
国土交通省が発表した「二輪自動車等の後面衝突警告表示灯について」という新たな運転支援システム。これってどんなものなのか、きちんと理解するために情報を整理してみました。また、各メーカーに「いつ採用しそうか」という質問もぶつけています。その回答とは──。
●文:Nom(埜邑博道)
「後面衝突警告表示灯」って一体なに?
6月29日に国土交通省から「二輪自動車等の後面衝突警告表示灯について」というリリースが出ました。
何やら聞き慣れないことだったので、国交省にどういう装備/機能なのかを確認したところ、後方から接近してくる車両に自車(つまり自分のバイク)の存在を認知させて衝突を未然に防ぐために、自車のウインカー等を高速点滅させる機能/装備ということでした。
これまで、急ブレーキをかけたときなどに、自車の存在を後続車に認知させるためにウインカーを高速点滅させる機能/装備(ホンダの場合、エマージェンシーストップシグナルという名称です)を採用するモデルはありましたが、これはさらに一歩進んで、後続車が一定の距離と速度で接近してきた場合に、(レーダーなどでそれを感知して)自動的に自車のウインカーなどを点滅する機能/装備とのことでした。
【エマージェンシーストップシグナル】ホンダ車が採用する、急ブレーキをかけた際に車両のハザードランプを高速点滅させることで、後続車にいち早く急ブレーキを知らせるエマージェンシーストップシグナル。GOLD WING、CB1300SF/SB、NT1100、AFRICA TWIN CBR650Rといった大排気量モデルに加え、Rebel250、ADV160など幅広い車種に採用されている。
【後面衝突警告表示灯】自車の後方から接近してくる車両に対し、ウインカーを毎分180回以上、300回以下、3秒以内で点滅させて、前方に車両がいることを知らせる装備。後続車との距離や速度差など、一定の条件下で自動的に作動する。
この後面衝突警告表示灯は作動条件があります。
- 自車両の後方にいる車両に、自車両と衝突する恐れがあることを、方向指示器の点滅(毎分180回以上300回以下)で知らしめることができる
- 作動時間は3秒以下
- 市街地での不要動作を防ぐため以下の条件下においてのみ作動
後続車との速度差が時速30キロ以上で、後続車が後面衝突警告表示灯を装着した自車両に衝突するまでの予想時間が1.4秒以下の場合に作動。また、後続車との速度差が30キロ以下の場合は、速度差によって1.4秒以下で作動する。
つまり、後続車と自車の速度差が時速30キロ以上の場合は、衝突予想時間の1.4秒以下で作動し、30キロ以下のとき、例えば速度差が20キロの場合は0.93秒以下で作動(計算式は1.4割る30×20キロ)するというものです。
そして、この装備/機能は現行の保安基準では、取付対象を四輪自動車としていますが、今後は原付を含む二輪車にも後面衝突警告表示灯を備えることができるものとする、つまり装備してよろしいということになったそうです。ちなみに、改正時期は今年の9月上旬、適用時期も同じタイミングの予定とのこと。ちょうど、2024年モデルが発表される秋のショーのタイミングですね。
各メーカーはいつ採用する?
