井上ボーリングの仕事〈#1〉エンジンで世界を笑顔に!!

  • 2021/12/28
  • 【BRAND POST】井上ボーリング

●文:中村友彦 ●写真:富樫秀明/井上ボーリング ●BRAND POST提供:井上ボーリング

20世紀の機械遺産を未来に残すために

オートバイや自動車のエンジンオーバーホールで欠かせない作業と言えば、多くの人が思い出すのは、シリンダーのボーリング&ホーニングや吸排気バルブ周辺のリフレッシュ、クランクシャフトのオーバーホール、シリンダーヘッド/シリンダーの面研磨などだろう。こういった特殊で緻密な作業、修理の技術的な根幹を担っているのは内燃機加工店で、1953年に創業した井上ボーリングも、これまでにさまざまな形で多くのショップやプライベートチューナーを支援してきた。さらに近年の同社は、一般的な内燃機加工店の領域に収まらない、独自に開発した新しい技術を積極的に発信している。

井上ボーリング|エンジンオーバーホール
井上ボーリング|エンジンオーバーホール

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井上ボーリング|エンジンオーバーホール
井上ボーリング|エンジンオーバーホール

井上ボーリングでは自社工場内の作業の様子をYouTubeにアップしている。興味のある方は、公式チャンネル「iB iNOUE BORING」へ。 [写真タップで拡大]

「人類が生み出した“機械遺産”であるエンジンを、未来に残したい。僕はそんなことを考えているんです。20世紀の2輪と4輪は、近年では補修部品の入手と維持が難しくなっているのですが、我々の技術で再生のお手伝いをさせていただきたい。そしてせっかく再生をするなら、現代の技術を投入した“モダナイズ”を行って長寿命化を実現しませんか?というのが、当社からの提案です」

そう語るのは、井上ボーリングの代表を務める井上さん。同社の新技術の象徴が、10年以上に及ぶ開発期間を経て、2016年から正式導入が始まった「ICBM(Inoue Boring Cylinder Bore Finishing Method)」だ。

井上ボーリング|井上壮太郎社長

“エンジンで世界を笑顔にしたい‼”をモットーとする井上さん。プライベートではブルタコ シェルパ/メトラーラ、ホンダ ビートなど、ライトウェイトスポーツを愛用。 [写真タップで拡大]

アルミメッキスリーブならではの美点

一部に例外はあるものの、1960~1990年代に生産された2輪用エンジンの多くは、アルミシリンダーに鋳鉄スリーブを挿入するという手法で製作されていた。もっとも2ストロークの世界では1980年代後半から、鋳鉄スリーブを使用せず、アルミシリンダーの内壁にメッキを施す手法が普及したのだが、4ストロークでアルミメッキシリンダーが一般的になったのは、2000年代に入ってからである。

井上さんはそこに注目したのだ。旧車の定番だったアルミシリンダー+鋳鉄スリーブという構成を、現代的なアルミシリンダー+アルミメッキスリーブに置き換えれば、さまざまなメリットが得られるに違いないと。

「アルミメッキシリンダーの最大の美点は、磨耗がほとんど起こらないことです。もちろん、重量物である鋳鉄スリーブを使わないので軽量化も実現できますし、良好な熱伝導性を考えると冷却効率も向上します。さらに言うなら、熱が入ってからの膨張率が均一になること、摺動抵抗が減らせること、長期保管時に錆びが発生しないことも、鋳鉄スリーブでは実現できない特徴です。言ってみればいいことづくめ、美点しかないのですが、古い2輪や4輪を長く楽しみたい人にとっては、エンジンの要となるスリーブが減らないことこそが、最大にして最高のメリットでしょう」

井上ボーリング|ヤマハRZ250用アルミメッキスリーブ

ヤマハRZ250用純正シリンダーと、井上ボーリングが独自に開発したアルミメッキスリーブ。 [写真タップで拡大]

井上ボーリング|アルミメッキスリーブ

アルミメッキスリーブの内壁には現代のバイクと同様のニッケルシリコンカーバイトコンポジットメッキが施される。 [写真タップで拡大]

井上ボーリング|カワサキ マッハ|シリンダー

空冷2ストローク並列3気筒のカワサキ マッハシリーズは、ノーマルの耐久性が低かったため作業依頼が非常に多い。 [写真タップで拡大]

井上ボーリング|ICBM|750SS

ICBMを施行した750SS用シリンダー/スリーブを下から見る。大きな排気ポートの中央に“柱”を追加することで、耐久性が格段に向上。 [写真タップで拡大]

世界初の試みとなる、永久無償修理

世の中には、アルミに対して何となく脆弱なイメージを持っている人がいるかもしれない。とはいえ、表面処理によってアルミの素性は激変するのだ。ビッカース硬度という専門用語で示すなら、鋳鉄スリーブの100~150HVに対して、内壁にニカジルメッキを施した井上ボーリングのICBMは、なんと2000HVという数値を実現している。

