’21モデルで近未来フォルム+数々の電子制御機能で生まれ変わったスズキのスーパーネイキッド、GSX-S1000。GSX-R1000譲りのエキサイティングエンジンと軽快なハンドリングはそのままに、負けず劣らずのシャープなフルカウルで身を包み、電脳装備もさらに強化。グランドツアラーの新たな境地を切り拓いたのが、このGSX-S1000GTだ。その走りは、これまでのツアラーイメージを書き換えるものだった。ヤングマシンメインテスター、丸山浩が試乗して検証する。
●まとめ:ヤングマシン編集部(宮田健一) ●写真:山内潤也/武田大佑 ●外部リンク:スズキ
R1000譲りのエンジンはやっぱり元気がいい!
GSX-S1000GTは、ネイキッド版S1000のフルカウルバージョン。先代モデルではGSX‐S1000Fに当たるわけだが、チーフエンジニアによるとFのモデルチェンジではなく「GT=グランドツアラー」を目指して電子装備や快適装備を持たせた新しいモデルだと言う。たしかにカウル以外の装備面はシンプルすぎるほどだったFに対し、今回のGTはスズキ初となるスマホ連携機能付きのフルカラー液晶メーター/ライドモード/トラクションコントロール/オートシフター/クルーズコントロール/ETC車載器を標準装備。現代ツアラーに欲しいものは一通り揃っている。それにオプションのパニアケースも専用設計だ。だがGSX-S1000といえば、その本領は’05 GSX‐R1000ベースとなる直4エンジンを生かしたスポーティな走り。そこをGTとしてどう味付けしたのか興味津々のテストとなった。
跨ってみると見かけによらずライディングポジションはネイキッド版同様にコンパクト。足着き性はこのクラスとしては標準的だが、いかにもグランドツアラー的などっしりした重さを予想して引き起こしてみると、あらビックリ。とても軽い。ネイキッド版の良さがそのまま引き継がれている。
メインスイッチを入れると、目玉のフルカラー液晶メーターが点灯。レイアウトは見やすく各種設定も左手元の十字キーで行えるので、操作性は比較的分かりやすい。アシストスリッパー機構で軽さが印象的なクラッチをつなぎ走り出すと、これまたツアラーらしい「ゆったり加速」を裏切るかなり元気のいいエンジンレスポンス。思わずSDMS(ライドモード)の設定を確かめてみる。すると最強のAモード。そこで中間となるBに変えてみた。これでも吹け上がりは、まだ軽い。ツアラーというよりストリートファイター的な印象だ。ようやくCでツアラーらしい緩やかな加速感に。
セオリー通りなら、クランクマスを重くすることで緩やかなレスポンスを実現するところだろうが、このマシンではそれを電子的に実現している印象だ。とはいっても、A/Bモードの元気の良さも捨てがたい。「GT」と名乗りながら、これまでのグランドツアラー像とは違うな〜と思いながら、高速道路を箱根に向けて走るのだった。ちなみにCでも過渡特性が緩くなるだけで最高出力値は変わらない。なので、高速道路でのハイペースな流れの中でも十分以上のパワーだ。
GTとは言っても、4輪でいう「スーパーGT」だ!
Cモードで高速道路を走り出し、身体が慣れてきたところでBやAの走りもしっかりチェック。やはり高速道路でも、それらの元気の良さはグランドツアラーというよりスポーツマシン的な性格だ。Aを使ったときの加速感は、まんまGSX‐Rといった感じ。追い越し車線に入るときも一瞬だ。車線変更に関しては各モードに総じて言えることだが、とにかく車体が軽くていかようにも走れる感じ。同じグランドツアラーでも、もっと直線をドーンと行くイメージのハヤブサとは異なる。
そんなスーパースポーツ的な性格が際立つGSX‐S1000GTは、カウリング形状こそGSX‐Rより大きく防風性は格段に上がっているが、ツアラーとして見るとスクリーンはそんなに高くない。アップハンドルに対して自然な直立姿勢で高速道路を飛ばすと風は肩くらいまで当たる。ヘルメットの風切り音もそれなりに気になるレベル。腰を引き前傾姿勢で乗ってあげると対処できるが、グランドツアラーなのだからここはスクリーンの角度調整機構が欲しかったところ。長距離ユーザーはオプションのハイスクリーンを揃えておくといいだろう。オプションといえばツーリングユーザーはグリップヒーターも付けておきたいところだ。
とはいえ、細かい部分ではステップに振動対策としてラバーが付いていたり、同じくハンドルポストもラバーマウントになるなど、ツアラーとしてライダーの疲れを解消しようとしている配慮は随所に見ることができる。GSX‐R譲りのエンジンもスーパースポーツそのままではなく、やはり振動面では洗練されてキレイに回るようにした印象だ。それに何より、SDMSのCモードでツアラーらしい部分を持ったエンジン特性も演出してくれている。ツアラー装備としてはオートクルーズも使いやすい。流行りの前車追従型ではない一般タイプなのだが、設定速度を何km/hに設定しているかが一目で分かりやすく、ブレーキでキャンセルした後も左手元のボタン一発で再びオン。速度の回復の仕方も実に自然だ。
高速道路ではそんなグランドツアラーとスーパースポーツの両要素を感じつつ、いよいよワインディングへ。まずはCモードで挑戦だ。やっぱり峠でもこのマシンは車体の軽さが非常に際立っている。リッタースーパースポーツのエンジンを積んでいる割には右へ左へと寝かし込むのが非常に軽やか。アップハンドルで幅が広いのも効いてる感じだ。ただ、Cだとここ一発でスロットルを開けた時についてこない感じ。切り返しで、ちょっとタイミングが取りづらくなる場面もあった。そこでB。レスポンスがスポーツするのに似合い、ストレートに出たときの加速感も違う。Aだと開けはじめに唐突さがちょっと出てくる感じ。コーナーからの開け始めでズドンとパワーが出がちで、そうなるとアウト側に飛び出してしまう恐れがある。なので私が趣味で走るとしてもスポーツを楽しむのだったらBがベストだ。なお、峠ではスポーツ性能以外でも思わぬ発見が。それはツーリングに付きもののUターンが非常に得意ということだ。車体が軽くアップハンドルなので、身体を傾けずにクルっと腰の下でマシンを小回りさせることができる。重厚イメージの従来ツアラー像では思いもよらない優れた点だ。
このようにGSX‐S1000GTは「GT」と名乗りつつも、車体の軽さと洗練されたエンジンの馬力/レスポンス/軽やかな回り方で、これまでのGT像とは一線を画していた。まさにGTでも4輪における「スーパーGT」のようなマシン。リッターツアラーでこんな楽しいバイクは初めてだ。
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