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ジャパンモビリティショー2023の『Startup Future Factory』エリア内に出展していたLOMBY(ロンビー)というメーカーを訪ねて驚いた。商用実証試験中という自動配送ロボットの筐体には「Powered by SUZUKI」の文字があり、すでに南大沢地域で稼働しているというのだ。詳しく聞いてみた。
●文/写真:ヤングマシン編集部(ヨ) ●外部リンク:LOMBY
コロナ禍で無人配送ロボットを取り巻く環境がガラリと変わった
日本が得意でないもののひとつとして挙げられることに、「既存の技術を使いながら新しいアイデアで新製品を作る」というものがある。タッチパネル式の大型液晶画面と電話、PC的な要素を融合したスマートフォンなんかが例に挙がったのを聞いたことがある、という方も少なくないのでは。
そんな話が、ふと頭に浮かぶような取材だった。
ジャパンモビリティショー2023の『Startup Future Factory』エリア内に出展していたLOMBYというメーカーに、元ホンダの技術者が参画しているという。その伝手もあって、ブースを訪れてみた。その当人は不在だったが、LOMBY社の代表取締役である内山智晴さんがお話を聞かせてくれた。
多摩ニュータウン西部に位置する南大沢地域のセブンイレブンに配備されているLOMBY -R1という機体で、既製品の電動車椅子から機構を流用。すでに商用試験中だが、現在はサービス立ち上げ段階ということもあり横断歩道は人が監視する運用を行っている。ちなみに、JMS2023に出展されているのはLM-Aという機体で、スズキパーソナルモビリティの足まわりをベースにLOMBY用にカスタマイズしたものだ。
じつは、自動配送ロボット等を取り巻く環境は、ここ数年でガラリと変わってきているのだという。コロナ禍がはじまった頃、配送業者の業務過多や、スタッフの感染による欠員などが危惧されたことから、当時の安倍首相によって自動配送ロボットの開発と、利用環境の整備に対して強い後押しがあった。
さらに、2023年4月には交通法規が代わり、それまで原付一種もしくはミニカーの特例として存在していた(なので白ナンバーもしくは青ナンバー付きだった)遠隔操作型小型車が、独立したカテゴリーとして認可されたのだ。これにより、無人の自動配送ロボットと、人を乗せて走る“自動運転のセニアカー”的なものが、同じカテゴリーに。さらにナンバーも不要になり、認証ステッカーが貼ってあればいいということになった。
こうした流れがあって、元々宅配ボックス『OKIPPA』を手掛ける物流スタートアップを操業していた内山さんは、2021年の春に自動配送ロボットのプロジェクトを立ち上げ、2022年に2社目のスタートアップ企業として分社独立。実際のロボット製作が始まった。
そして現在、南大沢(東京都・多摩ニュータウンの一部)のセブンイレブン店舗に1台を配備し、商用の実証試験を開始している。すでに技術部分の実証試験は終えており、商用試験をしながら技術もアップデートする段階だという。このロボット“LOMBY LM-A”によるデリバリーサービスは店舗周辺の一部地域お住まいの方が利用でき、注文などは7NOW(セブンナウ)アプリを通じて行う。
大企業がスタートアップ企業とコラボする意味とは
さて、気になるのは、筐体に書かれた「Powered by SUZUKI」の文字だ。さっそくこれについて聞いてみた。
「このLM-Aは4代目なのですが、3代目からスズキさんとコラボさせていただいています。元々は、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の発表会でスズキの担当者さんの目に留まり、意気投合したところから始まりました。スズキさんとLOMBYは2023年2月に自動配送ロボットの共同開発契約を結び、スズキさんの高性能な電動車椅子の技術とLOMBYの独自設計の筐体が融合した、コラボ初号機(ロボットの世代としては3代目)を製作しています。スズキさんの足回り技術による高い走破性と耐久性は、毎日数十kmの走行が求められる配送ロボットに欠かせません」
LOMBY 株式会社 代表取締役社 内山智晴(ウチヤマ トモハル)さん ■大学院卒業後、2012年に伊藤忠商事に入社して航空宇宙分野で航空機の販売や改修事業に5年半従事。2017年に物流系スタートアップであるYper株式会社を設立して再配達問題を解決する置き配バッグOKIPPAを開発。2022年にLOMBY株式会社を設立し、物流ラストマイル領域での人手不足問題解決のため自動配送ロボットLOMBYの開発を行なっている。
電動車椅子の技術ですか!
「それぞれ元々は違っていた分野なのですが、2023年4月の法改正で、遠隔制御される”遠隔操作型小型車”は、人が乗って走るのも物を載せて運ぶのも同じカテゴリーに分類されました。同じカテゴリーということは、すなわち安全基準が同じです。となれば、ハードも共通化できますよね。高齢化が進んでいく中で、両分野のモビリティは間違いなく増えていくでしょう」
こうした自動配送ロボットはアメリカなどで進んでいる印象があるが──。
「アメリカでも一部地域で実証実験中です。いくつかメーカーはあるのですが、いずれもベンチャーです。ただ、稼働台数が1000台近い企業でもそのほとんどが大学内の私有地を走行しているなど、アメリカでも公道でその規模の運用を行っている企業はありません。法整備で言えば日本がけっこう進んでいますが、技術開発と実用化を担うメーカー側がそれに追いついていない状況と言えます」
実際の使用環境では、日本の狭い国土のほうが自動配送ロボットの運用に向いているようにも思えます──。
「それがじつは微妙なところで、日本は法規で最高速度が6km/hまでと決まっているんですが、アメリカは時速10マイル(約16km/h)まで認められていて、かつ歩道が広くて自転車が少ない環境なんです。こうした自動配送ロボットは、前方に歩行者や自転車が来ると停止するような設定になっていますので、歩道が狭く自転車も多い日本の環境では距離の割に走行に時間がかかります。なので、配送にかかる時間はアメリカと日本で大差ない印象ですね」
LOMBYは最後発だが、カテゴリー自体がまだ若い
日本ではどんなメーカーが参入しているんですか?
