スペックで勝るのがスポーツバイクの存在価値…。誰もがそう思っていたレーサーレプリカ全盛の時代に、突如現れた鉄フレームの空冷4発のオーソドックスなマシンが、すべての基準を塗り替えた。その名はカワサキ ゼファーだ!
●文:ヤングマシン編集部(宮田健一) ●写真:真弓悟史
前時代的な46psのバイクが予想を覆す大ヒット!
’70年代後半に訪れた空前のバイクブーム。そして’80年代半ばに始まったレプリカブームによって、国産バイクの性能は常軌を逸したスピードで高まっていった。免許制度の関係もあり、当時のスポーツバイクの主軸は250~400ccで、このクラスのモデルチェンジ/マイナーチェンジのサイクルは毎年どころか、ともすれば半年に1度という超ハイペース。そのたびに最高出力が数馬力ずつ上昇していった。
当時の中型免許(正しくは中型限定自動二輪免許)で乗れる最大排気量の400ccのレーサーレプリカは、水冷4気筒DOHC4バルブが主流で、最高出力は自主規制の上限いっぱいの59ps。アルミフレームやモノサスが当然の装備となり、新機構も続々と開発され、登場する。現代の目で見ればパワー的には現行の1000ccスーパースポーツとは比較にならないが、当時のライダーはこのスペックに狂喜乱舞した。
そんなレプリカブームのピークとも言える’89年に、突如カワサキが世に放ったのが「ゼファー」だった。エンジンは二世代ほど前の空冷2バルブで最高出力は46ps。スタイルは「Z1風」といえば聞こえが良いが、当時としては新しさのないベーシックな形。だからバイク業界に関わる者からの評価は芳しくなく「何を今さら感」に溢れ、当時のバイク雑誌でも扱いはかなり少なかった。
ところが、いざゼファーが発売されると驚異的な大ヒット! なんと年間販売台数もトップを記録した。もはや「レーサーレプリカブームとは何だったのか?」と疑問符が付くほどの大どんでん返し。それほどまでゼファーは日本のバイクファンに望まれ、受け入れられたのだ。
同じ’89年登場のカワサキ製レーサーレプリカ ZXR400が73万9000円だったのに対し、ゼファーは52万9000円。装備やスペックで考えたら順当な価格差に思えるが、このプライスも人気に影響したのは間違いない。現在よりライダーの年齢層が低かった当時、価格のハードルが低く、高性能よりも扱いやすくベーシックな「バイクらしいバイク」を求める層はふくれ上がり、ゼファーこそが等身大で身近な相棒になり得るバイクだったのだ。そしてゼファーの登場によってレプリカブームは終息に向かい、次なる「ネイキッドブーム」が巻き起こったのだ。
かつてはスポーツバイクとして君臨した”ネイキッド”【~’89年】
国内では’82年中頃の規制緩和によりカウリングが認可され、レプリカブームに突入したが、それ以前はネイキッドという呼称は存在しなかった。400ccクラス初の4気筒であるCB350/400フォアの人気は高かったが、性能的には2気筒勢に劣り短期間で消滅。しかしZ400FXの登場でマルチブームが巻き起こり、各メーカーがしのぎを削ったのだ。
同時期には水冷フルカウルも人気だった
レプリカブームの終盤とはいえ水冷スーパースポーツもまだまだ活況で、レースベースのモデルで性能をとことん追求。高速ツアラーのZZ-R400もカワサキの独自性を表していた。
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