正式発表される以前から予約が殺到し、発売直前の段階で既に年間販売予定台数以上のオーダーが入ってしまったというホンダの大人気モデル「CT125ハンターカブ」。ヤングマシンテスター・大屋雄一による試乗インプレッションを基に、その人気の秘密を探る。
外観はノスタルジックだが、最新技術を惜しみなく投入
’20年10月に開催された東京モーターショーでのワールドプレミアからおよそ8か月、話題の原付二種である「CT125ハンターカブ」のデリバリーが始まった。発売日の正式な告知前に年間販売計画台数に迫る7300台ものオーダーが入ったことからも、この新型車に対する期待値の高さが伝わるだろう。かくいう私も、試乗日の前夜に再び資料を読み込んだほどこの日を楽しみにしていた。
このCT125のモチーフとなったのは、日本でも’81年に発売されたCT110である。私は15年前に、電装系を6→12V化したオーストラリア仕様を試乗したことがあり、ブロックタイヤによる走行ラインのヨレなど些細なネガはあったものの、スーパーカブがベースとは思えないほどのモーターサイクル的な走りに感動。その記憶が今でも残っているほどだ。
当時のスーパーカブはフロントサスがまだボトムリンク式で、タイホンダのウェーブシリーズがユニットステアのフォークを採用していたが、本格的なテレスコピックフォークを採用するCT110のハンドリングはそのどちらとも異なっていた。以前、ホンダの小排気量車を得意とするショップを取材した際に、「ハンターカブは『カブ』を名乗っているけれど別物だから」などと聞いたことがあったが、その理由に深く納得した。
そんなハンターカブが、「CT125」となって令和の世に復活した。スタイリングは”CTらしさ”の特徴であるアップマフラーやエアクリーナーカバー、大型リヤキャリア、鋼板製のフロントフェンダーなどをうまく抽出しており、マニアも納得の出来映えとなっている。その上で、上下のブラケットで支持するテレスコピックフォークを採用するにあたり、スーパーカブC125をベースとしたバックボーンフレームは、ヘッドパイプを新規で起こしたほか、ピボットプレートを追加するなど、街中からトレッキングまで幅広く対応できる作りとなっている。
ブレーキは前後ディスクで、フロントのみABSを採用。灯火類はLEDなど、ノスタルジックなスタイリングながら中身は非常に現代的なのだ。
実用域重視の秀作エンジン。走りはモーターサイクルだ
さて、実車を目の前にして少々驚く。高い位置に巨大なリヤキャリアが装着されていることもあって、他の原付二種よりも意外と大柄に見えるのだ。加えてライディングポジションも、悪路でのスタンディングを意識したであろう高めのハンドル位置により、1クラス上のバイクに乗っているようだ。とはいえ、同じホンダのCB125Rよりも車重は7kgも軽く、狭い場所での取り回しは楽チン。さらに足着き性についても、身長175cmの私で両かかとがわずかに浮くが、車重が軽いので片足でも車体をしっかりと支えられる。
まずはエンジンから。ウェーブ125をベースとした空冷SOHC2バルブ単気筒は、低中回転域での力強さを重視したセッティングとされ、最高出力は8.8ps。始動はセル・キック併用式で、後者でも楽に目覚めてくれるのは非常に頼もしい。
1速にシフトし、ゆっくりとスロットルを開ける。遠心クラッチはかなり低い回転域で繋がるようだが、発進加速は力強く、15psクラスの水冷勢と遜色ないどころか、むしろ速いとすら感じるほどだ。ローのままレブリミット付近まで引っ張ると、メーター読みで40km/hをわずかに超える。ギヤ比を計算したところ、およそ9000rpmまで回っていることになる。付け加えると、トップ4速60km/hでは4500rpmを超えたあたりで、シフトダウンせずとも上り坂で速度が落ちにくく、特に実用域でのトルクが豊かなことを実感する。そして、吸排気システムが他のスーパーカブシリーズよりも耳に近いことから、歯切れの良いサウンドが聞こえやすいというのもCT125のポイントと言えよう。
続いてハンドリング。これはかつて私が感動したCT110を完全に凌駕しており、バックボーンフレームのコミューターがベースとは思えないほどモーターサイクルに近い。特に感心したのはヘッドパイプを中心としたフロント回りの剛性の高さ。それを可能としてくれるディスクブレーキの存在も大きいのだが、舗装路の下り坂で減速Gを残しつつ寝かし込んでも車体はネを上げず、狙ったラインをきちんとトレースしてくれる。それに、そうした走り方をしてもIRCのセミブロックタイヤはよれたりせず、必要にして十分なグリップ力を発揮する。試乗日は雨が降ったり止んだりというあいにくの天候だったが、ウェット路面でも不安なく走れたのは、このタイヤを含む車体設計が優秀であることの証だ。
なお、ダートにも少し足を踏み入れてみたのだが、雨でぬかるんでいたにもかかわらず扱いやすかった。本格的なトレール車ほどサスストロークは長くはなく、また前後ホイールも17インチと小径なので無茶は禁物。だが、足着き性の良さに加え、遠心クラッチなのでエンストの不安がなく、さらに低回転域から力強いので、未舗装路が得意でない私でもちょっと冒険してみようかという気にさせてくれる。そういう意味では、セローのような本格トレール車よりもダート走行のハードルが低く、万が一進んだ先が行き止まりでも、大きなハンドル切れ角と車体の軽さによって、何とかUターンできるというのは大きな安心材料と言える。
さて、リヤにもディスクを採用したブレーキについて。フロントキャリパーは片押し式の2ピストンだが、初期からガツンと利くタイプではなく、入力に応じて制動力が穏やかに立ち上がる。これはウェット路面や未舗装路のようなシビアな状況においても扱いやすく、さらにABSの介入もお節介に感じない程度に適切だ。リヤブレーキはやはりドラム式よりもコントロールの幅が広く、それが短いストロークの中で行えるというのはありがたい。
ハンターカブを名乗るにふさわしい性能を手に入れて誕生したこのニューモデル。期待以上の出来であり、この勢いはしばらく収まらないだろう。
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