サーキットを、安全にバイクを楽しむために活用してほしい

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.94「僕は公道でスピードを出すのが本当に怖い」

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第94回は、高速道路でヒヤリとした話など。


TEXT:Go TAKAHASHI PHOTO: BiG MACHINE archives

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テクニックを磨くことは大事、でもそれ以上に大事なのは……

もうすぐモナコに戻ります。今回の滞在は、なんだかんだと忙しかった! 茂原でのスクールが月2回になったこと、袖ヶ浦で新しくプライベートレッスンを始めたこと、雑誌のロケ、テレビのMotoGP解説、そしてサーキット走行会などのイベント……。週末はほぼ埋まっていましたし、平日も用事のない日がない感じでした。

コロナ禍が少し落ち着いて、二輪業界もだいぶ回復してきたのかな、という印象があります。休止していたイベントが再開し始めたのに伴って、僕も忙しくなってきたのかな、と。「忙しい、忙しい」と言ってはいますが、僕の仕事はバイクに乗ることがほとんど。おかげさまで楽しませてもらっています。

関西では二輪業界の方たちと釣りをしたり、ちょっと早めの忘年会をしたり……。関東の人たちは最近すっかり忙しいみたいで、なかなかみんなのスケジュールが合わずに、トライアルにも1、2回しか行けませんでした。残念ですが、業界関係者が忙しいのはいいこと! どんどん盛り上がってほしいものです。

ただ、気がかりなことも。ネットニュースを見ていると、バイク関連の重大事故が増えている印象があります。僕がバイクに関わる検索をしたり記事を見たりするから、バイク事故が表示されやすいのかもしれません。でも、現実に事故が起こっているからこそ記事になるわけですから、胸が痛みます。

バイクに乗るにあたって、テクニックを磨くことはとても大事です。走りの引き出しは多ければ多いほど、危険回避の可能性も高まりますからね。でも、公道を安全に走るためにもっとも重要なのは、とにかくスピードを出しすぎないこと。これに尽きます。

公道ライダーの走りを見ていると、スピードを出している人がとにかく多い。今のバイクは高性能なので、スピードを出したくなる気持ちは理解できます。何しろ僕自身、300km/h以上の世界でレースをしていた人間ですしね……。

でも僕は公道でスピードを出すのが本当に怖い。だって、いつクルマや子供が飛び出してくるか分からないし、房総半島ならいきなりキョンが道路を横断する可能性もあります。高速道路だって、いつどこに大きな金属棒や角材が落ちているかも分かりません。「あっ」と思った時にはもう手遅れ。バイクでそんな落下物を踏んだらひとたまりもありません。

走らせ方も意識するポイントもクルマとは違う

ヒントになるかどうか分かりませんが、ひとつお伝えしたいのは、同じ道路を走っていてもクルマとバイクはまったく別の特性の乗り物だ、ということです。そもそもタイヤの数が4つか2つかという大きい違いがあって、走らせ方も意識するべきポイントも違います。

クルマに比べると、バイクはとかくリスクが多い乗り物です。何しろタイヤはふたつしかありませんから、いつでも転倒の恐れがある。しかも、体がむき出しなので、何かあった時にライダーはダメージを受けやすいんです。当たり前のことですよね。でも、つい忘れてしまいがちなことでもあります。

先日、とあるショッピングモールの駐車場からバイクが出てきて、すぐそばの交差点で信号待ちしていました。たぶん親子タンデムで、「いいもんだなあ」なんて眺めていたら、信号が青になるやすごい勢いで交差点を曲がって行ったんです。思わず「怖!」「危な!」と叫んでしまいました。

何が怖くて何が危ないかって、駐車場から出てきてすぐ、ということは、タイヤがほとんど温まっていない状態だ、ということ。それなのに勢いよく交差点を曲がれば、転んでもおかしくありません。僕が乗っていたクルマの外気温計は10℃の表示。最近の公道用タイヤは高性能化していて低温でもグリップしますが、油断するとやっぱり痛い目に遭います。

このライダーは、たぶんクルマ感覚で走っているのでしょう。通常、クルマで一般道を走っている時にグリップを意識することはあまりありません。仮にグリップが低い状況だとしても、滑ることはあっても転倒することはまずない。でもバイクは、ワンミスで転倒してケガをする恐れがあるし、最悪の場合は死んでしまう可能性だってあります。

高速道路でクルマの死角に入ってしまっている例。

自分の存在をアピールする必要があるのも、バイクならではかもしれません。これは僕の失敗談ですが、この間、片側2車線道路の左側車線をバイクで走っていた時、右側車線のクルマがウインカーを出さずに幅寄せしてきたんです。悪意はなくて、単にバイクに乗っていた僕に気付かなかっただけだったよう。幸い接触はありませんでしたが、かなりヒヤッとしました。

これを相手のドライバーのせいにするのは簡単です。でも僕は、「ああ、死角に入ってしまっていたんだなあ」と反省しました。自分がちゃんと見られているかどうか確認不足だったな、と。いくら相手のせいにしたって、接触事故になって痛い思いをするのはバイクに乗っている自分ですからね……。リスクは最大限減らすよう、もっと注意するべきでした。

バイクに乗っている時は、周囲にかなり神経を尖らせておいた方がいいんです。急な飛び出しに備えることはもちろんですが、近くのクルマがどう動こうとしているか、周りに気を使っている人かどうか確認したりと、意識すべきことがものすごく多いですからね……。

これからますます寒くなり、バイクに乗ることも減ると思います。ぶっちゃけ、クルマに乗る機会の方が多くなるんじゃないでしょうか。僕は寒がりなので、よく分かります(笑)。でもクルマに乗っている時も、バイクに乗っている時と同じように周囲に神経を尖らせると、すごくいいトレーニングになるはず。春になってまたバイクに乗る時間が増える時、より安全に楽しめるようになると思いますよ!

冒頭で「テクニックを磨くことは大切」と書きましたが、僕の言いたいことをもう少し詳しく説明すると、「バイクの操作が、空気のように意識せず行えるようになる」ということ。まったく意識せず、自分の手足を動かすようにバイクを操作できれば、その分、注意や意識を周りに振り分けることができる。それが安全につながります。

「空気のように、バイクを操作する」。そうなるために僕がオススメしたいのは、やっぱりサーキットを走ることなんですよね。サーキットで高速域でのバイクの操作に慣れると、低速域の公道で大きな余裕が生まれます。いまどきのサーキットは、レースするだけの場ではありません。より安全にバイクを楽しむために、ぜひ活用していただきたいと思っています。

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