
ホンダは、2023年12月20日に都内で新技術「ホンダEクラッチ(Honda E-Clutch)」の説明会を行い、その場の質疑応答ではこの技術を搭載した新型「CBR650R」および「CB650R」が2024年初頭より世界で順次発売、その流れで日本にも導入と明らかになった。
●文:ヤングマシン編集部(ヨ) ●外部リンク:ホンダ
2024年初夏頃に発売か
ホンダは12月20日に都内で新技術「Eクラッチ」の説明会を行った。その場の質疑応答で明らかになったのは、同技術を搭載した新型モデル「CBR650R」および「CB650R」が2024年に国内発売されるということ。2023年11月のEICMAで初公開されたこれらのモデルは、2024年初頭に欧州を皮切りに主要国で順次発売予定とされ、その流れで日本国内にも「大きく遅れることなく導入」されるという。
具体的な日時や価格については未発表だったが、質疑応答の手応えからは春にも発表、初夏頃に発売と予想できる。Eクラッチの有無で2仕様が用意され、標準仕様とEクラッチ仕様の価格差はおおよそ6~7万円ということになりそうだ。
CBR650R E-Clutch
CB650R E-Clutch
Eクラッチはマニュアル操作のスポーツ性をさらに向上する技術、もちろん快適性も拡張する
発表会の後には撮影会や開発者インタビューも行われたが、これについては後日改めてお届けしたい。ここではEクラッチについて読者が疑問に思うであろうことを解説してみることにしよう。
Eクラッチは基本的にマニュアルトランスミッション操作を拡張する技術であり、クイックシフターと組み合わせることで素早く効率的な変速を可能にするもの。もちろんシステムONではクラッチレバー操作を不要にできることから、信号待ちや渋滞などでクラッチ操作をサボりたいといった場面では疲労を軽減することができ、快適性も向上する。
1)スーパーカブと操作感は違うの?
Eクラッチの電子制御システムをONにすると、緑色のAマークが点くインジケーターが光ってクラッチレバー操作をマシン側が受け持つようになる。このときでもシフトペダルの操作はライダーが自分で行う必要があり、一見すると自動遠心クラッチのスーパーカブと同じような操作感になるのではと思うかもしれないが、じつは違う。
まずスーパーカブの操作方法から触れていくと、そもそもスーパーカブはクラッチレバーがなく、シーソー式のシフトペダルを前か後ろに踏むことでクラッチの動力伝達が切れる。任意のギヤに入れ、シフトペダルを離すことでクラッチがつながり、後輪に駆動力が伝わるようになる。これら一連の操作の中で、スロットルについては一般的なMT車と同じように扱う必要があり、ギヤチェンジにともなう回転合わせはライダーが行う。たとえばスロットル全開のままのシフトアップはできない(機構的に無理をすればできなくはないが挙動が乱れるし耐久性を考えたら論外)。また、シフトダウンについても同様に自分でスロットルをあおり、回転を合わせながらシフトペダルを離す必要がある。
似ているようなイメージで捉える方もいるかとは思うが、開発エンジニアも「大きいカブではありません」とコメントしている。
Eクラッチはというと、まずシステムONかつニュートラルギヤのときは自動的にクラッチが切れて、いつギヤを入れてもいい状態になる。1速に入れてスロットルを開けると回転上昇とともにレバー操作不要でクラッチが自然につながって発進。ここまではスーパーカブに似ているとも言えるが、Eクラッチの場合はクイックシフターとの併設が前提となっているので、スロットルを開けっぱなしのままシフトアップできる。ここでもクラッチの制御が働き、ごく短い半クラッチでシフトショックを逃がすという。さらにCBR650R/CB650Rの場合、シフトダウン時に自動的な回転合わせは行われないが、半クラッチ状態を作り出すことでシフトダウン時のショックを逃がす制御も働く。
つまり、クラッチ不要で発進や変速ができるだけでなく、クイックシフターによるギヤチェンジをより素早く効率的、かつスムーズにするのがEクラッチということになる。いわばクイックシフターの発展形であり、マニュアルトランスミッションを拡張するというコンセプトがここに表現されているわけだ。
2)AT限定免許では乗れないの?
日本の二輪免許制度では、原付一種を除き『AT限定』という項目がある。限定なしは通称MT免許とも呼ばれ、トランスミッションの機構によらず運転できるが、AT限定はオートマチックトランスミッション=ATのバイクのみ運転できるということになっている。法規上でMTとATを分けるのは何かというと、クラッチレバーの有無だ。
つまり、CVT(無段変速)を採用するスクーターなどのほか、ギヤチェンジは必要だがクラッチレバーがないスーパーカブもAT限定免許で運転できるということになる。ホンダのDCTを採用する車両も、クラッチレバーがないのでAT限定免許で運転可能。また、以前ヤマハがラインナップしていたFJR1300ASも同様にAT免許で運転できる。
しかしEクラッチの場合はあくまでもマニュアル操作ができることを前提にリリースしており、クラッチレバーを装備しているのでMT免許が必須になる。単純に技術的な面で言えばクラッチレバーを外してAT免許対応とすることもできるはずだが、ホンダとしては新たに型式認定が必要になることや“マニュアルトランスミッションを拡張する”というコンセプトに合致しないことから、レバーレスとすることは考えていないようだ。
左手のクラッチレバーが明確な違い。
3)DCTと何が違うの?
機構的な解説を省略してざっくり言うと、単純にDCTはギヤチェンジ操作もできるオートマチックトランスミッションであり、任意の手動クラッチ操作はできない。
Eクラッチは、クラッチ操作をマシンに任せることもできるマニュアルトランスミッションであり、一般的なMT車ができることは全てできる。ただしクイックシフター&Eクラッチによる変速は、一般的なクイックシフターよりも素早くスムーズなものになるという。
長距離を快適に走りたいならDCT、面倒な操作も楽しみたいならMT、その中間でいいとこ取りをしたのがEクラッチということになるだろうか。
4)壊れたらどうなるの?
何らかの理由で制御が働かなくなった場合は、普通のマニュアルトランスミッション版のCBR650R/CB650Rと同じ操作感になるだけ。Eクラッチ用のユニット以外、クラッチ機構は標準車と全く同じものを採用しており、アシスト&スリッパークラッチも同じものだ。故障したからといってレバー操作が重くなることもない。また、一般的な立ちごけ程度で壊れるようなことはない模様。
5)どうやってマニュアル操作するの?
ギヤをニュートラルに入れた状態で、左手元スイッチを使ってシステムのON/OFFを選択する。システムONのときは基本的にクラッチが自動操作されるが、任意のタイミングでライダーがレバーを引くと操作に介入でき、手動操作に切り替わる。つまり、ライダーはいつでもマニュアル操作したいときにできるわけだ。操作を終えると状況に合わせて一定時間経過後に自動制御に復帰する。
ちなみにマニュアル操作時には普通にエンストするし、ウイリーやバーンナウトといった特殊な操作もMT車と変わらずにできる。システムOFFのときは常にマニュアル操作になる。
システムのON/OFFを切り替えられるほか、シフトタッチのソリッドさをセッティングすることもできる。
技術説明会の開発者インタビューなどについては、2024年1月24日発売のヤングマシン本誌でお届けする予定だ。お楽しみに!
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
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