国土交通省が発表した「二輪自動車等の後面衝突警告表示灯について」という新たな運転支援システム。これってどんなものなのか、きちんと理解するために情報を整理してみました。また、各メーカーに「いつ採用しそうか」という質問もぶつけています。その回答とは──。
●文:Nom(埜邑博道)
「後面衝突警告表示灯」って一体なに?
6月29日に国土交通省から「二輪自動車等の後面衝突警告表示灯について」というリリースが出ました。
何やら聞き慣れないことだったので、国交省にどういう装備/機能なのかを確認したところ、後方から接近してくる車両に自車(つまり自分のバイク)の存在を認知させて衝突を未然に防ぐために、自車のウインカー等を高速点滅させる機能/装備ということでした。
これまで、急ブレーキをかけたときなどに、自車の存在を後続車に認知させるためにウインカーを高速点滅させる機能/装備(ホンダの場合、エマージェンシーストップシグナルという名称です)を採用するモデルはありましたが、これはさらに一歩進んで、後続車が一定の距離と速度で接近してきた場合に、(レーダーなどでそれを感知して)自動的に自車のウインカーなどを点滅する機能/装備とのことでした。
この後面衝突警告表示灯は作動条件があります。
- 自車両の後方にいる車両に、自車両と衝突する恐れがあることを、方向指示器の点滅(毎分180回以上300回以下)で知らしめることができる
- 作動時間は3秒以下
- 市街地での不要動作を防ぐため以下の条件下においてのみ作動
つまり、後続車と自車の速度差が時速30キロ以上の場合は、衝突予想時間の1.4秒以下で作動し、30キロ以下のとき、例えば速度差が20キロの場合は0.93秒以下で作動(計算式は1.4割る30×20キロ)するというものです。
そして、この装備/機能は現行の保安基準では、取付対象を四輪自動車としていますが、今後は原付を含む二輪車にも後面衝突警告表示灯を備えることができるものとする、つまり装備してよろしいということになったそうです。ちなみに、改正時期は今年の9月上旬、適用時期も同じタイミングの予定とのこと。ちょうど、2024年モデルが発表される秋のショーのタイミングですね。
各メーカーはいつ採用する?
後面衝突警告表示灯は、すでに四輪車では採用車種が存在して、レクサスの一部モデルなどはこの機能を採用しています。
なぜ、突然(筆者が知らなかっただけで、以前から議論されていたのかもしれませんが)、この機能/装備をバイクにも取付けていいよとなったのかを国交省に聞くと、国内二輪メーカーから取付を認めて欲しいという声が挙がったからとのこと。
ということは、国内二輪メーカー4社のうち、どこかがこの機能/装備を近々に採用しようとしているのかもしれないと思い、4メーカー+海外メーカー2社、そして先進安全装備を車両メーカーに提供しているメガサプライヤーのボッシュに聞いてみました。
その回答は以下の通り。
ホンダ
最近、法規上、二輪にも搭載できるようになったため、自社他社問わず、今後は二輪車にも搭載される可能性はあると考えられます。(当社も)もちろん検討はしていますが、採用/不採用、採用する場合の時期/モデルほか、この法規/技術の内容や評価を含めコメントできませんこと、何卒ご理解いただけますようお願い申し上げます。
ヤマハ
現時点でコメントできることは特にありません。
スズキ
法規が改正されたことは、承知しています。当社としても、開発は進めていきます。
カワサキ
現時点でお答えさせていただける内容としては、 カワサキでは後面衝突警告表示灯について「導入検討中」でございます。
BMW モトラッド
現状では、そのような機能は広報では把握しておりません。極秘に(採用の予定などが)進んでいるかもしれませんが、それもまだ開示されていません。
ドゥカティ
プロダクトの詳細は(2024年モデルの)ワールドプレミアまで提供されないので(この機能の採用/不採用は)不明です。
ボッシュ
技術的には、車載のレーダー等を使用して後面衝突警告を行うことは可能です。後面衝突警告を含め、将来的な機能についてはお客様からのフィードバックを鑑みつつ開発していくことになります。技術的には可能ですが、現時点ではまだ公式に発表できるものがないため、ご案内できるタイミングが来ましたら、改めてご案内させていただきます。
採用コストは数万円~10万円程度が予想される
将来のモデルについての案件だけに、各メーカーとも具体的な回答はありませんでしたが、その中でも「導入検討中」としたカワサキに注目です。
ボッシュの「アドバンスド・ライダー・アシスタンス・システム」(ARAS)を、国内メーカーとしてはいち早くNinja H2SXに採用するなど(現在はヤマハのトレーサー900+も採用)、先進安全装備の採用に積極的なカワサキは、この後面衝突警告表示灯を他社に先駆けて採用する可能性がありそうな感じです。
そして、そのシステムを提供できるサプライヤーであるボッシュも、技術的には可能と回答しているので、その可能性は大だと感じました。
いずれにしても、小さくて俊敏なバイクは他車から認識されにくく、とくに照明が少ない道の夜間などは後ろからクルマが近づいてくるとドキドキしてしまうことも多々あります。
自戒も含めて書くと、四輪のドライバーは常に車体にしっかり守られているため、剥き身のバイクのライダーほど運転中に緊張/慎重になってはいないのが現実だと思います。
暗い郊外などの夜道で、前方への注意をちょっとだけ怠ったら、目の前にバイクがいた! なんてことも実際にあり得ることです。
そんなシーンで、前方のバイクがウインカーの点滅などで自車の存在をアピールしたら、衝突の危険は大きく減少するはずです。
後面衝突警告表示灯は、バイク/ライダーにとっては、大きく安全性が向上する願ってもない機能/装備だと感じますが、やはり気になるのは装備するためのコストです。
いくら安全性が向上するといっても、あまりに高額だと……。
実際、四輪でも現在、装備しているのは高級車ばかり。一体どのくらいのコストがかかるのか、知合いの二輪エンジニアに聞いてみました。
「純コストとしてかかるのは、センサーの追加とハーネスの装備くらい。ただ、メーカーが採用する場合は、原価償却設定数を考慮しますから、数が出れば下がると思いますが、数が出ないとなると当然、高くなります。そこも含めて考えると、数万円~10万円くらいになるのではないでしょうか」
という感じで、コスト的にもいますぐ原付~大型バイクまでのすべての車種にという機能/装備ではないにしろ、こういう「アクティブ・セーフティ」技術によってバイクの安全性が上がるのはとてもいいことであるのは確かです。
今年の秋のバイクショーに、後面衝突警告表示灯を装備したバイクが登場するのを心待ちにしていましょう。
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