井上ボーリングの仕事〈#1〉エンジンで世界を笑顔に!!

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●文:中村友彦 ●写真:富樫秀明/井上ボーリング ●BRAND POST提供:井上ボーリング

20世紀の機械遺産を未来に残すために

オートバイや自動車のエンジンオーバーホールで欠かせない作業と言えば、多くの人が思い出すのは、シリンダーのボーリング&ホーニングや吸排気バルブ周辺のリフレッシュ、クランクシャフトのオーバーホール、シリンダーヘッド/シリンダーの面研磨などだろう。こういった特殊で緻密な作業、修理の技術的な根幹を担っているのは内燃機加工店で、1953年に創業した井上ボーリングも、これまでにさまざまな形で多くのショップやプライベートチューナーを支援してきた。さらに近年の同社は、一般的な内燃機加工店の領域に収まらない、独自に開発した新しい技術を積極的に発信している。

井上ボーリングでは自社工場内の作業の様子をYouTubeにアップしている。興味のある方は、公式チャンネル「iB iNOUE BORING」へ。

「人類が生み出した“機械遺産”であるエンジンを、未来に残したい。僕はそんなことを考えているんです。20世紀の2輪と4輪は、近年では補修部品の入手と維持が難しくなっているのですが、我々の技術で再生のお手伝いをさせていただきたい。そしてせっかく再生をするなら、現代の技術を投入した“モダナイズ”を行って長寿命化を実現しませんか?というのが、当社からの提案です」

そう語るのは、井上ボーリングの代表を務める井上さん。同社の新技術の象徴が、10年以上に及ぶ開発期間を経て、2016年から正式導入が始まった「ICBM(Inoue Boring Cylinder Bore Finishing Method)」だ。

“エンジンで世界を笑顔にしたい‼”をモットーとする井上さん。プライベートではブルタコ シェルパ/メトラーラ、ホンダ ビートなど、ライトウェイトスポーツを愛用。

アルミメッキスリーブならではの美点

一部に例外はあるものの、1960~1990年代に生産された2輪用エンジンの多くは、アルミシリンダーに鋳鉄スリーブを挿入するという手法で製作されていた。もっとも2ストロークの世界では1980年代後半から、鋳鉄スリーブを使用せず、アルミシリンダーの内壁にメッキを施す手法が普及したのだが、4ストロークでアルミメッキシリンダーが一般的になったのは、2000年代に入ってからである。

井上さんはそこに注目したのだ。旧車の定番だったアルミシリンダー+鋳鉄スリーブという構成を、現代的なアルミシリンダー+アルミメッキスリーブに置き換えれば、さまざまなメリットが得られるに違いないと。

「アルミメッキシリンダーの最大の美点は、磨耗がほとんど起こらないことです。もちろん、重量物である鋳鉄スリーブを使わないので軽量化も実現できますし、良好な熱伝導性を考えると冷却効率も向上します。さらに言うなら、熱が入ってからの膨張率が均一になること、摺動抵抗が減らせること、長期保管時に錆びが発生しないことも、鋳鉄スリーブでは実現できない特徴です。言ってみればいいことづくめ、美点しかないのですが、古い2輪や4輪を長く楽しみたい人にとっては、エンジンの要となるスリーブが減らないことこそが、最大にして最高のメリットでしょう」

ヤマハRZ250用純正シリンダーと、井上ボーリングが独自に開発したアルミメッキスリーブ。

アルミメッキスリーブの内壁には現代のバイクと同様のニッケルシリコンカーバイトコンポジットメッキが施される。

空冷2ストローク並列3気筒のカワサキ マッハシリーズは、ノーマルの耐久性が低かったため作業依頼が非常に多い。

ICBMを施行した750SS用シリンダー/スリーブを下から見る。大きな排気ポートの中央に“柱”を追加することで、耐久性が格段に向上。

世界初の試みとなる、永久無償修理

世の中には、アルミに対して何となく脆弱なイメージを持っている人がいるかもしれない。とはいえ、表面処理によってアルミの素性は激変するのだ。ビッカース硬度という専門用語で示すなら、鋳鉄スリーブの100~150HVに対して、内壁にニカジルメッキを施した井上ボーリングのICBMは、なんと2000HVという数値を実現している。

