チャンピオン予想は変わりません!

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.76「ファクトリーチームだからこそのリタイアとは?」

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第76回は、カタールGPで開幕したMotoGPと、イタリア語教室!?


TEXT: Go TAKAHASHI PHOTO: Red Bull

ミシュランパワーGP2

レースに集中できるサテライトチームと、テストなどやるべきことが多いファクトリーチーム

MotoGP2022、カタールGPでいよいよ開幕しました。衝撃的だったのは、注目度、期待度ともに高かったドゥカティのファクトリー勢が、2ライダーともにリタイヤしてしまったこと。ジャック・ミラーはマシントラブル、フランチェスコ・バニャイアはホルヘ・マルティンを巻き込んでの転倒と、驚きの展開になりました。

バニャイアの転倒にはヒヤリとしましたが、マルティンも無事でよかったです。バニャイア本人は無理していなかったというようなコメントをしていましたが、ブレーキングで突っ込みすぎたのが転倒の原因でしょう。すぐにマルティンの元に行って謝っていたシーンは、スポーツマンシップを感じさせるものでした。

転倒リタイアのバニャイアと、マシントラブルで走行が続けられなくなったミラー。とはいえまだ全21戦のうち1戦が終わったにすぎない。

今回のミラーとバニャイアのリタイヤは、「ファクトリーチームだからこそ」という印象を受けましたね。ファクトリーチームはパーツのテストを始め、とにかくやるべきことが多いんです。しかも、最新パーツが必ずしもいいとは限りません。

昔はシーズンオフテストが多く、ある程度しっかりと機能確認できましたが、今はテスト回数自体が減っています。するとレースウィークの限られた時間の中でもテストを進めて行かなければならなくなり、現場の負荷はかなり高まっていると思います。その点、サテライトチームはレースに集中できるのが有利ですよね。これが、ドゥカティのサテライトチーム、グレシーニ・レーシング・MotoGPのエネア・バスティアニーニの初優勝にもつながっています。

それにしてもバスティアニーニ、見事なタイヤマネージメントでしたね。初表彰台となった去年のサンマリノGPでもタイヤをうまく保たせていましたが、今回もミディアムタイヤを使いこなし、レース終盤に追い上げての優勝。去年2月、新型コロナウイルス感染症でまさかの死を遂げたチーム創設者、ファウスト・グレシーニさんに捧げる勝利となりました。

歓喜のグレシーニ・レーシング・MotoGP。

グレシーニ・レーシング・MotoGPは、グレシーニさんの奥さんであるナディア・パドヴァーニさんがチーム代表を引き継いでいました。表彰台の頂点に立つバスティアニーニとパドヴァーニさんの姿には、グッとくるものがありましたね……。

これでバスティアニーニがどう化けるか、大いに期待したいところです。若いライダーは初優勝すると自信をつけ、一気に伸びるもの。去年のうちから表彰台争いに絡む実力を見せていたバスティアニーニでしたが、今後は優勝争いに名乗りを挙げることと思います。

開幕前のチャンピオン予想で、僕はバニャイアの名を挙げていました。今回はリタイヤしてしまいましたが、やはり最有力チャンピオン候補であることは変わりません。先ほど話したようにテスト項目が多く、序盤はドタバタするシーンもあると思いますが、そこはやはりファクトリーチーム、シーズンが進むほどにニューパーツが熟成され、強みを発揮してくるはずです。

バニャイア自身、去年はシーズン序盤につまずいてタイトルを逃すという経験をしています。今回の0ポイントは大きく影響するとは思いますが、幸いケガもありませんでしたし、今年は史上最多の21戦とレース数も多いので、まだまだ挽回できるはず。変わらずバニャイアがチャンピオン候補だと見ています。今のところ……(笑)。

一時はトップを快走したポル・エスパルガロ。バスティアニーニに抜かれた際にスリップストリームに入ってしまい、減速しきれずオーバーランしたとのコメントも。

KTMのブラッド・ビンダーが2位になり、アプリリアも速さを見せたカタールGPでしたが、日本メーカーのホンダとスズキも躍進を見せました。スズキのGSX-RRは速くなりましたね! ストレートでドゥカティをパスするシーンには驚かされました。エンジンも進化していると思いますが、空力特性を含め車体全体のパッケージがいい方向に進んでいるのでしょう。

レース結果としてはジョアン・ミルが6位、アレックス・リンスが7位に終わってしまいましたが、パッケージとしての完成度が高ければシーズンを通していいパフォーマンスが発揮できるはず。スズキファンは楽しみなシーズンになるのではないでしょうか。