後面衝突警告表示灯は、すでに四輪車では採用車種が存在して、レクサスの一部モデルなどはこの機能を採用しています。
トヨタのレクサスが採用する、追突の可能性が高い後続車に対し、ハザードランプを高速点滅させて注意喚起するシステム。自車両と同一レーンを走行する後続車をブラインドスポットモニターの後側方ミリ波レーダーにより検知し、後続車との距離、相対速度、方向等から追突の可能性を判断。追突される可能性が高い場合にハザードランプを約2秒間高速点滅させ、後続車に注意喚起する。四輪のBMWも同様の装備を採用する車種がある。
なぜ、突然(筆者が知らなかっただけで、以前から議論されていたのかもしれませんが)、この機能/装備をバイクにも取付けていいよとなったのかを国交省に聞くと、国内二輪メーカーから取付を認めて欲しいという声が挙がったからとのこと。
ということは、国内二輪メーカー4社のうち、どこかがこの機能/装備を近々に採用しようとしているのかもしれないと思い、4メーカー+海外メーカー2社、そして先進安全装備を車両メーカーに提供しているメガサプライヤーのボッシュに聞いてみました。
その回答は以下の通り。
ホンダ
最近、法規上、二輪にも搭載できるようになったため、自社他社問わず、今後は二輪車にも搭載される可能性はあると考えられます。(当社も)もちろん検討はしていますが、採用/不採用、採用する場合の時期/モデルほか、この法規/技術の内容や評価を含めコメントできませんこと、何卒ご理解いただけますようお願い申し上げます。
ヤマハ
現時点でコメントできることは特にありません。
スズキ
法規が改正されたことは、承知しています。当社としても、開発は進めていきます。
カワサキ
現時点でお答えさせていただける内容としては、 カワサキでは後面衝突警告表示灯について「導入検討中」でございます。
BMW モトラッド
現状では、そのような機能は広報では把握しておりません。極秘に(採用の予定などが)進んでいるかもしれませんが、それもまだ開示されていません。
ドゥカティ
プロダクトの詳細は(2024年モデルの)ワールドプレミアまで提供されないので(この機能の採用/不採用は)不明です。
ボッシュ
技術的には、車載のレーダー等を使用して後面衝突警告を行うことは可能です。後面衝突警告を含め、将来的な機能についてはお客様からのフィードバックを鑑みつつ開発していくことになります。技術的には可能ですが、現時点ではまだ公式に発表できるものがないため、ご案内できるタイミングが来ましたら、改めてご案内させていただきます。
採用コストは数万円~10万円程度が予想される
将来のモデルについての案件だけに、各メーカーとも具体的な回答はありませんでしたが、その中でも「導入検討中」としたカワサキに注目です。
ボッシュの「アドバンスド・ライダー・アシスタンス・システム」(ARAS)を、国内メーカーとしてはいち早くNinja H2SXに採用するなど(現在はヤマハのトレーサー900+も採用)、先進安全装備の採用に積極的なカワサキは、この後面衝突警告表示灯を他社に先駆けて採用する可能性がありそうな感じです。
そして、そのシステムを提供できるサプライヤーであるボッシュも、技術的には可能と回答しているので、その可能性は大だと感じました。
日系メーカーの中ではいち早くボッシュのARASを採用する(現在はヤマハ・トレーサー9GT+も装備)など、先進安全装備の導入を積極的に行っているカワサキ。図で見るとリヤにもレーダーセンサーが装備されているので、ボッシュが後面衝突警告表示灯を開発すれば導入は早そうだ。
いずれにしても、小さくて俊敏なバイクは他車から認識されにくく、とくに照明が少ない道の夜間などは後ろからクルマが近づいてくるとドキドキしてしまうことも多々あります。
自戒も含めて書くと、四輪のドライバーは常に車体にしっかり守られているため、剥き身のバイクのライダーほど運転中に緊張/慎重になってはいないのが現実だと思います。
暗い郊外などの夜道で、前方への注意をちょっとだけ怠ったら、目の前にバイクがいた! なんてことも実際にあり得ることです。
そんなシーンで、前方のバイクがウインカーの点滅などで自車の存在をアピールしたら、衝突の危険は大きく減少するはずです。
後面衝突警告表示灯は、バイク/ライダーにとっては、大きく安全性が向上する願ってもない機能/装備だと感じますが、やはり気になるのは装備するためのコストです。
いくら安全性が向上するといっても、あまりに高額だと……。
実際、四輪でも現在、装備しているのは高級車ばかり。一体どのくらいのコストがかかるのか、知合いの二輪エンジニアに聞いてみました。