「そもそもの話をするなら、きっかけは2ストロークでした。シンプルな筒型スリーブの4ストロークとは異なり、2ストロークのシリンダーとスリーブには数多くのポートが空いていて、その構造のせいで、1980年代中盤以前のカワサキ マッハ系やヤマハRZ/RZ-Rなどは、ピストンリングと鋳鉄スリーブの磨耗が非常に早いんです。でも1980年代中盤以降に登場したNSR250RやRGV250Γ、1988年型以降のTZR250などは、アルミメッキシリンダーを採用したおかげで、寿命が大幅に伸び、焼き付きも激減しました。そんな事情があったからか、かつてのアルミメッキシリンダーは2ストローク用のイメージが強かったのですが、2000年頃から車両メーカーが4ストロークにも導入を開始したので、それを契機にして、当社で素材や表面処理や硬度について徹底的に調べてみたところ、エンジン形式に関係なく、アルミメッキに大きなメリットが得られることがわかったんです」

耐久性と加工性を考慮した結果、井上ボーリングはアルミメッキシリンダーの素材として6061-T6を選択。

もっとも、車両メーカー以外が1990年代以前に手がけたアルミメッキリシリンダーは、確固たるノウハウが存在しない中で、表面処理を手探りで行っていたため、トラブルが少なくなかった。そういった事情を把握していた井上ボーリングは、さまざまな手法をテストした後に、設備投資に膨大なコストがかかるのを承知で、ホンダNSR250RやF1レーサーと同じ、ニカジル=ニッケルシリコンカーバイトの電解メッキを導入し、トラブルを完全に克服。これまでに手がけた500以上のICBMで、剥離や割れといったメッキのトラブルは1件も発生していない。なおピストンリングに関しては、専用品を準備する必要はなく、鋳鉄スリーブ用をそのまま使ってOKで、ピストンクリアランスも鋳鉄と同じで問題ないが、素材をアルミで統一することを考えれば、理論上は詰めることが可能である。

「大多数の人からは圧倒的な信頼を得ていますが、かつての評価が残っているのか、アルミメッキシリンダーに疑問を抱く人は意外に少なくないようで、これまでにいろいろなところで、『本当に大丈夫?』と質問されました。だからその都度、『ICBMは昔のアルミメッキシリンダーとは違いますよ』と説明していたのですが…。本格的な展開を始めて数年が経過しても、まだ不安や心配の声が残っているようなので、2020年からは一般的な使い方でICBMに明らかな磨耗が発生した際に、無償で修理を行う”永久無償修理”という方針を打ち出すことにしました」

ICBMユーザーに送付される永久無償修理カード。すでにシリアルナンバーは500番台後半に到達している。

もちろんそれは、世界でも類例がない内燃機史上初の試みである。ただし井上さんにとっての永久無償修理は、決して無謀な試みではない。実際にICBMを導入して5万km以上を走った複数の車両で、エンジンを分解してシリンダー内壁を計測してみたところ、驚くことに、磨耗は測定誤差に収まるレベルだったのだから。その状況なら10万kmは楽勝だろうし、20~30万kmでも大丈夫という自信があったからこそ、井上ボーリングは永久無償修理というスタンスを表明したのだ。

多くの旧車好きに門戸を開く

「現在までのICBMの依頼は、4ストローク並列4気筒のカワサキ空冷Z系、2ストローク空冷3気筒のマッハシリーズ、4ストローク空冷単気筒のヤマハSR、2ストローク並列2気筒のRZ/RZ-Rなどが多いですが、ノーマルがアルミシリンダー+鋳鉄スリーブという構成で、ボアサイズが52~100mmであれば、あらゆるエンジンに対応できます。なお内燃機加工店と言うと、世の中には敷居の高さを感じる人がいるようですが、当社ではプロショップだけではなく、DIY派の一般ユーザーさんからの依頼も幅広く受け付けているので、エンジンに関することなら、どんなことでも気軽に相談してほしいですね」

チューニングを行うと発熱量の増大が問題になりやすい、空冷ビッグシングルのヤマハSRも、ICBMを希望するユーザーが多いモデル。

カワサキZ系用ICBMシリンダー。ちなみに一度も交換していないZ系の鋳鉄スリーブは、嵌め合いがユルユルになっているのが普通である。

作業工賃を含めたICBMの1気筒当たりの価格は、4ストが7万円で、2ストが10万円。鋳鉄スリーブに+1万5000円/+3万円という設定をどう感じるかは人それぞれだが、耐久性を筆頭とするさまざまな美点を考えれば、高いと感じる人はいないだろう。


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