「そもそもの話をするなら、きっかけは2ストロークでした。シンプルな筒型スリーブの4ストロークとは異なり、2ストロークのシリンダーとスリーブには数多くのポートが空いていて、その構造のせいで、1980年代中盤以前のカワサキ マッハ系やヤマハRZ/RZ-Rなどは、ピストンリングと鋳鉄スリーブの磨耗が非常に早いんです。でも1980年代中盤以降に登場したNSR250RやRGV250Γ、1988年型以降のTZR250などは、アルミメッキシリンダーを採用したおかげで、寿命が大幅に伸び、焼き付きも激減しました。そんな事情があったからか、かつてのアルミメッキシリンダーは2ストローク用のイメージが強かったのですが、2000年頃から車両メーカーが4ストロークにも導入を開始したので、それを契機にして、当社で素材や表面処理や硬度について徹底的に調べてみたところ、エンジン形式に関係なく、アルミメッキに大きなメリットが得られることがわかったんです」

アルミメッキシリンダー|6061-T6

耐久性と加工性を考慮した結果、井上ボーリングはアルミメッキシリンダーの素材として6061-T6を選択。 [写真タップで拡大]

もっとも、車両メーカー以外が1990年代以前に手がけたアルミメッキリシリンダーは、確固たるノウハウが存在しない中で、表面処理を手探りで行っていたため、トラブルが少なくなかった。そういった事情を把握していた井上ボーリングは、さまざまな手法をテストした後に、設備投資に膨大なコストがかかるのを承知で、ホンダNSR250RやF1レーサーと同じ、ニカジル=ニッケルシリコンカーバイトの電解メッキを導入し、トラブルを完全に克服。これまでに手がけた500以上のICBMで、剥離や割れといったメッキのトラブルは1件も発生していない。なおピストンリングに関しては、専用品を準備する必要はなく、鋳鉄スリーブ用をそのまま使ってOKで、ピストンクリアランスも鋳鉄と同じで問題ないが、素材をアルミで統一することを考えれば、理論上は詰めることが可能である。

「大多数の人からは圧倒的な信頼を得ていますが、かつての評価が残っているのか、アルミメッキシリンダーに疑問を抱く人は意外に少なくないようで、これまでにいろいろなところで、『本当に大丈夫?』と質問されました。だからその都度、『ICBMは昔のアルミメッキシリンダーとは違いますよ』と説明していたのですが…。本格的な展開を始めて数年が経過しても、まだ不安や心配の声が残っているようなので、2020年からは一般的な使い方でICBMに明らかな磨耗が発生した際に、無償で修理を行う”永久無償修理”という方針を打ち出すことにしました」

永久無償修理カード

ICBMユーザーに送付される永久無償修理カード。すでにシリアルナンバーは500番台後半に到達している。 [写真タップで拡大]

もちろんそれは、世界でも類例がない内燃機史上初の試みである。ただし井上さんにとっての永久無償修理は、決して無謀な試みではない。実際にICBMを導入して5万km以上を走った複数の車両で、エンジンを分解してシリンダー内壁を計測してみたところ、驚くことに、磨耗は測定誤差に収まるレベルだったのだから。その状況なら10万kmは楽勝だろうし、20~30万kmでも大丈夫という自信があったからこそ、井上ボーリングは永久無償修理というスタンスを表明したのだ。

多くの旧車好きに門戸を開く

「現在までのICBMの依頼は、4ストローク並列4気筒のカワサキ空冷Z系、2ストローク空冷3気筒のマッハシリーズ、4ストローク空冷単気筒のヤマハSR、2ストローク並列2気筒のRZ/RZ-Rなどが多いですが、ノーマルがアルミシリンダー+鋳鉄スリーブという構成で、ボアサイズが52~100mmであれば、あらゆるエンジンに対応できます。なお内燃機加工店と言うと、世の中には敷居の高さを感じる人がいるようですが、当社ではプロショップだけではなく、DIY派の一般ユーザーさんからの依頼も幅広く受け付けているので、エンジンに関することなら、どんなことでも気軽に相談してほしいですね」

井上ボーリング|ヤマハSR用ICBMシリンダー

チューニングを行うと発熱量の増大が問題になりやすい、空冷ビッグシングルのヤマハSRも、ICBMを希望するユーザーが多いモデル。 [写真タップで拡大]

井上ボーリング|カワサキZ系用ICBMシリンダー

カワサキZ系用ICBMシリンダー。ちなみに一度も交換していないZ系の鋳鉄スリーブは、嵌め合いがユルユルになっているのが普通である。 [写真タップで拡大]

作業工賃を含めたICBMの1気筒当たりの価格は、4ストが7万円で、2ストが10万円。鋳鉄スリーブに+1万5000円/+3万円という設定をどう感じるかは人それぞれだが、耐久性を筆頭とするさまざまな美点を考えれば、高いと感じる人はいないだろう。

※本記事は井上ボーリングから寄稿されたものであり、著作上の権利および文責はすべて寄稿元に属します。なお、掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。

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