ホンダはポル・エスパルガロがずっとトップを快走し、3位表彰台を獲得。マルク・マルケスが5位に。リヤを重視したマシンにしたとのことですが、正直、1戦だけではよく分かりません。ただ、リヤに不満を訴え続けていたエスパルガロ弟がトップを走り、ハードブレーカーであるマルケス兄がちょっと苦戦気味だったことからすると、マシン開発の方向性が大きく変わったことは間違いなさそう。僕としては中上貴晶くんとアレックス・マルケスがいまひとつだったことが気がかりで、マシン開発が本当に正しい方向に進んでいるかは今後の動向次第かな、と思っています。

注目されていた新人勢は、なかなか苦戦していましたね。今のMotoGPは本当に僅差で争われているので、経験がモノを言います。テストではキラッとした走りを見せていた新人たちも、さすがにレースでは経験の差を見せつけられました。

そんな中でも、マルコ・ベセッキがいい走りをしていました。最近のMotoGPは、VR46アカデミー出身のライダーたちが大活躍をしていますよね。MotoGPだけでもバニャイア、フランコ・モルビデリ、ルカ・マリーニらが名を連ねています。VR46は2014年にバレンティーノ・ロッシが開設したライダー育成アカデミーですが、見事に効果を発揮しています。

何しろライダーたちはロッシと身近に接することができるわけですからね! ロッシと同じフィールドを走り、同じ時間を過ごすというだけでも、若くてモチベーションの高いライダーたちにはものすごく大きなプラスになるでしょう。

ロッシが具体的にどんなアドバイスをしているかは分かりません。でも、彼の走りやレースへの取り組みをもっとも近いところで見られれば、やる気のある若手なら確実にロッシから何かを盗み、何かを吸収するものです。これは本当に大きい。今後もVR46アカデミー出身のライダーたちが活躍するはず。引退してしまったロッシですが、彼の存在感は変わりません。

表彰台争いを繰り広げた日本人ライダーたち

勝利も見えてきた小椋藍。接触による転倒者が生じなかったはラッキーだった。

Moto2、Moto3では日本人ライダーが頑張ってくれましたね! Moto2の小椋藍くんは3位争いの末に転倒しかけましたが、彼にとってはラッキーなことにアウト側にアウグスト・フェルナンデスが。接触自体は決していいことではありませんが、小椋くんはレースに復帰でき、6位でフィニッシュしました。

僕が注目したのは、小椋くんの走りが力強さを増していたこと。3位争いを繰り広げていても、競り負ける感じがありませんでした。今のまま、自信を持って走れれば、かなり期待できるのではないでしょうか。

Moto3では佐々木歩夢くんは単独リードでほとんど勝てそうでしたし、鳥羽海斗くんは3位表彰台をゲット。鈴木竜生くんもリタイヤしてしまいましたが、内容自体は悪くなかったと思います。日本人ライダーたちの今後のさらなる活躍に期待できそうです。

世界では今、大変なことが起きています。政治的な話はあまりしたくありませんが、僕は戦争には何がなんでも反対、という立場。ヨーロッパにいると、いろんな国籍の方とお付き合いがありますし、報道もかなりダイレクト。日本にいるよりもずっとリアルに戦争の悲惨さを感じます。戦争の速やかな終結を願っています。FIMやFIA、そしてMotoGPも平和を訴えるアクションを起こしていますが、僕も賛同します。僕たちがレースを楽しめるのも、平和が保たれているからこそ、ですからね。 

平和……ということでは、先日、15歳の長女の学校にイタリア語の授業の一環として招かれ、子供たちからイタリア語でインタビューを受けてきました。「どうやってチャンピオンになれたんですか?」「なんで31番を付けてるんですか?」「転んだ後、また走るのは怖くないんですか?」などなど、いろいろ聞かれました。

イタリア語の授業なので、こちらもできるだけ正確に話さなければなりません。でも僕のイタリア語はいいかげんな我流です。事前に奥さんにレッスンしてもらい、「冠詞が抜けてるよ」「発音が違う」など厳しい指導を……。子供たちと僕と、どっちの授業なんだか……(笑)。

ほとんどの男の子たちが僕のことを知っていたようですが、女の子はあまり興味がない様子。そりゃそうですよね(笑)。そもそも僕が呼ばれたのも、イタリア語の先生の個人的な趣味だったようで……(笑)。

子供たちからは「ロリス・カピロッシとの関係は?」なんていう鋭い質問も飛んできました。「昔はライバルでいろんなことがあったけど、今は仲良くしていますよ」なんて答えたりして、僕にとっても楽しい時間になりました。

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