
2024年4月に開催されたJAIA(日本自動車輸入組合)による輸入車の試乗会。当日はさまざまな外国車をとっかえひっかえ試乗することができたのでインプレッションをお届けしたい。今回はドゥカティのスクランブラーだ。
●文:ヤングマシン編集部(ヨ) ●写真:真弓悟史 ●外部リンク:ドゥカティスクランブラー
初代のいいろころを継承しつつ、最新型らしい洗練を手に入れた
史上もっとも気軽なドゥカティとして2015年に誕生したスクランブラーは800ccを基本モデルとし、車体の基本を共有する400cc版のSixty2(現在はラインナップ落ち)、のちにスクランブラー1100シリーズも登場。ドゥカティのラインナップの中でも異質かつ人気のあるネオクラシックモデルだ。
今回試乗したスクランブラーICON(アイコン)は800cc版の基本モデル。2022年には大掛かりなモデルチェンジを受け(発売は2023年)、エンジンや電子制御まわり、デザイン含め各部が進化したものだ。もちろん最新排出ガス規制にも適合している。
とはいえ、たたずまいは2015年に初めて目にしたものと大きく変わらず、シルエットを大事にしながら着実に進化させるという欧州メーカーならではのブランド作りが感じられる。よく見ればたくさんの部分が変わっているはずなのだが、車名と姿は常に一致しているのだ。
スクランブラー(800)に乗るのは2015年の登場時、そして2017年頃に数回乗って、それ以来なのでずいぶん久しぶりだ。なのに、コイツは馴染みのあるドゥカティスクランブラーそのものだった。
ライディングポジションや乗り味には初代から一貫性があり、なんの違和感もなくスッと跨れる。スリムなシートやワイドで高いハンドルバー、自然な位置に感じられるステップ、そしてフロント18インチによって多少ラフに扱っても寛容なハンドリング。発進から停止までどこにも唐突さはなく、それでいて軽やかかつ快活だ。
ライディングポジションはヤッターGUYこと谷田貝さんの写真にて。オフロード車とトラッカーの中間くらいの感じで、高くないシート高にワイドなハンドルバー、ちょうどいい位置のステップという位置関係だ。シートがスリムなため数値(795mm)以上に足着きはいい。コンパクトなメーターなどにより視界が開けた感じも好ましい。【身長172cm/体重75kg】
これだけだと初代からあまり変わっていないように思われるかもしれないが、エンジン特性の洗練など細かい部分はやはり進化していた。
今回は短時間での試乗だったためスポーツモードのみを体験したが、初代にあったエンジンの跳ねっかえり感が鳴りを潜め、極低速での扱いづらさがなくなっている。吹け上がりは元気そのものでも、スロットル操作を追い越したりする感じはなく、低速域で回転にやや落ち着きが不足していた初代と比べると調教が行き届いている感じだ。
それでいて、回転上昇とともにテンションも上がる、ワクワクするような特性はほぼ継承されているのだから驚く。空冷エンジンで最新の排出ガス規制をクリアしながらきっちり作り込まれていることに感心せずにはいられなかった。高回転まで回したときのワイルドさはやや薄まっているので、洗練を好むライダーと、多少扱いにくくてもワイルドなほうが楽しいと感じるライダーとで、意見が分かれることもあるかもしれない。
ハンドリングに関しては大きく変わった印象がなかったものの、元々が扱いやすく自由自在だったので、いい意味でそのまま継承したと言っていいだろう。サスペンションの初期作動性は以前のものより少し上質になっているかもしれない。シートに関しては、初代だと好みの位置に着座した際に少しクッションの薄い部分に当たってしまう印象だったのが改善されていた。より自由度が高くなり、快適性も向上している。このあたり、シートベースの形状が変わったのかウレタンの形状または減衰特性が変わったのかまではわからなかったが、いい印象だったのは間違いない。
スクランブラーらしい走りって?