「私たちのほかに現在公道を走行しているメーカーは4~5社ありまして、LOMBY社は最後発なんですが、現状、公道で大規模に商用運行している会社は国内外ともにありません。コロナ禍で当時の安倍首相がロボットによる配達を強力に後押しするまでは、国内では技術開発こそあったものの本気で実用化するところまで詰められていなかった環境でした。その大号令がかかって大きく変化するタイミングで弊社は参入できたこともあり、まだ私たちも世界のトップランナーを伺える位置にいると思っています」
大きな企業がこうした無人配送ロボットの研究をしているというニュースも数年前にあったが、なんとなくフェードアウト気味だった印象もあります。これについては……?
「大企業さんはもちろん高い技術力を持っていますが、基本的に本業が別にあっての新規研究という要素も大きく、なにか環境が変わるなどのきっかけがないと本気で事業投資するところまでは行きにくい環境なのではないかと思います。そこまで踏み込んでいくには、外的な刺激がなければ」
そういえば最近、大きなメーカーとスタートアップ企業のコラボが増えていますよね。ホンダは社内ベンチャーを積極的に後押ししています。
「私たちのようなスタートアップ企業は”数年後には会社が残っているかわからない”という背水の陣で必死にやっています(笑)。ですから、その覚悟とスピード感が、大企業の人たちに刺激を与えられる面もあるのではと思っています。スズキさんをはじめ、大企業は50年後、100年後も存続するために現場を活性化させたい側面があり、私たちのような外部の者とコラボすることで刺激を得たい、新しいアイデアを得たいという思惑があるんじゃないでしょうか。じっさい、今回のコラボでは技術を持っているスズキさんに対し、どう社会実装していくのかという部分が我々のできることかなと思っています」
無人配送ロボットが描く未来
自動配送ロボットを運用していく、将来的なビジョンを教えてください。
「宅配ドライバーのように、1日に200個も配送するというのは自動配送ロボットには無理ですので、今のところは距離が短く配送単価の高い食料品や日用品の配送に照準を当てています。その先には、宅配ロッカーとの連動みたいなものをできるようにと考えていて、時間指定があるために無駄な待ち時間を過ごさなければならない宅配ドライバーから宅配ロッカーを介して荷物を引き継いだり、といったことも可能だと思っています。
そうなれば、ルート配送に組み込まれる宅配ドライバーによる配達は届く時間に幅があるのに対し、『今から30分後に届けてほしい』といったオンデマンド配送もやれるはず。来年から物流業界でも時間外労働の罰則規定が適用され、ドライバーの働ける時間が限られていくなか、そこを補完していく存在になれるのでは、と」
オンデマンド配送についてもう少し詳しく──。
「これはロボットだからできるんじゃないかと思っているんです。例えばコンビニ前の宅配ロッカーに荷物が入りました、という通知が顧客に届き、じゃあ夜の23時に配送してほしいということになったとき、2km圏内なら30分で届きますので時間が読める配達が可能です。で、ついでだからロッカーのあるコンビニでパンと牛乳を……なんていうこともアプリひとつでできる。配送料は同じ1回なので変わりません」
なるほどイメージできました。そこへ至るまでの現在地、今はどのような段階なのでしょうか。
「今は南大沢の1台ですが、来年はエリアを広げて20台ほどを投入しようと思っています。横断歩道などで止まってしまった場合のフェイルセーフを考えて、今は人間がついていって監視しているのですが、これも危険を避けて側道までたどり着いてから止まるという制御が間もなく入ります。その先、20台が走れるようになれば100台も200台も基本システムはそれほど変わりません。また、人件費が高騰している海外の国にも、求めてもらえる可能性はあると思っています」
あとは配送を必要とする企業が積極的に採用していけば、ということですね。ありがとうございました!
11月5日まで開催中のジャパンモビリティショー2023、『Startup Future Factory』エリアは東京ビッグサイト西2館にある。ほかにも面白いモビリティが目白押しなので、大メーカー以外もぜひ訪れてみてもらいたい!
LOMBY LM-A
■全長/全幅/全高970×638×903mm ■カーゴスペース内寸・フロントコンパートメントL: 305×W: 460×H:370mm リヤコンパートメントL: 365×W: 460×H:370mm ■最大積載量25kg ■最高速度6km/h ■電力360W(180W×2) ■可動時間10時間 ■登坂能力8° ■乗り越えられる段差8cm(実際は10cm近くいけそうとのこと)
上に突き出ているのが360°カメラで、周囲に8個のカメラが仕込まれ、タブレット端末でリアルタイムに走行位置や映像を確認することができる。機体の重量は110kg程度。
LOMBY事業概要
LOMBY(ロンビー)はラストマイル輸送に新たな労働力を提供することを目指して開発された自動配送ロボット。特徴は、IoT宅配ロッカーと連携して荷物積載の自動化を行うことで、現場に人がいなくても配送作業が可能な仕組みを目指している(国際特許申請中)。2023年2月にスズキ株式会社との共同開発契約を締結し、スズキのパーソナルモビリティと駆動部を共通化することで低価格・高品質な機体を開発中だ。2023年10月に最新機として自律型ロボットのLM-Aを発表。2022年度NEDO「⾰新的ロボット研究開発基盤構築事業」採択(2022年〜2025年)。
【動画】LOMBY Development History
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
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