
吉村不二雄氏の後任として今後のヨシムラの舵取りを担うのが、2024年に3代目社長に就任した加藤陽平氏。POP吉村の孫という血筋を持つ新たなリーダーは、 エンジンチューニングにこだわりつつも、それだけにとらわれない構想を抱く。
●文:大屋雄一 ●写真:真弓悟史/ヨシムラジャパン/スズキ/YM Archives
【ヨシムラジャパン代表取締役・加藤陽平氏】1975年、POPの右腕だった加藤昇平氏と、POPの次女・加藤由美子氏の間に生まれる。4輪業界でエンジンチューンやECUセッティングなどを学び、2002年にヨシムラジャパン入社。2007年からはレース監督として全日本/鈴鹿8耐/EWCなど国内外のレースでチームマネジメントに携わる。2024年に吉村不二雄氏の後を継ぎヨシムラジャパン代表に就任。
より骨太な組織を目指し、もの作りを再構築中
【[Roots]加藤昇平さん】陽平氏の父・昇平氏は、AMAに参戦するなどライダーとしての活躍のほか、現在のヨシムラジャパンの母体「ヨシムラパーツショップ加藤」を1974年に設立。1982年、車両テスト中の事故で逝去されている。
実は現在、本社の移転計画を進めています。すでに神奈川県相模原市の土地を購入済みで、理想のレイアウトを検討している段階です。これは私の計画ではなく、前社長の不二雄さん時代から土地を探していました。
移転の目的のひとつは、不便の解消です。厚木市から、同じ神奈川県の愛川町に移転してきたのは1980年で、この45年の間に社屋を改築して大きくしたり、隣りにマフラー工場を建てたりするうち、まるで迷路のようになってしまった。これでは新しい人材が入ってもスムーズに仕事ができる環境とは言いがたく、リクルート面でも不利ですよね。
2つめの目的は、風通しの良い職場作りです。開発にしろ、製造にしろ、エンジニアがリアルタイムで意見を交わせるようになれば、お互いに助け合うことができ、生産効率の向上にもつながると思います。社員がワンフロアで働けるようになれば、コミュニケーションも活性化し、製品企画にも必ず役に立つでしょう。
近ごろ、コンポジット開発課という部門も立ち上げました。まだ簡易的な設備しかありませんが、将来的にはオートクレーブを導入してCFRPパーツの成型も検討しています。正直なところ、この分野は外注でも内製でもコストを抑えることが難しい。あえてカーボン開発課ではなくコンポジット開発課としたのは、常に最適な素材や製法を選べるようにするためです。現在、この課では3Dプリンターによる製品開発に注力していて、こちらの方が早くモノになりそうです。新ファクトリーではこのジャンルの発展にも期待しています。
ヨシムラの課題のひとつとして、内製率の向上が挙げられます。たとえばカーボンサイレンサーのエンドキャップなど、マフラー作りには必要不可欠ながら外注のパーツもあります。そこで今後はその一部でも内製化するため、コンポジット開発課に製造工程や治具を考えてもらい、製造上の不具合を消した上でタイのヨシムラアジアに展開し、製造を行う計画としています。
2025年3月の東京モーターサイクルショーで発表されたスズキ ハヤブサ用の新作フルエキゾースト・HEPTA FORCEサイクロン。7角形が特徴の左右2本出しサイレンサーはエンドにカーボンパーツを採用するが、今後はこうした部品も内製化を目指していくという。
もの作りの再構築と言いますか、ヨシムラジャパン/USヨシムラ/ヨシムラアジアの3グループ間の協業をより密にすることにより、品質の向上/内製化率アップ/新商品の立ち上げ時間の短縮が達成され、営業や企画は新しいことに挑戦しやすくなります。よりみなさんにタイムリーに、良い製品を提供できる体制作りを目指して、ヨシムラグループとして伸ばして行きたいですね。
エンジンにこだわり、伝統や技術を継承する
長期的な視点では、今回の東京モーターサイクルショー2025で発表させていただいた「ヘリテージパーツプロジェクト」を推進したい。これはヨシムラパーツ/廃盤になった純正パーツの復刻/コンプリートマシンという3つの柱で構成されています。
現行モデルもいつかヘリテージと呼ばれるようになりますが、たとえばZ900RSのような人気機種であっても、20年後もアフターパーツメーカーさんが製品を持ち続けてくれるとは限らない。ヨシムラに関してはスズキのイメージが強いですし、さらに言えば油冷エンジンやハヤブサでのレース活動をきっかけにブランドのファンになってくれた方がとても多い。そういう人たちに喜んでもらえるよう、この新しいプロジェクトを立ち上げました。
スズキGSX-R750(1985〜87)とカワサキZ1からスタートしたヨシムラのヘリテージパーツプロジェクト。前者はコンプリートマシンを入札によるオークション形式で販売予定で、入札期間は2025年7〜8月頃を予定している。
それと、近年はキャブレターやカムシャフトなど、エンジンパーツを売っていてもなかなか通用しない時代になりました。とはいえ、ヨシムラはエンジンチューニングが原点ですし、あえてそこに挑戦したいとも思っています。具体的にはコンプリートエンジンの販売ですね。ライトなものからヘビーなチューニングまで取り揃えて、それに積み替えればまだまだ乗り続けられると。
そうしたチューニングができる人材を育てたいという思いもあるんです。私自身がもともと4輪のエンジン屋で、元ヨシムラの名チューナーである中西知之さん(ミッドウエストレーシングを設立し、ニスモのエンジンなどを製作)に技術を叩き込まれたんですが、とにかくスパルタでした(笑)。
今は社員教育のスタイルも変化しているので、エンジン組み立ての講習会を開催したり、それを動画に残したりして、次世代の技術者を育成したい。そうしてノウハウを伝承しないと、ヨシムラの強みである“エンジン技術”も失われてしまうという危機感があるんです。
トップブランドとして日本のバイク文化を牽引
これはあくまで私の構想ではあるのですが、新ファクトリーでは展示スペースを作ってコンプリートマシンを飾ったり、レンタルバイクとして貸し出すのもいいかなと考えています。相模原市は関東の定番ツーリングルート・道志みちや山中湖へのアクセスもいいですしね。
それと、移転先の土地を購入するにあたって、地場の不動産屋さんにお願いしたのですが、里山を管理する活動もされているんですね。地方自治体と協力してマウンテンバイクのコースも整備していて、そういうところで一緒に遊ばせてもらえないかと画策中です。
バイク遊びとしてはロードレースよりもはるかにハードルが低いですし、野山をトコトコとトレールバイクで走り、眺めのいい場所でコーヒーを飲んだら最高に楽しいでしょう。新ファクトリーは生産拠点であり、バイク文化の発信基地としても機能させたいですね。
ヨシムラは国内トップブランドのひとつとして認知されていますが、決してそれを誇示するつもりはありません。むしろ、日本のバイク文化そのものを世界に誇れるものにするための責任を感じています。海外のバイクシーンを見渡しても、日本ほどカスタム文化が根付いている国は少なくて、初心者がいきなりマフラーを換えるなんてことはとても珍しいんですね。
ゆえに、ヨシムラが単独で業界を牽引するのではなく、日本のカスタムシーンが世界のライダーの見本となるような環境を作る。そんな未来が訪れるように、頑張って行きたいと考えています。
社長業のほか、現在もレースチームマネージャーを務める陽平氏。当取材の翌日(インタビューは2025年3月末の東京モーターサイクルショー会場で実施)にはEWCのテストでフランスのル・マンへ。多忙!
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