「純コストとしてかかるのは、センサーの追加とハーネスの装備くらい。ただ、メーカーが採用する場合は、原価償却設定数を考慮しますから、数が出れば下がると思いますが、数が出ないとなると当然、高くなります。そこも含めて考えると、数万円~10万円くらいになるのではないでしょうか」
という感じで、コスト的にもいますぐ原付~大型バイクまでのすべての車種にという機能/装備ではないにしろ、こういう「アクティブ・セーフティ」技術によってバイクの安全性が上がるのはとてもいいことであるのは確かです。
今年の秋のバイクショーに、後面衝突警告表示灯を装備したバイクが登場するのを心待ちにしていましょう。
※本記事の文責は当該執筆者(もしくはメディア)に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事([連載] 多事走論 from Nom)
トランプ関税はバイクの世界にも影響があるのか、国内各メーカーに聞いてみました 世界中に吹き荒れている「トランプ関税」の深刻な影響。 特に、自動車に課されることになった15%の相互関税は日本の自動車メー[…]
暫定税率を廃止するなら代わりにって…… 与野党が合意して、11月からの廃止を目指すことになったガソリン税の暫定税率。 このコラムでも数回取り上げてきましたが、本来のガソリン税28.7円/Lに25.1円[…]
対策意識の希薄化に警鐘を鳴らしたい 24年前、当時、編集長をしていたBiG MACHINE誌で「盗難対策」の大特集をしました。 この特集号をきっかけに盗難対策が大きな課題に そして、この大盗難特集号は[…]
もっと早く登場するはずだったCB1000F 今日、鈴鹿サーキットをホンダが開発中のCB1000Fコンセプトというバイクが走ります。 大人気で、ロングセラーだったCB1300シリーズが生産終了になったい[…]
なぜ二輪用エアバッグをテスト? 相変わらずバイクの事故は減っていなくて、死亡事故の件数もまだまだ多い。先日、取材に伺った日本二輪車普及安全協会でもそんな話が出て、二輪の死傷者数は減少してはいるものの、[…]
人気記事ランキング(全体)
ホンダ「CB1000F SE コンセプト」が鈴鹿8耐で世界初公開! 8月1日より予選が始まった“コカ・コーラ”鈴鹿8時間耐久ロードレース第46回大会のホンダブースにて、CB1000F SE コンセプト[…]
3色すべてホイールカラーも異なる カワサキは欧州でZ650RSのニューカラーを発表。カラーバリエーションの全てが新色に置き換わり、黒ボディにレッドストライプ&レッドホイールのエボニー、メタリックブルー[…]
国内規制に合わせてエンジンを再設計 ホンダのCB750フォア(1969年)の発売と前後して、大型バイクの事故の増加や暴走族が社会問題化し、国内では750ccを超える排気量のバイクを販売しない自主規制が[…]
KOMINE プロテクトフルメッシュジャケット ネオ JK-1623 フルメッシュで残暑厳しい秋口のツーリングでも快適さを保つジャケット。胸部・肩・肘・背中にプロテクターを標準装備し、高い安全性も両立[…]
最小限のカスタムでクルーザーをアドベンチャーマシン化 1200ccという大排気量の水平対向エンジンを心臓部に持つBMWのヘリテイジモデル、R12シリーズ。その新しいバリエーションとして2025年5月に[…]
最新の投稿記事(全体)
シグナスシリーズ、20年の歴史を背負うニューフェイス 以前は空冷エンジン搭載のコンパクトな原付二種スポーツスクーターとして人気を博した「シグナスX」だが、水冷の新世代「シグナス グリファス」に交代した[…]
皮脂や汗に含まれる尿素が生地を痛めてしまう ──一般の方が汗でびちょびちょのヘルメットをリフレッシュさせたい場合、どのように行えばよいでしょうか? 「どこが外せるのか、どういうふうに洗えばいいのかは、[…]
発表と同時に発売! マットチタニウムカラーのアヴェニス125など新色×5種 スズキは欧州で、日本でいう原付二種に相当する125ccのスクーター×2車をカラーチェンジ。1車は2022年の現地登場以来(日[…]
鮮やかなブルーでスポーティな外観に 欧州においてスズキ「ハヤブサ」が2026年モデルへと更新された。アルティメットスポーツを標ぼうするマシンは基本的に2025年モデルを踏襲しながら、レギュラーカラーが[…]
「56design NARA」に続く新店舗が北海道に バイクアパレル&ファッションブランド「56design(フィフティシックス・デザイン)」が、北海道札幌市に新店舗「56design SAP[…]
- 1
- 2