫している。

そんな状況を改善するため、2020年から井上ボーリングが導入を開始したのが、他の内燃機加工店との協力を前提にして生まれた“エバースリーブ”だ。完璧に仕上げたアルミメッキスリーブを、パーツとして販売するアイデアが生まれた経緯を、同社の代表を務める井上壮太郎さんに伺ってみた。

焼き嵌めをしなくても、しっかり圧着

1953年に井上ボーリングを創設したお父様の影響を受け、幼少期からエンジン付きの乗り物が大好きだったと言う井上壮太郎さん。その気持ちが、ICBMやエバースリーブなどの開発に結び付いたのだ。

最初に大前提の話をしておくと、内燃機加工店で鋳鉄スリーブをアルミ製シリンダーに挿入するときは、アルミと鋳鉄の熱膨張率の違いを考慮して、適度な嵌め合いシロ(シリンダー内径より、スリーブ外径をわずかに大きくする)を設定した“焼き嵌め”を行い、ボーリング&ホーニングに進むのが基本である。

どうしてそういった工程が必要なのかと言うと、スリーブとシリンダーをきっちり圧着させたうえで、スリーブ内径を規定値に仕上げるため。もちろんこの作業は手間がかかるし、焼き嵌めには職人の技術が必要だ。

左が昔ながらの鋳鉄製で、右は井上ボーリングが独自に開発したアルミ製。実際に2種のスリーブを手で持って驚くのは重量差で、鋳鉄製の重さはアルミ製の約3倍。

「ところがICBMの場合は、嵌め合いシロがゼロの隙間嵌めで、常温での圧入を行うことが可能です。1度エンジンに火が入れば、スリーブとシリンダーがしっかり圧着するんですよ。その理由はエンジンが内燃機関だからで、内側からの熱で圧着が進む。実はICBMも、当初は鋳鉄スリーブと同じ焼き嵌めをしていたのですが、あるときスタッフから、アルミ+アルミで熱膨張率が同じなのだから、焼き嵌めは不要かも……という意見が出て来ました。そこで、手で簡単に挿入できる外径のアルミメッキスリーブを作って、常温でシリンダーにセットして実走テストを行ってみたら、驚くことに、まったく問題がありませんでした。鋳鉄スリーブではあり得ないことですが、ICBMはエンジンに熱が入れば、同じアルミ素材のスリーブとシリンダーが完全に密着して一体化する。後に分解してみると、ズレや歪みは皆無で、スリーブの裏にオイルが進入した気配はありませんでした。私たちにとって、この事実は衝撃でしたね」

既存の鋳鉄スリーブの場合、交換時にはシリンダー全体を120℃前後に熱したうえでの焼き嵌めが必要だったものの、ICBMの発展型となるエバースリーブなら、常温のまま、手で入れることが可能。

スリーブとシリンダーの圧着は旧車にとって実は重要なテーマで、この部分の状況次第で、エンジンの性能とライフは大きく変わって来る。ちなみに車両メーカーの場合は、鋳鉄スリーブ+アルミシリンダーから、スリーブレスのアルミメッキシリンダーに移行したので、おそらく、アルミスリーブ+アルミシリンダーの美点は把握していない。つまり、同じ素材ならではの圧着は、数多くのアルミメッキスリーブを手がけて来た井上ボーリングだからこそ気づけた新事実で、この発見は後に特許の取得に結びつくこととなった。

エバースリーブは2021年9月に特許を取得。既存の内燃機加工の世界に存在しなかった技術として、スリーブ状態でのホーニング仕上げとシリンダー加工の組み合わせが、新しい特許として認められた。

「焼き嵌めが不要になれば、作業の順序を入れ替えることが可能で、スリーブをシリンダーにセットする前にボーリング、そしてアルミメッキスリーブで不可欠となる、当社独自のプラトーホーニングが行えます。これまでの常識で考えれば、内壁を完全に仕上げたアルミメッキスリーブを焼き嵌めすると、冷えて収束するときに内径が変形してしまうのですが、冷間での挿入なら変形は一切起こらないので、先に内壁の仕上げを行っても大丈夫、ということです。いずれにしても、内壁を完全に仕上げたアルミメッキスリーブを当社が準備すれば、他店でもICBMの施行ができることになります。もともとのエンジンに入っている鋳鉄スリーブの抜き取りや、シリンダー内壁の穴加工が必要ですが、一般的な内燃機加工店さんなら、それらの作業は難なくできるでしょう。そういった形で他店と協力しながら、優れたアルミメッキスリーブの普及を目指していきたいんです」

ストッパーリングで面研磨に対応

カワサキ空冷Z用のエバースリーブ。手間に見えるのが、シリンダー上面の研磨を考慮して開発したストッパーリングだ。

こうした経緯を経て生まれたのが、アルミメッキシリンダーを部品として販売するエバースリーブである。同社がエバースリーブの実用化に踏み切った背景には、ICBMの普及に加えて、納期短縮という意図もあった。今現在のICBMの納期は約2ヶ月だが、エバースリーブなら作業に要する時間は大幅に短縮できる。もちろん、全国の内燃機加工店がエバースリーブを積極的に扱ってくれるようになれば、納期はさらに短くなるはずだ。

なおエバースリーブは基本的に4ストローク用のみで、1気筒当たり価格は4万円。施行費用込みのICBMが1気筒当たり7万円であることを考えると、この価格設定には、アルミメッキシリンダーの美点を多くの人に知って欲しいという、井上さんの意思が表れている。

「エンジンのオーバーホールを行う場合は、シリンダー上面の歪みを修正する面研磨を行うのが一般的です。その作業をフライス盤で行うと、ICBMは内壁のメッキが剥がれる可能性があるので、当社は砥石で面研磨を行っているのですが、エバースリーブの導入に合わせて、メッキを保護するパーツとして、シリンダー上面に軽圧入する3mm厚のストッパーリングを開発しました。このリングがあるのでメッキの剥がれを心配することなく、フライス盤での面研磨が可能になります」

エバースリーブは桐木箱に入った状態で販売。既存のエンジンパーツとは一線を画する、高級感を演出している。

鋳鉄スリーブとは異なる、ICBMならではの美点を改めて記すと、耐久性と冷却性の大幅な向上、軽量化、フリクションの低減、熱膨張率の均一化、錆びの解消などで、もちろんこれらはエバースリーブも同様である。現在の同社がストックしているエバースリーブは、カワサキ空冷Z系に対応するφ64.5mm、φ66.5mm、φ69mm、CB750フォア用のφ61mm、ゼファー750用のφ66mmの5種で、その他の機種用は特注として受け付けている。

エバースリーブを導入したハーレー・ダビッドソン・エボリューションモデルのシリンダー。発熱量が多いモデルだけに、アルミメッキスリーブ化による恩恵は相当に大きい。

「ICBMとエバースリーブの最大のメリットは減らないことで、磨耗や劣化したエンジンパーツの補修を主な業務としている当社が理想のスリーブを製作することは、内燃機加工屋にとっての王道で、まさに成すべきことを成したと僕は感じています。世の中にはまだまだ数多くの鋳鉄スリーブ車が存在するわけですから、減らないスリーブを作ったことで、仕事の依頼が減ることはないでしょう。おかげさまでICBMは大好評をいただいていて、当社だけでは施行が追いつかないのが現状で、旧車にアルミメッキスリーブを導入するという大事業は、一社だけではやり切れません。だからこそ、機械遺産であるエンジンを未来に残すため、全国の内燃機加工店や2/4輪ショップ、そしてもちろん一般ユーザーの皆様と、力を合わせてこの夢を実現したいと僕は考えているんです」


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