初代から継承している部分ももう少し掘り下げてみよう。
前輪18インチというのがスクランブラーの走りを特徴づけていて、低速から快走まで自由度が高く不安もない。ブレーキを掛けながらコーナーに進入していくような場面でも途中で進路を変えたりしやすいし、フワッと適当に走ってもイメージと進路がズレたりしない。
クローズドコースなので、ある程度思い切った走りもできた。速度域が上がると快活さはさらに増し、ステップが接地する手前まで躊躇なく寝かすことができて、スロットルを開ければ後輪にしっかりとトラクションを感じることができる。ドゥカティらしいLツインの鼓動感も健在だ。ブレーキはコントロール性重視だが制動力にも不満なしだ。
どうとでも走れそうな自由度の高さ。これにバンク角参照型のABSやセッティング可能なトラクションコントロールシステムなどが安心感を添える。
低速のUターンなどは250ccクラスに近い気軽さ。確かにセロー250ほどの小回りはできないが、大型バイクでこれだけ不安なくターンできるのは特筆ものと言っていいだろう。
……と、そんな感じで走りを楽しんでいたので走行中にきちんと見ることはなかったが、TFTディスプレイのメーターはタコメーターやスピードメーター、セッティングメニューなどがシンプルに見やすく並んでいる。金属調のリムをあえて取り付けているのも洒落ている。
街乗りやショートツーリングに最適な1台だと思うが、スポーティな走りも面白いのはやっぱりドゥカティならでは。さらにワイルドな仕様の『フルスロットル』、ワイヤースポークホイールやバーエンドミラーで洗練されたスタイルの『ナイトシフト』(いずれも149万9000円)が選べるのも嬉しい。
DUCATI SCRAMBLER ICON[2024 model]
主要諸元■全長/全幅/全高─ 軸距1449 シート高795(各mm) 車重185kg(装備)■空冷4ストロークL型2気筒SOHC2バルブ 803cc 73ps/8250rpm 6.7g-m/7000rpm 変速機6段 燃料タンク容量13.5L■タイヤサイズF=110/80R17 R=180/55R17 ●価格:129万9000円 ●色:黄、黒、赤
1960~1970年代の、バイクのカテゴリーがまだ細分化されていなかった頃の雰囲気を現代に再現。走りの自由度の高さも同様にジャンルレスだ。
オンロードバイクをベースにオフロード志向に仕立てる、というのがカテゴリーとしての“スクランブラー”の出自。ちょうどいい塩梅で、何にでも使いたくなるたたずまいだ。
単気筒並みにスリムなLツインエンジンとあって、前後から見ても車体はスリムそのもの。とても803ccのエンジンを搭載しているとは思えない。灯火類はフルLEDで、ヘッドライトには特徴的なX字の加飾があり、DRLも備えている。
4.3インチフルカラーTFTディスプレイ。電子制御スロットルを採用しており、ライディングモード、パワーモード、トラクションコントロールなどがセッティング可能だ。双方向クイックシフターはオプション装着可能。
容量13.5Lの燃料タンク。カラフルなタンクカバーは標準カラー×3色に加え、6色のカバーキットが容易されている。
初代に比べてフラット感が増し、快適性が向上したシート。スリムさは変わらず。バッテン印がカワイイ。
803ccのLツインエンジンは長い歴史を経てきた空冷2バルブ。かつてはパフォーマンスを追求した歴史があり、その面影が味として感じられるはず。
スイングアームピボットと連結していないスチール製パイプフレームもドゥカティらしさ。クラッチは油圧式レリーズだ。
フロントにはKYB製φ41mm倒立フォークとピレリ製MT60RSを採用。ホイールサイズは18インチだ。φ330mmディスクブレーキにラジアルマウントキャリパーを奢り、ボッシュ製コーナリングABSを備える。
リヤサスペンションはKYB製プリロード調整機構付きモノショックをリンクレスマウント。リヤホイールは17インチだ。リヤブレーキのディスク系はφ245mmで、シングルピストンキャリパーを組み合わせる。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(ドゥカティ)
2009年に移籍したのに「GP8」にも乗っていた?! 2003年にホンダからモトGPにデビューしたニッキーでしたが、2009年にはドゥカティ・コルセへと移籍。2007年にケイシー・ストーナーがデスモセ[…]
新型ムルティストラーダV4Sはダート性能もアップ! ムルティストラーダとは、英語にすれば“ マルチな道”、つまり“全路面対応型バイク”という意味だ。実際、ムルティストラーダのコンセプトは4in1バイク[…]
