●文:ヤングマシン編集部(田中淳麿)
’22年4月19日、電動キックボードに関する改正道路交通法が衆議院本会議で可決した。このまま行けば、ほぼ自転車と同じ運用体制となりそうで、2年以内を目途に施行される見込みだ。
電動キックボードの道交法改正案
- ’24年5月までに施行予定
- 16歳以上は免許不要 ※16歳以下は乗車不可
- ヘルメットは努力義務
- 最高速度20km/h以下(スピードリミッター装着)
- 6km/h以下制御モードで自転車歩行者道(自歩道)も走行可能 ※要識別ランプなど義務付け
- 新設区分「特定小型原動機付き自転車」の定義
- 電動に限る(出力は600W以下)
- 最高速度20km/h以下に制限されている
- 長さ190cm×幅60cm以内である
- 特定小型原付に必要な保安部品(ウインカー/ホーン/尾灯/ブレーキ灯等)が装着されている
- 型式認定も実施
この件については本連載でも数度に渡り掲載してきたが、これにより大きな影響を受けるのが学校教育現場だ。
16歳(高校1年生)以上は免許不要という自走モビリティは、高校生にとっても魅力的な乗り物だ。数km先への買い物、駅/自宅間のラストワンマイル、バイト先への通勤など様々な移動に重宝されるだろう。また、電動キックボードを通学に使いたいという生徒や保護者が出てくることも容易に想像できる。
「危ないから」で高校生が乗ることを制限すれば、それは三ない運動の二の舞であり、モビリティ/社会史観的にもまったく成長がない。最長でまだ2年間の猶予がある。今から検討しておけば、最善の策が見つかるのではないか。今回はこの問題の入口に立ち、教育関係者らの現段階での(個人的な)意見も紹介しつつ考えたい。
- 1 教育現場の現状認識は?
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教育現場の現状認識は?
教育現場は現状をどう捉えているのだろうか。電動キックボードのシェアリングサービス等の実証実験が行われている、東京/埼玉/神奈川/千葉といった首都圏の各教育委員会に今回の法改正について聞いてみたが、まだ検討を始めている所はなかった。法改正の概要を把握していない所も多かったが、東京都だけは「アンテナは張っている」ということで、警戒感が垣間見えた。
また、三ない運動から交通安全教育に転換し、安全運転講習会を開催している埼玉県の関口衛さん、埼玉県の中でも地域柄バイク通学が認められてきた秩父農工科学高校の今井先生、二輪車競技部がありバイク通学が盛んな熊本県立矢部高校の米村先生にも、教育現場を知る立場として個人的な意見を尋ねた。さらには、高校生と同世代であり、伊豆北部で地域クラブとして活動、公共施設に電動キックボードの導入支援を行った原動機研究部の田中部長にも見解を聞いたので、ぜひ一読してほしい。
県の高校生バイク講習を担当バイク通学を指導
埼玉県教育局県立学校部保健体育課 健康教育・学校安全担当 指導主事 関口衛さん
Q:県として求められる対応は?
A:電動キックボードの走行中の交通事故を防止するための対策が必要だと考えます。具体的には、県警察本部や交通安全協会等の関係機関と連携し、交通安全講習等の内容に加える必要があると考えます。
Q:高校生による電動キックボードの利用および通学について。
A:私的利用に関しては、制限するものではないと考えます。しかし事故防止の観点から、通学での利用については、今後の法改正や事故状況等を鑑みた一定の制限が必要だと考えます。
バイク通学を指導
埼玉県立秩父農工科学高等学校 教諭 今井教夫さん
Q:現状で検討や議論はありますか?
A:生徒指導部、学校でも検討を行っていません。
Q:指導の立場からは、どういった対応が求められますか?
A:近隣地域での事故発生などを考えると、学校現場での使用は考えていません。
Q:電動キックボード通学についてお考えをお聞かせください。
A:学校の通学には現段階では必要ないと考えています。
部活「二輪車競技部」で顧問を務める
熊本県立矢部高等学校 林業科学科教諭 二輪車競技部顧問 米村龍一さん
Q:現状で検討や議論はありますか?
A:本校では特にありませんが、今後の普及の仕方によっては検討も必要だと考えます。地方は1~2年のタイムラグがあるので、熊本市で普及しだしたら出てくるかもしれません。
Q:指導の立場からは、どういった対応が求められますか?
A:現状では、通学では交通手段として認めることができないと思います。生徒の安全を確保できないことが第一の理由です。
Q:電動キックボード通学についてお考えをお聞かせください。
A:自動で動くことができ、ある程度の速度も出せるので、車体登録/ヘルメット着用などの必要があると思います。自転車は’22年から保険加入の義務化があり、通学に関わらず徹底しているところですが、電動キックボードなら何でもありというのは良くないと思います。
公共施設に電動モビリティ導入を支援! 高校生にもモビリティをもっと身近に
原動機研究部 部長 専門学校生 田中海豊さん(18歳)
Q:今回の道交法改正についてどうお考えですか?
A:16歳以上は免許不要という点なのですが、自転車のように操縦者の筋肉ではない動力を使用する乗り物においては、最低でも半日で終了する程度の講習が必要ではないかと思います。修善寺虹の郷(伊豆市の公共公園)のような”施設内のみの使用”であれば、数分の説明などで事足りると思いますが、車重1~2t以上の自動車が走っている公道で無講習では、キックボードの運転者や歩行者/自動車/バイクの運転者双方に危険が及ぶかもと思いました。
Q:高校生が乗るとしたら、どんな準備(知識/技術/講習など)が必要でしょうか?
A:高校生が乗る場合でしたら、学校に許可の申請をして、免許センター等で技能/道交法の講習を受ければ運転しても良いという形ができれば良いかなと思いました。
Q:電動キックボードでの学校への通学についてはどう思いますか?
A:通学に関しては、公道では20km/h以下でしか運行できないということですので、他の自動車との速度差もあり(原付でも30km/h、性能的に60km/hまで加速可能)、朝の混雑した時間帯では少々危ないかなと思います。かといって、歩道でも6km/h以下まで落とさなければ運行できないのであれば、電動アシスト付き自転車の方が良いのかなと思います。
「事故が増えるぞ」と騒ぐのは簡単だ。三ない運動という失敗を繰り返さないため、それを知る我々にできることを始めるべきだろう。
※注意:関係者からの回答は、あくまでも一個人としての意見を尋ねたものであり、所属する関係機関/団体等を代表したものではありません。 ※本記事は“ヤングマシン”が提供したものであり、文責は提供元に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
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