ドゥカティ初の単気筒モタードモデル モタードモデルといえば、通常はオフ車の派生モデルとして作られるが、この「ハイパーモタード698モノ」は、ロードスポーツキャラに100%振りきって、車体剛性も高めに設[…]
走行&レクチャーを1日繰り返す 上のメインカットは、イタリア人講師のリビオ・ベローナさんを追いかける筆者と、その走りを後ろから観察する元世界GP250ccクラスチャンピオン・原田哲也さん。コースはMo[…]
イベントが盛りだくさん! ドゥカティオーナーであるドゥカティストや、ドゥカティファンを対象としたお祭り『DUCATI DAY』が2025年も開催された。 会場である千葉県木更津市にあるポルシェ・エクス[…]
最新の関連記事(新型ヘリテイジ/ネオクラシック)
2025モデルの新車「GB350C」のイメージが… ネオレトロスタイルの単気筒ロードスポーツ・GB350をベースとして2024年にリリースされた「GB350C」は、前後にディープフェンダーを採用したク[…]
インドにも影響を与えたヒッピー文化をオマージュ ロイヤルエンフィールドジャパンが「ゴアンクラシック350」を正式発表。4つのカラーバリエーションをラインナップし、価格は74万9100円から。2025年[…]
“クラシック”シリーズ初の2気筒モデル ミドルクラスでグローバルな存在感を増しているロイヤルエンフィールドは、空冷350cc単気筒シリーズと空冷650cc 2気筒シリーズを多数展開。これに水冷450c[…]
471cc並列2気筒エンジン搭載、ロングストロークのサスペンションと大径フロントタイヤを採用 ホンダはスクランブラーモデル「CL500」の2025年型を発表。前19/後17インチホイール、アップマフラ[…]
サスペンションカバーやディープフェンダーなど、外装はほぼ専用品の“C” ホンダは、2024年秋にブランニューモデルとして発売した「GB350C」にニューカラーを設定し、一部仕様も変更した2025年モデ[…]
人気記事ランキング(全体)
2ストGPマシン開発を決断、その僅か9ヶ月後にプロトは走り出した! ホンダは1967年に50cc、125cc、250cc、350cc、そして500ccクラスの5クラスでメーカータイトル全制覇の後、FI[…]
PROUDMEN. グルーミングシートクール 16枚入り×3個セット PROUDMEN.のグルーミングシートクールは、横250×縦200mmの大判サイズと保水力約190%のたっぷり液で1枚で全身を拭け[…]
取り付けから録画までスマートすぎるドライブレコーダー ドライブレコーダーを取り付ける際、ネックになるのが電源確保のための配線作業だ。バイクへの取り付けともなると、専門知識や工具、あるいは高めの工賃が必[…]
3つの冷却プレートで最大-25℃を実現 2025年最新モデルの「ペルチェベスト」は、半導体冷却システムを採用し、背中に冷たい缶ジュースを当てたような感覚をわずか1秒で体感できる画期的なウェアです。小型[…]
二輪史に輝く名機「Z1」 いまだ絶大なる人気を誇る「Z1」こと、1972年に発売された900super4。後世のビッグバイクのベンチマークとなる名機は、いかにして世に出たのか──。 1960年代、カワ[…]
最新の投稿記事(全体)
電子制御サスペンションとブレンボ製Stylemaを採用する上位モデル『SE』 最新の排出ガス規制に適合したバランス型スーパーチャージドエンジンを搭載し、“SUGOMI”スタイリングと“SUGOMI”パ[…]
二輪史に輝く名機「Z1」 いまだ絶大なる人気を誇る「Z1」こと、1972年に発売された900super4。後世のビッグバイクのベンチマークとなる名機は、いかにして世に出たのか──。 1960年代、カワ[…]
【燃料タンク容量考察】大きければ良いってもんではないが、頻繁な給油は面倒だ 当たり前の話ではあるけれど、燃費性能とともに、バイクの航続距離(無給油で連続して走れる距離)に関係してくるのが、燃料タンクの[…]
取り付けから録画までスマートすぎるドライブレコーダー ドライブレコーダーを取り付ける際、ネックになるのが電源確保のための配線作業だ。バイクへの取り付けともなると、専門知識や工具、あるいは高めの工賃が必[…]
kokuu たんぱくプラス 雑穀米 日々の食生活でタンパク質を強化したいライダーへ。国産15種の厳選雑穀米で、100gあたり約30gのタンパク質を摂取可能だ。白米に混ぜるだけで高タンパク・グルテンフリ[…]
- 1
- 2